第35話 ラムレーズンパウンドケーキ
「厄介なこと?一体何を思い出したんだシュージン。」
ミシェルが聞く。先程言っていたなんか忘れていること、である。
「アバル君とトセ君にも手伝ってもらいたい。」
「はい!あたしに出来ることならなんでも!」
「ああ、いいぜ、センセ・・・うぅっ。」
はぐれ召喚獣との戦いの疲労とトセのキックでよろめくアバル。
「お兄ちゃんは疲れているんだからあたしに任せなさい。」
「いや、お前のキックが大体の原因・・・」
「アァァン!?」
「兄妹揃って怖っ!?」
余計なことを言おうとするアバルに凄むトセにやっぱりコイツら兄妹だと改めてミシェルは思った。
「ゴホン、いいか?」
咳払いし、話を切り出すシュージン。
みんな揃ってシュージンの言葉に耳を傾ける。
「セルフメディケーション松下清太郎探すの手伝ってぇ!」
「メディ松のこと忘れてたぁぁぁぁあ!!」
シュージンの厄介事、それは、召喚してそのままにしてしまった召喚獣のことを探すことである。
「どこ行ったんだセルフメディケーション松下清太郎ぉ!!」
シュージンの悲痛な叫びにザトアが答える。
「ザトアとミシェルおねーさんが、追いかけられてたってことは覚えているけど・・・」
「じゃあ森の中じゃねぇか!」
「捜せ捜せぇ!草の根かき分け捜し出せぇ!!」
ーーー
日も傾き始め、より一層暗い雰囲気を出す森で召喚獣を探そうとする。
もう夜になるので、ボボボボンボーはザトアを連れて集落に待機、シュージン、ミシェル、トセ、そして満身創痍のアバルが茂みをかき分け森の奥へと進む。
「こう暗くなると見つけることに無理があるな。離ればなれにならないようにまとまって行動するぞ。」
「はい。」
「ああ。」
「あいよ。」
皆に注意を促すシュージン、ミシェルは視覚では捜せないと聞き、ある考えを思いつく。
「なあ、シュージン。視覚がダメならふんわりで捜せばいいのでは?」
「ふんわりって何ですか?」
「やってみよう。」
目を閉じて感覚を研ぎ澄ますシュージン。
しかし。
「ダメだ、距離が離れているのかふんわりが感じ取れないな。」
「いや、だからさっきから、ふんわりって何ですか?」
「トセ、後で説明するから。」
ミシェルがふんわりについて聞いてくるトセを注意する。ミシェルも詳しくふんわりについて知らない。
悩んでいるシュージンとミシェルにトセが発案する。
「あ、だったら嗅覚で捜すのはどうでしょう、あたし鼻がいいんですよ!」
「さっすが!犬の獣人!頼れるぅ!」
シュージンがトセを褒める、トセはシュージンに褒められ嬉しかったのか尻尾をブンブンと振り、えへへと照れながら笑う。
「なにか、匂いのするものありませんか?」
それを手かがりにしますので、と言うトセ。
「匂いがするものとは言われても・・・」
「あ!あれは!!」
困惑するミシェルだったが、シュージンが何かを発見し、大声を上げる。
「何があったんだ!シュージン!」
「これは、セルフメディケーション松下清太郎のタンクトップの切れ端だ!!」
シュージンの手には白い濡れた布が握られていた。
「すげぇしっとりしている!まるでお高いお店のラムレーズンパウンドケーキみたいだ!」
「そんな高尚なものではない!!パウンドケーキが食べられなくなるだろ!!!」
しっとりしているのはメディ松の汗である。
恐らく、走っている時に枝に引っかかって破けたであろうタンクトップの切れ端をシュージンはトセに渡そうとする。
「よし!嗅いでくれトセ!やったぜ!これで見つかるぞ!」
「・・・」
露骨に嫌な顔をするトセ。
シュージンは期待の眼差しをトセに向ける。
ミシェルは流石にそれはないだろう、という表情で見守る。
そして、一瞬の静寂の後、トセが動く。
「お兄ちゃん!嗅いで!」
トセはタンクトップを素早く指でつまみ上げアバルの顔に押し付ける。
「うぇっと!!!」
ベチョリ、と濡れた効果音と共にアバルは苦悶の声を上げる。
「ほ〜ら、よく嗅いで!」
力強く顔に押し付けるトセ。アバルはウゲウゲ言って悶えている。
(トセって意外にもS?いや、日頃の恨みか?)
シュージンに対しては従順な生徒のようなトセであったが、兄に対しては辛辣である。
ミシェルが、複雑な表情で見ていると、トセの濡れタンクトップ攻撃から解放されたアバルが咳き込みながら言う。
「ゲホゲホっ!トセ、覚えてろ・・・」
恨めしそうに悪どい顔をした妹を睨むアバル。そんなアバルにシュージンが問いかける。
「で、どうだ?わかりそう?」
「ああ、待ってろ。」
クンクンと鼻を鳴らすアバル。
「あっちだ。」
周囲の匂いを嗅ぎ終えたアバルは、ある方向を指差し答えるアバル。一行は森の奥へと歩みを進める。
続く




