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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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42/115

39海里目 訓練と入国

 大海原を進む連合艦隊の4隻。そんな吹雪型は、一様に主砲を右舷に向けていた。


「目標右55度、距離4500」

「主砲旋回、右55度!距離4500、仰角18度!」

「統一射撃、交互打方用意」

「全艦射撃準備!交互打方よーい!」

「撃ち方始め」

「うちーかたーはじめ!ってー!」


 それにより吹雪型の主砲から発砲炎が吐かれる。とは言っても、実際には火薬のみの空砲であり、兵棋演習と同様にサイコロを使って確率で訓練を行う。

 発砲してから数十秒後、架空の砲弾が着弾する。


「…命中なし。左よせ2、高め3」

「誤差修正、左よせ2、高め3、撃て!」


 こうして射撃訓練が続けられた。


「今度は夜間での射撃訓練をしましょうか」

「そうだな、状況としては戦闘海域での警戒待機状態だな」

「じゃあ、それで。開始は今晩の2100時からでいきましょう」


 こんな感じでリクア共和国に向かう間にも、訓練を繰り返していく。

 そんな中でも、休息というものは必要である。この日は昼間の訓練はなく、掃除のあとは割とゆったりした時間が流れていた。

 そんな中でも「吹雪」の艦橋にいる俺を含めた連合艦隊駆逐隊司令部では、今後の方針について簡単な話し合いが行われていた。


「リクア共和国到着まで、あと5日。到着後は大統領官邸で各種会談と条約締結を数日かけて行う。これはどの国でも同じようなものだな。その後は官邸周辺の都市や地域を視察するといった具合だ」

「なるほど」

「まぁ、正直言って今回の加盟国訪問の目的は、連合艦隊の独立性の高さを誇示するためであるのと、その独立性ゆえに防衛連盟軍以外の武力組織として各国と繋がりを持ちたいというものだからな。あまり気を負うものでもないだろう」

「ま、その辺は大丈夫でしょう」

「事前の情報はこんなところだ。ほかに情報共有しておきたい者はいるか?」


 トーラス補佐官の問いに誰も答えない。


「では、今日は以上だ。後はつかの間の休息だな」


 そういって各々が艦橋を離れていった。


「さて、この後はどうするんだ、カケル司令?」

「そうですね…。のんびり日光浴でもしてましょうかね」

「そうか。何かあったらスピーカーで呼び出しするぞ」

「分かりました」

「では、自分は本部庁舎へ定期報告をしてくるとしよう」


 そういってトーラス補佐官は艦橋を出て行った。

 俺も、艦橋に残っていた当直の隊員にねぎらいの言葉をかけて艦橋を出る。


「さて、どこで日向ぼっこするかな?」


 波に揺られる甲板を歩きながら、後部甲板の方へ歩いていく。そこそこ強い潮風を浴びるのもいいが、強すぎても逆にリラックスできないだろう。


「それだったら、第2砲塔の所かなぁ」


 ちょうど第2砲塔を見上げるような位置で、実際に見上げながら呟いた。そのまま気が向いたように砲塔に上り、砲塔天板上に立ち上がる。そしてその場に寝転び、目を瞑った。

 しばらく周りの音に耳を傾ける。

 艦が揺れる感覚、艦首が波を切る音、そして体にも感じる潮風の音。

 案外日光浴もいいもんだが、それ以上に…。


「風、意外と鬱陶しい…」


 そりゃあ、艦隊は18ktで走っている。つまり18ktで風を受けているのと同じだ。時速換算で33km/h、風速にしてみれば9m/sを超えるくらいである。日常生活で言えば、一瞬体を持っていかれそうな感覚に似ているだろう。そこに潮風も合わされば、そこそこ強い風になる。

 砲塔から降りて、影になるような場所に移動すれば問題はなさそうだが、何かが足りない気がする。


「なんか、こう、のんびりとしたアイテムがあればなぁ…」


 そこまで考えて、俺は思いついた。


「そうだ、釣りしよう」


 多分、ここ数日の多忙のせいで正常な判断が出来なかったのだろう。俺は急に、簡単な竿と釣り糸、そして釣り針を生成すると、艦尾に移動して糸を垂らした。

 リールはついておらず、餌となるものもつけてないが、今の俺にとっては釣りをしている雰囲気を楽しめればそれで良かったのだ。

 後続の吹雪型を眺めながら、なんとなく竿の先を揺らすように動かす。そこには非常にのんびりとした空気が流れていた。遠くを望めば青い水平線と空の境界線があり、そこを沿うように白い雲がなびく。

 他の艦では自主的な訓練にでも励んでいるのだろうか、風に流されてくるように掛け声が聞こえてくる。


「ここだけ見れば平和だなぁ…」


 そう、風景だけを切り取れば平和そのものだ。しかし世の中は戦争をしていて、その戦争のためにこうして訓練を行っているのだ。


「こういうのを皮肉っていうのかねぇ…」


 自分の中で勝手に納得していると、何かが竿を引っ張った。


「おっと?なんか引いたぞ?」


 俺は手に持った竿に力を込め、思いっきり引っ張る。

 すると、糸の先に魚のような何かが食い込んでいた。魚のような物はそのまま放物線を描いて、甲板に乗る。俺の作った釣り針には返しがなかったため、簡単に針から外れた。


「まじかぁ、本当に釣れるなんて…」


 正直驚きである。餌をつけず、しかもスクリューによる乱流が発生している場所で引っかかるとは、この魚には運がなかったとしか言いようがない。

 しかしこの魚、食べられるのだろうか?これ持って艦内を歩き回るのもちょっと気が引けるし、このままリリースしよう。


 謎の魚を海に還したところで、他の艦に移動して問題がないか見て回った。特に「初雪」と「深雪」だ。この2隻はテラル島で建造し、外洋航海も初めてであるため、どこかに不具合でもあったら大変である。そのため、今回は点検という意味合いが強い。

 ありがたいことにそういった問題はなく、今後も引き続き運用できる感じだ。

 しかし、こうして俺だけが仕様を知っているっているのは、なんというか自分がやるべきタスクが溜まっていくような感じがして荷が重くなる。せめて各艦に一人くらいは技術的な分野に精通する隊員が欲しいところだ。そうなれば工作兵として隊員の何人かを教育しなければならないし、その前に俺の持つ技術を工学的に説明できるようにするところから始めないといけないから、どっちにしろ面倒なことには変わりない。


「結局やらないといけないことは多いなぁ…」


 俺は遠い目をしながら、艦内を巡りまわった。


 そして夜になり、まだまだ訓練は続く。


「電探に感あり!方位2-4-5に敵艦と思しき影!距離3000!」

「探照灯点灯、方位2-4-5を中心に索敵を開始せよ」

「探照灯、点灯!」


 探照灯の光が暗闇の中を一筋に輝かせる。その光が隊員の手によって目標の方角を向かせた。

 もちろんこれは訓練であるため、実際には敵艦はいない。そのため、これにもサイコロを振って発見できるか確率で判定する。

 本来なら、探照灯の他にも電探や目視による索敵がいる。これには長時間に及ぶ熟練された経験が必要だ。だが今いる隊員は探照灯はおろか、近代艦艇に乗ったこともない。この点に関しては仕方ないとして、こうした訓練方法をとっている。


「敵艦発見出来ず。引き続き警戒を厳となせ」


 夜間の索敵訓練と砲撃訓練は夜明けまで続いた。


 テラル島を出発してから、およそ1週間。連合艦隊は無事にリクア共和国に到着した。 



 リクア共和国は防衛連盟加盟国の中で一番の国土面積を誇る。そのため、加盟国内ではあまり見られないような文化や思想を持っているのが特徴的だ。特に海軍だけでなく、陸軍兵力に力を入れているのがその一例だろう。この世界では陸の面積に比べ、海の面積が9~10倍と圧倒的な差がある。そのような事情もあるため、各国は主に海軍の編成に力を入れている。一方リクア共和国は、国土が十分にあるため他の国よりも陸軍の兵力に重みをおいているのだ。



 そんな陸軍国家であるリクア共和国だが、向かう先は軍港のアルクレー基地だ。この港はジョック湾という大きめの湾の最も奥にあるため、軍施設としては最高といったところか。

 リクア共和国の沿岸の右を見るように航行しながら、アルクレーを目指す。このあたりの地形は高い山々が連なっているようで、まさに自然が作り出した壁のようである。

 そのまま艦隊を進ませると、ジョック湾の入口に到着した。この湾内にはアルクレー基地以外にも、民間の港がいくつか存在する。そのため、このあたりは民間船の往来が多い。こちらとしてもかなり気を付けたいところだ。

 とは言っても湾口であるホル水道は海峡としてはかなり広い部類に入るが、水深が浅い部分も多いため航行には注意が必要である。そのため、いくつか進入禁止海域が設定されており、ホル航路と呼ばれる船舶の航行を推奨する航路が存在する。もちろんただの推奨であるため、そこ以外を航行しても特に罰則の類いはないが、座礁の可能性が高まるためそちら方面での損失が大きいことからほとんどの船舶はホル航路を利用しているのだ。

 座礁は艦にとっては避けたい事故であるため、連合艦隊もホル航路を利用してジョック湾へと進入する。その際、民間船の乗組員が甲板に出て連合艦隊の一行を興味の目で見るような雰囲気を醸し出していた。まぁ、これに関しては慣れたから問題はない。

 ここからは、波も穏やかで静かな海だ。そしてもうすぐで目的地である。


「カケル司令。アルクレー到着まで、あと数時間だ」

「そうですね。おかに上がる準備をしましょう」


 連合艦隊駆逐隊司令部の面々を集め、今後の予定について再確認する。特にリクア共和国訪問中は艦隊の臨時指揮官をルクシュー少佐に依頼した。少佐は少し悩んだ後、これを承諾してくれたのだった。

 そして日が傾き始めたころ、連合艦隊はアルクレー基地へと到着する。基地としての規模は、シドラール国やヒルノ海上国家と変わらないほどだ。その埠頭の一角に、連合艦隊4隻の停泊作業を行う。その作業が終わったころには、もうすぐ日が沈むくらいの時間だった。


「防衛連盟理事会直轄独立統合戦術機動部隊の皆さん、リクア共和国へようこそ」


 式典が終わり、出迎えてくれたのは、自身をリクア共和国国防省軍政事務次官と紹介した男だ。

 一応身なりはしっかりしているから、その肩書は間違っていないのだろう。

 そのまま彼に案内されて、車に乗り込む。その車は、これまで見た車とは違って昭和初期にありそうな形をしていた。


「おぉ、デザインが近代的だ…」

「カケル大将はお分かりになられますか?」


 そう話している間にも自分たちを乗せた車は、一列の車列になって基地を出る。


「おぉ…。道路がちゃんと舗装されてる…」

「さすがは艦隊の指揮官をしているお方ですな。ご存じかもしれませんが、我が国は広大な領土を保有しております。ゆえに自動車の実用化は必然でしょう。それに伴う形で道路の整備も行っているのです」

「なるほど…」


 そういっている間にも、車列はそこそこのスピードで道を駆けていく。エンジンやフレーム、サスペンションなどの技術が高くなければできない製品だろう。もちろん現代の車には及ばないが。


「それでは、首都の方へご案内したします。2時間ほどかかりますが、ご容赦ください」


 こうして一行は首都へと向かって移動していく。

『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』

リクア共和国 首都ローレッタ

 大統領 グラブレン・グール・ロゥフ

 面積 約1,677,000km^2

 人口 約152万5000人

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