93海里目 後処理と調査と説得
どうにかして俺と防衛連盟海軍は船団へと合流する。
そして数日の時間をかけて、「砂上の突風」作戦参加艦艇は防衛連盟へと戻ってきた。
これに際して、陸軍連合部隊はリクア共和国に、防衛連盟海軍はヒルノ海上国家に、連合艦隊はテラル島に戻る。
テラル島に戻った連合艦隊は物資の補給や、人員の上陸に忙しくなる。
そして俺も忙しくなる。
戻ってきた時には、亜人の住み込む寮が1棟出来上がっていた。俺はこれをコピーして拡張した場所に建てないといけない。
これはいい。
問題は作戦実行に際する書類の作成と、例の主砲の調査がある。
実際に俺が連合艦隊本部庁舎の執務室に入ると、既に連絡を受け取った防衛連盟本部から今回の作戦に関する書類の山が積まれていた。
俺は一瞬絶望の表情をするものの、やらないといけない焦燥感に駆られて書類に手をつける。
その中で、今回の「砂上の突風」作戦の総評および所感に関する書類に、俺は思っていることを正直に書き込む。
今回の作戦がこのように終わった要因は、事前の情報の収集不足にあると考える。
これは、無線の傍受やクレバイルへの直接潜入など、幅広い意味を持つ。
今回、帝王陛下の亡命という状況変化によって、事実上作戦は中断された。
もしこの亡命が事前に分かっていたなら、作戦の大枠の変更も行われていたことだろう。
そのため、今後の情報の収集が課題であると考える。
「とは後からいくらでも言えるんだけどなぁ」
俺は出来上がった報告書を見て、思わず苦笑いしてしまう。
ある出来事があってから粗探しをするのは簡単だが、それをやったところで現状が回復するわけではない。
それよりも、この先起こるであろう事案に対して審議や対処するほうが最も有意義である。
まぁ、今言ってもしょうがないな。
とにかくこの報告書では、情報不足であったことを強調して書き込んだ。
これが終わったら、俺は次の書類に手を出す。
「亡命希望者に関する身柄の確保と輸送について…か」
ようやくこの話題である。
現在、帝王陛下と陸軍中将、陸軍大佐の身柄は連合艦隊の方で預かっている。
彼らには捕虜として過ごしてもらっており、ある程度自由の身だ。
彼らには亡命先としての希望はないとしている。
まぁ連合艦隊のあるテラル島は亡命先にはないだろうな。
そんな訳だから、一度身柄をヒルノ海上国家に輸送し、そこから自由に亡命先を選んでもらうというのが今回の狙いだ。
そして、この身柄の確保および輸送に、連合艦隊を使いたいという趣旨である。
まぁ、この件に関しては問題ない。
俺はこれに了承するサインを書く。
あとはこの書類を送れば、具体的な日時を指定されることになるだろう。
そんな感じで書類の整理をしていると、あるものが目につく。
「新たな作戦の立案について…?」
それは「砂上の突風」作戦の結果を受けて、防衛連盟本部がさらなる追撃のために立案するというものらしい。
今度の作戦目標はクレイル連邦だという。
正直、今回の作戦で懲りたものだと思っていたのだが、実際はそうではないらしい。
だがこう言われてしまっているのだから、作戦立案を拒否するわけにはいかないだろう。
俺は前提として、以下のことを行うように提言した。
まず周辺海域の調査とそこにいるクレイル連邦の所属艦艇を調べること。
通信の傍受による情報の収集をすること。
そして可能であるならば、事前に諜報員をクレイル連邦に送って諜報活動を行わせること。
これらの前提条件の元、作戦を立案することを約束する旨の書類を作成する。
俺はこの書類を速達で防衛連盟本部に送った。
あとはどんな反応を示すかだ。
「よっしゃあ、これで書類終わりー」
こうして書類のほとんどを片づけることが出来た。
俺は次の作業に移る。
謎の艦隊から回収した主砲の調査だ。
念のため、俺は技術研究班のメンバーも招集して見分に入った。
調査の対象である主砲は、拿捕した帆船と一緒に湾港内に停泊させている。
艦に入って主砲の観察を始めた。
まずは閉鎖機周辺の様子を見る。
どうやら銘板に英語のようなもので何か書かれていたが、残念ながら読むことは出来ない。
しかし閉鎖機の状態を見るに、かなり習熟した技術を持っていることは確実だ。
主砲の後方には、対になるように砲弾の装填装置があり、周辺には薬嚢や砲弾が転がっていた。
しかしこんな重いもの、よく帆船で運ぼうと思ったな。
俺は主砲の脇を通り抜けながら、主砲自体の様子を確認する。
主砲は標準的な構成をしている。ここに特段秘密が隠されているわけではなさそうだ。
問題はこの主砲の口径だ。
主砲の砲口はわずかに艦の外に飛び出している。
俺は外に回って空中に浮かびながら口径を確認した。
「406.4mm…」
能力を使って確認した所、このような微妙な数字が出てきた。
なんで小数点まで出ているのか不思議に思ったのだが、案外答えはすぐに出る。
「英語…、長さ…。インチか!」
そう、ヤードポンド法に基づく計算では、406.4mmは16インチ、すなわちアイオワ級戦艦の主砲になる。
「こんなのどっから拾ってきたんだ…」
これは火薬などは処分して、主砲のみ保存しておくのが一番いいだろう。
こうして謎の帆船が所持していた主砲はアイオワ級の主砲であることが判明した所で、俺は次の案件に手を出す。
それは、ロアンの処遇に関してだ。
ロアンは帰還者であるため、流浪者の枠組みには入っていない。
そのため、現在は戦災孤児として保護しているという状態だ。
しかし、ロアンの能力も使いようによってはものすごいものに化ける可能性も否定出来ない。
そこで俺はロアンを呼び出して、ある提案をすることにした。
「何ですか、話って」
執務室にやってきたロアンに、俺はこう切り出した。
「ロアン、君は自分が嘘をついていくことに疲れたって言っていたね?」
「はい。もう自分はこの能力を使わないで生きていこうと思っています」
「実は、その考えを改めてもらいたいと思っているんだ」
「どういう事ですか?」
俺はまだ子供のロアンに、語りかけるように説得を試みる。
「世の中ってのはな、時には嘘をつくことも必要な時があるんだ。だけどそれはでたらめに嘘をつくことではない。言っていい嘘と悪い嘘がある」
「でも結局は人をだますことになります」
「そう、嘘をつくことは人をだますことになる。だけどそれをすることで、自分の状況に有利に動くことだってある。時には、敵に嘘の情報を流して現場を攪乱させることも戦術として有効だったりするものだよ」
「でも…」
ロアンは俺の言葉を否定する言葉を探しているようだった。
「いいか、ロアン。人間というのは、嘘に弱い生き物なんだ。時に自分自身も嘘に飲まれる時もある。だけど忘れていけないのは、必要な嘘は時に人を救うこともあるってことだ」
ロアンは完全に黙ってしまった。
これでは俺が一方的にいじめているようではないか。
俺はさっさと本題に入ることにした。
「ロアン、今日ここに呼んだのは説教を垂れることではない。頼みがあるんだ」
「頼み、ですか?」
「連合艦隊に入隊してくれないか」
その言葉を聞いたロアンは、目をまん丸にした。
「僕が、軍人に?」
「まぁ、そうなる」
「…それも能力を必要としているからですか?」
「その通りだ」
「…僕はもう、能力は使いたくありません」
ロアンの固い意志に、どうすることも出来ない。
そこで俺は別の提案をする。
「じゃあ、社会見学として俺と同伴するというのはどうだ?」
「同伴?」
「そうだ。今後連合艦隊が出撃するようなことが起こった場合、ロアンを連れていくことが出来るようにするんだ」
「それをしてどうするんですか?」
「どうしようもないさ。ただの社会見学なんだから」
「…分かりました。社会見学というんだったらいいです」
「よし。じゃあそのように手配しよう」
そういってロアンを帰す。
早速俺はロアンを同伴させるための手続きを始めた。
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