第57話 ハンカチは要らんかね
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「マイドの町が見えてきましたよー。」
御者席のバッツがシュージンたちに届くよう声を掛けてくる。馬車の長旅、すでに日は傾き始めていた。
「うおーっ!新しい町だーっ!ワクワクとロマンチックが止まらないぜ!」
「夕方にそのテンションは疲れないか?」
「バッツ君。ちゃんとフード被ってねー。」
「私の質問は無視!?」
シュージンの忠告を聞きフードを被り直し、獣人の特徴の耳と尻尾をすっぽり隠す。
妄想の世界から帰還したトセもシュージンの言葉を聞きローブを着る。ちなみにこの妄想の世界からの帰還で何も得るものはなかった。
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マイドの町、アバルより一足先に到着したシュージン一行。
マイドの町はミシェルの言葉通り、商業が盛んで商人の町、そのようないう気風からか、町の出入り口の門番から何も言われることもなかった。
町の中は露店が立ち並びそこには、果物や野菜、武器や交易品など様々な商品が並んでいた。
「よし!町に着いたらやる事といえば・・・
何でしょうか!お答え下さい!」
「えっ?いきなりクイズですか!?」
「手洗いうがい!!」
「トセ、それはない。宿探しだろシュージン。」
的外れなトセの答えに呆れるミシェル、騎士として町へ来たことのあったミシェルは模範解答を言った。
「ミシェル選手ご名答〜。10ポイントゲットです。あと10ポイントでハンカチに、30ポイントで鼻毛カッターに交換出来ます。」
「要らん。」
バッサリと断るミシェル。そんな騎士にトセが言いにくそうに言ってくる。
「あのぉ、ミシェル先生・・・ハンカチくらいは持っていた方が良いと思いますよ、なんなら鼻毛カッターも必要なくらいです。」
「いやいや、そういう意味で言ってないっ!自前のがあるから・・・」
懐から花柄のハンカチと毛先切り用のハサミを取り出すミシェル。
「「騎士のくせにめっちゃファンシーなハンカチ持ってる。」」
バッツとトセがハモった。
「身嗜みに気を遣っている、10ポイント進呈!おめでとうございます。ハンカチプレゼントです。」
シュージンはミシェルにハンカチを差し出す。
「自前のあるから要らんと言っているだろ!」
バッサリ二度目の断り。
「ちぇっ・・・なんだよ、ミシェル。せっかく用意したのに・・・」
わざとらしくいじけるシュージン。そんな、シュージンにトセが優しく声をかける。
「先生、よかったらあたしにそのハンカチくれませんか?」
「おおっ!トセ!お目が高い!鼻毛のマークをあしらったこのハンカチを・・・!!」
「ごめんなさい、やっぱりいいです。」
バッサリ断るトセであった。
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そのようなやりとりをしていると、なにやら路地裏から騒ぎが聞こえてきた。
「オイ、お嬢ちゃん。可愛いねぇ、金出せやゴラァ!」
「俺たちと一緒に遊ぼうぜぇ!そして金出せやゴラァ!」
柄の悪い荒くれ者2人に怯える少女。
少女はエプロンワンピースを着て、長い二つのおさげの茶髪。幼い顔立ちで優しげな愛らしい少女。
涙目になりその特徴的な二つのおさげは小刻みに揺れていた。
(アワワ・・・どうしてこんなことにぃ・・・)
「なんとか言ってくれよォ!金をくれよォ!」
「俺たちがいじめてるみたいじゃん!だからお金頂戴ッ!」
迫りくる悪漢。少女に手をかけようとするその刹那、声が聞こえた。悲しみと怒りが混じったような。秋の空を突き抜ける風のような涼しい声だった。
「ハンカチは要らんかね〜。」
そこには黒髪のハンカチ売りと思わしき青年がいた。シュージンである。
「だ、誰だテメェ!?」
「いつの間に!?」
動揺する悪漢2人組、少女も驚きで目を丸くしている。
「ハンカチは要らんかね〜。」
「こ、こいつ、ハンカチ屋さんなのか!?」
「構わねぇ!やっちまえ!」
悪漢Aが謎のハンカチ売りの顔面に右ストレートをぶちかます!
倒れるハンカチ売り!
少女は顔を手で覆い隠す、力強い悪漢パンチをまともに食らった痛みを想像し、恐怖で体を強張らせる。そして倒れたハンカチ売りの様子を見ようと指の隙間を開ける。
「どうしてハンカチ要らないの」
なんとハンカチ売りがゆらりと立ち上がっていた。
その様子に悪漢たちは明らかに狼狽えていた。
「こんな素敵な模様なのに、14.4/1スケール鼻毛模様の素敵なハンカチなのに・・・」
ハンカチ売りは持っていたハンカチを広げて模様を見せる。そこにはデカデカとした毛?のようなものがあしらわれた控えめに言って貰って嬉しくないデザインのハンカチがあった。
「なんだよ!そのハンカチ!要らねぇぇえ!!」
「だいたいなんだよ!素直に14.4倍って言えぇぇえ!!」
その言葉を聞き、一瞬ハンカチ売りが消えた。ハンカチ売りは素早い動きで悪漢Aの間合いの内側に入り。
「エゴだよ!それは!!」
顔面にパンチをした。
「ジゃァ!!」
悪漢Aはそのパンチの勢いにより1mほど体が浮かび、背後の壁に激突。そのまま気絶した。
「テメェ別にエゴでもないだろ!客観的に見てデザインがおかしいとは思わねぇのかぁぁ!?」
悪漢Bが正論を言いながら突進してくる。
「正論ばっかり言うな!」
「アブっ!!」
ハンカチ売りは悪漢Bを殴った。そして、悪漢Bは悪漢Aと同じく壁に叩きつけて気絶した。
「逆ギレ!?」
ハンカチ売りの後ろから鎧姿の女性が驚きながら現れた。その亜麻色の髪の鎧の女性は少女に気づくと駆け寄り声をかける。
「大丈夫か?」
「え?はい、おかげ様?で。」
自分の置かれた状況がいまいち飲み込めない少女であった。
続く




