72海里目 引き取る捕虜
「これまた大量の捕虜を捕まえたものだな……」
状況を報告するため一度「古鷹」に戻った俺は、トーラス補佐官からこのような小言を言われてしまった。
「仕方ないじゃないですか。まさかあの船団が上陸部隊を乗せているなんて誰もわかりませんよ」
「まぁ、そこは否定しないが…」
「とにかく、防衛連盟に対して上陸作戦を仕掛けていることが分かりましたし、それを未然に防いだことも評価すべきです」
「そうなんだが、この捕虜たちはどうするんだ?」
「…あ」
考えてみれば、3000人を超える陸軍兵士が捕虜になるのだ。
テラル島ではキャパが足りない。
「…どうしましょう?」
「どうするもこうするも、捕虜として捕らえてしまったのだから、その面倒を見なければならないのは必然だろう」
「あー…」
俺は頭を抱えた。
「テラル島の湾内に停泊させて、帆船を居住区にするのはどうでしょう?」
「あの狭い船内で生活を強要させるのは人道的に問題だと思うぞ」
「うわぁぁぁ、どうしよう」
俺は思わずその場にしゃがみこんでしまった。
それを見たトーラス補佐官が一つ溜息をつく。
「今からリクア共和国に向かうぞ」
「リクア共和国ですか?」
「あぁ、共和国は防衛連盟でも随一の陸軍国家だ。クレバイルの陸軍装備や組織編成は興味あるところだろう」
「それが何か関係あるんです?」
「こう言ってはなんだが、リクア共和国に捕虜を引き取ってもらえばよい。共和国としてはクレバイルの陸軍情勢を知るいい機会だ」
「…うまく行くんですかね?」
「まぁ、交渉次第だろうな」
俺は一縷の望みをかけて、リクア共和国へと針路を向ける。
しかし、その間も決して平穏とは言えなかった。
拿捕した1隻が、船団から離脱したのだ。
「あの艦に、船団に戻るよう無線で呼びかけてください」
「いや、あの艦はもう戻ることはないだろう」
トーラス補佐官は達観したように言う。
そして、近くにいた駆逐艦「梅」に命令を飛ばす。
「船団を離脱した艦艇を撃沈せよ」
「えっ?」
その命令を聞いた俺は思わず声を出す。
「梅」は命令を遂行するために、主砲を向ける。
そして砲撃を開始した。
砲弾は艦船に命中し、ものの数発で爆発四散する。
「あぁ…」
俺は唖然とした。
あそこにいた百を超える兵士が一瞬でなくなったのだから。
「どうしてそんなことをしたんですか!」
「どうしてもこうしてもない。命令を聞けないものは相応の処罰を与えなければならない」
「だからって…!」
俺は奥歯を噛み締める。
自分はそこまで割り切れないからだ。
その後、船団のうちの何隻かが自爆、もしくは自沈してしまう。
結果としてリクア共和国に無事到着できたのは6隻、人数にして1200人程度である。
早速、リクア共和国の軍港に入る連合艦隊。
監視と隔離のために、敵船団を港内に停泊させる。
そして「古鷹」は、埠頭に接岸した。
そこにリクア共和国の捕虜を扱う専門機関の担当職員がやってくる。
「どうも。いきなり大層な連絡が入ってくるものだから驚きましたよ」
「急な連絡で申し訳ない」
「問題ないですよ。それで、あれが例の船団ですか?」
担当職員が港内に停泊している船団に視線を移す。
「はい。上陸部隊として陸軍兵士がいます。数は減りましたが、それでもかなりの数の兵士がいます」
「把握しました。とりあえず現状を確認したいので、あの船団まで乗せていってもらえません?」
「別に構いませんが、一人でですか?」
「もちろん護衛はつけますよ」
そういって後ろの方を見る。
そこにはリクア共和国陸軍の兵士の姿があった。
「分かりました。内火艇を出しましょう」
「古鷹」の内火艇を降ろし、そこに職員と陸軍兵士、そして一応俺と連合艦隊司令部数名を乗せて船団へと向かった。
船団の1隻に到着すると、職員と陸軍兵士は舷側に掛けられた網を伝って登っていく。
俺は網を登るのが面倒だったため、飛んで乗り移った。
職員はこの艦の艦長と部隊指揮官と話をする。
俺はその間に、艦上の様子を眺めた。
甲板には、今後のことに不安を抱くものや、楽しく談笑しているものなど、いろいろな人が存在している。
そうこうしているうちに、職員は話を終えたようで、こちらに向かって来る。
「この艦は捕虜となることに関しては了承したそうです。あとで上陸させて捕虜収容所に移送させましょう」
「わかりました」
「では次の艦に移動しましょう。全部の艦長に了承を得ないといけませんからね」
そういって職員はその日のうちに、すべての艦を回る。
幸いにも、すべての艦で捕虜になることを了承した。
ここからはリクア共和国の管轄だ。
職員は捕虜収容所に連絡を取り、移送の準備を進める。
「数日以内には収容所に移送できるでしょう。ここからは我々の仕事です」
「よろしくお願いします」
「任されました。何か有益な情報が出た時は連絡しますね」
こうして連合艦隊はリクア共和国を後にする。
やっとの思いでテラル島に戻ってきた俺を待っていたのは、防衛連盟本部への報告書の作成だった。
俺はその報告書に、クレバイルが上陸部隊を派遣していたこと、護衛の戦列艦を撃破したこと、上陸部隊の艦を拿捕し陸軍兵士を捕虜にしたことを書いた。
それが終わったら、俺はあることを考える。
それは連合艦隊に装備されている水雷兵装だ。
一応水雷のことに関しては以前思案していたのだが、それっきりになっていた。
今回の戦闘において、途中船団が分断して襲ってきた時、砲撃では時間がかかっていた。
もし、この時に魚雷を周辺にばらまいていたら、多少は殲滅までの時間が短縮できていたのではないだろうか。
そこで俺は、テラル島にある主砲の射撃試験場のすぐそばに魚雷発射試験場を建設した。
ここで本格的に魚雷を製作する。
以前検討に入った魚雷に即して内部機構を構築した。
魚雷の弾頭はたっぷりと炸薬を入れ、機関は電気推進のごとく魔術推進方式を採用。この魔術推進方式は、連合艦隊の艦艇に採用されているタ号魔術式可変速主缶機を改良と小型化したものを搭載している。
弾頭は5kmを走行すると自爆するように設定した。
早速完成したものを複製し、試験場に設置した魚雷発射管へ挿入する。
俺は観測塔に登ると、魚雷射出準備はできた。
射線上に船舶がいないことを確認する。
そして魚雷を射撃する。
圧搾空気によって魚雷は発射管から飛び出す。
そのまま魚雷はまっすぐ進んでいく。
「おぉ、いいぞ」
俺はそれを見守る。
わずかに見える航跡を頼りに観察を続けていく。
すると、魚雷は少しづつだが右に曲がっていくのが見える。
「ん?」
双眼鏡を覗いている俺は目を疑った。
今回作成した魚雷はまっすぐ進むように設定しているはずだ。
それなのになぜ曲がっているのだろう。
時間が経つにつれ、曲がる角度は次第に大きくなっていく。
そしてある場所で円運動をするようになってしまった。
「あー…」
そしてそのまま5kmを過ぎたのか、魚雷は自爆の水柱を作り上げる。
俺はしばらく呆然としていた。
原因はなんだったのか、それはわからない。
とにかく残っている魚雷を調べ、その原因を探るほかないだろう。
その夜、連合艦隊本部庁舎の執務室で俺はある書類を眺めていた。
「鹵獲したクレバイル艦艇について…」
それは10ヶ月ほど前に拿捕した帆船「ドロムーア」の調査報告書であった。
俺はその内容を読む。
内容としては、細部は異なるものの、防衛連盟で採用している帆船の構造とほとんど変わらないとあった。
しかし調査をしていると、艦底部に見慣れない装置があったそうだ。
それを細かく調べたところ、どうやら艦を動かすための推進機のような役割を持っていることが判明したらしい。しかも魔術を使っているとのことだ。
「推進機か…」
推進機があれば、帆船なら風がなかったり逆風の時に目的地に最短距離で進むことができるはずだ。
クレバイルは科学技術だけでなく、魔法技術も発達していることが分かる報告である。
「クレバイル製艦艇の性能を上方修正しないとな」
そういいながら夜は更けていく。




