83海里目 上陸と邂逅
旧トグラン国領土。
かつてここも大災厄の影響を受けて避難してきた人々によって建国された国家であった。
過去形になっているのは、ここがバンイ帝国によって占領されている土地だからである。
バンイ帝国は、トグラン国側に非があるとして宣戦布告、のちに進軍した。
トグラン国から逃げてきた難民は、バンイ帝国が急に攻めてきた、極悪非道の限りを尽くしたという証言をいくつも残している。
また何人かの有識者は、この進軍は適切でないとして非難の声を上げるなどしていた。
そのため、防衛連盟内ではトグラン国侵攻は不適切であり、トグラン国は正式にバンイ帝国領土になっていないと判断。それに伴い、名称も旧トグラン国領土、もしくはそれに準ずる名称になっている。
もちろん、バンイ帝国には旧トグラン国領土から軍を撤退するように要求しているものの、一切取り合わずにいた。
そしてクレバイルとして防衛連盟に宣戦布告した直後からはまったくの音信不通になってしまい、現在の旧トグラン国領土がどのようになっているのか不明なままである。
「それが今日明らかになるってわけだな」
俺は艦橋でそんな言葉を口にした。
目前には旧トグラン国本土が鎮座している。
この時すでに、シクスから旧トグラン国領土についての現状を聞いていた。
旧トグラン国には、バンイ帝国から派遣された小規模の軍と、現在はシクスがリーダーをしている武力革命戦線を中心とした原始的な国家的集団が紛争状態にあるという。
その中でも、武力革命戦線とともに戦っていた亜人解放機構が、例の武器を持っているというのだ。
「しかし、本当にあるのかねぇ」
「俺が嘘を言ってどうするんだよ」
「連合艦隊を自分の縄張りにおびき寄せて、そのまま一網打尽にするなんてことも考えられるし」
「そんなことしたって俺たちの利益にならんよ」
「ほんとかなぁ?」
そんなことを言いつつも、連合艦隊は次第に旧トグラン国に接近していく。
旧トグラン国に接近するところで、シクスはほんの僅かだがソワソワしだす。
「どうした?」
「ん、いや。バンイ帝国の艦船が出てきてもおかしくはない海域だからな」
「そういやそうか」
「まぁ、その艦船もヴァンガード号で全部撃沈させてるよ」
「そりゃありがたいね。こちらの仕事を減らしてくれてるからな」
「それは嫌味のつもりか?」
そんな会話を挟みつつ、連合艦隊はバンイ帝国が旧トグラン国領土に上陸する際に使用していた港に接近する。
港には何かしら艦船が停泊していると考えられたが、どうやらそうでもなかったようだ。
当の港は空っぽで、何もいるようには見えなかった。
念のため、港に何か仕掛けられていないか確認をするため、内火艇に俺とシクス、そして武装した数名の隊員を乗せて上陸する。
どうにかして上陸した俺たちは、そのまま港の探索を始めた。
港は全体的に、今まで使っていたのに人だけがいなくなったような感じであった。
まだそこらへんにある荷物は使えるようなものであったり、中には整備中と思われる分解された銃まである。
物々しさだけがここに残っていた。
「なんというか、ついさっきまで人がいましたって感じだな」
「あぁ。おまけにブービートラップのようなものもないみたいだしな」
シクスは整備中の銃を手に取りながらそんなことを口にする。
「この世界でブービートラップ仕掛けるのは物好きかゲリラか現代軍事に精通している人間だけだよ」
「なんだよ、俺のこと言ってるのか?」
「じゃなかったら何だっていうんだ」
そんな感じで、軽く港の探索を行った。
結果、港には何も仕掛けられてはおらず、そのまま使用可能であると判断した。
大型艦である長門や巡洋艦は港の外で待機し、その他駆逐艦が港を使用することになった。
とはいっても、港自体小さいためそんな何隻も駆逐艦を停泊させることはできない。
そのため、各艦から内火艇とカッターを用いて隊員を武装した隊員を上陸させる。
武装した隊員が港に集合した。
先頭には、俺とシクスの姿がある。
「諸君らにはこれから、平野の先にある深い森がある場所を目指してもらう。ここには、シクスの顔なじみがいて、諸君らが持っている武器よりも強力なものを保有しているという。そこで我々はそこに向かい、その武器を回収してくることを目標とする。では出発しよう」
シクスを先頭に、俺たちは港を出発した。
港を出発すると、すぐに平野が広がっている。
その先に深い森がどっしりと構えていた。
この森に、シクスの仲間がいるのだという。
長い平野の草原を超えて、俺たちは森へと入っていく。
森は鬱蒼としているが、幸いにも獣道が出来ており、歩く分には支障はない。
そんな獣道を歩くこと約1時間。
先頭を歩くシクスが急に手を上げて動きを止める。
「どうした?」
俺はシクスに尋ねる。
シクスは足元を指さし、小声で言う。
「仲間の罠だ。また巧妙になってやがるな」
そこにはピアノ線のような細い鋼線があり、それが両脇にある木の幹に括りつけられていた。
そしてその先には、対称になるように指向性対人地雷が設置されていた。
この線に触れたりして装置を動作させてしまえば、先頭を歩くシクスや俺、その後ろにいる隊員を一斉に殺傷することができる状態だ。
その事実に、俺は一種の寒気を覚えた。
シクスは器用に線を切ると、指向性対人地雷を無力化する。
「これでよし。ほら、行くぞ」
シクスは何事もなかったかのように、先を行く。
「ちょっと待てよ。お前は大丈夫なのかよ」
「何がだ?」
「今の地雷、一歩間違えたら全員がおじゃんだったかも知れないんだぞ」
「そんなの、ここら辺じゃ当たり前のことだからな。慣れのようなものだよ」
「ロボットのお前が慣れって…」
「実際その通りだからな。特に俺以外の連中はこの状況に慣れるしかないんだ」
俺のことなどよそに、シクスはガンガン進んでいく。
さらに歩くこと数十分。
道は険しさを増し、もはやどこが道なのかも分からないほどになっていた。
その時、シクスが急に動きを止める。
「…囲まれたな」
ボソッとつぶやく。
その言葉に一瞬何があったのか分からなかったが、すぐに理解する。
ここはもう、敵地なのだと。
「俺だ、シクスだ。出て来いよオーウェン。いるんだろ?」
シクスの問いかけに、正面から何者かが出てくる。
白髪に長い耳が特徴の高身長な男性が、手にAK-47のようなものをこちらに向けながら出てきた。
「バンイ帝国側から来るとは、一体何があった?」
オーウェンと呼ばれた男は、こちらを警戒しながらシクスに尋ねる。
「あぁ。ヴァンガード号で出撃したあとだったんだがな、防衛連盟の連中とカチ合ったら負けちまってよ。連中、俺たちのこと軍に誘ってきたんだよ。俺たちは軍に入ることを了承して、代わりと言ってはなんだが武器庫のことを教えてやったんだよ」
「武器庫だと?貴様俺たちのことを見捨てるつもりか?」
「いやいや、防衛連盟の連中と話したんだが、意外といい連中でな。もしかすると俺たちと手を組むかも知れないぜ」
オーウェンは少し逡巡する様子を見せる。
「…いや、信用ならないな。本当に防衛連盟の奴らと手を組めるのなら、代表でも呼んできてくれ」
「実はいるんだな、これが」
そういってシクスは俺の方を見る。
これ俺が話せってか?
俺は一呼吸おいて話し始める。
「初めまして。自分は防衛連盟理事会直轄独立統合戦術機動部隊、通称連合艦隊司令長官の海原駆というものです。現在我々連合艦隊はクレバイルに対抗し、反撃を加えるために反攻作戦を実施している途中です。その反攻作戦は我々連合艦隊に一任されています。どうか我々のことを信じてください」
この言葉を聞いたオーウェンは少し言葉を詰まらせる。
「本当に信用していいのか?」
「だからさっきからそう言ってるだろ」
オーウェンの言葉に、シクスはそう答える。
「…分かった、信じよう」
そういってオーウェンは銃を下ろす。
「ついてこい、武器庫に案内してやる」
そういってオーウェンは森の奥へと進んでいく。
ホッと胸を撫で下ろした俺は、オーウェンのあとをついていくことにした。
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