01
こんなハズじゃなかった。
初めてのデートになるはずだった。
海に行こうっていったら、恥かしそうに頷いてくれて。
これは脈有りか? なんて、勝手にはしゃいで……。
告白するつもりだった。
それなのに。
「ナツメ……」
「戒君」
永遠に続きそうに長く見える病院の……白い廊下。
そこに備え付けられていた長椅子に、戒はただぼうぜんと座っていた。
弱々しい呼びかけに顔を向けると、そこにはナツメの父親の姿。
「オジさん」
いつもなら、にこやかで陽気な表情が硬くなり。
老け込んで見えた。
「俺のせいだ、ナツメが海で溺れたのも」
自分の口から出ているはずの言葉が、自分で喋っていないように思えた。
今にも叫びだしたいのに……叫べない。
体の震えが止まらない。
「……」
「俺が海に行こうって、誘わなければ」
「戒……君」
「……」
後は声にならなかった。
おじさんは、俺を責めるでもなくただそこに立っている。
ナツメが死んだと言うことを口にするのは、どうしてもできなかった。
どうして?
どうして?
なぜ、海に誘ったんだろう、行く場所なら沢山あったはずだ
近くの公園でも
映画館でも
学校でだっていい
ただ、ナツメが海が好きだって言ったから、そんな単純な理由。
それだけで告白の場所を海に決めたんだ。
でもその選択がナツメを失ってしまう理由になるなんて馬鹿げてる。
そう俺は馬鹿だ、大馬鹿だ。
もし、ナツメが生き返るのなら。
なんだってしたっていい、神にだって誓う。
……ソハ、誠カ?
そうだ、俺は何だってやってやるよ!
頭の中から聞こえてくる不思議な声に俺は疑いもなく叫んだ。
疑う余裕もなかった。
ナツメを失ったショックが余りにも大きくて、狂っているのかもしれなかった。
いっそのこと狂えばいい。
……相、分カッタ。
ソナタガイウトオリ望ミ叶エヨウ……。
シタガ、ソナタノチカイ夢ワスルナ……。
「ああ何だってやってやるよ」
……デハ、誓イノ印ヲ額ニ残ソウ……
そう、なんだって
「やってやる!!!!」
そう言った瞬間、戒は目が覚めた。
目覚めれば、いつもとかわらずの朝。
いつもとかわらずの自分の部屋。
ただ一つ、人目を引くところが在るとすれば、無残にも壊された置物の破片が散乱していること。
「夢か……」
幼なじみの、朝斗ナツメが死んだのは昨日。
病院でナツメの父さんと会ってからよく覚えていない。
色々、聞かれたのは覚えている。でも混乱していて……ろくに答えられなかったような気がする。
頭が痛い。
いつも、頭にあったのはナツメの顔。
笑顔。
泣き顔。
怒った顔。
嘘みたいだ。
いつもとかわり無い朝。
それなのにもう居ない。
どんなに会いたくても、体はここに有っても、もう二度と……動かないのだ。
そう感じた、生気を失って横たわるナツメを見たはずなのに現実味がない。
目は冷めても、ベッドの上から起き上がる気力も出なかった。
「戒……早く起きなさい、遅刻しちゃうわよー!」
母親の声がこれもまたいつもと変わらなく戒の耳に届く。いつも通りに敢えて振る舞っているのか、明るい声だ。
「行きたくない」
「何言ってるの? サボリは厳禁よ! さ、起きた起きた!」
戒には、いつも通りの明るく振る舞う母親の声が癇に障る。
「ほっといてくれ!」
「……」
途端、母親の顔は不機嫌な顔になり、容赦なく布団を剥ぎ取った。
「オノレは手間かけさせんじゃねーよ! とっとと顔洗ってシャッキットしてきな! 飯の用意はできてっから、自分でなんとかしろ!」
バタンッ!!
ドアを壊しそうなほど勢いをつけて閉める。
これも戒にとってはいつもの事だ、戒の母は機嫌の良いときには、普通の母なのだが機嫌が悪くなると朝は低血圧と元ヤンの血が騒いでか、このような言葉使いと行動にでる。
それにいつまでも慣れなくて、はらはらしてみていたのは、毎朝迎えに来ていたナツメ……。
そう考えて、戒は、ぐっと来る。
と、部屋のドアが開いた。
「あ、言い忘れてたわ、ナツメちゃんが迎えに来て、玄関で待ってるから」
「!?」
戒は一瞬聞き間違いかと思い、勢い余ってベットから転げ落ちた。
「母さん!ナツメって……来てるって……」
「あら、なによ起きれるじゃない」
「そんな事よりっ、ナツメはっ!?」
「だから、玄関で待ってるから早く支度しなさい。毎朝ほんっと馬鹿ムスコを迎えに来てくれて、貴重な幼なじみだわ……」
母親の言葉を聞くか聞かないか、戒はパジャマのまま、階段を駆け降りる。
ナツメが生きている?
迎えに来ている?
ナツメが死んだと言う事は夢?
戒は勢い余って、階段を踏み外す。
落ちた先は玄関の正面。
ナツメ!!!
戒は痛みを忘れて、玄関に居る人物を見る。
そこには。
「……お前は、誰だ?」
見た事も無い人物が立っていた。