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ドレッドノートな勇者  作者: うー
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Dreadnought Revolution

2000年に1度、世界を混沌に導く大魔王が目覚め、それを打ち倒す為に、世界を希望へと導く勇者が現れると言う伝承が残されている。

寝物語にもよく使われるこの伝説は、ただのおとぎ話ではなかった。


魔法や不思議で神秘的なモノが存在する世界、パラミシアでは2000年に1度であるその時がやってきたのだった。

大魔王が目覚め、それに付き従う魔物や邪悪なるモノが溢れ、世界は混沌と絶望に満ちた。しかし、そんな時に現れた勇者。その名も──


「俺の名はドレッドノートだ。覚えときなよ」


身の丈200cmを優に超える巨大な勇者であった。



ドレッドノートの勇者としての使命は運命付られたものではなく、この世界を構成している妖精達の長老的存在によって、大魔王を再び封印する事の出来る強い人間が選ばれるのだ。そしてそのお眼鏡に適ったのがドレッドノートであり、本人の意思は関係なかった。

そして、その選んだ勇者はお世辞にも勇者とは言えない人物だった。


「フルハウス!」


1ヶ月間貯めたお金を全て注ぎ込むまでのギャンブル好き。そして結果はかなりの頻度で大勝。


「浴びるほど酒を持ってこい」


家の中でも、街の中でも、森の中でも、所構わず大酒を食らう呑兵衛。


「この店で1番いい女を連れてこい」


1週間に1回は風俗や女性と遊べる場所に出向く女好き。

そんなかなりだらけた生活を送っていたドレッドノートだったがとある朝、日課である二日酔いから目が覚め、一目見ただけで機嫌の悪い顔をしながら家の外にある井戸から水を酌み顔をバシャバシャと洗っているドレッドノートの前に一匹の妖精が現れた。

この世界では妖精なんてものは珍しいものではない。

ドレッドノートは目の前に現れた一匹の妖精に対して目を細めて見ながら、顔を再び洗った。妖精はイタズラ好きとしても有名で、彼本人も幾度か被害に遭ったことがあり妖精に対して良い思い出がないのだ。


「君には大魔王を倒す力がある」


「だから倒してきてくれってか?」


ズボンのベルトに挟んでいたタオルで、濡れた顔と頭を拭きながらただ面倒くさそうに妖精の相手をし始めた。


「そう。今すぐそこに魔物の群れが来ているよ。早くしないと街の人が皆死んじゃうよ」


ドレッドノートの住む街は比較的小規模な街で、娯楽と言えば、少しの娼婦館と酒場しかない。あまり豊かとは言えないが、大魔王が復活したと言われる北部からはかなり離れており、魔物や邪悪なモノの被害が少なかった為、穏やかに農業や彼自身が送っていた少し荒れた生活が出来ていた。


「はぁ……ていうか、勇者とか魔王とかって、おとぎ話じゃねぇの?」


彼もまた大魔王と勇者の話を寝物語として聞かされていた身、だからこそ疑いながらも少し興味があった。


「違うんだよ。本当の話だ。だからこそ君の目の前に現れた。だからこそ君は選ばれた」


「ふぅん……まぁ面白そうなんじゃねぇの」


今までの繰り返すような毎日に飽きていた巨人はニィっと三日月のような笑みを浮かべながら腰に身に付けた無粋な鉄を撃ち出す武器を片手に歩き始めた。


「その魔物の群れとやら、俺が狩り尽くしてやる」


「そうするといいよ。その後は遥か北を目指すと良い。ここよりも酷いことになっているからね。じゃぁ頼んだよ勇者さん」


次の目的を伝えた妖精は姿を消し、次に起きたのは獣の咆哮。それも大量の獣のものだ。

それを聞いた勇者は胸を躍らせながらその声のする方向に駆け始めた。巨大な体が森の中を疾走しながら武器に弾を装填し、魔法の詠唱を開始していた。


「父なる大地よ──我が声に応えよ──母なる大地よ──我が望みを叶えよ──我は願う!! 眼前の仇なすモノを駆逐せよ!! 殲滅せよ!! 「グランデヴァロータ」!!」


心底愉快そうな声で唱え終わると同時に森を抜けると獣の姿をした魔物の大軍が目の前に広がり地面に勢いよく手を付くと魔物の少し前の地面が大きく盛り上がり巨大な壁のようになるとそれが倒れ、魔物を押し潰してしまった。


「はっはっ!! 心置き無く魔法が使えるってのは最高だ!! どんどんかかってきやがれ!!」


約1200体は居た魔物の大軍はすぐに数を減らしていき次第にはその群れを率いていたであろうボスらしき獣が現れた。


「人の身でありながら我が眷属を全滅させるとは……恐ろしき力よ。いずれ大魔王様に刃を向けるやもしれない貴様を……生かしてはおけんな」


「ヴェアヴォルフか!」


獣の群れを率いていたのはドレッドノートにも勝るとも劣らない狼の頭を持つ全身毛だらけの所謂、狼人間であった。


「いかにも、覚えておくが良い。我が名はカール──貴様を狩る狩人の名だ!!」



ヴェアヴォルフの力は凄まじかった。人間の中ではかなり強い化け物の部類に入るドレッドノートが防戦一方。しかも魔法や武器を駆使してようやく互角、と言った所だ。それほどの身体能力が高いのだ。


「ぐぉっ! 重てぇなぁ……」


「人の身ながらよくここまで戦えるものだ!!」


ドレッドノートは思った。こんな奴を擁する大魔王は更に、かなり強いのではないか。そう考えただけで彼の心は高鳴る一方であった。


「はん! 俺をそこらの人間と一緒だと思わない方が身のためだ、ぜ!!」


手に持つ武器から数発の鉛玉をカールに向かって放ちながらその銃弾に魔法をかけた。


「ソニックファング」


弾速を風魔法によって上げながらそれに重ねるように更に魔法をかけた。


「フライクーゲル」


そう呟くと突如として弾はまるで意思を持ったかのように真っ直ぐではなくカールの周りを回転し始めたのだ。

流石のカールもこれには驚き、動きを止めて唸りながら勇者を睨んだ。


「グルルルゥ……大魔王様の仰る通りだ……この地にて勇者が選ばれる……大魔王様を封印する事が出来る程の強大な魔力と強靭な肉体……危険極まりない」


「大魔王だかなんだか知らねぇが、俺は楽しそうだからやってんだよ……それに俺なんかが勇者をやってもいいのかねぇ……俺は酒が好きだ。タバコが好きだ。女が好きだ。金が好きだ。ギャンブルが好きだ。権力が好きだ。暴力も好きだ。人を騙すのも好きだ。てめぇらみたいな人間を見下す魔物をぶち殺すのも大好きだ」


銃を指でクルクルと回しながら、目の前の狼男の命を弄びながら、己がどれほど勇者として不適合かを語った。

だが、それを語るドレッドノートの顔は引け目を感じている顔ではなく、逆に、と言うより明らかに狂っている笑みを浮かべながら語った。


「貴様……もはや狂っているとしか……」


「あぁ、狂っている。だが狂気ってのはそんな簡単に出来上がるもんじゃねぇ。外的要因、内的要因があんだよ。俺のこの体を見てみろ。普通の人間に、一般人に見えるか? そらぁそうだろう。親の顔も知らねぇ捨て子だからな。そして元気に育ってこの体だ。どうなるか、目に見えてるだろ? 後ろ指を指されるわ、石は投げられるわ。つまり外的要因、人間共が作り出した狂気って訳さ。まっ、今は楽しいからどうでもいいんだけどな。んで今は勇者様だぜ? 俺に暴れろって言ってるもんだ」


「貴様は何をしようというのだ……その力で世界中の人々を救うつもりか?」


「は? 馬鹿じゃねぇの? なにそれ偽善? 怖い。俺はおとぎ話の勇者様じゃぁねぇ。世界平和? 救済? 無理無理。それならまだ呑んでる方がましだっつの」


ニィっと笑いながらカールに止めを刺そうと周りを飛んでいた三つの魔弾は動きを変えた。

だが、カールを撃ち抜くのではなく、何故かドレッドノートの胸を撃ち抜いたのだ。


「なっ……んだと……」


操作を誤った訳ではない。そんな簡単なミスを犯すほどドレッドノートはどんくさい男ではなかった。では何故か。


「いやぁ、危なかったですね。カールさん。突出し過ぎです」


「ッチ……ツェッペリンめ……余計な事を」


ツェッペリンと呼ばれた悪魔の羽が生えた、かなり過激な服装をした女。淫魔のサキュバスが現れた。そしてドレッドノートの魔弾を操ったのも彼女である。

胸を押さえて片膝をついているドレッドノートを値踏みするようにジロジロと見ていたツェッペリンはふふん、と満足気に意味深な笑みを浮かべた。


「君が勇者君? なるほど。好みですが、また今度の機会にしましょう。その日を楽しみにしていますよ」


ツェッペリンがドレッドノートの頬にキスをすると彼は急に強い眠気に襲われてそのまま倒れてしまったのだ。

そして、まどろみの中、聞こえた声はツェッペリンの楽しそうな声だった。


『「マヌスヴェローヴリング」の1人、色欲のツェッペリンが、この私が、最初の敵になると思うので。あぁ、それとここより北は魔王軍の統治区域に入りますので、お気をつけてくださいねぇ。それでは、アデュー』


声が聞こえなくなるとそのままドレッドノートの意識もなくなってしまった。


「ん……んー?」


そんな巨大な男を一人の異形の者が発見した。木の棒や指でツンツンと突っ突き、反応が無いとわかると引き摺って自分の巣へと持ち帰ってしまった。


少し経ち、彼が目を覚ますとそこは暗がりの洞窟の中で壁や地面が湿気で濡れていた。そして、何故か着ていたワイヤシャツが無くなっており、ズボン1枚と言うこの湿った洞窟では少し肌寒い格好になっていた。


「すぅぅ──はぁぁ──寒っ……ここ……どこだ?」


寒さによって少し震える体を手で擦りながら立ち上がり洞窟を進み始めた。

勿論、見えている訳ではない。壁に手を付きながらゆっくりと進んでいる。松明でもあればかなり明るくなり、少しは温くなるのに、と呟いているドレッドノートの手にいきなりヌルヌルとした粘液のような液体が付着した。

流石のドレッドノートもすぐに手を離して目を凝らし壁の方を見つめていた。

そして、暗闇に目が慣れてきたのか少しずつそれの正体が判明した。


「……」


「!?」


目の前にあったのは満面の笑みでこちらを見つめている女性の顔があった。

だが、普通の女性ではなかった。下半身がドレッドノートをも超える蛇のような体になっておりヌルヌルとした薄い粘膜が張っていた。

ナーガだ。

このパラミシアには様々な魔物が生きているが、魔物と言っても全てが大魔王の手下、という訳ではなく、このナーガのように自然の中で暮らす者達も多い。


「ねぇねぇ!! お兄さん生きてたの!?」


上半身自体はドレッドノートよりも小さいが尾である下半身の部分が長くとぐろを巻いてドレッドノートより高くなっている。


「……ん、まぁ、眠っていただけだ」


「ねぇねぇ!! この服貰ってもいい!?」


よく見ると彼が着ていたワイシャツを着ておりかなり大きいのか袖が余りプラプラと揺れていた。

ナーガは好奇心旺盛で知能も高く人間に対して友好的な種族で、その好奇心はほとんど人間に対して向けられる。今回もドレッドノートと言う存在にかなりの興味が湧いたのかニコニコと笑いながら袖をブンブンと回し、そう問い掛けた。


「欲しいならやる。やるから俺を外に連れてってくれ。ここは寒い。寒すぎる」


寒さに滅法弱いドレッドノートはナーガに服をあげる代わりに外まで連れて行くよう頼んだ。すると服が自分のモノになったナーガはよほど嬉しいのか大きく縦に頷き袖から手を出してドレッドノートを引き、進み始めた。

そして、ドレッドノートはこの時、ナーガの娘の腕に痣や切り傷があるのを見逃さなかった。

ナーガに連れられ入口まで戻ってきた巨人は太陽の光に当たり冷えた体を温めはじめたが、ナーガは外に出ようとしなかった。


「どした? 太陽は嫌いか?」


「外……怖い」


「……人間に襲われるからか?」


そう聞くと静かに頷き、先程の怪我は全て人間によって付けられたものでそのせいでナーガは外の世界が怖くなったのだという。


「……私は人間が大好き。でも人間は私の事、嫌い……だから怖い」


「まぁ、わからなくもない」


巨人はにっと笑い背を向けてナーガに大きな背中を見せるとそこにあったのは逞しい筋肉だけではなく、火傷や切り傷、抉られたであろう傷口が巨大な背中一面に広がっていた。

それを見たナーガは背に触れながら相手の顔を見た。


「……こんなに沢山……お兄さんは人間、大嫌いにならなかった?」


「何言ってんだ。大嫌いだぜ。けどよ、俺の体を見てみろ。強そうだろ? 強いから嫌いな人間なんて気にもならねぇんだよ。お前だってその立派な爪や尻尾は飾りか? お前にはそれだけ素晴らしい武器がある。なら怖がる必要はねぇ。それでもまだ怖いってぇなら、付いてきな。俺がお前を守ってやる。お前みたいな奴がこんな穴蔵で一生を過ごすなんて勿体ねぇ。お前がもしも、自分が怖いと思っている世界が見たいってなら俺が見せてやるよ。どれだけ世界ってのが、ちっぽけでくだらなく楽しいのかっ、てのをな!!」


ドレッドノートは喋るのが好きだ。そしてそのお喋りは時として相手の心を動かし、驚かし、恐怖させ、感動させる。

そして、この演説のような長い言葉にナーガの娘は世界が見たい、自分が恐れていた世界がどんなモノなのか。この男となら本当に世界を回れるかもしれないと、そんな期待をしてしまった。


「……うん……私……見たい!!」


「よろしい!! 俺の名はドレッドノート!! アンタは?」


「私は……フューリアス。よろしくね!!」


こうして、勇者のパーティに一人目の仲間が、ナーガの娘、フューリアスが参入したのだった。

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