第44話 善意
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「コーモト?シュージン?不思議なお名前ね。強いて言うならカタクチイワシ系のお名前ね。」
青い瞳のエルフの少女が春風ような優しい声で言う。
「なんだよ、カタクチイワシ系って。マイワシ系やウルメイワシ系とかあるのか?」
「それはありま・・・せん!」
「ないだろうな、そりゃあ。実はカタクチイワシ系もないだろ。」
「それはありま・・・す!」
「あるのかよ・・・。」
戯けるエルフの少女、リンネに翻弄される集仁。
この際カタクチイワシはどうでもいい。リンネにすごい勢いで質問する。
「というより!何処なんだここ!?エルフってなんだ!?私はどうなったんだ!?」
「うわ!質問が多い!あなたさては野菜ソムリエね!」
「野菜ソムリエじゃねーよ!そもそも野菜ソムリエはそんな質問しねぇよ!質問に答えろ!」
集仁の大声で部屋に吊るされた数多くのエアプランツが揺らされる。そんな余裕のない様子の男を見て、ため息をつきつつリンネは答える。集仁はその、これだから素人は・・・という態度に多少ムッとしつつも話を聞くのであった。
「この世界はユートピオ、ここはグランディオーソ大陸北部にある多種族共生の村。」
「ユートピオ・・・グランディオーソ大陸・・・。」
聞きなれない固有名詞に戸惑う集仁。
「村の名前はネーミングライツ制でただ今募集中。」
「ネーミングライツ・・・。」
今度は聞きなれた言葉に戸惑う集仁。
村の名前は募集中、自分がいた世界では考えにくいことである。
「一応、便宜上の村の名前はオヤジフンドシアセジミ村。」
「一刻も早く命名権の取得が望まれる!」
残念過ぎる村の仮の名前に今日一番の戸惑いを覚えた集仁であった。
「そして、貴方がいるここは、あたしの家、ご近所からは妖怪エアプランツ怪談屋敷として名高い3LDKよ。」
「恐らくだが、それ悪評だ。」
部屋を見回すと実際にエアプランツが天井から多くぶら下がっており、ちょっと歩いただけですぐ頭にぶつかりそうである。それを除けば綺麗で清潔感のある、いかにもな女の子の部屋であった。
「二つ目の回答に行くけどいい?」
戸惑う集仁に、もっと聞きたいことがあるかどうか確認するリンネ。正直、聞きたいことだらけであるがとりあえず先の質問を優先する。
「エルフについてなんだけど、なんか寿命と耳が長い生き物。2、300年くらい生きたり生きなかったりしてなんかもう、いい感じにアレしてる種族かなんかで不思議パワー的なものを持ってたりするとか言われてるの。世界のあちらこちらにそれなりに多少の、もしくはそれ相当の集落を作っているらしいよ。知らんけど。」
「もっと自分のルーツに関心を持ってくれ。」
「あと、純血種のハイエルフとかは寿命が普通のエルフの何倍もあるらしい。」
「ほう。」
集仁の頭にある疑問が浮かぶ。
(・・・では、これは何歳なんだ?)
見た目は一応少女のエルフを見やる。もしも寿命が長いということが成長や老化が緩やかという意味ならば、見た目よりずっと年齢が上なのかもしれない。
そんなことを考えてどう見ても十代半ばくらいの見た目のリンネの方をじっと見ていると。
「いっやーん、熱視線。リンネ、困っちゃ〜う。火傷しちゃ〜う。」
身をよじりながら言うエルフの少女。
その集仁がいた世界の謂わゆる“昭和臭いノリ”に恐ろしい程の寒気を覚えた。
(実年齢はともかく精神年齢は私の方が上だな・・・)
とりあえずそう思うことで心の安寧を保つ集仁であった。
「三つ目の質問だけど、貴方は村の外れで倒れていたから、あたしが保護したの。」
「倒れていた・・・」
「息はあったから、家に連れてきたの。人間Lサイズ、テイクアウト一丁。」
息があった、その言葉に違和感を覚えた集仁。自らをファストフードみたいに扱われたことはとりあえず置いておく。
(確か、私は死んだはず。あの感覚は・・・)
“あの感覚”思い返すと吐き気を覚え咳き込む。素早く口を押さえるが、胃の中に何も入ってないのか、口の中に酸っぱい液体がたまるだけであった。
「大丈夫っ!?」
慌てて背中をさすり集仁を労わるリンネ。
集仁は大きく頭を縦に振りそれを返事にする。
数秒後、大きく息を吐き心を落ち着かせる集仁。
「もうちょっと寝ていた方がいいよ。私が見ているから。」
正直なところ何がなんだかまるで分かっていないが、集仁にリンネの優しさは確かに感じられた。
「済まない。」
集仁は感謝の言葉を述べ、目を閉じた。
(何故だろうか、さっきから戸惑いも多いが、不思議と心が穏やかになれる。これがさっき言っていたエルフの不思議パワー的なやつなのか?それともただ純粋に彼女の“善意”を感じられるからか?)
そのようなことを考えて、瞼を閉じる。
優しきリンネの言葉に甘え穏やかな眠りにつく集仁であった。
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続く




