第55話 臭え!?
アバルが呼び出した黒い四足獣型召喚獣。
巨大な身体と威圧感を放つそのジェヴォーダンと呼ばれる召喚獣に冷静なウイキも驚いた。
否、正確にはアバルが召喚獣を操ることに驚いた。
(この程度のサイズ、幾度となく相手した事はある。それよりもまさかインテリジェンスの欠片も感じられない野蛮な獣人風情が操るとは驚きだ。)
(なんかすっげーバカにされた気がする。)
アバルはウイキの侮辱を本能で感じた。
「まあいいや!ブチかましたれ!ジェヴォーダン!!」
アバルの掛け声と共に、ジェヴォーダンの足元の土が狼の形になり、ウイキに襲いかかる。
「おのれっ!!」
次々と迫り来る土狼の群れをライダーラータイトの上からサーベルで斬りつける。
「ハハーっ!!さっきのお返しだ!ザマぁみやがれ!!」
初めて召喚獣を操り、先程の怨みを返すアバル。テンションを上げて、立て続けに土狼を生み出させる。
一撃離脱による一対一の戦いを得意とするウイキには、数で攻められると弱い。必死にサーベルで対抗する。
しかし戦いはアバルの有利になると思われたが、一瞬の違和感と目眩がアバルを襲う。そして、その一瞬の隙を見逃すウイキではなかった。
「来たれ!召喚獣・トリンギット!」
ウイキの澄んだ声と共に、鮮やかな赤い閃光を放ち、アバルの召喚獣の体高の2倍近くの大きさの召喚獣が現れる。
ワシの頭部を持ち、首から下は屈強な男性のような姿をしていて、手足の先もワシのような鉤爪、羽をあしらったような装飾と、炎のような赤い体色をした鳥人型の召喚獣だ。
(私にこの召喚獣を使わせるとはな、しかしこの獣人、召喚獣を使い慣れてない。)
召喚獣は召喚士によって呼び出される。召喚と能力の発動の際には召喚士は精神的、体力的疲労に襲われる。
アバルはアクセルをベタ踏みするような戦い方。消費が激しく長期戦には不利である。
くらくらする頭を押さえつつ、アバルは召喚された赤の鳥人を見る。
「マジかよ、まだ召喚獣をもっていたのか・・・だが、ジェヴォーダン!」
アバルの声と共に、ジェヴォーダンがトリンギットの首元へ噛みつこうと跳びかかる。
トリンギットは左腕を盾にして攻撃を防ぐがジェヴォーダンの重量に押されて背中から地面に倒れる。
「くっ。」
召喚獣の倒れる衝撃で起こった砂埃に一瞬視界を奪われたウイキ。
「もらったぁぁ!!」
アバルがその一瞬で距離を一気に詰め、鉈で大きく横切りにしようとする。ウイキは咄嗟に上体をそらすが。
ビリッ、とマントと軍服の胸元が斬られてしまい、慎ましい胸を押さえる下着が見えてしまう。
「ええっっ!!?」
慌てて胸元を隠すウイキ。斬った張本人のアバルも呆然とする。
「え?お前、女だったん?」
「そうだ!だったらどうした!?」
「悪りぃ、ずっと男だと思っていた。」
だが、それが逆にウイキの逆鱗に触れた!
「悪いだとぉ・・・!私が、私が、男だとぉ・・・!胸が平坦な女の何が悪い!私は女だ!」
先程までの冷徹さはどこへやら、怒りを露わにするウイキ。その剣幕にアバルはたじろぐ。
「いや、言葉使いとか、で判断して。男かな、と、第一、別に胸が平坦とか言ってねぇよ。」
アバルのしどろもどろな言い訳を聞かず、ウイキは命令を出す。
「問答無用!何をしている!トリンギット!!焼き払え!」
「キーーッ!!」
トリンギットが猛禽類のような甲高い声を上げ、自らに馬乗りするジェヴォーダンの腹部を足で蹴り飛ばす。
痛みで左腕から口を離したところをトリンギッドは立ち上がり、炎を纏う拳で何度も殴りつける。
「グルルゥァ!」
「マジかよ!ヤベェ!」
トリンギットの猛攻にジェヴォーダンが苦痛の声を上げる。その声が、アバルにある事を思い出させた。
はぐれ召喚獣だったジェヴォーダンとの戦いでシュージンに言われたこと。
「そうだ!精神を集中し、意識を向ける。・・・そしたら何かが見えてくる!」
アバルは目を瞑り、精神を落ち着かせ、戦場に流れる召喚獣の放つ独特の気を感じ取ろうとする。
「隙だらけだ獣人んんっ!!」
目を瞑り立ちつくすアバルに向かって、ウイキはライダーラータイトを走らせる。
「ここだ!」
何かを理解したアバルは目を開けて、鉈でサーベルを受け流し、そのまま駆け出す。
「何っ!?」
助走をつけて鉈をトリンギットの脇腹目掛けて投擲。その鉈は狙い通りの場所に刺さり、トリンギッドは痛みで怯む。
「キーーッッ!!」
(しまった、トリンギットは体の前面と背後、四肢は硬質の筋肉に覆われているが胴体横だけは薄い!)
ジェヴォーダンはトリンギットの攻撃が緩んだ隙に横に回り込み脇腹に噛みつく。トリンギットは膝から崩れ落ちるが最後の力でジェヴォーダンの首に鉤爪をたて、炎で焼き付ける。
「キーーーッッ!!」
「グゥオァァアッッ!!」
そして、二体の召喚獣は断末魔の叫びを上げ同時に、石へとなった。
「「ぐっ!?」」
ウイキとアバルの二人は召喚獣のフィードバックにより全身に痛みが走った。
召喚獣がダメージにより石に戻ると、使用者にも影響がある。肉体的ダメージ、精神的ダメージなど操る召喚獣によって、ダメージの種類とその量は疎らだが、一般的に操る召喚獣が強力である程そのダメージ量が大きいと言われている。
(まさか、この私が獣人風情に・・・。)
心臓を握られたように胸が締め付けられ、激痛と倦怠感に襲われ、ライダーラータイトの首に抱きつかなければ今にも地面に落ちそうである。
ウイキが呼吸を整え、その獣人を方を見やる。すると・・・
(信じられない!?あのクラスの召喚獣なら私と同じくらいのダメージを受けている筈!?何故、立ち上がれる!?)
その獣人は立ち、銀と金の瞳でこちらを見ていた。鋭い犬歯を覗かせる口からは荒い呼吸音が聞こえる。その今にも跳び襲ってきそうな雰囲気にウイキは恐怖を感じた。
(やべぇ・・・次、突進してきたらオレ死ぬわ・・・)
アバルもギリギリであった。
しかし、男としての矜恃で立ち上がり、敵を見据えていた。
そのギラついた視線にウイキは死を連想し、ここから逃走することを決意した。
「ひっ!」
ウイキは腰のポーチから円筒型のものを取り出し地面に叩きつけた。すると辺り一面を覆う大量の煙が一気に出てきた。
「なんだこりゃ!!臭え!?」
獣人対策の特殊兵装、嗅覚破壊煙幕。嗅覚の優れた獣人に対して抜群の効果があり、相手の嗅覚を長時間麻痺させる、特に犬型獣人などの追跡を振り切る時に使われる。無論、相手の視覚も奪える。
煙幕が晴れたらすでにウイキの姿はなかった。
「クソっ!どこに行きやがった!?しかも、臭え!!」
嗅覚は効かず、すでに街道には姿が見えないことから、横の森の中へ逃げたことはアバルにも理解出来たが、今の満身創痍の状態で広い森の中を探すのは無理がある。
「っていうか追手が来てるってセンセ達に伝えねぇと!しかも・・・」
アバルは自らの服をくんくんと嗅ぐ。
「臭すぎてよくわかんねぇけど!間違いなく服に臭いが染み付いている!!」
帝国兵が動き出しているという重大な事実を知ったからには、と使命感から、アバルは体に走る激痛と臭さを痩せ我慢しながら街道を走り出した。
続く




