自覚無き転生
青い海。
白い砂浜。
そして透き通るような空。
目を覚ました俺の目にそんな風景が飛び込んできた。
ギラギラと照り付ける太陽が俺の目を焼くが不思議と不快感はない。寧ろそれは俺に「生」を実感させてくれる。
おかしな話だ。死んで初めて生きてるって分かるなんて。
周りにいる人達は砂浜に倒れてる俺を不思議そうな目で見ていた。が、俺と目が合った途端に目を逸らす。
その原因はすぐに分かった。
俺以外の人達は頭と尻に耳と尻尾が付いてるからだ。
今日は獣耳の日なのか!? いや意味分からないけど。
混乱する俺に一人の女の子が近寄ってくる。
「あの、大丈夫ですか?」
「うん、まあ・・・・・・大丈夫かな」
「そうですか。なら、良いんですが・・・・・・」
女の子は雪のような白い髪を揺らして口篭った。
俺に変なところがあるのだろうか。耳と尻尾を付けないといけないのか? 死後の世界は。
んなわけあるか! 俺の頭に獣耳なんて付けてみろ。地獄絵図にしかならないぞ・・・・・・。
でも、何か違うらしい。少女の紅い瞳は俺でなく俺の横を捉えてる。
視線を横に流すと・・・・・・
「何、これ?」
手元に剣が転がっていた。
血を被ったかのような赤黒い刀身の西洋剣。
それは真っ白な砂浜の中じゃ明らかに異質。手に持ってみると不思議と手に馴染む。
まるで昔から使っていたかのように。
「何って、あなたの武具ではないのですか?」
「いや、俺剣なんて持ったことないから違うけど。誰かの忘れ物じゃないのか」
「それはないと思いますよ。能力は持ち主から離れることはありませんから」
「能力・・・・・・?」
さて、ここまで来て初めて気付いたことがあるんだが・・・・・・。
俺、もしかして死んでないんじゃないのか。剣の柄の感触もしっかりと感じられる。目の前の少女の柔らかそうな体も多分実体だ。
じゃあ目の前の女の子と手に持ってる剣は何なんだ。
ここは現実で、周りの人達も本物。だとしたら俺は生きている。
だとしたら包丁でめった刺しにされたのは?
「その様子では能力の存在を知らないようですね。なるほど。理解しました。あなた、人間ですね」
女の子がドヤ顔で言った。
俺はこの子に対してどんな反応をすればいいのだろうか・・・・・・。
ドヤ顔で人間ですねって。
「あ、ああ。そうだけど?」
思わず口角がつり上がってしまう。
そんな当たり前のこと聞いて何になるのか。俺には分からないが、女の子にとって意味があったらしい。
少し考えた後、こう提案した。
「なら、付いてきてください。全部教えます。能力のことも。あなたに何が起こったのかも」
全部教えてくれる・・・・・・?
それは願ったり叶ったりだ。今の俺にとっては死んだかどうかが分かるだけでも大きい。
都合よく何も知らない俺の前に教えてくれる女の子が現れたのが気になるけど、不都合があれば情報量と割り切るか。
「ああ。教えて欲しい。いや、教えてください」
俺は頭を下げた。
そういえば同年代の女の子に何かを頼むなんて初めてかもしれない。
そもそも女子と話すこと機会自体幼馴染みを抜いたら全くないんだ。
紅い剣は未だ鈍く光り続けていた。
「まず、あなた自身はおそらく一度死んでいます」
やっぱり。
実は生きています、なんて儚い希望だったらしい。
それでも、今は生きている。
その理由は・・・・・・そういえば輪廻転生だったけ? ってのを聞いたことがある。
よく分からないけど、その類かもしれない!
「ですが、あなたは死ぬ直前この世界に迎え入れられました。死を取り消され、新たな生を貰い受けたんです」
そういうことらしい。
まあ、要するに転生したってことかな。しかも異世界に。
そんな馬鹿な話があるのか・・・・・・と。そもそも存在してるのか?
全部死ぬ間際に見てる夢だと言われても信じるぞ、俺は。
俺の前を歩く少女は続ける。
「そして能力のことですが。私達の世界では一人一人に能力を与えまれます。その能力は「身体能力の強化」だったり、「武器の生成」だったり、様々なのですが・・・・・・」
「じゃあ俺の能力は「武器の生成」なのか?」
手の中の剣をくるくると回す。
何故かこれを手放すことは出来なかった。捨てようもしても付いてくるんだ。
いつの間にか足元に転がってたり、手に持ってたりと色々な形をとって。
俺の質問に女の子は首を横に振って答えた。
「違います。能力は未だ分かりませんが、「剣という形」で存在してる以上強力である可能性が高いと思います」
「強い可能性って、結構適当だな。つーか、つよいのか? これ」
「根拠ならありますよ。剣に限ったことではありませんが、能力が目に見える形となるというのは強力なものである証と呼ばれていますから」
なるほど。それでこの赤い剣は強い力を持ってるって分かったのか。
その能力の詳細は分からないけど強いなら頼もしい限りだ。何かあっても対処できる可能性があるってことだからな。
説明は一息付いたらしく、少女が一つの大きな家を指さした。
「実は私はある研究をしていまして。その研究の最中あなたの「来訪」を確認しました」
「あー、それで都合よく俺の前に出てきたのね」
「ええ。助かったでしょう?」
「まあな。一応状況の整理は出来たし」
「でしたら私の頼み事を聞いてくれますよね?」
「・・・・・・はい?」
素っ頓狂な声が俺の喉から出る。
そして俺は今理解した。
この頼み事の為にこの人は俺を助けたのだということを・・・・・・。