71海里目 船団は見つかる
翌日。
いったん北方まで移動した連合艦隊は、進路を反転してもう一度同じ海域を南方へ向けて移動する。
今度は各艦の距離を広めに取り、より広い範囲を索敵できるようにした。
もちろん古鷹型に装備されている気球も上げ、索敵漏れがないようにする。
「各艦、状況を報告せよ」
俺は前方を行く駆逐艦に連絡を取った。
こうして頻繁に連絡を取り合うことで抜け目のないように心がけている。
「こちら『マツ』、進行方向に艦影なし」
「西方戦闘海域側である右舷方向には何か見えるか?」
「右舷方向何もありません」
そういって各艦に一定時間ごとに報告をするように促す。
もちろん気球のほうにも報告をするように言う。
「観測員、周辺の状況はどうか?」
「こちら『フルタカ』気球観測員。水平線の向こうまで何も見えません」
「『加古』の方はどうだ?」
「こちら『カコ』気球観測員。こちらも敵の船団は見当たりません」
俺は索敵の報告をやきもきしながら聞いていた。
そんな感じで連合艦隊は周囲の警戒をする。
こうして日が落ちようとしていた。
「古鷹」艦橋では、連合艦隊司令部が会議を行う。
「本日も見つかりませんでしたね」
「ここまで来るとクレバイルが本当に来ているかどうかも怪しいな」
「誤報だったかもしれませんね」
「ですが、もしものことはあるはずです。引き続き監視は続けていくべきでしょう」
「しかし司令官。これだけ広大な海域を警戒するのは、やはり無理があると考えます」
「そこなんですよね…」
「一応明日も周辺海域を捜索しながら南下していくことにしよう」
こうして夜になっても捜索は続けられる。
ちなみに夜間における気球の飛行は、暗闇における安全の確保ができないという観点から実施は取りやめになった。
そのため、艦橋や見張り台、レーダーに頼った捜索に移行する。
月明りの中、連合艦隊は水平線の向こうを監視し続けた。
昼間と違って明かりがまったくないような状態である。
そんな中、監視員たちは双眼鏡を使って目を皿のようにして捜索していく。
しかし、その努力むなしく、敵を見つけることは叶わなかった。
俺は休憩のために艦長室で睡眠をとっていた。
時間は朝方。
まだ寝ている俺のもとに隊員がやってくる。
「司令官、お休みのところ失礼します」
「んん?何かあった?」
「はい、5分ほど前に西方戦闘海域方面から正体不明の船団が接近してきていることが確認されました」
「それは本当ですか!?」
「はい。現在、気球を上げる準備をしており、作業が完了次第観測を行ってもらう予定です」
「わかりました。自分もすぐに上がります」
俺はすぐに着替え、艦橋に上がる。
艦橋では若干がならピリピリとした空気が漂っていた。
「状況は?」
「本艦隊より2時半方向、距離は約25kmといった所だな」
「全艦、魚鱗陣形から単縦陣へ移行。対水上警戒を厳となせ」
駆逐艦から順番に陣形を変更して行く。
訓練が足りないせいなのか、陣形を変更するときにもたつきが見られた。
数十分かけて陣形を変えた連合艦隊は、目標の船団に対して警戒する。
やがて船団はゆっくりと距離を縮めてきた。
俺は気球の観測員に連絡をとる。
「観測員、船団の様子はどうだ?」
「はい。船団の針路そのまま、こちらにまっすぐ向かってきます」
ここで俺は今後の方針をどうするか考える。
このまま通り過ぎるのを待つのも考えたが、これがもしクレバイルの艦隊であるならば出る影響は大きいものだ。
そこで連合艦隊に指示を出す。
「方位260に針路を転進、反航戦に持ち込む」
「反航戦だと?」
トーラス補佐官と参謀が反応する。
「このまま遠方から監視するのでは何か発生した時に対応が遅れる可能性があります。それを防ぐために、まずはこちらから仕掛ける必要だと考えます」
「確かにそうかもしれないが……」
「遠方から一方的に砲撃できるというのが本艦隊の利点でしょう。それを自ら放棄するのはいささか矛盾が生じると考えます」
参謀は反論する。
確かにそうかも知れないが、それには少し距離がある。確実性を求めるなら近づかないとダメだろう。
トーラス補佐官は少し考える。
「わかった。針路を変えよう」
「ジンブルグ大佐」
「司令官には何か考えがあるはずだ。今はそれに従おう」
「よし。面舵、方位260」
「おもーかーじ、方位260」
先頭を行く「松」から順番に進行方向を右に向ける。
全艦が回頭を終えると、反航戦に向けて針路の調整をした。
ちょうど艦隊の右舷を通過するような感じだ。
十数分後、船団と交差しようとする。
俺は双眼鏡を覗き、船団の様子を観察した。
船団は大型の帆船で構成されており、その数は30近くにも上る。
船団に掲げられている旗を確認すると、それはまさにクレバイルを表す旗であった。
「クレバイルであることを確認した。全艦、右砲戦用意」
「主砲旋回、右砲戦よーい!目標、不明船団!」
「右砲戦60度、旋回急げ!」
連合艦隊は主砲を旋回し、敵船団に向ける。
主砲の旋回が終わり、砲身に砲弾と火薬が装填された。
「全艦、射撃準備完了」
「了解」
俺は部下からの報告を受け、一息ついた。
「全艦、照準を先頭の艦艇へ。攻撃開始」
「全艦、射撃用意!撃ち方始め!」
「うちーかたーはじめ、てー!」
連合艦隊は敵船団に射撃を開始する。
発射された砲弾は放物線を描き、船団の上から落下した。
初弾の命中はなし。近弾で目標艦艇の後方に弾着した。
「誤差修正、右よせ2、高め1、撃て」
直ちに第二射が行われる。
今度は夾叉になった。
この調子で第三射を行う。
すると、この射撃で命中弾が出る。
そのまま数回射撃をすると、先頭を走っていた帆船は速力を失い、少しづつ傾き始めた。
そしてだいぶ傾いたところで、大爆発を起こす。
直後、船団の外周にいた帆船たちが一斉に連合艦隊のほうに向けて針路を変更した。
一方で、船団の中心にいた帆船は針路を変えずに直進している。
「船団、二つに分断しました!」
「まずはこちらに向かってくる艦艇を狙え」
「了解」
すでに連合艦隊と船団は通過気味である。
そのタイミングで船団の半分がこちらに向かってきたのだ。
このまま進めば、連合艦隊は船団に対して丁字有利になる。
俺はそのチャンスを逃さない。
「先頭の艦に集中砲火だ」
「了解。目標、先頭に再照準」
砲を旋回させ、先頭を行く艦に照準を定める。
そして斉射した。
前方方向から集中砲火を食らった艦は、命中弾によって船体が崩壊する。
次の目標に変えて、砲撃をした。
この砲撃で、次に照準をした艦も轟沈する。
この時点で、敵の船団は連合艦隊の最後尾あたりに向かって航行していた。
このままでは砲を向けるのが難しくなるだろう。
「艦隊、面舵。船団に対して側面を向けるようにしろ」
「了解。面舵15度、宜候」
連合艦隊が右に舵を切る。
それによって連合艦隊は再び反航戦の状態に戻す。
「各艦、照準を定め次第撃て」
俺の命令によって、連合艦隊は各個砲撃を開始する。
距離5km程度のところで一方的な攻撃が行われていた。
「なんか反撃してこないですね」
俺はトーラス補佐官に思ったことを言ってみる。
「そうだな、何か変な感覚だ」
「指揮系統が混乱している、とかあり得ませんよねぇ」
「確かに先頭の艦を沈めたから、可能性としては無きにしも非ずといった所だろう。だがそれなら直後に艦艇が一斉に転進したのは説明がつかないな」
「…とにかく全部沈めましょうか」
連合艦隊はゆるく旋回しながら砲撃を続ける。
すでに敵の船団はこちらの動きに追従できずに翻弄されていた。
こうして1隻、また1隻と敵艦が沈んでいく。
すべての艦艇が沈んだのは、接敵してから1時間以上たったころだった。
「気球観測員、敵艦の様子はどうだ?」
「こちら『フルタカ』観測員、すべての敵艦の沈没を確認。生存者はここからでは確認できません」
「了解。連合艦隊は当海域を離脱後、途中分断した船団を追いかける」
連合艦隊は針路を防衛連盟方面へと向け、残りの船団の捜索にあたる。
幸いにして、連合艦隊司令部の航海士が船団の針路を記録しており、それに帆船の動力源である風がほとんどないことから、船団は簡単に見つけることができた。
その船団の様子を見て、俺は気づく。
「大砲が載ってない?」
そう、本来なら船体側面に並べられている大砲が一切ないのだ。
それを不審に思った俺は、船団の1隻に対して白兵戦を仕掛けることにした。
トーラス補佐官から反対されたものの、この船団の正体について知りたいという気持ちがあったことから、最終的に許可してくれた。
早速、船団の1隻へ飛んで乗り込む。
そこにいたのは、たくさんの兵士の姿であった。
しかも水兵のようなものではなく、陸軍所属の兵士である。
俺は艦橋のある方へ駆け、すぐさま制圧した。
そして他の艦にも連絡して降伏するように指示する。
こうして船団は拿捕扱いとなり、身柄を拘束されることになった。




