92海里目 邂逅する衝撃
「砂上の突風」作戦が中止され、一晩明けた。
現在、連合艦隊および分かれていた防衛連盟陸軍連合部隊と海軍は、一度バンイ帝国の沖合で集合することになっている。
そして現在、部隊は続々と集合地点に集まってきていた。
「今回の作戦においての損害ってどれくらい出ているか分かります?」
「一応、日報として出ているな。あくまで目安みたいなものだが、おおよそ150名の負傷者と10頭の騎馬のケガ、5の野砲の損傷といったところか」
「負傷って何したんですかね…」
「さぁな。転んで擦り傷でも作ったんだろう」
「それを負傷者というのにはいささか不名誉っていうか…」
「なんだっていいだろう。今回の作戦では重傷者や死者が出ていないんだからな」
「まぁ、それは喜ぶべきものかもしれないですけど」
そんな話をトーラス補佐官としていると、部隊はほぼすべて集合していた。
「司令長官、報告します。エルフォード統合元帥から、全部隊の集合が完了したとの報告を受けました。そのため、これから全部隊は移動を開始、防衛連盟の方へ帰還します」
「了解した。他の艦艇に合わせて移動するように、改めて全艦に通達してくれ」
「了解しました」
そういって隊員は艦橋を後にする。
「なんだか複雑な気分ですよ」
「なぜだね?」
「今回の作戦、事実上の中断じゃないですか。ホッとしている自分もいれば、残念だと思っている自分もいるんです」
「だが作戦開始時にはボヤいてたじゃないか。この作戦は成功しないって」
「そんなこと言ってました?」
「あぁ」
「まぁとにかく、そんな突拍子もない作戦でも、心のどこかで成功させようと思っていた自分がいるんだなぁと思うと、やっぱり複雑な気分になりますよ」
「まぁ、今のうちに慣れといたほうがいいんじゃないか?この先もこのようなことが起こるかもしれないからな」
「そうしときます」
そんなことを言っている間に、艦隊一行は防衛連盟に向けて移動を開始した。
この時の艦隊の陣形は、進行方向右側を防衛連盟海軍が、左側を連合艦隊が防衛し、艦隊の中央を防衛連盟陸軍連合部隊の艦艇が進む護衛船団方式である。
正直この陣形よりも、中央から陸軍連合部隊、防衛連盟海軍、連合艦隊とする輪形陣の方が扱いやすいのではないかという疑問も生じかねないが、そこは上からの指示を遂行するのみだ。
そんな中、連合艦隊司令部にある報告が上がってくる。
「レーダーに原因不明のノイズのようなものが入ってる?」
それは艦隊後方にいる駆逐艦からの報告だった。
「それで、レーダー手はなんて言ってる?」
「それが、亡霊艦隊のようなものだとしか…」
「亡霊艦隊ねぇ…。つまり、ノイズの発生している範囲はかなり広く、しかもそれがのように規則的に並んでいると?」
「おそらくそういうことになります」
「…『長門』のレーダー手を呼んできてくれ。やはり専門家の意見が必要だ」
俺は「長門」のレーダーを担当している隊員を呼ぶように指示する。
少しして、艦橋にレーダー担当の隊員がやってきた。
「…という訳なんだが、君の意見を聞かせてほしい」
俺は事のあらましを説明し、意見を聞く。
「そうですね…。可能性としてはレーダーに反射する程大きな何かがそこにいるか、はたまたレーダーの不調か、もしくは本当にそこに艦隊がいるということですかね」
「…やっぱり目視するしかないかもな」
「司令長官、それはつまり?」
「『長門』の観測用気球を上げてくれ。最大までだ」
「了解」
「それに、俺も出る」
「司令長官自ら直接観測しにいくと?」
「そうです」
「あまり気が進まないが、この際仕方あるまい」
トーラス補佐官は仕方なく了承する。
気球が上がる準備をしている間に、俺も準備を進める。
小銃や拳銃、何かあったときのために小型の通信機器も持つ。
こうして気球が上がると同時に、俺も空へと飛び上がった。
そのままノイズの発生した方向へと飛んでいく。
高度200mまで上がったところだろうか。
俺はあるものを見つける。
「あれは…?」
俺は持ってきた双眼鏡を覗いて見てみる。
そこには複数の帆船が確認できた。
レーダーに映っていたものは、不調でも亡霊艦隊でもなく、本当にいた艦隊だったのだ。
俺はすぐさま報告する。
「こちら司令長官、艦隊の進行方向より130度方向に正体不明の艦隊発見。レーダーの不調ではなかった模様」
「こちら連合艦隊司令部、数は確認出来るか?」
「数はおよそ10」
「了解した。気球からもこの情報を取得した。これを統合元帥に報告する」
「了解」
そういった後、数分して防衛連盟海軍の艦船の半数が謎の艦隊の方へ向かうのを確認する。
「トーラスさん、防衛連盟の艦艇が移動しているんですが、何か報告は受けてますか?」
「どうやら統合元帥がやる気のようでな。あの艦隊を我々の手で葬ると言っているようだ」
「まぁ、自分は見守っています。もしもの時は手を出すので」
「分かった。くれぐれも気を付けてくれ」
俺は上空から彼らの様子をうかがう。
その瞬間だった。
謎の艦艇の先頭にいた帆船から閃光と巨大な煙が立ち上る。
そして十数秒したのち、接近していた防衛連盟海軍のほぼ中心部に巨大な水柱を成形したのだ。
「なっ!?」
俺はそれを見たとき、驚愕した。
先の爆炎と立ち上った水柱の様子を総合的に考えると、それは戦艦級の主砲しかありえないからだ。
しかし、実際には帆船から発射されているようである。
もしかすると、帆船を改造して戦艦の主砲を乗せられるようにしているのか?
どちらにせよ防衛連盟海軍が危ない。
「トーラスさん、エルフォード統合元帥に直ちに艦隊を現海域から離脱させるように言ってください!」
「司令長官は?」
「あの艦隊と戦ってきます!」
俺はすぐに急降下し、手助けに向かった。
どうやら先ほどの攻撃で一隻に損害が生じたようで、少し艦が傾いている。しかし自力での航行は可能なようだ。
俺は真っ先に先頭の帆船へと突っ込んでいく。
近寄って行ったときに、その帆船の様子を詳しく見る。
その帆船は艦全体を金属で覆っており、艦全般を強化しているように見えた。
また艦の先端部分には穴が開いており、そこから近代艦艇の主砲のようなものが見える。
ちょうど帆船の内部に主砲を格納しているような状態だ。
またそれに合わせて、舷側にあるはずの砲はすべて取り払われており、この艦自体が砲として機能しているようである。
俺はそんな帆船の甲板に勢いよく突っ込む。
そこには数人の水兵しかおらず、特にこれといった警備をしているわけではないようだ。
俺は彼らを無力化すると、すぐに下の甲板へと向かう。
そこには、大きく戦艦級の主砲が鎮座していた。
俺のことに気が付いた水兵は、近くにいた人からこちらにやってくる。
俺はそれを無力化しながら奥へ奥へと近づいていく。
こうして、主砲の鎮座している甲板を制圧すると、俺は艦長のいる部屋へと向かい、上級士官を拘束する。
こうしてこの帆船を無力化することに成功した。
俺は降伏を意味する白旗と、防衛連盟を表す旗をマストに掲揚する。
これにより、おそらくは防衛連盟海軍からの攻撃はないだろう。
案の上、防衛連盟海軍は俺のいる帆船をスルーして、奥にいる帆船を攻撃し始める。
こうして数時間の後、謎の艦隊は俺のいる帆船を残してすべて海の藻屑となった。
俺は帆船を牽引しながら、船団の後を追うのだった。
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