80海里目 不審な船
「なんだありゃあ…」
俺はおろか、艦橋にいる全員が唖然とするしかなかった。
大きさは優に300mは超えているほどだろうか。鉄かアルミかの金属の板を雑に張り合わせたような、船とは言い難いような四角い船体が特徴的だ。
そんな正体不明の船は、連合艦隊と相対するようにこちらに向かって進路を取り続けている。
「どうする、司令長官」
トーラス補佐官が確認するように、俺に尋ねてくる。
確かにこれは指示できる人間がいないといけない状況であるとも言えるな。
「相手の旗も見えないですし、まずはこちらから通信を入れてそちらの進路を変更してもらうように伝えましょう。それでも進路を取り続けてくるようであれば、敵性勢力と見なした旨の通信をして撃破してしまいましょう」
「了解した。通信機で通信だ」
「了解!」
こうして通信手が通信機を使って、相手の船に対して通信を行う。
「こちらは防衛連盟理事会独立統合戦術機動部隊である。現在、貴船は我々の艦隊の進行上に位置している。速やかに航路を変更し、我々に航路を開けよ」
これで伝わってくれればいいんだけどなぁ。
それから数分経っても進行方向は変わらず、まっすぐこちらに向かってきている。
「これはダメかもしれませんね」
「そうだな」
「…威嚇攻撃をしましょう。これで進路を変更しなければ撃沈もやむなしです」
「分かった。そのようにしよう」
「『長門』主砲威嚇射撃用意。目標、前方の不審船右500m」
「主砲威嚇射撃よーい!主砲旋回!」
「主砲射撃後は艦隊左方向へ転進。のちに撃沈の旨の通信を経て主砲射撃せよ」
「了解!」
「長門」の主砲をわずかに右方向へ向けると、主砲に砲弾が装填される。
そして射撃が行われた。
砲弾は不審船の右側600mのところに着弾する。
「艦隊、取り舵5度」
「とーりかーじ」
艦隊は左方向に舵を切る。
それでも不審船は進路を変更しない。
俺は通信によって撃沈する旨の通知を指示しようとした時だった。
艦橋にいた観測員が声をあげる。
「不審船より発砲煙らしきものを確認!」
「は?」
突然のことで俺は一瞬何が起こったか理解できなかった。
次の瞬間には物事を理解し、双眼鏡を覗き込む。
確かに不審船からは何かを発射したような煙が大量にみられる。
「総員、衝撃に備えよっ」
ここまで言ったところで、何かの衝撃が「長門」と周辺にいた艦に襲い掛かる。
艦隊を密集させていたのが裏目に出てしまったようだ。
「被害報告!」
「『ナガト』各部損傷なし!」
「各艦に損傷はなし!数名が軽傷を負った模様!」
「全艦不審船を攻撃!我々に攻撃するものは撃沈する!」
「全艦、右砲戦用意!目標不審船!」
「砲塔旋回急げー!」
現場はこれまでにないような緊張と混乱が渦巻いている。
それと同時に、俺はあの不審船から名状しがたいオーラを感じ取った。
「あそこに流浪者がいる…」
俺は直観でそう感じる。
「海原もそう感じるか」
「アルトさんも分かるんですか?」
同じように艦橋にいたアルトさんが俺に話しかけてくるように言う。
「あぁ、分かる。今まで俺が見てきたからな。しかしこの感じ、一体どのような人物だったかな…」
アルトさんは何か思い出そうとして唸っている。
連合艦隊のほうはなんとか統率は取れていて、全艦が不審船に主砲を向けていた。
「主砲照準よし!」
「撃ち方始めぇ!」
「てーっ!」
各艦が主砲を射撃した。
砲弾はまっすぐ不審船に向かって飛翔する。
巨体である不審船に、多数の砲弾が突き刺さった。
しかし、一見するとまったくダメージが通っていないようにも見える。
すると、今度は不審船からの攻撃が来た。
たまたま俺は不審船の攻撃の様子を覗いていが、それは目を見張るようなものだった。
船の甲板らしきところから、ロケット弾のようなものが飛び出してきていたのだ。
そのままロケット弾のようなものは飛翔してきて、艦隊の周辺に着弾する。
「っ!散開!連合艦隊同士間隔を開けて敵弾を回避せよ!」
連合艦隊の各々が艦同士の間を開けるために、舵を切る。
しかし、あまりにも突然の命令だったため、途中で艦同士が衝突しそうになっていた。
それでも、どうにか次の攻撃が来る前に散開することに成功する。
そのタイミングで次の攻撃が飛んできた。
その攻撃を見て、俺は確信する。
「あれは陸上に配備されている多連装ロケット砲だ」
あの噴煙や発射後の様子から、自走ロケット砲の類いであると考えた。
そうなれば対処の方法はただ一つ。
「全艦、全力で不審船から距離を取れ」
「距離を取るんですか?」
連合艦隊司令部の一人が尋ねてくる。
「あれを防御する方法はありません。ならばあの射程より遠いところに逃げてしまえばいいでしょう」
「ですが、その間に攻撃される可能性はありませんか?」
「可能性は十分にあります。だが今は他に方法がないのが現状です。それに、あの不審船には流浪者がいます」
「流浪者が?」
「えぇ。だから自分はあの不審船に乗り込もうと考えています」
「でも危険ではないですか?」
「危険だからこそ、そこに身を投じていく必要があると思うんです。今ここで影響を抑えられるのなら、それ以上のことはないでしょう」
「…分かりました。司令長官がそういうなら」
そういって引き下がる。
連合艦隊は不審船から離れつつも、射撃を止めずに撃ち続けた。
不審船はこちらに接近してくるのか、連合艦隊の方へ舵を切ってくる。
「全艦、全速力で不審船から離脱せよ」
こうは指示しているものの、艦隊の中で一番足が遅いのは「長門」である。
先行していく駆逐艦や巡洋艦を眺めつつ、「長門」は不本意にも殿として不審船からの攻撃を一心に受け止めていた。
こうなってくると、問題は被害の状況である。
「左舷に着弾!」
「左舷副砲の一部に損傷発生!現在復旧作業中!」
「軽傷者多数、重傷者1名出ています!」
時間の経過とともに、艦内があわただしくなってくる。
そろそろ潮時だろう。
「これからあの不審船に乗り込んでくる」
「司令長官、本当に大丈夫か?」
トーラス補佐官が心配そうに尋ねてくる。
「問題ないですよ」
「そうだといいんだが…」
トーラス補佐官は心配そうに見送ってくれた。
俺は「長門」の防空指揮所に上ると、そのまま飛んで不審船のほうへと飛んでいく。
不審船は上部構造物の類いはなく、ただのっぺりとした甲板がそこにあるだけだ。
俺は不審船へと乗り込む。
甲板には蓋のようなものが開いており、そこから多連装ロケット砲の発射装置が顔を覗かせていた。
どうやら今は活動を停止しているようだ。
しかしここにあるのは甲板だけであり、どこから入るのかも検討がつかない。
唯一開いていると言えば、この多連装ロケット砲が設置されている蓋の部分からだろう。
「とりあえず行ってみるか」
俺は意を決して入ってみる。
内部は多連装ロケット砲の発射装置のほかに、ロケット砲に弾を装填するための装置がついており、その部分から船体内部へとつながっているようだ。
内部に入ると、そこは薄暗くて狭い通路が続いていた。
とにかく俺は、名状しがたいオーラがする方向へと行ってみる。
すると、通路の向こう側から何者かが接近してくるような音がした。
俺が構えていると、そこから出てきたのはなんとヒト型獣人である。
獣人は、構えていた何かをこちらに向けた。
俺はとっさに、魔力による壁を生成する。
そして獣人のほうから甲高い破裂音が響き渡った。
魔力の壁に何かが当たる感触がする。
俺はそれを見た。
「弾丸…」
そこにあったのは、拳銃に使われるような弾丸であった。
獣人の様子を観察すると、どうやら手には拳銃のようなものが握られている。
俺は魔力の壁を生成したまま、獣人に接近する。
獣人は拳銃を何発か撃ち込むが、魔力の壁に阻まれてそれ以上は進まない。
そして俺の突進する威力そのままに魔力の壁を獣人にぶつけた。
獣人は後方に吹っ飛び、そのまま伸びてしまった。
「なんでこんなところに獣人がいるんだ?」
そんな疑問を思い浮かべながら、俺は奥へと進んでいく。




