60海里目 考察する予言
「ドロムーア」を鹵獲してから数日後。
俺は引っ越ししたばかりの本庁舎の執務室で資料の整理をしていた。
「いやー、新築はいいねぇ。気分がすっきりする」
さて、続きをしよう。前回は敵艦隊がやってきて途中だったからな。
えっと「龍田」の建造だったな。これは「天龍」のコピーで大丈夫だろう。
早速、造船用船台に向かい建造を開始する。
まずは竜骨を設置し、船体を構築する。そこから主缶機を設置し、甲板を張り、上部構造を建造する。
もうここまで来れば、建造は手慣れたものだ。
ものの一週間程度で「龍田」は建造された。
公試は「天龍」のメンバーに任せるとして、俺はここで別の仕事に移る。
防衛連盟本部に対する予算増額の申請だ。
以前予算の申請した時に担当してくれた人に再び交渉に迫る。
「お久しぶりですね」
「えぇ、本当です。本日はどのような用件で?」
「単純な話です。予算ください」
「またですか」
「今回は正当な理由込みですよ。捕虜を捕らえたので、彼らの生活を確保するために予算を申請するんです」
「まぁ、それくらいならいいでしょうね」
「具体的にどのくらいとかってのは?」
「そうですねぇ、だいたい合計で5万CUといったところですかね」
こんな感じで交渉をした。しかしあれだけの人数を5万CUで養えって、ちょっと無茶じゃないかな?
そんな生活が一週間ほど続いたある日。
執務室にトーラス補佐官が入って来るやいなや、こう言い放った。
「カケル司令。申し訳ないが、今すぐ正装に着替えてくれ」
「何ですか、いきなり」
「実はだな、ヒルノ海上国家にいるロメイラル自治国の国家名誉指導者、アドラス・フォン・シュルツ氏が亡くなられた」
「…誰ですって?」
「まぁ、司令が知らなくても仕方ないか。簡単に言えば、ロメイラル自治国建国の父と呼ばれたフィーン・フォン・シュルツ氏の孫で、未来を予知する予言者でもあった御方だ」
「それが、なんで自分と関係があるんです?」
「一応連合艦隊の指揮官であるからだろう。だがそれだけではない」
「というと?」
「どうやら電文によると、アドラス・フォン・シュルツ氏は連合艦隊に対する予言を遺していたらしい。その予言をカケル司令直々に受け取ってほしいと関係者からの要請があった」
「…なるほど。それが本当なら行くしかないですね」
「あぁ。ぜひそうしてくれ」
俺はすぐに正装に着替え、「深雪」を出港させる。
そのまま近くの港に接岸させると、トーラス補佐官を連れて飛んで行った。
トーラス補佐官にとっては初めて空を飛ぶようで、だいぶ変な声をあげていた。
そして到着したのは、ヒルノ海上国家の東部にあるレイノル市である。古き良き街並みを残す街だ。
そんな街の一角に、群衆がいるのが見えた。ほとんどの人が黒色の服に身を包んでいることから、おそらくシュルツ氏の葬儀に関係しているだろう。
適当な所で地面に降りると、そのまま人混みに紛れるように進む。
様子を見てみると、道の真ん中は、シュルツ氏の遺体が入っていると思われる棺が、列を作ってゆっくりと歩んでいた。
俺は進行方向に先回りするように移動する。
するとそこには、教会のような建物があり、関係者と思われる人々がいた。
「あのエンライト教会がアドラス・フォン・シュルツ氏の遺体が埋葬される場所だ。集合もここになっている」
「とりあえず中に入りましょう」
そういって教会に入ろうとする。
だがそれは入口にいた警備員によって阻まれた。
「こら、ここは部外者は立ち入り禁止だ」
「すまない。私たちは防衛連盟の独立統合戦術機動部隊の者だ。アドラス・フォン・シュルツ氏に呼び出されている」
「あぁ、連合艦隊の人でしたか。どうぞ入ってください」
そのまま教会の中に通される。
中に入り、しばらく待っていると、奥から一人の男性がやってきた。
「お待ちしていました。私はアドラスの息子のリューン・フォン・シュルツです。父からは経緯を聞いています」
「ならば話が早い。早速本題に入ってくれ」
「分かりました」
リューン・フォン・シュルツ氏は、胸ポケットに入れていた紙を取り出した。
「父が遺した言葉ですが、『ヤーピンの向こう側、アルトゥルの島に向かえ。それは進むべき道となる』とのことです」
「…どういうことですかね?」
「さぁ…?」
俺とトーラス補佐官はお互いに顔を合わせ、頭に疑問が上る。
「そういえば、アルトゥルと言えばアルトゥル教の島があると聞いたことがある」
「そうなんですか」
「あぁ。信者の数が極端に少ないからマイナーな宗教とも言えるんだが、それゆえに総本山がどこにあるのかは不明な団体だ」
「そんなものが世界にあるというんですか?」
「予言によれば、ヤーピン皇国の向こう側ということになる。これが何を意味するかによってその場所が分かるというものだろう」
「うーん…。情報が少なすぎますね」
俺たちはうなってしまう。
「それはともかく、資料探しはヤーピン皇国に依頼するしかないだろう」
「え?どうしてです?」
「かの国には、世界最大規模の書籍を保存する施設が存在している。資料探しには持ってこいの場所だ」
「へぇ、そうなんですか」
「とにかく、その予言は預かろう」
「分かりました。どうぞ」
「では戻ろう、カケル司令よ」
「はい」
「あっ、最後に一つだけ」
「はい、なんでしょう?」
「我々シュルツ家は連合艦隊のことを応援しようと思います。何か困りごとがあれば、レイノル市までお越しください」
「えぇ、ありがとうございます」
俺たちはレイノル市を出て、テラル島に戻る。
戻ってきた俺たちは、早速予言の内容を理解しようとする。
「一体これはどういう意味なんだろうな」
「ヤーピンの向こう側がどこを意味してるんでしょう…」
残念なことに、二人して頭を悩ませてしまう。
「やっぱり重要なのは、この向こう側なんでしょうけど、どこから見て向こう側なのかがはっきりしてくれないと…」
「どこから見ての向こう側なんだ?」
「…ヒルノ海上国家から見て向こう側か?」
「…なるほど、そうか」
トーラス補佐官は地図を持ち出してくると、それを机の上に広げる。
「ヒルノ海上国家からみるとヤーピン皇国は南方にある。それの向こう側というのはヤーピン皇国を超えた先にあるということだろう。となると…」
トーラス補佐官は地図を指でなぞり、その先を指し示す。
「おそらくこのあたりだ。詳しいことは調査してからだろうな」
「では早速ヤーピン皇国に調査を依頼しましょうか」
「そうだな」
次第に事が進んでいく。




