77海里目 開発と出発
それから1ヶ月以上が過ぎた。
俺は戦時造船法によって指定された造船所に出向き、建造の手引きや必要な機材や設備、また材料などを渡しに行っていた。
しかしこれまた面倒なことで、場所によっては反発を食らうところもあった。
そのたびに、俺は頭を下げ続けた。さすがに流浪者に頭を下げさせるのはいかがなものかと考える人が大多数で、そうした後はすんなりと受け入れてもらうことに成功した。
しかし65ヶ所も回るのにかなり時間がかかった。俺が空を飛べてなかったら、もっと時間がかかっていたことだろう。
このようなわけで、実際に一型タンカーを建造する造船所は30ヶ所、大発を建造するのが35ヶ所となった。これにより少なくとも一型タンカー30隻は出来上がることになる。
もちろん、すべての建造が計画通りに進んだ場合の話だが。
そういったこともあり、以前から協賛してくれた民間造船所の技術者も各造船所に出向され、無事に一型タンカーの建造はスタートすることになった。
だが、その間にも俺には一つ仕事がある。
「大量生産か…」
それは、一型タンカーに使用される機関や燃料を生み出す高魔力変換機、また細かい部品などを量産しなければならないのだ。
これらの設備は俺にしか作ることができない。
そのため、これから連合艦隊が作戦行動に移る前に大量生産しておこうというのが目的だ。
「とは言っても、一型タンカー用の機関が30隻分、大発用のエンジンが最大30隻でそれを30隻分だから900台…。これは途方もないなぁ…」
自分で計算しておいてなんだが、正直やる気が失せる。
それに、ほかにも艦内を張り巡らせる導線なんかも作っておかなくてはならない。
もし、これらが作戦行動中に在庫を切らしてしまったら、そこで建造は中止になる。
それでは計画に支障をきたすおそれがある。
そのためにはどうにかして在庫を切らさないようにする必要があるだろう。
「けどどうしたら在庫を切らさずにいけるんだ?」
俺は思いつめてしまう。
単に在庫を増やすというのは簡単に思いつくだろう。
作るのは簡単だが、それなりの代償が伴う。俺の場合、極度の疲れと死との隣り合わせなだけだ。
しかし、結果として使われなかったとしたら?
こういう無駄なものを作り出すというのは、あまりいいとは言えないだろう。そもそもそれだけの在庫を抱えておくだけの場所がない。
そんな中、俺はふと執務室から外を眺める。
窓の外には連合艦隊に所属する艦艇たちが、その出撃を今か今かと待ち望んでいた。
そのほとんどは最初に建造した艦型を流用した複製であるとも言えるが。
「ん?複製?」
俺の頭をよぎった言葉に、何かを思いつく。
「そうだ!原型を作っておいて、それの複製を大量に生産できるようにしておけばいいんだ!」
早速俺は開発に取り掛かる。
今回の複製装置の開発は完全オリジナルとなるから、少し時間がかかるかもしれないなぁ。
まずは複製する方法を決定しなければならない。
どのような方法を取るにしても、特定の空間にある原物を複製する形になるだろう。
問題は特定の空間にある原物を、どうやって読み取るかということだ。
簡単な方法としては、箱型の空間を作ってその内部に収められた原型を複製するという方法だ。これなら箱内部の空間にある物体を読み取るだけであるが、空間に限りがあるため原型の大きさに制限が出てしまう。
しかし、今回は一型タンカーの機関を複製するだけだから、原物を格納した空間がその大きさに合えば問題はないだろう。
ということで原物格納空間の大きさを設定するのだが、大体人が住める程度の広さになった。
大きさが決定したのなら、今度は複製をするためのシステム作りだ。
「こういう複雑なシステム作りってあまりやったことないんだけどなぁ」
だが、やってみなくては分からないことも多い。
とにかくできる所までやってみよう。
流れとしては、入力側である原物格納空間に存在している物体を読み取り、それを魔力を使って出力側の複製格納空間に再現するといった具合だ。
まずは原物格納空間にある物体を読み取る機構を作るところからだ。
これは格納空間内壁に専用の読み取り用の魔術を書き込む。これにより、空間内にある物体の位置情報と物質情報を紐づけてデータ化することができる。
このデータを出力側の格納空間に転送し、空間内部の位置情報と紐づけられた物質情報を読み込むことで、入力側とまったく同じ所にまったく同じ物質が構築されるというわけだ。
ぶっちゃけこのあたりは、今まで主砲の内部で行っていたことと同じようなことをしているため、あまり難しいことではない。
「よし。入出力はこのあたりでいいか」
俺は次に手をつける。
今度はこれらを動作させ、複製品の材料ともなる魔力を貯蔵することもできる制御部の構築に着手した。
まずは魔力の貯蔵タンクだ。
これには空間中に存在する魔力を回収し、それを貯蔵するシステムを導入する。貯蔵タンクはかなりの魔力を貯め込めるように、安全を確保しながら細工を施していく。
そして問題の制御部だ。
制御部には、フローチャートの概念を取り込む。とは言っても、複雑に分岐するわけではなく、入出力時に格納空間の扉が閉まっているかどうか、もしそうだった場合の複製の手順を書き示しているだけに過ぎない。
こうして制御部分を構築すること数時間、どうにかして形にはなった。
そしてこれらを組み上げて、一つの装置にする。
「よし、どうにかできた」
こうして中規模複製装置初号機が完成した。
「ここは一度、試しとして試験をしてみよう」
俺は組み立てた中規模複製装置を実際に稼働させる。
何かいい感じの複製品となるものがあったか考えると、一つ思い当たるものがあった。
それはクリファラン学園の数学科の研究室からの連絡である。
以前この研究室には射撃指揮装置の設計・製作を依頼していた。
それが完成したという旨の書類が、ついこの間届いていたのだ。
俺はすぐに艦に乗ってクリファラン学園に向かう。
研究室では、代表が出迎えてくれた。
「ようこそ、連合艦隊司令官。お待ちしてました」
そう言うと、代表は借りてきた数台のトラックに俺を乗せてどこかへ向かう。
「今から向かうのは、製品版を製作してくれた外部の民間製作所です。若干無茶な要求でしたが、うまくやってくれましたよ」
トラックで10分程度の所にやってくる。
トラックから降りて製作所に入ると、そこには作業員の人たちが俺たちのことを待っているようだった。
「お久しぶりです、社長」
「おう。例のブツ、できてるぜ」
「ありがとうございます」
「それで、ちゃんと製作費の用意はできるんだろうな?」
「えぇ、こちらの方が性能を確認次第払ってくれますよ」
なんか勝手に給料袋にされている感じがする。
確かに書類のやり取りでは研究室への依頼費と設計費、この製作所に製作費を払うように契約を交わしていたから、こう思われても仕方ないのかもしれないが。
それはさておき、早速倉庫のほうへ行き、現物を確かめる。
そこには、駆逐艦用、巡洋艦用、戦艦用と3種類があった。
これらの性能を確かめるのは実際に載せてからにしよう。
俺たちはそれらを持って、トラックに乗り込む。この際、射撃指揮装置が動いて壊れないように、しっかりと固定して運搬する。
港まで持ってくると、艦の空いている部分に乗せ換え、テラル島に戻る。
まずは射撃指揮装置の性能を確かめる。
完成品である射撃指揮装置を「吹雪」、「古鷹」、「長門」の搭載し、出港する。
この時の目標は俺が適当に作った松型駆逐艦のダミー3隻だ。
ダミーを沖合数kmの所に配置すると、そこに向かって射撃する。
まずは「吹雪」だ。
射撃指揮装置のマニュアルを照らし合わせながら、隊員が操作していく。
そして諸元を求めると、それに沿って主砲を旋回させ、仰角を合わせる。
そのまま主砲を射撃した。
すると、一発で夾叉を出したではないか。まぁ互いに停止していたことも関係しているだろうが。
同じようにして「古鷹」と「長門」の主砲弾道も確認する。
結果は同じように、射撃指揮装置なしの時よりも良い結果を残した。
「これは使えるな」
あとで謝礼金をたっぷりと出さないといけないな。
早速これを中規模複製装置で複製してみる。
しかし、原物をなくすことはしたくないから、まずは俺の手によって設置した射撃指揮装置を複製する。その複製品を複製装置にかけるのだ。
入力側に元となる装置を置く。
そして扉を閉め、複製装置を稼働させる。
複製装置は低いうなりを立てて、射撃指揮装置を複製していく。
そして数分後、うなりが終わった。
俺は出力側の扉を開ける。
するとそこには、入力側に置いてあった装置とまったく同じものが置かれていた。
俺は軽く装置の動作を確認する。
見た目と軽い動作確認では問題はないようだ。
俺は能力を使って内部のほうまで見てみる。その結果、問題らしい問題は見当たらなかった。
俺はこれをフル稼働させて、全艦に載せられるだけ量産した。
こうして数日間は作戦に出るための準備に追われる。
射撃指揮装置は全艦に載せたし、一型タンカーの機関と大発のエンジン、その他必要なものは一式揃えた。
それに合わせて各艦艇の装備などを最新型に更新する。特に魚雷に関しては新しいものにした。
そしてようやく、連合艦隊は作戦に移る。
「ここまで長かったな」
「そうですね」
「ようやく作戦行動に移るんだな」
トーラス補佐官とアルトさんとともに艦橋に上った俺は、そこから望む連合艦隊の姿を見た。
合計38隻にもなる連合艦隊はついに作戦行動を開始する。
「よし、では行こうか」
俺は帽子をかぶり、顔を上げる。
「全艦抜錨!連合艦隊出撃!」
連合艦隊が出港する。
その先に待つのは、一体どんな海なのか。




