第62話 大丈夫だろう!
気つけ薬で目を覚ましたアバル、アバルは気つけ薬の刺激臭で咳き込みつつもシュージンに慌てた様子で話しかける。
「そんなことよりヤベーよセンセ!オレ帝国の奴とやりあったんだよ!」
「やはりそうか・・・」
考えこむシュージン。
「済まない、アバル君。」
「いきなりどうしたんだよ、センセ。」
突然に頭を下げ謝罪するシュージンに戸惑うアバル。
「まさかこんなに早く帝国が追ってくるとは予想外だった。帝国の目的は俺の筈、アバル君を1人残してしまったことは俺の失策だ。」
「そんな、顔を上げてくれセンセ、それに帝国と戦い合うことはオレの目的でもあるんだ。」
そう言うアバル。横で心配そうな顔をしたトセが質問する。
「帝国との戦い・・・お兄ちゃんと戦った帝国の人達って、どんな人達だったの?」
「いや、達じゃない、相手は1人だった。」
「1人!?」
「しかも女。」
「女子!?」
「なんかクッソ臭い煙幕撒かれて逃げられた。」
「においの原因それ!?」
なんかすごく心配して損した、という風に明らかに呆れた顔するトセ。アバルは何かを思い出す。
「臭いといえば、オレが目覚めた時クッソ臭かったんだけど・・・」
「ああ、それは気つけ薬だ。」
シュージンが指でつまんだガーゼらしきものを持ち上げる。
「セルフメディケーション松下清太郎のタンクトップの切れ端だ。(高温多湿の風通しの悪い所でしばらく放置したやつ)」
「通りで嗅いだことあると思ったーーっ!?」
「そんなのに金払ったんですか!?」
気つけ薬の正体がタンクトップの切れ端と知り、驚くアバル達。
「まあ、それはそれとして、本題の方だが・・・」
シュージンがアバルと戦闘になった帝国兵について話を戻す。
「アバル君と敵対したのは間違いなく1人なのか?」
「ああ、他の奴らの気配や匂いは無かった、それに他の奴らがいるなら、疲れたオレを放っておかないだろ。」
「じゃあ、あとをつけられる心配は無いな。」
「ああ、そこら辺は大丈夫だ。」
「敵対者の特徴は?」
「走る鳥みたいな見た目のやつに乗っていた、召喚獣だと思う。髪は短めで金髪、痩せ形で・・・中性的。戦い方はサーベルで突っ込んで来る。」
中性的、という言葉を使う前ににアバルはキレた帝国の召喚獣使いを思い出し、精一杯言葉を選んでの中性的という表現だった。
「召喚獣について詳しく分かるか?」
「乗っていた鳥以外にはもう一体出してきた。デカイ鳥人間みたいな奴で炎を出してくる格闘戦が得意そうな奴だった。」
「なるほど・・・」
シュージンは顎に手を当てて考える。
「恐らく、アバル君が戦ったのは斥候だろう。移動特化型の召喚獣と戦闘特化、2体の召喚獣を携帯するならそれなりに優秀な部隊の所属兵と見て間違いないだろう。」
「斥候!?じゃ、じゃあこれから軍隊が攻めて来るということですか!?」
顔を青くしてバッツが声を荒げる、目は見開き、汗が浮かび上がってパニック寸前であった。
シュージンは両手をバッツの肩に置き、青い顔をじっと見つめて力強く答える。
「大丈夫だ!」
バッツは唇を強く結び黙る。
「斥候を送って来たということはまだ俺達の行き先や戦力を把握してないということ、まだ時間の余裕はある。」
「あ、そういえば、その斥候、男と女の剣士を探しているって言ってたな。」
アバルが思い出したことを言う。
男と女・・・完全にシュージンとミシェルのことである。それを聞きバッツは再び声を荒げる。
「戦力バレてるじゃないですかっ!!?」
パニック寸前バッツの肩に再び両手を置き、シュージンは答える。
「大丈夫だろう!」
「さっきより自信無いじゃないですかっ!!」
「こっちも頭数増やしているし!勝てる!」
「戦闘になる前提!!?」
「それに、斥候を出して探しているということは、狙いは俺達だけだ!ピンポイントで襲って来る!それほどの大軍では来ないだろう!」
不安感が増すバッツ。トセも不安気にシュージンに問う。
「でも、実際の所どうなんですか?先生。」
「そうだな、実際の所その斥候どうだった?アバル君?」
質問を質問で返すどころか、質問を他の人に振るというわらしべ長者的ムーブをするシュージン。
「斥候の様子と言っても、実際の所はほぼ相打ちってカンジで終わったし、相手もオレと同じくらいには疲れているんじゃねぇのかな、とは思うが・・・」
「なら、その斥候も行動不能になっている可能性は高いな。先遣が休んでるなら本隊が来るのも先になるだろう。」
(不安が残る・・・)
アバルとシュージンの言葉に対してバッツは心で呟いた。
「ともかく、追われていると気づいた以上は明日の予定は慎重に行う必要がある!」
シュージンは不安気なバッツとトセを元気付けるかのように続けて言う。
「さ〜て明日の予定は・・・」
・アバル、トセとともに宿屋で待機。
・ミシェル、1人で消耗品などの買い出し。
・シュージン、バッツとともにラチャオから奪った召喚石を売って換金する。
「・・・の三グループに分かれての行動だ!」
まず、第一にアバルの回復させること、今後戦闘になった時の為にコンディションを万全にしてもらう。獣人でもあるので大っぴらに出歩けないし、兄妹だしトセについてもらう。
買い出しは土地勘もあるミシェル。
召喚石の換金は召喚獣に詳しいシュージン、換金後の資金は獣人達の集落のために使われるのでバッツがいた方が都合が良いので同行してもらう。
シュージンは口には出さないがバッツの同行についてはもう一つの理由があった。それは、バッツの先程の帝国の斥候が現れたという話での慌てぶりを見て、自分の近くにいた方が良いとシュージンが判断したためであった。
3人に明日の行動について詳しく指示を出した後、シュージンはトセに言う。
「トセ、後でミシェルに部屋に戻ったら明日の行動の件を伝えてくれ。」
「はいっ。」
元気のいい返事の後、男性部屋から出て行くトセ。
シュージンは残った男の獣人2人にも話しかける。
「アバル君、バッツ君今日は戦闘に、馬車の運転疲れたろう、もう休んだ方が良い。明日から忙しくなる。」
「ああ、先に寝させてもらうぜ、センセ。」
「・・・はい。」
ベッドの毛布をかけ直し目を閉じるアバル。バッツは何か思い詰めたような表情で自らのベッドに歩いて行く。
その様子を見て、シュージンもベッドの上で寝そべりながら考える。
(斥候を送って来たということは、指揮官が慎重なのか、それとも大軍で攻めてこられない理由があるかだ。普通なら物量で攻めればシンプルに終わるはず、アバル君の情報では間違いなく斥候の狙いは俺とミシェルだ、警戒するに越したことはない・・・しかし、そもそも帝国が自国に攻めてきたというのに王国騎士を内地に引き上げさせたままとは・・・土地を放棄しているとしか思えない。ミシェルの町のようにこの町も見捨てられたのか?しかし、若干治安が悪くなったと言われてもこの町には落ち着きがある。考えつく理由は強いて言えば女将が言っていた伯爵様とやらの威光なのか?伯爵クラスなら王国騎士とは別の指示系統の私設軍もそれなりだろうし、伯爵自体が召喚士と聞く、召喚獣も集めているらしいし、戦力はあるだろう。時間があれば伯爵に探りを入れてみるか?)
シュージンが帝国と王国の動向について思考している時、同じ部屋で考え事をしている者がいた。
(先生はああ言うが、もし、帝国が攻めて来たとしたら・・・オレはどうしたら、もしネロさんの身に何かがあれば・・・)
バッツはシーツを力強く握りしめ苦悩していた。恐怖と不安感で心が一杯だったが、馬車の運転の疲れからいつの間にか深い眠りに落ちていた。
続く




