2海里目 島人との遭遇
リフレットさんが、飛竜使いだった。
それだけで異世界感たっぷり、お腹いっぱいご馳走さまです。
ついでにシチューも食べ終わった。
「ついでだから、家族にも顔を出してくれ」
リフレットさんが、そう言ってきた。
俺もちょっとだけ興味あったからな。
リフレットさんに食器を渡してベッドから降りる。足元には俺のラバーサンダルがあった。
てか俺の格好は大丈夫なのか?
背中にでっかく「大和魂」と書かれた半袖のTシャツ。程よく色落ちしたジーンズ。そしてラバーサンダル。かなりの軽装備である。しかも、持ち物は自分のスマホのみ。圏外だがまだ動く。心許ない…。
うーん、怪しいったらありゃしない。これで咎められない方がおかしい。
そんな事を考えながら、リフレットさんに着いていく。階段を下りて、少し進んだ所の扉を開ける。
俺、二階にいたのか…。
扉を開けると、そこはリビング兼ダイニングのようで、リフレットさんの奥さんと息子とおぼしき二人がいた。
「彼、起きたよ」
リフレットさんが言うと、二人とも顔をこちらに向ける。
「うわぁスッゲー!流浪者だ!!」
少年よ、目を輝かせて見ないでくれ。
「こら、カイ!あまり失礼な事するんじゃないよ」
奥さんがカイと呼んだ少年の首根っこを引っ張った。
「ぐぇっ、痛いよ母ちゃん」
「じゃあ大人しくするんだね」
「は~い…」
母は強し…か?
「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだね。アタシはアスナ、この子はカイよ」
「あ、どうも駆です」
簡単に自己紹介をする。カイ君よ、ふて腐れるな。
「おや、サラはどこだ?」
「あの子達の世話をしてますよ」
サラ?あの子達?何の話をしてるんだ?
すると、
「ただいまぁ」
直後、リビングの扉が開く。
その姿は、輝くような黄金色の髪とそれに同調するような白さを持つ肌、スラッと無駄無く伸びている手足、顔は整っていて蒼色の瞳が自分を見ている。
綺麗だ。
その一言しか出てこない。これが俗に言う『一目惚れ』ってヤツか。
「おお、サラ。良いところに戻ってきた。彼がカケル君だ」
リフレットさんがサラと呼んだ娘に俺の事を紹介する。俺は軽く頭を下げた。
しかし、サラは一瞬嫌な顔をして、そのまま出ていってしまった。
…あれ?俺、嫌われた?
「うーん、やっぱりダメかぁ」
何がダメなんですか、リフレットさん。
「俺何かしちゃいました?」
「いや、君の事じゃ無いんだけど…」
リフレットさん曰く、サラは流浪者を嫌っているらしい。何故嫌っているのか分からないと言う。
まぁ年頃の女の子って分からない、とかよく言うからな。
「さてカケル君、島長さんの所に行こう」
軽くこの家の紹介をされた後、リフレットさんがそう切り出す。
「トーチョー?村長じゃ無くて?」
「役職としては同じようなものよ。規模が大きくなっただけね」
「流浪者は国の保護対象になっているから、役所に出頭しなくちゃいけない。ここではその役目が島長なんだ」
「は、はぁ…」
「島長さんには話だけしているから、今日は会いに行くだけだよ」
なんか緊張するなぁ…。
「父ちゃん、それ直ぐに終わる?」
カイ君がリフレットさんに聞く。
「うん…会うだけだから、すぐ終わると思うけど」
「じゃあ兄ちゃん、終わったら広場行こうぜ!」
「…えっと、理由を聞いていいかな?」
「皆に自慢したい!」
俺は自慢の材料かい。
「と言う訳なんだけどカケル君、大丈夫かな?」
「まぁ大丈夫ですけど」
それを聞いたと同時に、カイ君が嬉しさのあまりはしゃぎ出した。そして、案の定アスナさんに怒られた。
「じゃ、行こうか」
リフレットさんに連れられて、カイ君と共に外に出る。
目の前に現れたのは、蒼色に輝く海と、木造建築ながらどこかヨーロッパのような雰囲気を出す密集した街並みだった。今居る家は集落の外れあたりにある、坂の上に建っていた。
リフレットさんの後を追って進むと、何人かの島人に会った。ある人は声を掛けてくれたし、ある人は意味深な視線を向けていた。その視線に俺は寒気を感じた。
5分程で、開けた場所に出る。どうやら、ここが広場のようだ。広場の中心には大きめの井戸が、右奥の方には商店らしい建物がチラッと見える。ちなみにカイ君は、友達を連れてくると言って、走ってどっか行ってしまった。
そして井戸の周りでは、数人の女性が楽しそうに会話している。
「あらリフレットさん、その子どうしたの?」
女性達の内の一人がこちらに気付いて、声を掛ける。
「ああ、どうもライシャさん。彼は流浪者のカケル君ですよ」
そう言うと、女性達は俺に近づいてきた。
「へぇ、この子が例の流浪者ねぇ」
「ちょっとハンサムじゃない?」
「あんた、まだ成人してない子供に何言ってんのよ」
…勢いが半端ではない。押し負けそうだ…。
「まぁ皆さん、今は島長さんの所に行くのが先ですから、また後で話でもしましょう」
リフレットさんナイス助け船!
「そうね…ごめんなさい、邪魔しちゃって」
「じっくりお話しましょうね」
「うふふ、楽しみだわ」
残念、問題が先送りになっただけだった…。
島長さんの家は、井戸を挟んで反対側に位置する。集会所も兼ねているから、家自体が少し大きめなのが特徴だ。
「どうも、リフレットです」
リフレットさんが島長さんの家のドアをノックしながら言う。
数秒もしない内にドアが開き、白髭を蓄えた老人が出てきた。おそらくこの人が島長だろう。
「おお、リフレット、来たか。して、お主が流浪者じゃな?」
「は、はいっ。駆です」
いきなり呼ばれて、若干焦った。
島長さんは真剣な眼差しで俺を見ていたが、優しい顔つきになって、こう言った。
「この世界へようこそ、流浪者カケルよ。我々はお主を歓迎する」