第61話 心配はしないのっ!?
「何だ!?」
「ネロさんの悲鳴!?」
シュージンとバッツは部屋のドアを開ける、すると同じように部屋から出てきたミシェルとトセに会う。
「シュージン!」
「とにかく行くぞ!」
エントランスに4人が着くと、狼狽ているネロと、土に汚れた大きく黒い布の塊がエントランスの床に転がっていた。
「大丈夫ですか!?ネロさん!」
「ええ、お店に入るなりこの方がいきなり倒れて・・・」
バッツがネロに声をかける。布の塊を見ると確かに人の形をしていた。大きく体格のいい男性の形の土で汚れたローブを纏った・・・
全てを察したシュージンは素早くネロの視界を遮るように前に移動する。トセとバッツも顔をしかめつつ持ち前の嗅覚で気づく。
「女将、お騒がせしてすいません、こいつは俺達のツレです。」
「ま!そうでしたの?」
ネロに今目の前で倒れているのが獣人だとバレぬようにシュージンは自らの身体で死角を作りアバルの顔色や様子を確認する。
「アバル君、無事か?何?死ぬ程疲れている?それは大変だ、部屋まで連れて行ってやろう。あとなんか臭うぞ!」
アバルの返事はなかったが、シュージンは早口でそう言い切ると、さりげなくローブを深く被らせるように直し、アバルの背中と膝に手を伸ばし抱きかかえる。謂わゆるお姫様抱っこの格好である。
「エントランスを汚してしまいすいません。ミシェルは掃除を手伝って差し上げろ、トセ、バッツ君は俺と一緒に部屋までキャモン!」
お姫様を抱えてそそくさと足早に部屋に戻るシュージン。
「先生ーっ!」
「大人1人抱えているとは思えぬ速さっ!?」
トセとバッツがシュージンを追いかけてしまい残されたミシェルとネロ。
「ネロさん・・・バケツと雑巾はありますか?」
「面白い方達ねぇ〜。」
「大変ですよ。ああいう変なの相手は。」
「賑やかなのは良いことよ。」
ネロはその優しい印象を与える垂れ目で何かを言いたそうにミシェルの顔をジッと見つめてくる。
「どうかされました?」
「ううん、掃除道具持ってくるわねぇ〜。」
ネロはエプロンを翻し、用具倉庫に向かって行った。
ーーー
男性メンバーの借りた部屋。
シュージンはお姫様抱っこしていたアバルをローブを脱がし、ベッドに横にすると、召喚獣・内科のスペシャリスト松島を召喚し、着いて来たトセとバッツに向き合う。
「先生。兄さんは大丈夫でしょうか?」
「ああ、おそらくは召喚獣の使役による精神疲労だろう。命に別状は無い。」
ホッと息をつき安心するトセ、しかし疑問を抱く。
「召喚獣?兄さんはいつの間に手にしたんですか?」
「ああ今朝、俺が渡したやつだろう。元はぐれ召喚獣の。」
ええ〜、と全くそんな重要そうな話を聞いてなかったトセとバッツは戸惑いの声を上げたが、正直色々と言いたいことはあるが、状況が状況なので、その話は置いておきバッツはもう一つの疑問を投げかける。
「先生、ですがそれはつまりアバルは召喚獣を使ったことですよね。一体何のために・・・」
移動ですか?とバッツは付け加えたがシュージンは首を振り否定する。
アバルがいくら召喚の素人とは言え、素養は充分にあった、召喚獣の背に乗って移動して時短ライフハックだぜ〜程度ではこんなに疲弊しない。
「十中八九、帝国の追手との戦闘だな。」
「えっ!?」
「そんな、大丈夫なんですか!?下手したらマイドの町まで攻め入られるんじゃ!?」
スペ松がアバルの診察をしているので、なるべく声を抑えるようにとバッツとトセに指示を出しながらシュージンは答える。
「ああ、だが現時点で来てないことから考えて・・・アバル君が全部追い払ったか、様子見をしているかのどちらかだろう。」
「そんな・・・いずれにしてもその内に帝国が来るってことですか・・・」
バッツが悲しそうな声を出す。思い浮かべるのは焼かれた故郷とネロの笑顔であった。
「まずは、アバルを回復させて話を聞く。召喚による疲労はスペ松でも即時の治療は不可能だが気付薬とアバルのガッツでなんとかする。」
「まあうちの兄なら大丈夫でしょう。」
「兄の心配はしないのっ!?」
「確かに心配ですが、命に別状はないのなら問題は帝国と闘うのか闘わないのか、の二択です。」
動揺するバッツだったが、トセの力強い眼差しに気圧される。
「アバル君には悪いが、状況が状況だ。多少の無理はしてもらう。松島先生、お薬をお願いします。」
「はい、気つけ薬です。使い方はご存知のはずですね?」
「ありがとうございます、これはお代です。」
シュージンが松島から小袋を受け取り、代わりに金を渡すと、召喚獣は光となって消えた。
「よし、と。」
シュージンは小袋の中からガーゼのようなものを取り出す。
「アバル君、すまん!」
その声と共にガーゼらしきものをアバルの鼻の上に乗せる。すると。
「クッッッセェえええぇ!!」
アバルが勢いよく跳ね起きた!
「なんだこりゃぁ!臭え!今日臭いものばっかり嗅いでる!臭え!!」
「良かった、お兄ちゃん!」
トセが起き上がったアバルに抱きつく。バッツはその様子を見てやはり兄妹だ、心配だったのだと安心した、そしてその美しい兄妹愛に感心していると。
「臭っ!お兄ちゃん臭っ!!さっきから薄々臭いと思ったけど気のせいじゃなかった!臭い!具体的にいうと茹で卵の黄身の周りのグレーのところと蟹の食べられないところを混ぜたあと魚の内臓と柿渋と一緒に長時間発酵させたかのような臭い!!」
「そんなに臭い!?俺の妹が臭気ソムリエになっちまった!!?」
「アバル君、ソムリエは男性名詞だ、女性はソムリエールだ。」
「俺の妹が臭気ソムリエールになっちまった!!?」
「言い直しとか今はよくないですかっ!?」
騒ぐ3人をバッツがツッコミを入れた。
続く




