44海里目 流れ着く物
翌朝、ふと目が覚める。外の様子を見てみると、日が昇ったばかりのようで、朝焼けが東の空を染めていた。
そんな感傷も束の間に、朝食を取ってすぐに移動する。
昨日は皇帝陛下がお住まいになる宮殿だったが、今日は行政機関たる議会の方だ。
その議会が置かれている建物に到着すると、警備員やらに囲まれ建物内を移動する。
案内された先にはリクア共和国でも見たような、席が二つ横に並べて置かれたような場所である。
報道関係者と思われる人混みをかきわけると、そこに一人の男性が待っていた。
「ようこそ日高皇国…いや、ヤーピン皇国へ。私がこの国の首相である秋場宗十郎だ。よろしく」
「初めまして、秋場首相。独立統合戦術機動部隊司令の海原駆です」
自己紹介をした後、俺と秋場首相が握手を交わす。
「どうだね、我が国の印象は?」
「なんというか、祖国に帰ったような気分です」
「そうか、それは良かった。さて、立ち話ではなんだし、座って話をしようか」
「はい」
俺と秋場首相は、椅子に腰掛けると様々な話をする。これもリクア共和国の時と変わらないような感じもしたが、ロゥフ大統領の時は世間話から派生していったのに対して、秋場首相はヤーピン皇国というお国柄をもとに連合艦隊に出来ることをあらゆる方面から話していた。こうしてみると、秋場首相は営業とか得意なのではないかと勘ぐってしまう。
しかし、悪くはない話もある。例えば、ヤーピン皇国の技術力は防衛連盟の中でも高く、多様な工業製品を輸出しているそうだ。そのせいもあって貿易摩擦が起きているのも現状だそう。
「…このように、我が国ではごく小規模なものから巨大なものまでを製造することが可能です。もし、海原司令にお困り事があるならば、我が国で解決することが出来るでしょう」
「なるほど、これはいいことを聞きました」
このような感じで対談は終了した。
直後の共同記者会見で、秋場首相は連合艦隊に好色を示していたし、俺もヤーピン皇国ならば現状立ちふさがっている壁を超えられるかもしれないことを話す。
ここまでで午前中の予定をこなした。軽い昼食を取ると、事務官級の会議を行うのと、俺が議会で演説するのを平行して行う。
時間になるまで議会の扉のそばで待機していたが、緊張が半端ではない。今回相手にするのは国家を運営するために全力を注ぐ人々だ。
一応原稿のほうはもらっているからそれを読めば良いわけだが、視線というのは案外怖いものだからなぁ。
そんなことを言っている間にも、出番がやってきた。
俺は事務官の後ろをついていくように議会に入場する。拍手とともに向かい入れられると、演壇に立って原稿を開く。
原稿にはヤーピン皇国の寛大な心、連合艦隊との関係性、これからの双方の成長に期待するなどのことが書かれていた。
もちろんこれには建前が入っていたりする。仮にそうだとしてもヤーピン皇国と何かしらの関係を持っているのは悪い話ではないだろう。
こうしてこの日の予定は終了した。ホテルに戻ってきた俺は、翌日の軍施設視察のために早めの就寝にする。
翌日も予定通りのスケジュールである。
「おはようございます。海原司令殿。本日は私、瀬田屋四之助がご案内いたします」
そう自己紹介したのはヤーピン皇国陸上武軍所属の技術士官、瀬田屋少尉であった。
彼の職場は西京の中心部から車で約1時間ほどのところにある駐屯地だ。
駐屯地に入り、車から降りると早速瀬田屋少尉から説明が入る。
「こちらが本日見学して頂く光崎駐屯地です。この駐屯地では、私が所属している部隊、第四〇四部隊と技術工兵学校が置かれています。四〇四部隊は主に工兵の育成のための実用部隊であり、工兵学校と連動して運用されています」
「四〇四部隊の任務が工兵の育成というのは、少々非効率的ではありませんか?」
「もちろん、効率的ではないのは分かっています。ですが、任務は育成のみではないんです」
「ほかに任務があると?」
「そうです。それが『漂着物』の蒐集というです」
「漂着物…ですか?」
「えぇ。我々のいう漂着物というのは、簡単に説明すると外界、すなわち異世界からやってきた物体のことです。海原司令殿が流浪者と呼ばれているのと同じようなものです」
「ほぅ」
「漂着物は形や大きさ、構成物質も様々で、それらを研究し保全するというのが任務です。先ほど工兵の育成も任務と言いましたが、どちらかと言えば四〇四部隊の主任務は漂着物の研究になるでしょう」
「なるほど」
「さて、口で説明するよりも実物を見てもらったほうが早いと思いますので、中のほうに入っていきましょうか」
そういって瀬田屋少尉は、自分についてくるよう俺に促す。
敷地を移動し、ある建物の中に案内される。そこには、多種多様な物が所狭しと並べられていた。
「この建物が四〇四部隊によって蒐集された漂着物の一部になります」
「かなりありますねぇ」
「本来ならもっとあるのですが、なにしろこちらに運んでくるのが大変でして…」
「そうなんですか?」
「はい。もともと漂着物は出雲県の黄泉伝説で有名な地域で出現するものなんです。その中には危険なものもありまして、現地で危険かどうかの調査を我が部隊と同様な任務を担う第四四四部隊が行ってからこちらに運んできているんです」
「ということは、これらはまだ漂着物のほんの一片に過ぎないと?」
「そういうことになります。ですが、それだけでも研究には十分すぎるほどのものばかりです」
「なるほど」
「それでは一つ実例を取ってみましょうか」
そういって瀬田屋少尉は奥に行くと、何かを持って戻ってきた。
その手には、とてつもなくSF感を漂わせるような流線形で構成された銃のようなものだった。
「これは我々の常識でいう拳銃のようなものです。しかし、この拳銃もどきは私たち人間が使えるような代物ではありません。まず、このグリップ部分を握ろうとしても、出来ないようなデザインになっています。また分解しようにも、どこにもネジの類いが使われていないため、中を見ることも出来ません。唯一動かせる場所は、この撃鉄部分にあるツマミのようなものだけ。つまり、これは人類ではない生物が使用するための銃であると考えられています」
「へぇ…」
「こういうことを考察し、研究していくのが我が部隊の任務になります。これまでの研究によって既存の技術を発展させることが出来た例もあるため、意外にも重要度が高い任務であると言えるでしょう」
「なるほど…」
「奥の方には、これまで回収、研究した物品が保管されています。もしよろしければ見学していきますか?」
「はい。お願いします」
瀬田屋少尉が奥に案内する。
すると大量の物品が並べられた空間に出る。なんというか、工場の資材置き場のような雰囲気が出てるな。
「こちらにあるものが四四四部隊が回収して、運んできた漂着物を一時的に安置する場所です。向こうの方には四〇四部隊で研究した漂着物があります。一応危険かどうかは調べてあるので、自由に見ても触っても大丈夫です。ただし壊すのは今後の研究に差し支えますので、注意してください。何か質問などがありましたらお声を掛けてください」
「分かりました」
こうして俺は漂着物を自由に見て回る。だいたい小物が多い印象だ。
「おっ?これはなんだ?」
そう思って俺は手に取ってみる。かなり重量のある大口径弾丸のようなものだ。
能力を使って組成を調べてみると、なんと劣化ウランを主成分にした弾丸だった。つまりこれは劣化ウラン弾ということになる。
「すっげー、こんなのまであるのか…」
内心興奮しながら漂着物を見て回る。中にはAK-47に酷似した小銃や、実用性があるか分からないようなとんでもなく薄いレイピアまであった。
そうしているうちに、ここに置かれている漂着物について少し知見を得られた。
大きさはおおよそ軽自動車程度までのものであること。これについて瀬田屋少尉に聞いてみたところ、大きいものは基本的に重いので運んでくるのに一苦労だからという。
もちろん例外もある。それがプラスチックのような素材で出来た無人航空機のようなものだ。全長12m近くあるにも関わらず軽量であったため、ドラゴンに吊り下げて運搬してきたようだ。
そんな中、ある物が目に飛び込んできた。
「こ、これは…!」
巨大な車軸に巨大な車輪、車輪に取り付けられた複数の円筒上の何か、全体的にボビンのような簡素な構造をした紅茶の香り漂う兵器。それは…。
「なんだ、ただのパンジャンか」
世界一有名とも言っては過言ではない英国兵器、パンジャンドラムである。
そんなものにも興奮しながら色々と見学していると、第四〇四部隊の隊員がちょうど漂着物の一つを調べようとしているところに遭遇した。
「少し様子を見てもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
その隊員は一つの刀剣を手にすると、自分の作業台に運ぶ。
まずはその外形をスケッチし始める。外形からでも、この武器がどんな思想でどのような運用を想定していたのかがある程度推察出来るのだ。
外形のスケッチが終わると、次は漂着物そのものの観察に入る。ここで一つの情報になるのが、漂着物の破損だ。
漂着物の一つの特徴として、ほぼ全てが何かしらの損傷を受けている。この刀剣では、剣先数cmが欠けていた。隊員は、その断面に対して拡大鏡を使って詳しく観察する。
破損の状態を確認することで、どのような壊れ方をしたのかを知ることが出来る。さらにこの漂流物の物質を調べる事で、どんな材料がどれだけ含まれているかを知ることができ、今後の材料工学の観点から新たな発見が出来るのだ。
「ただし、物によってはどうすることもできないので、有効活用が出来るのはほんの一握りと言ったところでしょう」
そう隊員は締めくくる。
こうして第四〇四部隊の見学は終了となった。
「漂着物か…。なかなか面白かったなぁ」
俺は西京への道中、今日のことについて思い出していた。それはまるで博物館にいった子供のような気分だ。
「いつか出雲県にも行ってみたいもんだなぁ…」
「それはそれで予定を組むのに一苦労かかりそうだな」
俺の独り言にトーラス補佐官が突っ込んでくる。
「いいじゃないですかー。こう、男心くすぐるようなものがいっぱいあるんですし」
「うむ…、分からなくはないがな…」
「というか、トーラスさんだって初めて『吹雪』に乗ったときは興奮してたでしょうよ」
「あっ、いや、あれはだな…」
そんな感じで一日が終わっていく。
『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』
漂着物
異世界転生してきた人間のことを流浪者というように、異世界からやってきた物体の総称を言う。流浪者とは違い、漂着物自体には何かしらの異常性は存在しない。また、それを研究・解明し、既存技術で再現可能か、できるならどのように応用できるかを主任務とする第四〇四部隊が存在する。




