57海里目 事故と事後
「天龍」の公試運転から1週間。
幸いにしてどこにも問題はなかった。ただ一つを除いては。
「主砲…撃てなかったなぁ…」
今回の公試運転で行う予定だった主砲の射撃だが、防衛連盟側の申し入れにより実弾を使うことが出来なかった。そのため、空砲による模擬射撃を行った。
その際には問題はなかったものの、やはり実弾を用いないとわからないこともある。
この際だから、一回防衛連盟に対して大きく出てみようかな。
そのために、まずはトーラス補佐官を呼び出した。
「何だねカケル司令」
「実は『天龍』の実弾射撃についてなんですが、防衛連盟に申請送ろうかなって思っているんですよ」
「それは一度拒否されているぞ」
「なのでもう一度申請していたいと思います」
「上手くいくかね?」
「上手くいかせます」
心配になるトーラス補佐官に対して、自信満々な俺。それにはある理由があった。
早速俺は防衛連盟の申請書類を書き出す。
「そういえばトーラスさんは申請の時どんな感じで出したんですか?」
「そうだな、テラル島周辺での射撃の許可を求める感じだったな」
「多分原因はそれだと思います」
「というと?」
「このあたりはヒルノ海上国家に通ずる主要の航路が何本も通っています。こんなところで実弾を用いた射撃訓練なんて許可しようものなら大変ですよ」
「なるほど…その考えは抜けていた…」
トーラス補佐官が納得したようにつぶやく。
「多分いくらか離れたうえで、主要航路とは関係ない方向に射撃する旨を書けば、何とかなるはずです」
そういいながらサラサラと書類に書き込んでいく。
そして書類は完成する。
「出来た。今度は突き返されないはず…」
今度の場所は、テラル島から南西に20kmほど言った所だ。ここからさらに南の方角に向けて射撃を行うように指定した。
これなら多少の文句は言えまい。
「それと、今度は航路図とか買っときましょうか」
「そうだな…」
こんな言葉でこの日を締めくくった。後日、提出した書類は無事に受理された。
そして、「天龍」の主砲射撃試験当日。
この日は「天龍」と付き添いである「吹雪」を連れて目的地に向かう。
数時間程度で目的地に到着すると、早速射撃を開始する。
「主砲一番から四番、装填よし」
「主砲、右90度」
「旋回よし」
「主砲、撃て!」
轟音と共に、主砲から火炎が吹き出す。
初弾は問題なし。次弾を装填し、即座に射撃する。
こうすること数分。艦の後方から突如として破裂音が聞こえる。
「射撃中止!射撃中止!」
俺はすぐさま指示を出す。そしてそのまま慌てた様子で音がしたほうに向かう。
するとそこには、根本から砲身が折れた三番砲塔があった。
すぐそばには、その場から退避しようとする一人の隊員の姿が見える。
その隊員を捕まえて事情を聞く。
「何があった?」
「分かりません!突然砲身が爆発しました!」
「けが人は?」
「た、多分一人重症です…」
「分かった。君、名前は?」
「マイクですが」
「後で艦橋に出頭しなさい」
「は、はい…」
隊員を解放したあと、三番砲塔に向かう。すると、すぐそばで複数の隊員が何か処置のようなものをしているのが見える。
「何があったんだ?」
「司令!砲身が爆発して破片が彼に命中しました!致命傷ではありませんが足を切断せざるを得ない状況です!」
「私が治そう。そこをどいてくれ」
隊員達がはけると、そこには左足の太ももが抉れて大量出血している隊員がいた。
俺は手早く治療を開始する。まずは出血箇所を止血する。その後、周辺組織から肉体を構成するDNAを増殖させて、素早く肉体を再生させる。ものの10分程度で血管や神経細胞を含む全ての細胞を再生させた。
「これで良し。あとは様子を見ながら治療を行いましょう」
「ありがとうございます、司令官…」
治療した隊員に感謝される。隊員を守るのは司令官としての務めだ。
治療が終了したら、今度は主砲の破損原因の追及である。
俺は三番砲塔の様子を確認する。状況としては、盾の部分の所からポッキリと折れている感じだ。折れた主砲は、海中に落ちたらしく、そばの構造物にいくつかの凹みや傷をつけていた。
俺は断面を見る。断面はまるで花開いたように中心から外側に向かって破断していた。
「こりゃ厚さが足りなかったかなぁ…」
確かに、新造とはいえ完成していた吹雪型の拡大版のようなことをしていた「天龍」の主砲。もしかしたら厚さが足りずに破断したと考えるのが、現状の正解だと言えることだろう。
とにかく射撃試験は中止だ。このことは一度帰還して報告書にまとめるなりしないと消えないだろう。
そんなわけで、一時帰還した「天龍」と「吹雪」。特に「天龍」の方は、現在研究や工廠がまとめて置かれている埠頭に接岸した。
一応念のため、ミラにも見てもらおうと思ったのだ。
「これは明らかに降伏点を超えた破断ですね。おそらく一部の厚みが薄くてそこから破断したと考えて間違いなさそうです」
ミラも俺と同意見であった。
念のため、ほかの砲塔も一斉検査をすることに。すると、どの砲塔の主砲も似たような欠陥があることが判明した。
原因が分かったなら、次は対策を講じなければならない。
今回の場合は、主砲の新造で何とかなるだろう。
早速製造に取り掛かる。口径を変えずに、問題の箇所を含めて若干厚くするという方法で解決を図った。
こうして、主砲の問題点を解決した砲が完成した。
だが、今回の事故を受けて俺は主砲の安全性を確認すべく、建造していた射撃場で入念に射撃を行う。
こうして射撃を行い、安全性を確認したものを搭載する。
これによって安全性を確立した主砲が「天龍」に搭載されることになった。
「よし、これで大丈夫なはず」
「大丈夫ではない」
すっきりした表情の俺のところに、トーラス補佐官が若干怖い顔をして立っていた。
「な、なんですか…?」
「なんですか、じゃない。先の主砲破損の事故の件で、防衛連盟から事故報告書の提出をするように通達があった。報告書が上がるまで執務室に軟禁させてもらうぞ」
「えぇー…」
「あと、司令が呼び出したマイクの処遇についても検討するんだろう。それも早めにやってくれ」
「うぅん…」
トーラス補佐官のあまりの迫力に、俺は唸ってしまった。
仕方ない。こうなってしまったらやるしかないだろう。
この日は書類が全部片付くまでトーラス補佐官とマンツーマンでいるのだった。




