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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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37海里目 調達と確保

 連合艦隊仮庁舎で書類を整理している際、防衛連盟理事会からロード演習作戦に関連する質疑文書を受け取った。内容を確認してみると、いくつかの質問が記述されていて、それに対して連合艦隊指揮官や司令部勤務隊員がどのように考えているのかを回答してほしいようである。

 ロード演習作戦は各国の首脳もしくは元首との対話を行うのが大本命である。だが、その目標を達成するために連合艦隊が行動を行うため、防衛連盟本部内や理事会内の一部で連合艦隊を危険視する声が上がっているのだ。このような考えを持つ人間は、連合艦隊結成時からいた。今まではあまり声を大にしてしなかったが、いざ連合艦隊が大々的に行動を始めるとなったあたりから強く出てくるようになってきたのだ。

 とはいっても、彼らの主張は全体的に見れば些細なものであり、早急に対策を練る必要性はない。しかし戦時下とはいえ、時間の経過と共に彼らの主張が成長してしまう可能性もある。ここは防衛連盟本部を通じて、理事会の方に連合艦隊の必要性の正当化を強化するよう要請するか。


 防衛連盟理事会からの文書を返答して数週間。

 アンデルトのモンドローさんから連絡が入った。どうやら加熱炉が完成したようだ。

 それにしても、いくら元となる設計図があっても、今回のようなオーダーメイドの要素が強い案件なら完成まで半年とか時間を要すると思うのだがなぁ。コスト削減のために部品をモジュール化でもしていたのだろうか。

 そちらにせよ、完成したというのならば受け取りに行かねばならない。また面倒な書類にサインをし、俺とトーラス補佐官はアンデルトに向かった。


「モンドローさーん?いますかー?」

「おぉ、指揮官殿!お待ちしておりました。ささ、中へどうぞ」


 事務室に通されると、対応もそこそこに工房の方に行ってしまう。

 数分後、モンドローさんは台車と共に戻ってくる。その台車には、比較的巨大な金属の箱が鎮座していた。


「これが依頼の加熱炉です。すでに実用試験も終えていて、いつでも使用可能な状態です」

「おぉ、ありがとうございます。モンドローさん」

「いえいえ、依頼されればちゃんと製造しますから」

「それでは、今回の依頼の報酬ですが…」

「はい。えー、材料費を除いた請求額ですが、20万CUですね」

「20万…。安くはないとは思っていたが、意外とするもんだな」

「えぇ。特に超高温を出せるとなるとなおさらです」

「では、支払いを…」


 そういって俺はバックから、札束の山を出した。


「では、金額を確認させてもらいます」


 そういってモンドローさんは札束を数え始めた。

 それを前にして、トーラス補佐官が俺に小声で耳打ちしてくる。


「司令、こんな札束いつの間に用意したんだ?」

「まぁ、端的に言えば融資ですね」

「融資?どこから?」

「ダリ中佐を通じて連合艦隊に賛同してくれる富豪や貴族から資金の給付を受けたんですよ。結構いい額してました」

「財務関係って、まず私の所に来ないか?」

「それが先日、直接自分の所に来ちゃいまして…」

「はぁ…。次からはちゃんと報告してくれ」

「すんません」


 そんなことを話しているうちに、モンドローさんは金額を数え終えたようで、こちらに向き直った。


「はい、確かに20万CU頂戴しました。では現物の引き渡しと、こちらが仕様解説書になります」

「ありがとうございます」

「いえいえ。これくらいお安い御用ですよ。それに前に言った通り、近頃は仕事も減ってきていますからねぇ」

「最近はつらいご時世、と言ったところか」

「そんなわけですから、次何かありましたらまたうちをよろしくお願いしますよ」

「はい。次もそうさせてもらいましょう」

「ところで、この加熱炉はどのようにして持ち運ぶんです?よろしければ台車ごとお渡ししますが…」


 モンドローさんが不思議そうにこちらに伺ってくる。


「…そうですね。見たところ重そうですし、運ぶのも大変でしょうね。ご好意に甘えましょう」


 俺はその厚意に甘えることにした。正直これを持っていくのは能力を使えば簡単に持ち運ぶこともできるが、一応トーラス補佐官を通しているとはいえ一般人の前で晒すのはちょっと気が引けるもんだ。


「ではこのままの引き渡しということで…」

「はい。ありがとうございました」


 台車を引きながら事務室を出た。


「さて、目的のものは回収したな?」

「はい。あとはこれを研究室にまで運ぶだけ…、あっ」

「ん?どうした、カケル司令?」

「…これ、どうやって持ってったらいいんですかね?」

「それ、想定していてくれないか…」


 ちょっと考えたあと、結局は日が落ちる落ちるまで艦で待機して夜間にそのまま研究室まで直接運搬することにした。

 安直な考えだとトーラス補佐官に突っ込まれてしまったが、要は見つからなければ問題ないのだ。

 そんなわけで、素早く研究室に届けられるように艦を移動させ、数時間ほど待機した。

 そのあと、加熱炉と台車と共にクリファラン学園へ飛んでいく。一目の付かない場所で降りると、台車に加熱炉を乗せ、そのまま研究室に運び込んだのであった。


 翌日早朝、加熱炉が納品された旨を伝えるため研究室に行く。


「すごい、本当に加熱炉があります!」

「これで研究が進みますね、代表」

「はい!それに先輩もありがとうございました!」

「いやいや、俺は仲介役に回っただけだからさ…」


 購入者と仲介役が同じ人ってどうなんだか。


「それで、先輩?」

「ん?どしたの?」

「そのぉ、すごく聞きにくいんですけど…」

「うん」

「…これ、経費で落ちるんですか?」


 確かに、彼女ならその心配をしてくるだろうとちょっとは予想していた。だが、そうとは限らないのが世の中にはあるのだ。


「どうもね、ムクーティーさん経由で例の新部隊の方が寄付してくれることになったんだよ」

「えぇっ!?すごい!」


 さっきから彼女は驚いてばかりいる。

 まぁ、無理もないだろう。ここ最近は研究室全体がひっ迫されている状態だった。材料費を削られ、予算もカットされ、その上学会で明確な成果を提示しなければ研究室の存続が危うい状況なのだ。

 そんな中、連合艦隊から依頼という体をした個人的な要求が舞い込んできて、それの進捗具合も良好であるのだから興奮しないはずがないだろう。

 そんなミラは勢い余ってか、バランスを崩してしまい、俺の方に倒れこんできた。

 俺は反射的にミラのことを抱きかかえるように支える。


「きゃっ!」

「うおっと…。大丈夫?」

「…あっ!ごごごめんなさい先輩!」


 俺とミラの顔の距離がかなり近くなる。一瞬の空白ののち、ミラは赤面した状態で俺から離れてしまう。かく言う俺も、少しばかり心臓が飛び出しそうになった。


「えっへへへ…。でもうれしいです。こうして研究室が充実していくんですから」


 そういったミラは、どこか懐かしむような表情をしていた。

 早速研究室のメンバーは、仕様解説書を元に少しづつ加熱炉の使い方を学び始めていた。


 その一方で、テラル島の仮庁舎執務室ではロード演習作戦の日程調整のため、防衛連盟本部軍政官と理事会内政事務官が訪れていた。


「…では、現状はこのように日程を仮決定しますがよろしいですね?」

「はい、お願いします」

「分かりました。それでは、こちらは各部署に持ち帰って検討します」


 そうして二人は執務室から退室する。


「いやぁ、疲れた…」

「そう言われても、言い出したのはカケル司令だからな」

「そうですけどねぇ…。はぁ、政治活動も簡単じゃない…」

「防衛連盟加盟国の全てを周る上、会合を行うんだから予定の調整は綿密に行わないと大変だからな」

「なんでこんなこと始めちゃったかなぁ?」

「今さら後悔してもしょうがないだろう?」


 悲しいかな、自分が始めたことで首を絞める行為に至っている。だが、こうなってしまった以上しょうがない。

 今はロード演習作戦遂行のために、次の建造計画の概要を作成しないと。今回から、艦艇の建造を行う場合は防衛連盟本部に対し、その旨を通達しないといけなくなったのだ。とは言っても、艦艇の名前、概要、必要な人員を報告するだけの比較的簡素なものである。

 一応連合艦隊は防衛連盟理事会直轄の組織であり、運用を防衛連盟本部に委託している。そして連合艦隊制定法では、連合艦隊の指揮権を連合艦隊司令部へ全面的に譲渡しているのだ。

 つまり実質的な連合艦隊の最高指揮官は俺であるが、組織で見てみれば本部が管轄する部隊であるため、定期または不定期の事務報告をしなければならない義務が発生する。正直ここの関係が面倒くさい。

 まぁ、成り立ちが異質だったことも原因の一つかもしれないが。


 その後研究室では、新しい魔力加熱炉を使いながら、鉄鋼材料の試料作成に勤しんでいた。どうやら進捗の方はいい感じに進んでいるようだ。


「だいひょー。33番のやつ、ちょっとデータうまく取れなかったんで予備作ってもいいですかー?」

「33番ですか?予備まだ2本ありましたよね?」

「それが降伏点の数値が乱れてるんで、確認のために使ったらヤング率もバラバラになっちゃったんですよー」

「えぇー?…うーん、ちょっと今は別のやつ焼結してるんで時間かかりそうですね」

「いつだったら大丈夫そうですか?」

「そうですねぇ…。だいたい5時間後ってところですかね」

「徹夜確定じゃないですか、やだなー、もー」

「まぁ、頑張ってくださいとしか…」

「レイバース、作製手伝ってー」

「嫌に決まってんだろ。なんで自ら懲罰受けに行かなきゃいけねぇんだ」

「そんなこと言わずにさー。それに一人だと危険だし?」

「だったらファーロンに頼め。あいつなら飯奢らせるだけでホイホイ来るだろ?」


 そんな感じで緩い空気が研究室内を流れていた。しかし、研究のほうはキチンと進んではいるようだ。

 そんな時、今まで紙に向かって何かを書いていたミラが顔を上げた。


「あっ、先輩。資材の在庫が減ってきたので、調達のほうお願いしてもいいですか?」

「おう、分かった」


 俺は二つ返事で了承したが、ふとある考えが頭の中をよぎった。


「ミラ…。ちょっとした疑問なんだけど」

「なんでしょう?」

「監査委員会を通さずに、俺に資材調達依頼しちゃっていいの?」

「…あー、それは…」


 そういうと彼女は若干視線を逸らす。


「まぁ、なんというか…。監査委員会からは既に研究費削減を言い渡されているので、どうにかしてやりくりしないといけないので…。えへへ…」


 確かに見方を変えれば、監査委員会に財布の紐を握られている状態だ。そうなれば使えるなら擦り切れるまで使おうと思うのは、当然の摂理だろう。

 俺は少し長い溜息をつく。


「分かった。必要なものをリストアップして、俺に渡してくれ」

「ありがとうございます!先輩!」


 パァと広がったミラの笑顔が俺に向けられる。俺は無意識に顔を背けそうになった。

 本当に心臓が飛び出しそうになるし、顔に出そうだから困る。いや、ちょっとかわいいからいいけど。

 なお、翌日には資材を全部揃えた俺であった。

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