4海里目 ヘソが曲がってる
太陽が水平線に隠れそうになる頃には、子供達は帰っていった。
「それじゃ、帰ろうか」
三人で暗くなりかける道を進んでく。そして、完全に暗くなる前に家に戻る事が出来た。
家に入るとアスナさんが夕食の準備をして、待っていてくれた。
「さっ、ごはんにしちゃうから、皆座って座って」
と言われて座ったものの、なんと言うか、いわゆる『虫の居所が悪い』状態の空気が流れている。答えは単純、俺の右隣にサラが座っているからである。リフレットさんが、奥の席に座ったから、俺は下座にあたる扉に近い席を選んだ。そしたら、前の席にカイ君が、カイ君の左隣にアスナさんが座った。少し遅れてきた彼女は、俺の右隣に座るしかないのである。
「じゃあ、頂くとしよう」
リフレットさんが言ってから、皆で食べ始める。
今晩のメニューは、パンと野菜スープだ。島で採れた物を使っていると言う。パンとスープを一緒に食べると、結構満足出来る…んだけど、やっぱり空気が重い。いや、ちゃんとアスナさんやリフレットさんと会話はしますよ。ただ、視界の隅にマンガのような『黒いオーラ』がチラチラ見えるだけなんです…。
そんなこんなで食事が終わり、アスナさんと食器の片付けをして、火を灯したロウソクを燭台に乗せ、部屋に戻った。
俺が使う部屋は、あの『知らない天井』の部屋だ。あの部屋は北側に面していて、かつ荷物置き場として使っていたらしいが、もともと荷物自体が少なく、俺が使ったベットや置いてあった机ぐらいしかなかったそうな。
ちなみに、一番奥の部屋が俺の部屋で、その手前がサラの部屋、そのまた手前で階段に近い部屋がカイ君の部屋だそうだ。
そして、俺は今、サラの部屋の前にいる。その理由は、今日の帰り道にあった―――――。
『綺麗な夕焼けですね』
『そうだろう、島の周りには遮る物が一つも無いからね』
『俺、リフレットさんに助けて貰って本当に感謝してます』
『それは俺じゃなくてサラに言うべきだね』
『…え?』
『…あ、言うの忘れてた』
話をまとめると、リフレットさんとサラ、カイ君がそれぞれのDPと大空を舞っていたら、俺が転生して、たまたまサラとDPのイルの頭上に現れた。そして俺は、サラとぶつかってイルと一緒に落下した…らしい。地面にぶつかる前に姿勢を戻せたから良かったものの、結構危なかったという。
俺はこの話を聞いて、少し驚くと同時に、サラに申し訳ない事をしてしまったと思った。いくら自分が気絶していたといえど、危険な状態にあったのだから。せめて何か一言くらい言わなければ。
俺は意を決してドアをノックする。
…。
へんじがない…
ただの(以下省略)
心を落ち着かせる。そのままドア越しにいるはずのサラに話しかける。
「あ、えーっと、駆だけど…、悪いね、こんな夜遅くに…。あの、なんか今日、危ない目に合わせちゃったみたいで、本当にごめんな。でも助けてくれてありがとう。結果的には二人とも助かったんだし。あいや別に死ねとか、そう言う事を言ってるんじゃなくて、あっと…、その、本当にごめん。でも、すごく感謝してるから。…じゃあ、おやすみ」
言い終わった俺は部屋に戻り、ベッドに横になって…
絶望した。
(なんだよあのセリフ、マジでどうかしてんだろぉ俺ぇ…。いくら高校で女子と喋らなかったからって…、酷い、酷すぎるぞ、印象上げようとしたのに寧ろ下げちまったぁぁぁ…)
ただ、いつまでも落ち込んでいる訳にもいかない。
俺がやらなくてはいけない事、それは机の上に置かれているノートの事だ。
このノートは、冒険者の流浪者と名乗る『北川 登』さんが遺したと思われる物で、『日記』と『情報』に分けて書かれている。『日記』の方を見てみると、日付が「帝暦2000年」となっているあたり、俺とは違う地球から来た事が伺える。『情報』の方はまだ目を通していない。まあ、それは明日やるとして、今日はもう寝よう。
ロウソクの火を消すと、部屋は真っ暗に。
木窓を開けているので、涼しい空気と虫の声が部屋を満たしていた。