74海里目 建造、製造、建造
1週間後。
建造していた戦時標準船は埠頭に移動し、艤装の構築を行っていた。
「あとはデリックを設置して完成かな」
貨物用のデリックを設置すれば、オリジナルの試作戦時標準船の完成である。
これの名前を一型タンカーと命名しよう。
戦時標準船とかタンカーとか言っているけど、その実態は揚陸艦であるが。
内部は艦底部に全通式の格納庫を備え、そこに別で開発予定の大発を搭載する予定だ。また、この格納庫に野砲や馬を載せられるようにする。後方から大発を発進できるように、艦尾には跳ね上げ式のハッチを備えた。格納庫の上は陸軍兵士を搭乗できる船室にするつもりだ。機関は主缶機1軸を搭載している。また船団護衛を前提にしているため、一型タンカーには自衛用の武装を積んでいない。
船体に関してはこのような感じで、俺は大発の開発に移った。
こちらはオリジナルの部分が多いものの、小型ゆえに簡単に開発ができた。テストはあとで行うつもりである。
まずは、この一型タンカーを基準に各造船所には建造を進めてもらおう。
その間に、俺はクリファラン学園に向かう。
目的は一つ。
ホフキンス教授に会うためだ。
「また君かね。今度はなんの用事だ?」
ホフキンス教授はあきれながらも、俺の話を聞く。
「実はホフキンス教授に頼みたいことがありまして…」
「なんだね?」
「教授は数学は得意ですよね?」
「まぁ、苦手ではないが」
「実は、連合艦隊に使われる艦砲の射撃指揮装置の開発をお願いしたいんです」
「…こりゃまた難題を持ってきたもんだな」
ホフキンス教授は頭を抱えた。教授は少し考えたあと、俺に提案をする。
「この学園には私の教え子たちがいる数学科がある。そこに行けば、何かしら解決策が見いだせるかもしれないな」
「数学科ですね?早速行ってみます」
「待て。数学科がどこにあるか分かってるのか?」
「…あー」
俺はホフキンス教授に数学科のある建物を教えてもらうと、すぐにそこに向かった。
レンガ造りの建物が数学科の入っている建物だという。
目的の建物に到着すると、俺は中に入る。
そして数学科にある研究室の一つを訪ねた。
「どちらさん?」
「すいません。射撃指揮装置の開発に関して、ホフキンス教授からここを紹介されたんですけど」
「ホフキンス教授が?とりあえず中に入ってくれ」
そういって対応してくれた人が促す。
俺は中に入るとソファに案内され、そこに座る。
「さて、あなたの身分の公開と我が研究室の訪問理由をもう一度お願いしてもらっても?」
「自分は防衛連盟理事会直轄独立統合戦術機動部隊、通称連合艦隊の司令官、海原駆です。今回ホフキンス教授の紹介の元、連合艦隊所属の艦艇に搭載する射撃指揮装置の開発をお願いに来ました」
「射撃指揮装置ね…。確かにうちで開発しているけど」
そういって彼は奥へ行って資料を持ってくる。
「これがその装置の概要になるね」
俺は紙の束を受け取ると、それを軽く読む。
「射撃指揮装置の開発自体は25年前に、当時のリクア共和国の陸軍が砲撃の精度を高めるために開発を依頼したのが始まりだ。開発は実用段階まで入ったものの、クレバイルとの戦争が始まってな。開発計画は破棄という形で終わった。しかし、当時の研究室代表は諦められなかったのか、射撃指揮装置の開発を独断で続けたらしい。結果として、高精度の射撃指揮装置が完成した」
「へぇ…」
俺は少し関心しながら聞く。
「それで、今回射撃指揮装置を艦砲に用いたいとの話だったな?」
「えぇ」
「では、まずは実際に主砲の射撃の様子を見せてもらっても構わないかね?」
「大丈夫です」
そういって数学科の彼は数日後に、連合艦隊の艦の案内を俺にするように伝える。
数日後。準備を整えた数学科の研究室メンバーは、サージ港で待っていた。
そこに、俺は連合艦隊の旗艦である「古鷹」を筆頭に、球磨型軽巡洋艦の「球磨」、天龍型軽巡洋艦の「天龍」、吹雪型駆逐艦の「吹雪」、松型駆逐艦の「松」が勢ぞろいである。
数学科研究室メンバーは「古鷹」に乗り込むと、早速観測を始めた。
まずは砲弾の重量や形状、火薬の量を測定する。そののちに、主砲を射撃して弾道を調べる。
それを複数回行って、大まかな弾道を算出する。
俺はその様子を眺めてみたが、なにやらよく分からない数式を大量に使っているため、理解することを諦めた。
こうして日が暮れるまで「古鷹」の弾道解析は続く。
その日の夜には、射撃指揮装置の計算部分に使われる歯車など数字に関わる設計は終わっていた。
翌日以降は毎日のように射撃試験を繰り返して、有効なデータの収集と弾道の計算を行う。
こうしてみっちりと射撃を繰り返すこと1週間。
無事に射撃指揮装置の数学的設計が完成した。
あとはこれを製造するのみである。
「今回は協力いただきありがとうございました」
「問題はない。これが完成すれば、我が研究室の射撃指揮装置は完成されたシステムであることの証明になることだろう」
「そうですね。また何か相談があれば伺おうと思いますので、よろしくお願いします」
そういって俺はメンバーをサージ港まで送り届けた。
数学科研究室のメンバーが射撃指揮装置の開発・製造をしているところで、俺は魚雷の完成を急ぐ。
まずは、以前作った魚雷が円を描くようになってしまった原因を探ることにした。
原因の理由として、何個か思い当たる節がある。
まずは、推進機そのものの問題だ。この魚雷は二重反転スクリューを使用しているのだが、内部では互いの軸を独立させて回転させている。
すなわち、少しでも回転数のずれが生じている場合はどちらかの回転方向にトルクが発生している状態になるのだ。これでは魚雷の進行方向がずれたり、魚雷自身が軸周りで回転してしまうことも考えられる。
次に推進機周辺に設置しているひれ部分に歪みが生じた可能性だ。これが歪んでしまっては、まっすぐに魚雷を航行させることができない。
魚雷射出時や、製造段階で歪みが発生しているとするなら、これは重大な問題の一つだろう。
俺はすぐにこれらの対処にあたった。
推進機の二重反転スクリューの問題は、回転動力を一つにしてそれを歯車による動力分配装置で正確に分配する。これによって回転数の差によるずれを解消できるだろう。
ひれ部分の歪みに関しては、わずかに厚みを増して耐久性を持たせることで解決とした。
これを用いて試射をしてみる。
今度はまっすぐ進み、規定の距離を進んで自爆した。
「よし、魚雷の原型は完成だな」
とはいっても、今の所は発射方位上を走るだけの単純なものである。
今後はジャイロ装置の類いを搭載して、狙った方向に走るような仕組みを構築する必要があるだろう。
そしてついに、俺は戦艦の建造に入る。
昨今、戦艦と言えば大和型を思い浮かべることも多いが、今回は手堅いものを作るつもりだ。
今回建造するのは、旧日本海軍を象徴する戦艦、長門型戦艦である。
長らく旧日本海軍の連合艦隊旗艦を務めた本艦なら、その雄姿を見せつけるのにはもってこいの艦だろう。
まず俺は長門型1番艦「長門」の設計図を簡単に書いてみる。縮尺を合わせて、実際にこれを拡大して建造するイメージだ。
ちなみに今回建造するものは、建造直後ではなく、改装時のものである。
この時、俺はふとしたことを気にする。
「ドッグの長さ、足りてたっけな?」
そんな心配をしつつ、設計図を持って俺は建造ドッグへと向かい、建造を開始する。
いつものように竜骨を設置し、肋材を張り巡らせる。
そこに、船体の一部となる装甲板も一緒に生成しながら貼り付ける。
実際、この装甲板は分厚く、厚いところでは300mmを超える。
その大規模な生成量により魔力の欠乏が発生し、俺は幾度となく休憩を挟むことを余儀なくされた。
この休息を入れるのももったいないと感じた俺は、連合艦隊の艦艇のほとんどには載せている小型高魔力変換器を生成する。
俺が建造を行っている間に変換器のタンクに魔力を貯蔵し、魔力が欠乏したところで貯蔵していた魔力を俺が吸収するというものだ。
少し危険な方法だが、これにより効率的に建造を進めることができる。
だが、これをもってしても建造には時間がかかった。これまで何度も艦艇を建造していても、戦艦という巨大な艦は容赦なく牙を向いてきたのだ。
約10日の時間をかけて、ようやく「長門」船体が完成する。
この日は進水式をするのだが、戦艦という新たな艦種と連合艦隊の象徴する艦ができることから、連合艦隊司令部や防衛連盟本部から関係者が訪れ、祝おうとしていた。
久方ぶりの進水式であるため、テラル島は大いに盛り上がっていた。
「本日はこのような式典に招待いただき、大変光栄に思う。前回の式典に訪れた際には、まだ数える程の艦艇しかなかったが、現在はこのように大所帯となっていることを大変うれしく思う…」
こう挨拶するのは、以前にも来てくださった連合艦隊本部副参謀のフィディー・ハウザー少将だ。
挨拶を終えると、俺はシャンパンを手に艦首へと向かう。
そして合図とともに、シャンパンを振りかざし、艦首に当てて割った。
それと同時に船体を支える船台を滑らせ、進水させる。
無事に「長門」の船体は浮き、進水式は成功に終わった。
このあとは埠頭へと移動させ、上部構造物を設置する作業に入るのだ。
「まだ忙しくなるぞ」
連合艦隊の旗艦となるべく、俺は張り切って「長門」の艤装を施すのだった。




