59海里目 行われる尋問
「ドロムーア」を曳航しながらテラル島に戻ると、島周辺には防衛連盟関係の船が待機していた。
おそらく戦闘終了したときに連絡していた関係者が来たのだろう。拿捕した艦なんて十数年ぶりなんだから。
「良くやった。我々の勝利は一歩近づいた」
担当の少将が言う。
早速、「ドロムーア」をテラル島の埠頭に接岸させる。
すぐさま臨検に回すためだ。この臨検には防衛連盟の担当者も一緒になって行う。
しかしその前にやることがある。「ドロムーア」に乗艦していた兵士たちを捕虜にする作業だ。全員を収容できる留置所を建設する必要がある。
「しかし1隻丸ごとの搭乗員を捕虜にするとは、カケル司令のやることは違うな」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてないぞ」
そんなことを言われつつも、さっさと作業に入る。
留置所は今度引っ越しをしようとしている本庁舎の横に作ることにした。とりあえず人目のあるところに置いておきたい。
ものの数十分でプレハブ小屋風留置所が完成した。
そこに捕虜となった敵兵士を幽閉させる。
「そういえば、この世界では捕虜の扱いってどうなっているんですか?」
「捕虜の扱いか?そうだな、ざっくり言えば人道的に扱えとしか言いようがないな」
「そっすか」
それならハーグ陸戦条約を適用しても問題なさそうだ。それに防衛連盟に臨時予算の請求のネタにも使える。
とにかく、捕虜を留置所に収容したら「ドロムーア」の臨検を行う。
「それでは、これより『ドロムーア』の臨検を開始する」
担当の作業員と、連合艦隊の技術研究班のミラたち、そして連合艦隊司令部の面々が揃っていた。
まずは外見から見て回る。
「ふむ、やはり外面に装甲を貼っているようだな」
「これだけの厚みじゃ、なかなか装甲を破るのは困難のようだ」
こんなことを言いながらいろいろを記録を取っていく。
次は中に入って状況を確認する。
「なるほど、甲板はこのようになっていたのだな」
「これは今後の艦建造に役に立ちそうだ」
次は中甲板にある主砲の確認だ。ある意味これが一番不明なものだったりする。
「クレバイルの主砲はこのようになってたのか」
「これはまた後で詳しく解析する必要がありそうだ」
その主砲の有様は、技術研究班のミラたちにも目を見張るものがあったようだ。
「これ見てください。従来のやり方では出来てしまうような線がありませんよ!」
「本当だ…」
「一体どうやって製造したんだ?」
こちらはこちらで興奮しているようだった。
そんな感じで臨検を行うこと約2時間。艦の簡易的な調査が終了した。
今回の臨検で分かったことがいくつかある。
まず外部装甲が青銅で出来ていたことだ。砲金とも呼ばれたくらいだから、使い勝手が良かったのだろう。
一方で主砲自体は鉄鋼製であった。これは鋳鉄で製造できる工業製品であることを示す指標になる。それだけ技術力を持ち合わせていることになるだろう。
そしてこれは個人的な興味だが、艦内には自爆装置と思われる火薬の包みがいくつも設置されていた。これが艦の中央部に1列、さらに側面に何個か配置されていた。ここまで徹底的にするのには何かわけがあるのだろう。
一応こんなところか。
「では、この艦は我々防衛連盟のほうで預かりますので、日時が決定したら通知しますので」
「分かりました。よろしくお願いします」
こうして防衛連盟の関係者は帰っていった。
「さて、次の仕事だ」
もうすぐで夕方だが、次の場所に移る。
新設した留置所だ。
これから、何人かの敵兵に尋問する。
まずは一人目を尋問室に連れていく。尋問室には俺のほかにジェイル大尉と保安要員の隊員がいた。
「さて、これから尋問を始めます。まずは名前と階級を」
「アテラン・ガーファ、1等水兵だ」
「所属は?」
「バンイ帝国海軍第33外洋遠征艦隊」
「担当の役職とかは?」
「12番主砲の主砲長だ」
「よし、ガーファ。君のことは捕虜として人道的に扱う。いいかな」
「あぁ」
「よし、では知っていることを全部話してもらおうかな」
俺は、彼が話す内容を逐一聞いていた。
その後、尋問した内容を審査したが、内容はおおむね正解だと意見が一致する。ただし、有力な情報は得られずにいた。
「これは相手を選ばないといけなさそうですね」
「そうだな。艦長あたりはどうだろうか」
「そうですね。ガーファさんに聞いてみましょう」
彼に艦長が誰か聞いてみたところ、すぐに判明した。
すぐさま尋問室に艦長を連行し、話を聞く。
「名前と階級を教えてください」
「…トラント・ロッド」
「所属はバンイ帝国海軍第33外洋遠征艦隊で合ってますか?」
「あぁ…」
「一応役職も聞いておきましょうか」
「『ドロムーア』の艦長だ…」
「では知っていることを洗いざらい吐いてもらいましょう」
「知っていることとは…?」
「知っていることです。クレバイルの目的や今後の作戦の予定など、全部です」
「…分からない。何も分からない…」
「はい?」
「分からないんだ。なぜあんなに勝つことに執着していたのか…」
「どういうことですか?」
「我々は勝つことに囚われていた。勝つことには変わりないのだが、なぜ勝たなければならないのか分からないのだ…」
「それはつまり、戦略がないということですか?」
「そう、なのかも知れない」
ロッド艦長のいうことは、いまいち要領を得なかった。
その後、様々な話を聞き、この日は留置所に戻す。
夜になって、ロッド艦長の話を審査するために、関係者は司令執務室に集まっていた。
「…ロッド艦長の言い分によれば、クレバイルの戦略は大雑把であるとしか言いようがない」
「聞かされていることと言えば、バンイ帝国からリクア共和国に対して侵攻することだけ。指揮系統の関係上、間違ってはいない対応でしょうね」
「だがヒルノ海上国家まで侵攻してきて、その目的や意義を伝えないのはいささか考えにくい」
「となると、ロッド艦長の言っていることは間違っているということでしょうか?」
「いや、間違いということではないだろう。おそらくロッド艦長の言っていることは正しい。本当に目的などは聞かされていなかったはずだ」
「ではなぜロッド艦長はあのようなことを口走ったのでしょう?」
「…あの反応、なにかしらの洗脳を受けていたとも考えられる」
「洗脳ですか?それは突飛すぎるの考えでは?」
「…うむ、少し言い過ぎたかもしれない。だが、それに準ずる行為を受けた可能性は否定出来ないだろう」
「わざわざ一介の艦長にそんなことしますかね?ガーファ1等水兵なら、集団で受けたとかなら分かりますけど…」
「そもそも洗脳したという証拠が残っていません」
「そこが引っかかるな」
「とにかくこの件は防衛連盟本部に上げましょう。今は判断を仰ぐしかないですから」
こうしてこの日は解散となった。
俺は、一人執務室に残ってロッド艦長の尋問内容を振り返っていた。
「うーん…。何か引っかかるんだよなぁ…」
ロッド艦長の言い分には、バンイ帝国での生活や軍の様子などを含んでいる。その内容自体にはなんら問題はない。
だが、それぞれの時間系列に微妙な隙間が存在しているのだ。
俺はこの隙間に違和感を覚えていた。
「この隙間はなんなんだろう?」
だが、いくら捻っても分からない。
ならば、ここはあり得ない仮説を立ててみるのが一番だ。
「敵には流浪者がいて、その洗脳を受けている」
こういったものの、以外としっくりくるな。
「本当にありえるかもしれないな、これは」
そんなことを呟きながら、夜は更けていく。
『物語を1.3倍くらい楽しむための豆知識コーナー』
戦列艦「ドロムーア」
主砲50門 全長74m
艦長:トラント・ロッド




