表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/115

52海里目 発表とその後

 8月某日。ついに研究発表会当日だ。

 各研究室はこの日のために様々な準備をしてきた。トルカチョフ研究室もその一つである。

 この日は正装でとは言われたものの、自分が持っている正装はいつも着ている軍服か、兵学校に通っていた制服ぐらいしかない。普段は作業着だし。

 ここは制服が無難かな。俺は制服を着てクリファラン学園へと向かう。

 そういえばこの姿で研究室行くのは2回目だったかな。何だか新鮮な気分である。

 研究室に到着すると、ちょうどタイミングよくミラがそこにいた。彼女は落ち着いたスーツであった。


「あ、先輩」

「おはよう、ミラ」

「…」

「ど、どうかした?」

「…先輩、やっぱり似合ってますね」

「制服?そうかなぁ…」

「私だって久しぶりにスーツを出してきたんですけど、似合ってないような気がして…。どうですか、先輩?」

「に、似合ってるよ」


 急にミラからスーツが似合っているか問われ、焦ってしまった。若干しどろもどろになりながらも答える。


「そ、そうですか…。えへへ…」


 それを聞いたミラは若干照れくさそうにした。

 なんだこれ。初デートの時の男女かよ。


「と、とにかく中に入りましょう!」

「あ、あぁ…」


 研究室に入って、すでに他のメンバーがそろっていた。

 必要なものを持つと、学園内の所定の教室のところへ行く。ここで模造紙を広げ、簡単な発表をするのだそう。いわゆるポスター発表というものだ。

 時間通りに教室に到着すると、決められた場所で模造紙を広げる。


「なんか緊張しますね」

「そうだな」


 そして時間となり、いよいよ研究発表会が始まった。

 研究発表会は、自由に参加する傍聴者と研究内容を審査する監査員の二組が入り混じって行われる。

 傍聴者は他の学生や外部からやってきた一般人が中心となっている。一方監査員は監査委員会から研究の内容を聞かれ、その様子から以降の予算などが決定される。

 肝心なのは、この監査員の審査にある。すべてがここにあるといっても過言ではない。

 俺たちトルカチョフ研究室は、傍聴者たちの説明を行いながらその時を待っていた。

 そして、その時はやってきた。


「監査委員会です。研究発表のほうをお願いします」


 ついに問題の監査員がきたのだ。その場にいた全員が気を引き締める。


「では発表させてもらいます」


 ミラが代表らしく発表を始めた。


「我々トルカチョフ研究室は新たな鉄鋼材料の研究を行いました。これまで開発でされてきた鉄鋼材料では、強度面が高くないという問題がありましたが、それを解決するために金属の配分を変えることで解決することを目的にしました」


 最初の滑り出しはいい感じだ。


「…そこで、過去の研究から鉄鋼材料に含む金属の選定を行いました。材料としてはニッケルやクロムなどです」


 そこまで話している時、ふと監査員の方を見てみると、まるで興味がないような素振りを見せていた。

 あからさまな素振りに俺は少々驚いた。


「…これらを配合し、一つの金属にします。この金属の板を複数枚作成し、それぞれを引張試験機によって強度を確かめます」


 ミラは負けじと説明を続ける。


「…結果はこちらのようになっています。この結果からこちらの試料の強度が最も良かったと考えられます」


 こうして説明は終わった。直後、監査員は手元の紙に何かを書き込む。


「はい、ありがとうございました」


 そのまま監査員は次の研究室の発表に行く。

 こうして、トルカチョフ研究室の成果発表は終えたことになる。

 個人的には手応えはあったとは言い切れない。ミラも同じような感じに見てとれる。

 この日、一般参加である傍聴者の相手をして終了した。教室から撤退するときも、ミラは何となく元気がないように見えた。


「今日はお疲れ様でした。ひとまず解散しましょう」


 その声すらも、どこか物寂しそうな感じであった。

 研究発表の結果は、約1ヶ月後である。その間、研究を続けるが、ミラはずっと意気消沈していた。


「代表、大丈夫ですかね」

「さぁな。だけど、いよいよもって研究室は閉鎖されるだろうな」


 そんなメンバーの声もひそひそと上がってくる。

 俺はそれを横目で見ながらデータの整理をしていた。

 そんなある日。島に戻った俺はジェイル大尉とトーラス補佐官を呼び出した。それはあることについて話し合うことである。

 その内容は、ある人物をテラル島に招待することであった。


「これで問題ないですね?」

「あぁ、承認しよう」

「招待状を用意しないといけませんね」


 数日後、その招待客がテラル島にやって来る。


「ほえぇ…。こんなすごい所にきちゃっていいんですかねぇ?」

「まさかとは思いますが代表。何かしでかしたのでは…?」

「ま、まさか!」


 そう、トルカチョフ研究室の面々である。そこには俺もいた。

 研究室の一行をジェイル大尉が応接室に案内する。

 しばらく待っていると、ジェイル大尉とともにトーラス補佐官が応接室に入ってきた。


「待たせたな。私はここの司令官の補佐官をしているトーラス・ジンブルグだ」

「は、初めまして。トルカチョフ研究室代表のミラです。…あのぉ、なんで私たちここに呼ばれたんですか?」

「まぁ、簡単なことだ。先日の研究発表会での発表に興味を持ったのだよ」

「ほ、本当ですか!」


 そう、あの研究発表会には、傍聴者としてトーラス補佐官とジェイル大尉がいたのだ。もちろん、ほかの発表も聞いていたりしている。


「あの発表会の中で、君たちの研究がひときわ目立っていたからな」

「ありがとうございます!」

「このことを司令官にも話したところ、強い興味を示していた」

「そうなんですか!…ところで、その指揮官はどちらに?」


 横にいますよ。


「今は少し席を外していてな。しばし戻ってこないだろう」


 嘘は言っていない。


「まぁ、少し待てば戻ってくるだろう。そればで話を煮詰めておこうではないか」

「話っていうのは…?」

「実はだな、研究室にいるメンバー全員を連合艦隊に引き抜こうと思っているのだ」

「え…」

「実際研究室の動向は我々の所にも届いている。研究費をカットされているという現状ではうまくいかないこともあるだろう?」

「…確かにそうです」

「それに、先の発表会でも、我々が求める研究を行っていた。我々はあの鉄鋼材料がほしい。そっちは研究を続けたい。需要と供給は一致していると思うのだが、いかがかな?」

「…」


 ミラは黙ってしまった。

 仕方ないだろう。彼女の一言で研究室の命運が分かれるといっても過言ではないのだから。

 熟考ののち、ミラは決心したように顔を上げた。


「私、この研究室が大好きです。そして、この研究も好きです。それができなくなるのはとてもじゃないけど嫌です。だから…私たちを引き抜いてください」

「代表…」


 その決意はとても固く見えた。


「…そろそろいいんじゃないか、カケル司令」

「そうですね」


 俺は立ち上がり、トーラス補佐官の方へと歩いていく。

 それを見たトルカチョフ研究室の面々は何が起こっているかわからない様子だ。


「あれ、先輩…?なんで…」

「ごめんな、ミラ。俺はリーじゃなくて、海原駆。連合艦隊の司令官だよ」

「え…、えぇぇぇ!」


 ミラはともかく、トルカチョフ研究室のメンバー全員が驚いていた。

 俺はトーラス補佐官の横に座る。


「ほかのみんなも、黙ってて申し訳ない。でもこれが事実なんだ」

「あ、いえ…。別にそれはいいんですが…」

「まぁ、そんなことは一度置いといて、まずは全員を連合艦隊に引き抜くという話だったね」

「あ、はい」

「希望通り全員を引き抜こうと思う。それでいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「じゃ、あとはジェイル大尉から話を聞いて」


 そのまま俺は席を立った。


「あ…先輩…」

「ん?何?」

「あ、その…、ありがとうございます。私たちを拾ってくれて」

「いいよ。俺が必要としたんだから」

「…はい」


 ミラはそう言ってはにかんだ。

 それから数日後、連合艦隊仮庁舎の応接室にはダリ中佐がいた。ダリ中佐には既に、これまでのトルカチョフ研究室の動向を話している。


「そうか…結局のところ、封鎖は免れそうにないというわけか」

「はい。正式な通知はまだですが、いずれそうなるかもしれません」

「うむ…。やはりそうなってしまったか。しかし、そこを狙ってメンバー全員を引き抜いたわけか」

「そうですね。それに、研究の内容を自分の都合の良いように変えてしまった責任もありますし…」

「それは仕方ないのではないかね?」

「結果的に見れば、我が艦隊の技術を底上げするような感じにはなりましたがね」

「確かにな。結果を見れば連合艦隊の独り勝ちのようなところもあるだろう」

「本当に独り勝ちなんですかねぇ…」

「はっはっは…」


 本当にこの人はいい加減だなぁ…。

 しかしこれで連合艦隊の技術力向上が図れたからよしとするか。

 ちなみに10日後には研究室の封鎖が言い渡された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ