66海里目 行動は大胆
さらに翌日。それは防衛連盟本部のダリ中佐の元を訪れていた。
その理由は単純である。
「今後クレバイルの反攻作戦は連合艦隊が指揮権を持つので、以降大型艦艇の一切の建造を中止してください。」
大胆なロビー活動である。
「これまた非常識な要求をしてきたものだな…」
「確かにそうかもしれないですけど、これはキチンとした理由がありましてね…」
「まぁ、一応聞いておこう」
「現在、我が連合艦隊の戦力は駆逐艦と軽巡洋艦を合わせた6隻と多少の小銃といったところでしょうか。これではクレバイルどころか防衛連盟軍の戦力に打ち勝つことすらままならないはずです。そのため、連合艦隊の海上戦力を拡充させるために、防衛連盟の大型艦艇の建造を中止していただきたいのです」
「ふむ、まぁ現状でも連合艦隊の戦力は防衛連盟の一個中艦隊に匹敵するからな」
「なので防衛連盟より連合艦隊の艦艇を充実したほうがいいと考えています」
そこまで言うと、ダリ中佐は少し考える素振りを見せる。
「そうなると、防衛連盟の戦力はどうするつもりだね?」
「防衛連盟の海上戦力は一切使いません。その代わり、陸上戦力は丸ごと招集するつもりです」
「なるほど、連合艦隊は海上戦力に集中したいというわけだな」
「そうです。その対価といってはなんですが、技術の供与などは行っていくつもりです」
ダリ中佐はさらに頭を抱える。
「今言ったことをまとめるならば、防衛連盟は陸上戦力を拡充する代わりに、大型艦艇の建造を中止してそれを連合艦隊の艦艇建造に回せというのだな」
「そういうことになります」
「うぅむ。これまた難しいことを要求してくるな…」
「お願いします」
「…分かった、上層部に掛け合ってみることにしよう。それで許可が出たらの話だがな」
「ありがとうございます」
数日後、その上層部から正式に命令が下り、俺の要求通りになった。
これにより、防衛連盟軍の大型艦艇は現在建造しているものを除いて中断となり、連合艦隊の艦艇を建造することが決まったのだ。
このことにダリ中佐は、上層部の迅速で大胆な判断に困惑している様子だった。
というわけで、早速ホルトンさんのところの造船所に向かう。
「…このような経緯があったことを報告しておきます」
「…いや、まさか本当にこんなことをしてしまうとは思わなかったよ。こりゃ脱帽だな」
ホルトンさんは頭に手をやる。こんな大規模な事業はほかに例がないからな。
「それで、実際にどんなことをするんだ?」
「内容としては艦の建造です。少し細かく説明するならば、こちらの設計図を元に用意された部品や主砲などの設置を一任するといったものです」
「つまり、我々は艦の竜骨設置から羅針盤の設置までを行えというのだな?」
「そういうことです」
ここでホルトンさんは少し悩む様子を見せる。
「それだけの物を作るとなると、技術も資源も余裕がないな…」
「大丈夫ですよ。最初のうちは失敗してもなんら問題はありません。何回か試行錯誤していくうちに立派なものを建造してくれるなら大丈夫です」
「そうか…」
「それに、最初の間は自分が一緒になって建造を手伝いますから」
「…分かった、とりあえず社長にも確認する」
そういってホルトンさんは事務室を出る。
しばらくした後、ホルトンさんは誰かを連れてきて戻ってきた。
「どうもどうも、私がこの造船所の社長です。以後お見知りおきを」
「はぁ」
「概要はそこのホルトンから聞きましたよぉ。いやぁ、うちとしてもありがたい限りですわぁ、いくらでも使ってください」
「そ、それはどうも…」
そういって社長はスッと近づいてくる。
「ほんで、いくらで契約してくれるんです?」
この社長、痛いところを突いてくるようだ。
そんな感じで連合艦隊の艦艇量産計画は始動するのだった。
まず始めに、ホルトンさんのところの造船所で駆逐艦の建造を手伝う。
それ以前に必要な設備があれば一から作り上げ、それを使って駆逐艦の建造をしていく。
今回作っているのは旧日本海軍で最も作られた艦である松型駆逐艦である。とはいっても、データから考察される艦影を模しているから、微妙な部分で違っていたりする。
そんな状態でも、着々と建造は進んでいく。
こうしてわずか数か月という時間をかけて、松型駆逐艦1番艦「松」が竣工することになった。
「いやぁ時間かかりましたが、何とか形になってくれましたなぁ」
「いえいえ、これでもものすごい早いほうですよ」
そんなことを言ってはいるが、正直「松」は実戦に出せるものではなかった。ただそこに浮かんでいるだけなのに、ちょっとだけ傾いていたりする始末だ。
まぁ初めて作るものにしてはこんなものだろう。それはそれで置いておくとする。
問題はこれからだ。この技術を他の造船所と共有しなければならないのだからな。
ここで俺は一つの提案をする。
「ここの技術者を他の造船所に派遣して全体の生産能力を向上させます」
「これまた大胆なことをするな」
トーラス補佐官は文句を呟くような感じで言う。
「それで?派遣して駆逐艦を量産するとしても、その代金は誰が支払うんだ?」
そう、物には価値が存在する。当然、民間に委託して建造したのなら、それなりに建造費はかかるだろう。
「実はここにちょっとした秘密がありまして…」
「なんだ、秘密とは?」
「俺があの造船所に作った設備などがありますよね?」
「確か建造用のドックやらクレーンやらを作っていたな」
「実はそれらの販売や設置費用分を駆逐艦の建造費分に立て替えてもらったんですよ。つまり駆逐艦の建造費から設備の諸経費を差し引いて、実質6割程度の費用で建造してもらえることになったんです」
「…そうか」
トーラス補佐官が若干引いている。なんでだろう。
「とにかく、これと同じようなことを他の造船所で行えば、比較的格安で引き受けてくれそうでしょう?」
「…まぁ、そうだな」
「あとは松型駆逐艦をどこまで量産するかというのと、他の艦型はどうするかという問題だけですね」
最悪、松型駆逐艦は全て防衛連盟軍の管轄にして、哨戒任務に就かせるのもありかもしれないな。
こうして、俺の指示の元、防衛連盟の大胆な建造改革は進んでいくことになるのだった。




