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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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38海里目 発動する作戦

 6月某日。仮庁舎にある文書が届く。それは今まで何度も検討されてきたものだった。

 そう、ロード演習作戦の詳細な日程が決定したのである。

 それに基づけば、全行程を消化するのに費やす時間は1ヶ月半にも及ぶ。その間はもちろん艦の中で過ごすことになるし、その分だけ仮庁舎を空けることになる。ここまで長期間居ないことなんて初めてだからどうなるか分からない。

 そして当然のことだか、研究室もその分だけ顔を出すことが出来ない。それだけならばいいんだが、問題はどのように言い訳をして乗り切ればいいかだ。それに資材の調達も俺に依存している。ひと月以上もの資材を予知し、在庫として保管しとくのも何かと大変だしなぁ。

 でも、最近は学会発表のための原稿作りに精を出しているため、俺が居なくでも問題はないかもな。一応差し当たりない理由をつけてミラに伝えておこう。

 翌日、研究室に出向くと既にミラが机に向かって何か作業をしていた。この人いつ休んでるんだろう?


「あー、ミラ?」

「なんでしょう、先輩?」

「ちょっとね、叔父さんから手紙が来て、急用だから帰ってこいって言ってるんだ」

「そうなんですか。先輩ってどこ出身でしたっけ?」

「えと、ランスエル公国だね」

「それは…ちょっと遠いですね」

「どんな用事なのか、手紙に書いてなかったからいつ戻ってくるか分からないんだよ」

「そう…ですね」

「もしかしたら数ヶ月くらいかかるかもしれないから、その間申し訳ないけど研究室を空けさせてもらうっていうのを話しておきたかったんだ」

「まぁ、家庭の事情なら仕方ないですよね…。…先輩、ちゃんと戻ってきますよね?」

「え、なんで?」

「だって、先輩は貴族の家系なんでしょう?」

「あー…、それはだなぁ…」

「改めて言わなくてもいいんです。なんとなく分かってましたから」


 ミラは、どこか物寂しげに顔を若干伏せた。


「急に思っちゃったんです。もしかしたら用事って縁談のことなんじゃないかって」

「そ、それはないんじゃないかなー」


 いや、各国訪問のついでに演習しに行くだけですよ。そんな大層なものではないんです。

 ほんと、急にそんなこと言われると焦るわ。


「でも、そうとは限らないですよね?そしたら先輩、もう二度とクリファランに戻ってこないんじゃないかって…。そう思うと、なんだかすごく胸が苦しくなっちゃって…」


 ミラの顔は見えないが、その言葉は涙声になっていた。

 もともと研究室は成果を上げられずに少しづつ閉鎖の道を歩んでいた。そんな折、俺が研究室に入ってきたことをきっかけに、今まさに成果を上げようとしている。これがあれば、もしかしたら閉鎖を免れるかも知れないのだ。

 そこに俺が戻ってこないこともあり得る出来事が発生したのである。今の研究室は俺なしでは成り立たなかったかもしれない。それに彼女にとっては、一番頼れる人物が急に居なくなるのだ。

 そう考えれば、彼女が涙を流すのも無理はないだろう。


「まぁ、もし縁談の話だったら意地でも断ってくるよ」

「ほんとですか…?」

「うん、本当」

「…本当に?」

「本当だよ」

「…それじゃ、先輩。ちょっとだけ、あっち向いててくれませんか?」

「あぁ」


 ミラに言われ、俺は素直に彼女の反対方向を向く。

 すると、後ろからミラがギュッと俺のことを抱きしめてきた。


「ミ、ミラ?」

「少し…このままにさせてください…」


 そういったミラは少し震えていた。

 なんというか彼女の気持ちはよく分からないが、それで彼女の気分が落ち着くのならと思い、俺は黙ってそれを受け入れる。

 それからどのくらい経っただろうか。ミラは名残惜しそうに俺から離れた。


「ごめんなさい…、わがまま言っちゃって…」

「うん、大丈夫だから」

「…いってらっしゃい、先輩。絶対帰ってきてください」

「もちろん。行ってきます」


 そういって俺は研究室をあとにした。なんだか、もう二度と戻ってこれないような雰囲気してたなぁ。

 そのまま仮庁舎戻った俺は、多種多様の書類に目を通していた。

 特に重要なのは、本部や理事会から送られてくるものと連合艦隊本部内で作成される書類だ。

 今はロード演習作戦に参加する連合艦隊所属艦と名簿に目を通している所である。

 参加艦艇は「吹雪」以下4隻、参加隊員は約120名。彼らとトーラス補佐官他数名が一緒に乗艦する。その間、仮庁舎はジェイル大尉とワーグナー事務局長を含めた事務官が待機する状態だ。


「…それで、準備の方はどうですか?」

「8割方終わった所だな。カケル司令が作った真水生成器はすでに配線と水管含めて第2砲塔下部に設置が完了している。小型高魔力変換機の方は後部煙突周辺に配置しているが、少し難航している。1週間以内には終了させる予定だ」

「分かりました。現場には引き続き作業を進めるよう伝えてください」

「食料の積み込みは出発前夜を予定しています。案の上保存食中心ですが、寄港先で生鮮食品を取り寄せられるよう、こちらで手配しておきます」

「ついでに寄港先で半舷上陸させてやりましょうか」

「そうだな。我々が会合している間くらい、休みを入れてやるのもいいだろう」


 こんな調子で出港に向けて準備が進んでいく。

 作戦前だというのに、書類は容赦なく送られてくる。余計に忙しくなるんだよなぁ。

 そんな折、仮庁舎にダリ中佐が訪問してきた。


「わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」

「いや、いいのだよ。むしろ詫びを入れるのはこちらだろう。その…演習作戦が目前に控えているのだからな」

「まぁ、そうですけど」

「こうして今日来たのは、その作戦の成功を祈るためだ」

「でもそれだけではないんでしょう?」

「ふむ、今日は勘が冴えているな。もちろん、その通りだ。些細なことではあるが、とても重要なことだ」

「その要件とは?」

「クリファランのことだよ。君が教育課程を卒業したのは無論知っているが、その感想を聞こうと思ってだな。それに研究室の方もね」

「あー…。教育課程の方は今後の連合艦隊の行動に影響を与えさせてくれましたね。特にドラゴンの運用に関しては刺激を受けました」

「ほう」

「研究室のほうは現在進行形ですけど、新しい鉄鋼材料の研究を中心に行っています」

「そうか…。研究室の方はどうにか存続させたいものだが、それはどうなんだね?」

「それに関しては…正直微妙です。現在試作中の鉄鋼材料の具合が良ければ今後の展望が望めるものになると思うんですが、逆に成功しなければ研究室の閉鎖は免れないかもしれません」

「ふむ…。だが、ダメ元で君に頼んだことだ。閉鎖されても文句は言えまい」


 ダリ中佐は難しい顔をする。


「どちらにせよ、現状はまだ分からないのだろう?なら私は希望を持って結果を待つことにしよう」

「そうですか…。分かりました」

「さて、私はそろそろ戻ることにしよう。最近ここと本島との定期連絡船が出来たおかげで気軽に来れるようになったよ」

「だからって、しょっちゅう来られても困りますけどね…」

「ははは…。今後は気を付けるよ」


 そういってダリ中佐は帰っていった。

 それからしばらくして、ついにロード演習作戦の発動日がやってきた。

 仮庁舎前にある埠頭に並んだ連合艦隊の隊員を前に、俺はいつにも増して真面目な顔をしている。


「敬礼ーっ!」


 トーラス補佐官が号令をかける。それに合わせて隊員全員が敬礼をした。

 俺は隊員の前に出て、背筋を伸ばす。


「総員休め。…本日より、我が連合艦隊の本格的な活動が行われる。既に概要は聞いていると思うが、これより発動されるロード演習作戦は、防衛連盟加盟国の国家元首との会談のために訪問するのと同時に、連合艦隊の練度向上のための航海訓練だ。諸君らは今回の航海で様々な訓練を行い、防衛連盟ためにその身を捧げるつもりでいてほしい。ゆくゆくは我々が防衛連盟の主力となるのだ。だがそこまで気を負うこともない。諸君らにとって、あの艦たちは未知の領域だ。難しいこと、分からないことは迷わず聞いてほしい。…前置きは長くないほうがいい」


 俺は一呼吸置き、軽く全身の力を抜く。

 そして深く息を吸い込み、声を張り上げた。


「現時刻を以てロード演習作戦を発動する!各員、作戦行動にかかれ!」

「ハッ!」


 隊員全員の声が重なり、とてつもない声量が響き渡る。それと同時に隊員がそれぞれ乗船する艦に向かって走り出した。


「カケル司令、我々も行きましょう」

「えぇ」


 トーラス補佐官の案内のもと、俺は「吹雪」に乗り込んだ。

 埠頭にはジェイル大尉と数名が残って見送りをしている。


「出港用意!」

「出港よーい!錨あげぇ!」

「両舷前進微速!面舵10度!」


 吹雪型4隻は埠頭を離れていく。見送りのために残ったジェイル大尉が敬礼をしていた。

 それに応じるように、俺は「吹雪」の艦橋で敬礼をしていた。


「では最初の目的地、リクア共和国に針路を取れ!」

「了解!」


 こうしてロード演習作戦は発動された。

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