88海里目 実行する作戦
それから約1ヶ月。
ついに「砂上の突風」作戦が実行に移されようとしていた。
今回の戦力については以下の通りだ。
騎兵隊2個連隊約6000名、砲兵隊4個大隊約2000名、歩兵隊4個連隊約12000名、兵站全般を担当する部隊約5000名である。
「砂上の突風」作戦では、基本的に騎兵隊が前線を突っ走り、それに追随する形で砲兵と歩兵が前線の押し上げと確保を補助するという形だ。
これに対して、連合艦隊陸戦隊はあくまで橋頭堡の防衛という任務を課せられている。
そのため、最大限の防衛能力を付与するため、俺は武器庫であるものを構築した。
九七式中戦車、通称チハである。
ここは10式戦車ではないかという疑問も生じるかもしれないが、これには訳があるのだ。
仮にここで10式戦車を出してきたとしても、それで上陸ができるかと言われれば微妙なところだろう。いや出来るかもしれないけど。
ほかにも、10式戦車ではその性能は余りあるものになってしまう。誰がミリ波レーダーなんて使うんだよ。C4Iシステムなんて持ってのほかだ。
そんなわけだから、ここではチハを使っていこうと思う。
このチハを俺は10輌構築する。
そしてこれを片方の橋頭堡に防衛用に回す。これは陸戦隊に所属している人間に担当させる。
残りの構成員である亜人は基本歩兵だ。
志願した亜人はほぼ全員であった。なんともありがたい限りである。
彼らはゲリラ戦に似た戦法を使っていたため、それに期待しよう。
こうして訓練を重ねていった結果、何とか形にする。
今回参加する一型タンカーは俺の手伝いもあってどうにか30隻全部集まった。
一型タンカーを操舵するのは、一般人から動員した船乗りである。
こちらも簡単な習熟訓練を受けさせ、人員の輸送を出来るよう程度にした。
こうして「砂上の突風」作戦が開始される。
まずはリクア共和国に一型タンカーと連合艦隊、そして防衛連盟海軍が集結していた。
「いよいよだな」
「はい。ただ、一抹の不安もありますが」
「それは仕方ないと考えたほうがいい。我々は最善を尽くすだけだ」
「…そう、ですね」
いよいよ本番である。
まずは一型タンカーを安全に目的地まで輸送することが目的だ。
今回の目的地は、バンイ帝国を上下にちょうど半分に出来る緯度を中心にして、北部と南部に分かれた部分だ。
お互いの距離は50km程度離れている。
そのまま、約350km先にあるバンイ帝国の首都まで突っ走るのだ。
その中で、俺たち連合艦隊陸戦隊は北部の橋頭堡の防衛を任された。
まずは橋頭堡予定地まで一型タンカー輸送隊の安全を確保しなければならない。
そのためにはいち早く西方戦闘海域およびバンイ帝国領海域を突破したいところだ。
だが、一型タンカーの速度はたかが知れている。
「…さすがに遅いですね」
「仕方ないだろう。船団護衛などそんなものだ」
連合艦隊に守られながら、15隻の一型タンカーは航行している。
速度的には帆船と同じ程度だ。
もう一方の15隻の一型タンカー群は防衛連盟海軍が護衛している。
あちらは帆船に護衛されているから、おおよそ同じ程度の速度で護衛されていることだろう。
一方で連合艦隊のほうは、速度を絞って護衛をしなければならない。
いつもより遅く航行している分、俺にとってみれば鈍足で走っていることにやきもきを焼くことになる。
「こんなに遅いんだったら、もう少し機関を強化してれば良かったです」
「そんなことしたら、防衛連盟海軍の方がついていけなくなってしまうぞ」
「分かってます。ちょっと言ってみただけです」
とは言っても、自分自身でも分かるくらいにはイライラしているようだ。
ここはひとまず深呼吸をして心を落ち着かせよう。
そんな感じで、数日の時間を要してこの海域を通過した。
目的地に到着したら、一型タンカーおよび搭載されている大発が揚陸作業に移る。
その間、護衛の連合艦隊は周辺の警戒にあたるのだ。
俺は「長門」の艦橋から、揚陸作業の様子をうかがっていた。
大発の発進の様子を見ていると、どうやら運用方法を書いた甲斐があったようで、うまく発進していっている。
そのまま砂浜へと上陸しているようだった。
その様子を見た俺は、通信機を使って連絡を取る。
連絡先は防衛連盟海軍のほうだ。
今回、円滑な作戦遂行のため、連合艦隊と防衛連盟海軍、そして前線にいる二つの防衛連盟陸軍連合部隊に、長距離でも通信可能な無線機を持たせている。
そのうちの一つが、ここ「長門」の艦橋に設置されているのだ。
さて、防衛連盟海軍の方に連絡を取ったのには聞きたいことがあったからである。
とは言っても、内容は至極単純なもので、上陸の様子を聞くだけだ。
「こちら防衛連盟海軍護衛艦隊旗艦だ」
「こちら連合艦隊旗艦『長門』の司令長官です」
「おや、カケル長官。わざわざ連絡をするとは、一体どのような用件で?」
「いえ、単純に揚陸作業の様子を伺おうと思いましてね」
「あぁ、それなら今のところ問題はありません。大した問題も起きてませんし、実に順調です」
「それは良かった。周辺に敵影も見られない感じですか?」
「えぇ、一切見当たりません。不気味なくらいにね」
「そうですか。連絡は以上です。また揚陸作業が終わったくらいに連絡します」
「分かりました」
その後、夜を徹した揚陸作業を行い、どうにかして橋頭堡の確保に成功したのだった。
翌朝。
俺とトーラス補佐官他数名の連合艦隊司令部のメンバーは、「長門」の内火艇に乗り込んでいた。
それはもちろん、連合艦隊陸戦隊を直接指揮するために上陸するからだ。
内火艇は上陸に適した形ではないが、もし砂浜から動けなくなっても俺の能力で何とかするから良しとしよう。
そんな感じで俺たちも砂浜に上陸する。
海岸線から陸地の方では、防衛連盟軍の拠点を設営しており、その大部分は完成しているように見えた。
「カケル長官」
声をかけたのは、連合艦隊陸戦隊の隊長である。
「隊員の揚陸は済んだか?」
「はい。すべて滞りなく行われました。現在総員配置についています」
「よろしい。私は防衛連盟の前線司令部のほうに顔を出してくる」
「了解です」
そういって俺は防衛連盟北部前線司令部のほうに向かった。
少し内陸に入ったところに設営された、簡単なテントのようなものが司令部だ。
もう少ししっかりした作りにすればいいのにと思ったが、ここは前線でありそんな贅沢も言ってられないのも現状だ。
司令部に入った俺に、司令部のテントにいた人たちは次々に敬礼をする。
俺が向かった先は、北部前線司令部を担当している大将だ。
「よく来た、司令長官」
「どうも。現状はどうなってます?」
「現在はすでに騎兵隊が出発し、前線を押し上げている状態だ。今のところ問題はない」
「分かりました。我々は当初の予定通り、司令部周辺の防衛にあたります」
「よろしく頼む」
そういって俺は司令部のテントから出る。
そのまま、俺は顔を上に向けた。
「あー、むず痒い…」
そう、今まで自分自身で防衛連盟のために尽力してきた。
それがここに来て、他人の手によって命運を分ける場面に出くわすというのは、あまり経験がない。
そのため、なんだか全身がむず痒く感じるのだ。
それから数日間、北部南部共に順調である通達が入ってくる。
これまでに敵らしい敵は出てこず、いるのはそこに住んでいる原住民のみだという。
「なんだか順調すぎる気もするけどな」
そんなことを考えつつも、この日も防衛のために周囲を警戒していた。
そんな中、亜人の一人が報告をしに来た。
「カケル長官。少し話が」
「何かあったか?」
「北西方向に正体不明の影を見たんですが…」
「影?」
「一瞬だったんで獣の可能性もありますが、私の嗅覚がそうではないと言っているんです」
「…そうか」
それは一瞬考えた後、こう告げる。
「チハを1輌持ってきてくれ。確かめに行く」
近くにいたチハを連れて、俺は十数人ほどの亜人と共にその場所へと向かった。
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