6海里目 不安定
1秒が1時間のように感じた。
そう感じたのは、サラが車井戸に押し潰されるかもしれなかったのと、目の前でおきている状況を理解し難かったからだろう。
「う…浮いてる…」
サラに向かって崩れた車井戸は、すんでの所で文字通り『浮いて』いた。
それを見たサラは腰が抜けたのか、ペタンと座り込んでしまった。
この現象…恐らく、と言うか絶対俺のせいだよな。俺自身どうやってるのか分からないけど。
いや、そんなこと考えてる場合じゃない。この状態が変わる前に、早くどうにかしなければ。
「サラ…、早くどいて」
「ぁ…う」
「早く!」
サラは地面を這いずるようにその場を離れていった。
まずはこれで大丈夫だ。さて次の問題。
俺の『力』によって浮いてるであろう車井戸をどうにかする。てか、これ念じるの?念じればいいの?念じれば動いてくれるの?
とりあえず『ゆっくり落ちる』とイメージしてみる。
すると車井戸はそのイメージ通りにゆっくりと地面に落ちた。
「っあぁぁ…」
イメージを切ったとたん、体が一気に脱力し、膝立ちになった。
これが魔法…なのか。
「カケル君大丈夫かい!?」
今の一部始終を見ていたのか、リフレットさんとカイ君が駆け寄ってきた。
「あぁまぁ、大丈夫です」
俺は足に力を入れて立ち上がり、なんともない事を見せた。
「そうかい、それなら良かった」
リフレットさんは胸を撫で下ろしたようだった。
サラもカイ君の手を貸して貰っているようだ。
「さて…。これはもう使い物にならなくなってしまったね」
リフレットさんが見つめる先には、無惨に崩れた車井戸だったものが転がっている。
滑車だけならまだしも、根元からぽっきりと折れてしまっては作り直すしかないだろう。
「接着剤みたいにくっつければなぁ…」
そんなことをボソッと呟いた。
その時、また体から『何か』が出ていくような感覚がした。
「あっ!」
カイ君が小さく声を上げる。
車井戸が再び浮いた。また自分の『力』が発動したようだが、別に『動け』とも念じていない。
車井戸は元あった場所まで移動し、折れた箇所から淡く発光した。その時、俺の体はまるで押さえつけられたかの如く固定され、頭の中はまさに混沌となった。
大小様々な球が集まり、数種類の大きな塊を作っていく。その塊は他の塊と繋がり、絡んで、やがて物体となる。
気がつくと、車井戸は何も無かったようにそこに佇んでいた。折れた箇所は元通り。まるで新品同様である。
「…」
その場にいた全員、言葉が出てこなかった。
俺の『力』による、物体の再生がまさに目の前で起きたのだから。
自分の『力』の衝撃が強すぎたせいか、その後の事はよく覚えておらず、気付いたらいつの間にか昼になっていた。
昼飯の後、リフレットさんとサラとカイ君はそれぞれのDPと共に大空に飛んでいった。俺はそれを見届けた後、アスナさんからフォーク、スプーンを借り、自室で『力』の確認中だ。
だいぶ扱いに慣れたと思うんだけど、まだ難しい。たまにすっ飛んでいったりする。
「ふぅ…」
数十分程『力』を使った事で精神的に疲れて、ベッドに倒れ込んだ。
今日分かった創造主の基本的な能力は主に二つだ。
一つは物体を物理的に操る能力。物を浮かせたりするのがそれだ。
もう一つは物質を生成する能力。これは所謂、無から有を生み出す能力である。これに関しては、体から出ていく『何か』―――恐らく魔力と思われる―――の消費が尋常じゃない位使われてる事から、何かしらの関係があると睨んでいる。
因みにこの二つを応用して、生み出した鉄の塊を粘土のように様々な形に象ったり、それを別の物質に変換したり、消したりした。勿論、手で触れずに宙に浮かせてやっていた。
「…あ、そういえば」
ノートの存在を忘れてた。『日記』と『情報』があるけど、どっちから読もう…。
『日記』は昨日、最初のページだけ見たから、今日は『情報』から読もう。
その瞬間に手にはノートが握られていた。
使いこなすには、まだまだだな…。
「えーと、何か良い情報は無いかなっと」
1ページ目からいろいろ書いてるなぁ。ランスエル公国、一年が360日、流浪者。様々な単語が羅列している。
お、こっちには地図が載ってる。どこら辺のだろう?
数ページ読んで気になったのは、やはり流浪者に関する記述だ。流浪者の『力』は、転生前の生き様に強く影響されるらしい。このノートの持ち主だった北川さんは、元の世界では探検家として世界中を飛び回っていたが、こちらの世界では冒険者となったらしい。
そうすると、俺のはどうなんだろう?創造主って名前がついてるから、『物を造り出す』とか言う解釈で良いのか?それに当てはまる行為と言うと…、模型ぐらいだが、それだけの影響を与えるものだったのかは多少疑問だ。
まぁいずれにしろ、『力』については今度ということで。
さて、『力』の練習の続きでもするか。
『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』
・一月30日 一年360日(ほぼ正確)
・シドラール国含む三ヶ国は「創生歴」を使用
・流浪者の能力は人生の中で影響を受けたものが反映されやすい
・「超過真水惑星バッサー」と呼称
・流浪者の基本能力としてどんな相手とも会話ができる(スムーズコミュニケーション)
・流浪者は互いが同属だと判別できる(理由不明)
・流浪者は互いに干渉できない(自分の能力が効かない)
※『情報』のノートより一部抜粋




