第53話 興味ないな
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「ああああっ!!恥ずかし恥ずかし!恥ずかしぃぃいい!!!」
街道で叫びながらゴロゴロ寝転がり悶える獣人がいた、アバルである。
アバルはシュージン達の乗る馬車から恥ずかしさのあまり飛び出し、道の真ん中で恥の上塗りをし続けている。そんなアバルを馬車は置いていきグングンと距離がとられてしまった。完全に置いてけぼりにされた。
「穴があったら入りてぇぇえ!!むしろ穴になりてぇえええっ!!!せめて物言わぬ穴になりてぇ!なれぇ!!!」
そんな奇妙な獣人の様子を道の真ん中で出会ってしまった人がいた。
馬ほどの大きさのダチョウのような生き物に乗り、マントを纏い、引き締まった身体と中性的な見た目をした金髪の女性だった。
(メガラネカ隊長、早速、気持ち悪い程に怪しいのを見つけましたよ。)
この女性はリチャード特務参謀からの命令を受け、ラチャオ隊壊滅の犯人を追うために単独で任された先遣兵であった。
名前をコッセ・ウイキといい、メガラネカ隊所属の召喚士。
彼女の乗っている大きなダチョウのようなものも召喚獣でライダーラータイト。帝国の軍馬よりも素早く小回りが効く、長距離移動に特化した召喚獣である。
「むっ!」
他人に見られてることに気づいたアバルは叫ぶのをやめ、体についた砂を払いながら立ち上がった。
「あー、今日もいい天気だ。」
「今更取り繕っても遅すぎる程に遅い。」
先程まで叫んで転がっていた変質者に冷静なツッコミをいれた。
ウイキは更に続ける。
「貴様、獣人だな。」
「おうよ、だったらどうした?」
その返事を聞き、ウイキは上司であるリチャードの言葉を思い返す。
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「ウイキ少尉、君には単独で先遣を任せたい。」
呼び出されたウイキはリチャードの命令に驚いた。
「私一人で、ですか?」
「ああ、済まないが、今の状況ではすでにガンバの王都で交渉が始まっている。大っぴらに兵を動かすことが出来ない。」
ラチャオ隊がプレジを侵略を始めたすぐ後、すでにガンバ王へ帝国の使者が送られた。
すでに王国の一部上層へは密通しており、和平交渉は進みつつある。
和平交渉の主な内容はガンバ王国の属国化、そして強力な召喚獣の帝国への献上。
調印式はまだまだ先だが、この和平交渉が結ばれればガンバ王国は帝国の大陸西部侵攻の要所となる。
「この交渉が我々、イルド帝国の今後に重要なものだとは理解しています。この任務、必ず成し遂げます。」
「ああ、ラチャオ隊を壊滅された犯人を捕まえなければ、帝国に不利益をもたらすだろう。」
もし、ラチャオ隊を壊滅させた犯人の存在をガンバが知れば、あるいは王国に召し上げたりしたら、ガンバの帝国に対してのジョーカーになり得る。
そのことはウイキにも理解出来る。
「ウイキ少尉、犯人は2人以上いる。戦いの痕跡から、1人は女、もう1人は男だ。女の方は典型的は田舎騎士の剣術、男の方は刺突主体の我流剣術。不意打ちを好んで使う、この男の方は危険だ、まず一対一では勝てないだろう。他には・・・」
ウイキはリチャードからの情報を聞く。
犯人の利腕、体格、戦いの仕方からの性格、武器、あらゆる情報が上司から与えられる。
ウイキはリチャードの情報分析能力の高さに驚いた。
「王都へ向かう街道に帝国軍馬の蹄鉄の跡があった。奴らは軍馬を奪って逃げている。私も少数の部下を編成。それと西部軍司令部への報告書類をまとめ、しばらくしたら君の後を追う。」
「隊長自ら!?」
「ああ、250人を相手取る奴らだ、慎重にならざるを得ない。君も無理をしないでくれ。」
敬服する上司にもらった言葉を噛みしめ、ウイキは拠点を後にした。
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(メガラネカ隊長の情報によれば男の身長は普通男性の身長くらいの筈、この獣人はそれよりさらに大きい体格。差している武器も長剣ではない、まさか長剣を捨てて鉈に持ち替えるとは考えづらい。十中八九、此奴は戦闘の当事者ではないな。)
そのようにウイキが考えていると、獣人が間の抜けたような声をかけてくる。
「オーイオーイ。おーーいーー。」
「済まないな、考え事をしていた。」
「どうでもいいけどよォ。オレは獣人だぜ。なんかないの?わー、とか、きゃーとか。」
「獣人など恐るるに足らず。」
「すっげー強者的発言。」
「獣人よ、聞きたいことがある。」
「なんだよ、さっきの恥ずかしがっていたことは教えんぞ。」
「興味ないな。」
アバルは半分安心しつつ、半分素っ気ない態度に傷ついた。
「私が聞きたいのは、この道の続いた先に、プレジという町があった。そこで戦闘があったんだが、何か知らないか?例えば女性と男性の剣士を見たとか?」
「戦闘!?剣士!?」
アバルはギクリと驚いた。
(完全にセンセ達のことじゃねぇか!?)
完全に焦りが顔に出ているアバル。その様子を鋭い目つきで見ているウイキ。なにか知っているな、と完全にウイキに見抜かれた。
(コイツがセンセ達を追っているとして、コイツは何者なんだ?変な鳥乗っているし、センセの知り合いか?)
変な鳥に乗っているという理由だけで知り合い認定されそうになった、アバルにとっては先生達は頼れるけど変な人という認識に落ち着いていた。
(獣人を見ても騒がないってことは、コイツは獣人を知っている人間だ。同じく獣人を知っているセンセの知り合いかも知れない、しかし、コイツは女性と男性の剣士と言った。)
アバルは珍しく頭を使った。
(センセ達から後から知り合いが来る、みたいなことも聞いてないし、つまり、コイツはセンセ達の素性を知らずに、追っている!!どうだ!オレの花瀬与次郎並みの推理力!)
アバルは自らの愛読書である花瀬与次郎の事件簿を引き合いに出して心の中で誇った。それほど誇れる推理はしてないがアバルは得意気であった。
アバルが考えていると
「どうした?随分と考え込んで、何か知っているなら教えてくれないか?」
「いやぁ、思い当たる節がありすぎてなぁ、どの剣士のことなのか悩んでな、オレ顔広いからぁ、その剣士の名前とか見た目とか教えてくれよ。」
アバルは精一杯の平静を装い。逆にウイキに質問を返す。
ウイキは少し口角を上げ、答えた。
「いや、こちらも名前も姿も知らないんだ。理由は言えないが、訳あってそいつらを探してな。思い当たるのがあるなら全部教えてくれないか?」
アバルはその言葉に少しの寒気を覚え、確信した。
(コイツ、言葉の端々に敵意がある。それに、理由も言わねぇし、名前を知らないとは、間違いねぇ。コイツは帝国の追手だ!!)
同じく、ウイキもアバルの表情を見て確信した。
(獣人の割には賢しいやつだ。知っていれば大人しく言えばいいものを、だが此奴から力尽くで聞けばすぐにでも分かる。)
ウイキは鞘からサーベルを抜きライダーラータイトを走り出させ、アバルに斬りかかる。
続く




