58海里目 ハロンディック海防衛戦
「天龍」の建造から早1ヶ月とちょっと。
そろそろ次の艦艇である「龍田」の建造も進めようかなと思っていた時だった。
「司令、クレバイルの襲撃だ」
「本当ですか?」
トーラス補佐官が慌てたように執務室に入ってくる。
「いつも通り、リクア共和国が対応中ですか?」
「そうなんだが、いつもと事情が違う」
「…どういうことですか?」
「リクア共和国が対応しているのは確かなのだが、どうもヤーピン皇国との国境付近を航行してきているようだ。そのため発見が大幅に遅れたらしい。現在ヒルノ海上国家に向けて侵攻中とのことだ」
「それじゃあ…」
「あぁ、実戦だ」
一気に空気が変わった。今までとは異なる、重くピリピリとした感じだ。
そこからはバタバタとしていた。サイレンがテラル島を覆いつくすようにけたたましく鳴り響き、それに呼応するかのように隊員があちこちを往来する。
誰もが初めての経験故、思うようにいかないところもあるだろう。しかし、全員が全力で尽くさなければならない時でもあるのだ。
こうしてすべての準備が整ったのは、最初に警報を鳴らしてから1時間後であった。
「敵はヒルノ海上国家の南西方向から進軍中です。よって我々連合艦隊はヒルノ海上国家国境付近まで移動し、そこで侵攻するクレバイルを迎え撃つとのことです」
「ジェイル大尉、今回の敵の総数はわかりますか?」
「少なくとも10隻とのことです」
「了解。では連合艦隊出航しましょう」
艦隊司令部が入る「天龍」から、俺の声が響く。それと同時に、埠頭に係留していた縄を解く。
連合艦隊、初の軍事行動である。
とはいっても、現場に着くまでには数時間はかかる。その間、艦隊の指揮や艦隊運動について確認を行う。
こうして朝方出発した連合艦隊は、昼を過ぎたころにヒルノ海上国家国境に到着した。
「しかし海上に国境があると、どこからどこまでが主権になるのか分からないな」
「仕方ないことだ。緊急時の場合は国境なんて無視されやすいものでもあるしな」
俺のつぶやいた言葉に、トーラス補佐官が解説を入れる。
まぁ、確かに明確な基準があったとしても、揺れる海上では意味をなさない。致し方ないことなのだろう。
その時、俺の頭の中であることが疑問に浮かぶ。
「…なんでクレバイルはここまで来れたんだ?」
そう、どうしてここまでクレバイルが来れたのかということである。防衛連盟領域内は常に監視の目が行き届いているはずである。もちろん、監視が行き届かない場所も出てくるだろう。だが、その場所を奇跡的に当てるというのは無理といってもいいだろう。
つまり、偶然にしては出来すぎている。
「もしかすると…」
そこまで考えたが、下士官の報告によって妨げられた。
「左舷にクレバイルの艦隊を発見!数、14!」
「砲戦用意!」
艦隊に緊張が走る。
「距離は?」
「およそ15km!」
「まだ射程外だ。十分引き付けてから射撃せよ」
「了解!」
方角からすると南南西の方だ。どうやら敵艦隊はまっすぐこちらに向かってきているようである。
その距離が10kmほどまで縮まった所まで来た。
「全艦、撃ち方始め」
「てーっ!」
旗艦の「天龍」とその後ろにいた吹雪型4隻が射撃を開始する。
砲弾はまっすぐ敵艦隊へと飛んでいき、周辺に大きな水柱を作り上げた。
「初弾命中なし!」
「想定の範囲内だ。続けて撃て」
こうして何度も射撃を行う。だが、敵艦隊は臆することなくまっすぐ突っ込んできていた。
「敵艦、まっすぐ来ます」
「カケル司令、こちらの射線も切れそうだ。舵を切ったほうがよさそうだ」
「そうですね…。取り舵10度、敵の左側に出るぞ」
「了解」
連合艦隊は左に舵を切り、敵艦隊と反航戦になるように進路を転換する。変わらず射撃を続けているものの、一向に命中する気配はない。
「こうも当たらないのはじれったいな」
「それがこの船での戦い方ですよ」
「それは理解しているのだが…」
そんなことを言っている間にも、敵艦隊は方向を転換してこちらに向かってくる。
次第に距離が縮まってくると、敵艦隊も射撃を開始してきた。
「敵も砲撃を開始したようだ」
トーラス補佐官が双眼鏡を覗きながら言う。
確かに、敵との距離は5kmになりそうな程であった。そろそろこちらも命中が出てもおかしくはない頃合いだろう。
そんなことを思っていると、敵艦隊の1隻が艦隊から外れる。どうやら航行に支障をきたしているようだった。
「よし。各艦、あの敵艦に向けて射撃せよ」
「目標変更、了解」
出遅れた敵艦は、ちょうど反航戦が終わりかけていたところであった。
そんな中で分かりやすい目標が存在するのならば、そこに定めるのが常というものだ。
目標に対して、連合艦隊全艦から砲撃が行われる。簡単に命中弾が出てき、ものの10分程度で敵艦は沈んだ。
「残りの敵は13か」
「取り舵、今度は敵の後方から右側に出る」
「了解、とーりかーじ」
連合艦隊は、敵艦隊の何倍も早く動くことでこの無茶な艦隊運動を可能にしている。
連合艦隊が敵艦隊の後方を動いている間に2隻を撃沈することに成功した。
そんな感じで敵艦隊の右側に出ようとした。だが、そこで敵艦隊に動きがみられる。
敵から見て、右に舵を切ったのだ。その右方向とはすなわち連合艦隊の航行する方向である。
「あっ、やば…」
俺は思わずつぶやいた。このままでは敵と交差してしまうことが確実であるからだ。
「面舵!面舵いっぱい!このままじゃ敵艦に突っ込むぞ!」
「面舵いっぱい!」
とにかく細かいことを抜きにして、今行うべきことを命令する。
このまま敵の真ん中に突っ込んでしまえば、袋叩きいされることは間違いないだろう。そうなることだけは絶対に避けなければならない。とにかく右に舵を切る他なかった。
急に舵を切ったことで、艦が左側に傾く。波に当たることで起きる揺れが合わさって、足元がだいぶおぼつかない。
早めに舵を切ったおかげで、何とか最悪の事態は避けることができた。だが、同時に距離も縮まってしまった。
すると、これ見よがしに敵艦から火が吹き出す。
「くっ、反撃せよ!」
こちらも負けじと主砲を撃つ。
ここからは本来の砲撃戦である。数で押すクレバイルか、精度で押す連合艦隊かの勝負になってきた。
しばらく同航戦のまま、互いに撃ち合う。最初は数で勝るクレバイルが優勢のように見られた。
しかし、次第に精度で勝る連合艦隊が勢いを増していき、次々と敵艦を撃沈していく。
約1時間後。敵艦のほとんどを沈め、残り2隻となっていた。
その2隻も、ほとんど攻撃能力を失い、そこに浮かんでいるだけである。
「砲撃を止めよ」
「砲撃中止」
「どうしたカケル司令?」
「ちょっと拿捕してこようかなと思いまして」
「白兵戦できる程の兵力はないぞ」
「いるじゃないですか、ここに」
「…まさか一人で突っ込む気か?」
「その通りです」
トーラス補佐官は呆れたように頭を抱えた。
「…まぁ、カケル司令ならなんとかしてしまうかもな」
「意外ですね。反対すると思っていたのに」
「こうなったらどう言っても曲げないからな、司令は」
「さいですか」
褒められているんだか、怒られているんだか、よく分からないなぁ。
「とにかく拿捕に行ってきますから、指示あるまで現状を維持してください」
「了解した」
俺はそのまま「天龍」を飛び出し、敵艦の方向へ飛んで行った。
ものの数分で敵艦の上空まで来ると、まっすぐ甲板上に飛び降りた。着艦の衝撃で、甲板上の板がバリバリに割れる。
甲板には、クレバイルの兵たちが驚いたようにこちらを見てきた。
俺はその一瞬を見逃さなかった。近くにいた兵士から手当たり次第に無力化していく。
奥のほうでは、複数の小銃を準備しているのが見える。俺はすぐさま近くの兵士を、自分の元に寄せる。
次の瞬間、小銃から火を吹いた。しかし、引き寄せていた兵士が盾となり一時的にその場を乗り切る。
俺はそのまま小銃部隊のほうへ突っ込み、部隊まるごと蹴散らす。
こんな感じで船内にいた兵士も無力化していく。
そして、ほぼ全員を無力化した時だった。
突然、艦全体が軋み出したのだ。
「おいおいおい、大丈夫か?」
そんなことを呟きながら甲板に出てみると、艦尾から火が吹いていた。
それを確認した次の瞬間、艦尾部分が大爆発する。
「マジかよ!」
俺は慌てて艦首の方へ逃げる。
しかし、爆発は連続して発生し、まるで追ってくるように俺の方へ迫ってくる。
たまらず俺は、舷側から飛び降りた。直後、横から爆破の衝撃と破片がやってくる。
それに耐えると、海面が目前にまで迫っていた。
若干体勢を崩しながらも、海面すれすれを飛ぶ。
後ろを振り返ってみると、さっきまでいた艦が自沈しているのが見える。
「こりゃ拿捕するのは無理そうだ…」
俺は1隻目の拿捕を諦めて、もう1隻の艦の拿捕に向かう。
今度は先ほどの反省から艦尾にあると思われる艦長室から突っ込む。
窓ガラスを破り、その場にいた人物を全員無力化した。
「ふぅ」
一息ついた後、俺はふと思った。さっきは艦長室から爆発が始まった。つまり、この艦長室のどこかに起爆するための火薬があるはずだ。
一応敵の兵士が入ってこないように、ドアを封鎖する。それから艦長室を隅々まで捜索した。
すると、天井にそれらしい包みを発見する。中身も黒色火薬のようだし、正解だろう。
俺はこの包みをエネルギーに変換させ、無力化を図る。
その後は艦長室を出て、ほかの兵士を無力化していく。
こうして敵艦隊の1隻、艦名「ドロムーア」の鹵獲に成功したのだった。




