42海里目 視察と出港
内務自治省の見学を終えた俺は、一度ホテルへと戻り、今晩の晩さん会に備えていた。
俺がベッドでゆったりしていると、そこにトーラス補佐官がやってくる。
「カケル司令、ちょっといいか?」
「はい、大丈夫です」
「明後日以降の予定だが、今日の内務自治省視察の影響で航海日数を短縮する必要が出てきた訳でな、それ関連のレクをしようかと」
「あー、そうですね…。すいません今日一日付き合わせてしまって…」
「いや、大丈夫だ。司令の後ろをついていくのが私の仕事のようなものだからな」
「そうですかね…?」
「とにかくだ、明日はヤーピン皇国に向けて出港するわけだが、このままでは一日分予定がずれ込むことになる」
「そうですね」
「そこで昨日も話した通り、移動中の航行速度を予定より早くして埋め合わせをしたいと思ってる」
「えぇ、異議なしです」
「ただ、その間に燃料が持つか微妙であることは先に言っておく」
「変換器があるとはいえ、小型はさすがに無理があったんですか?」
「いや、残量は十分だ。リクア共和国までの燃料は意外と軽く済んだ。だが変換器の本番運用は今回が最初だから慎重に行っている。そういうわけだから、航海に十分な燃料が確保出来ず、必要最低限になるかもしれないという話だ」
「なるほど…」
「ルクシュー少佐には素早く燃料の補給を行うよう指示はしている。後は現場の状況次第だ」
「それでも足りなかったら…、俺が直接やるしかなさそうですね」
「最悪の場合はな」
こうしてレクは終了し、俺はベッドへ倒れこんだ。今日見たことが頭の中でグルグルと回り、いつの間にか寝てしまった。
そのせいもあってか、やや遅刻気味に晩餐会の会場へ向かう。まさかここで寝坊してしまうとは…。
晩さん会の会場に到着すると、なかなかに豪華な建物だった。会場にはいたるところに複数人の警備員が配置されているのが分かる。おそらく昨日のテロの影響なのだろう。
会場入りすると政府高官から富豪や貴族など、その場にいた人々が一斉に挨拶に来る。各々が早口で自己紹介を行うものだから、誰が誰だかよく分からなかった。
しばらくして、晩さん会の開始時間となり、本格的に交流が始まる。
「やぁ、カケル大将。楽しんでいるかね?」
「ロゥフ大統領。えぇ、まぁ…多少は」
「そうか。そのうち緊張はほぐれるだろう。さ、ワインをどうぞ」
「あ、いや。自分は水で大丈夫なんで…」
「せっかくの晩さん会なのだから、遠慮しなくてもいいだろう?」
「あー…。もしもの事があったときに酔っていては大変でしょうし…」
「ふむ、それも一理ある…。申し訳ないことをしたな」
「いえいえ…」
一応未成年だし、アルコールは飲まないようにしていたが、まさかここでワインを勧められるとは思わなかった。とりあえずなんとか飲酒は免れることは出来たけど。
その後、晩さん会は何事もなく無事に終了した。正直テロが起こらなかったのはありがたい話だ。
「あぁ、疲れた…」
ホテルに戻った俺がベッドに倒れこみながら今日の感想が独り言のように出てきた。
実際、愛想よく振る舞わないといけないのはかなり労力を必要とするものだ。そして明日は陸軍の視察ときた。ホントに疲れる事ばかりである。
「駄目だ…、ねっむい…」
俺はそのまま眠りについてしまう。
翌日、陸軍の基地で視察を行うため、早朝から車移動だ。目的地である基地は首都から少し離れたところに置かれている。そのため、なるべく視察に時間を取れるように、移動の時間は若干シビアなのだ。
陸軍が置かれている基地はケンドル駐屯地と呼ばれ、リクア共和国の主力部隊一つがここにある。特に歩兵と砲兵、騎兵隊で編成されており、近接戦を主体とした戦術が可能となっている。
そのケンドル駐屯地に到着すると、基地の人間が出迎えてくれた。
「ようこそ、ケンドル駐屯地へ。私はここの司令のルドールです。以後お見知りおきを」
ルドール大佐はそういって姿勢よく敬礼する。
ルドール大佐の案内の元、まずは駐屯地の施設を見学した。ここには部隊が駐屯しているほかに、教育機関も併設しているため敷地はかなり広い。
一通り見て回ったした後、目と鼻の先にある演習場に移動して、小規模な観兵式と演習の様子を見学する。
「本日は第1騎兵大隊と第2砲兵大隊による実践演習を行いたいと思います」
演習場を見渡せる場所に設置された仮設の見晴らし台で、ルドール大佐が説明を行う。
演習内容は進軍してきた敵部隊を砲兵大隊が砲撃によって阻止、停滞した敵部隊を速射砲で前線を崩壊させ、最後に騎兵大隊が前進して敵部隊を撃破するというものだ。
ルドール大佐が部下に指示を送り、演習が始まる。
まずは進軍してきた敵部隊に対して砲兵大隊の砲撃が行われる。使用される大砲は、よくある前装式だ。
その大砲が一列に並んで一斉に火を噴く。今回の演習は実弾を用いているため、約500mほど離れた地面に砲弾が着弾し、土煙を上げていた。
何度か砲撃を行うと、砲兵大隊司令が砲撃を中断させ、速射砲での攻撃を行うように指示する。砲兵は素早く速射砲の準備を整え、順次砲撃を行う。先ほどまでの大砲より発射速度が早い。そのため、前線を崩すにはもってこいの装備だ。
こうして速射砲で前線の敵部隊を牽制しているところに、騎兵大隊が前進を始める。
そして本格的に騎兵大隊が敵部隊に対して突撃を行う。速射砲は騎兵大隊の車線に入らないように、攻撃を止めたり移動して攻撃を続行する。
こうして騎兵大隊は敵部隊を撤退に追い込むことに成功した。
「…以上で演習を終了します。如何でしたでしょうか?」
「なかなか興味深いものでしたよ」
なんともお世辞な会話を交わした後、実際に砲兵大隊の兵士と兵装を見学することになった。
改めて近くで見てみると、中世によくあるような大砲であることがよく分かる。もし、この大砲を使ってクレバイルの本土上陸を考えると、機動性に難があるのが問題だな。せめて足回りだけでも改修しないと移動が大変そうだ。
一緒に騎兵中隊の方も見学を行った。こっちに関しては騎兵の装備に拳銃や小銃を持たせればそれなりの戦力になるだろう。問題は馬の世話といったところか。それに、うまく上陸作戦を立案したとしていも、騎兵大隊を輸送するには苦労を掛けることになるだろう。
こうしてリクア共和国の陸軍視察は終了した。もちろん、リクア共和国陸軍の実力はこれに限らないだろうが、少なくとも現状の戦力に関しては多少は知見を得られただろう。
「本日はありがとうございました」
「いえいえ、これも連合艦隊の戦略の一つになれるのならば本望です」
こうして俺はケンドル駐屯地を出発し、車列は一路首都に向けて進む。行きと同様、帰りも同じくらいの時間をかけ、首都のホテルに戻ってくる。
そしてついに翌日はリクア共和国を出発する日だ。
俺がベッドでくつろいでいると、昨日と同じようにトーラス補佐官が寝室に入ってくる。
「カケル司令、少しいいか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「昨日言ったことについてなんだがな、燃料が最低限しかないと話しただろう?」
「あぁ、しましたね」
「昨日から夜通しで変換器の調整を行っていたところ、本格的に運用が出来るようになったそうだ」
「おっ、ホントですか?」
「あぁ、先ほど連絡を取った時に確認した。これで燃料問題は解決といったところだな」
「それはよかったです。特に自分が身を挺する必要がなくなったあたりが、ですがね」
「それもそうだな。さて、明日も朝は早い。今日はもう就寝したほうがよいだろう」
「分かりました。おやすみなさい」
トーラス補佐官が部屋を出ると、俺はベッドに倒れこみそのまま眠ってしまった。
翌朝、明け方にトーラス補佐官に起こされると、すぐに朝食を取る。その後は、ホテル前に止められた車に乗り込み、2度目の官邸訪問に向かった。
官邸前に到着すると、ロゥフ大統領が出迎えており、互いに握手を交わす。その様子を報道陣が見ている状態だ。
「お出迎えありがとうございます、ロゥフ大統領」
「いやいや、これも何かの縁だ。また機会があれば会おう」
「もちろんです」
「ほかに何か言うことがないかね?せっかく彼らが取材に来ているのだから」
「そうですね。連合艦隊では人員を募集しています。興味がある方はヒルノ海上国家までお越しください。交通費は全額支給しますよ」
その言葉に報道関係者から少し笑いが起きた。
沿道に詰め寄った人々の視線を浴びながら、車列は連合艦隊がいる軍港のアルクレー基地へ向かっていく。
数日前と同じように100kmほどの道のりを戻り、アルクレー基地に到着した。
「カケル大将、ご帰還をお待ちしておりました。出港の準備は整っております」
「よし、ではすぐに出発しよう。抜錨の準備を」
「了解」
首都に行っていたメンバーが乗艦すると、すぐに埠頭から離れる。ここまで車の運転をしてくれた政府関係者及び軍港にいた軍人に対して、連合艦隊の乗組員による登檣礼を行った。
連合艦隊はその日のうちにホル水道を通過し、次の目的地であるヤーピン皇国へ進路を取る。
ロード演習作戦は、まだ道半ばだ。




