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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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35海里目 数多の協議

 防衛連盟表意訪問から、おおよそ1ヶ月の時間が流れる。この時間で俺は、吹雪型駆逐艦4番艦の「深雪」を完成させ、公試まで終わらせた。

 それ以外にも、待ち望んでいたものがようやくやってきた。「白雪」の乗組員となる補充の隊員である。彼らには「白雪」へ配属させ、他の隊員から指導を受けるように指示した。もちろん俺から事前に説明済みだ。


 そんな中、講義のほうはいよいよ佳境を迎える。

 俺たち候補生は動きやすい服装に着替え、グラウンドに集合していた。


「全員集合しているな?本日は野外での最終試験を行う」


 教官はこう切り出し、その内容を伝えた。今日は学園の周囲を3周走るというものだ。ここ数週間は座学以外に野外訓練を行っており、その一環としてマラソンを試験にしている。

 しかし、たかがマラソンとあなどってはいけない。その総距離は15kmを超え、これを45分で完走しなければならないのだ。条件はかなり厳しいものだろう。

 俺も野外訓練は極力だが、能力を使わないようにしてきた。そう、極力である…。決して手を抜くために能力をランニングの補助に使っていたわけではないのだ…。

 そんなことはさておき、候補生たちはグラウンドの隅のほうで一列に並ぶ。


「では、用意…始め!」


 教官の合図で一斉に走り出す。

 長距離ではあるが、ハイペースで走らないと時間に間に合わない。これまでの訓練で体力はついたとは思うが、それでも不安はぬぐい切れない。

 グラウンドを出て、敷地内を駆け抜ける。俺は上位集団に入る位置に食い込んでいく。そして俺の後を追うようにウォルシュタインがピタリとつけていた。

 敷地内を一周もすれば集団は伸び切りきり、少しずつ差が生まれていく。そんな中俺は、10番に入れる位置を一定の速度で走り続けていた。一方ウォルシュタインは、だいぶ後方を走っている。


 30分後、自分のペースを守っていたおかげで、俺は全体のうち7番でゴールした。


「全員制限時間内に完走したな。以上で野外での最終試験を終了する」


 その翌週は座学の総集として、学科試験を受ける。これも問題なくパスした。

 こうして俺は、無事に予備役士官教育課程を修了した。この日はクリファラン学園の講堂で修了式が執り行われた。


「ここにいる全員が、無事に予備役士官教育課程を終えられたことを、私は嬉しく思う…」


 いつぞやの日と同じように、クリコール・グライディン少将が演説を行う。

 その後は、課程を修了し予備役士官に在籍することを示す「防衛予備士官信任章」を授与された。

 これで俺のクリファラン学園での生活は終わり…ではなかった。


「先輩、相談したいことがあるんですけど…」


 そう、研究室のことである。いよいよ研究に本腰を入れるときが来たのだ。


「…ぱい?先輩?聞いてます?」

「え?あぁ、すいません。ちょっと考え事を…」

「んー…」

「…どうしました、代表?」

「いえ。前から思ってたのですが…その、先輩の話し方ってどうにかならないですか?」

「と、言うと?」

「なんというか…しゃべり方が堅苦しい感じがするんですよね。もっとフランクに話してくれてもいいんですよ?」

「いやぁ。代表ですから、そんなこと言われても…」

「それですよ!先輩は私の先輩なんですから、代表とか関係なく気軽に話してくれればいいんです!」

「あー、うん…。じゃ、じゃあこんな感じでいいかな、ミラ…?」

「はい、先輩!」


 ミラは満面の笑みを俺に向けた。

 やばい。急にそんな笑顔を向けられたら心が惹かれてしまうじゃないか。


「えっと、それで相談ってのは?」

「あ、そうでした。実はですね、ちょっとした問題が発生しまして…」

「問題?」

「はい。トルカチョフ研究室の設備の一つに魔法加熱炉があるんですが、この加熱炉はだいたい1000℃が上限なんです。ですが、いろいろ調べていると、どうやら1500℃まで加熱する必要が出てきたんです」

「うーん、なるほど」

「今は研究室のメンバー総出で当てを探しています。先輩も探すのを手伝ってほしいんです」

「分かった。何かあったらすぐ連絡するよ」

「はい、お願いします」


 教育課程を修了した身である俺は、クリファランで生活するための住居がない。そのため週2,3日ほどは研究室に泊まり、そのほかはテラル島へ戻る生活をしている。

 この日はテラル島に戻っていた俺は、魔法加熱炉について思考を巡らせていた。


「加熱炉って、確かセラミックが使われてるんだよな…」

「突然どうしたんだ?」


 いつの間にか執務室にいたトーラス補佐官が俺に聞く。


「いや、研究室で1500℃まで加熱できる炉が必要になったそうで、どうしようかなと思ってたんです」

「なるほど。そういうことなら、心当たり無いわけではないが…」

「えっ、ホントですか?」

「っと、その前にこの書類に目を通しておいてくれ」

「なんでもったいぶるんですか…」


 そう文句を言いながらも、書類に目を通していく。最近は防衛連盟加盟国から会合を行いたいといった内容の文書をよく受け取る。こうも何通も来られると無視はできないなぁ。

 というか、むこうからわざわざ来てもらうには場所的に不便としか思えない。それならこちらから出向いたほうが早いだろう。それなら隊員の訓練も兼ねて各国を訪問していったほうが双方ともに有益なのではなかろうか。

 そうなれば話は早い。早速トーラス補佐官に相談だ。


「…というのを思いついたんですけど」

「ふむ。確かにそれはありだな。こちらでも検討してみよう」

「お願いします。それで加熱炉の件については?」

「あぁ、そうだったな。心当たりというのは、ヒルノ海上国家にある『アンデルト』という工業都市なんだがな。そこで何回かお世話になったことがある方が陶器全般の製造をしている。そこなら、目的の物が手に入るだろう」

「アンデルト…」

「一応こちらから連絡は取ろう。名義はトルカチョフ研究室のほうがいいか?」

「うーん、連合艦隊でもよさそうですけど…」

「しかし連合艦隊の司令として行くなら、書類申請が面倒になるぞ」

「あー…そっかぁ…」

「どうする、司令?」


 トーラス補佐官の問いかけに、俺はうなってしまう。

 少し考えた後、俺は結論を出した。


「連合艦隊として行きましょう」

「いいのか?」

「まぁ、こういうコネクションってのは後々効いてくるものですから」

「そうか。ではそのようにしておこう」

「はい」


 後日、トーラス補佐官に提案した各国との訪問会合について、防衛連盟理事会から通達があった。各国を訪問する連合艦隊の行動は、緊急時を除き訓練であることを示す旗を常に掲げる場合に限り許可されることになった。

 そして、防衛連盟理事会はこの行動に対し要綱を作成するよう指示をする。


「…そういう訳なので、今日中に決めちゃいましょう」


 仮庁舎執務室の隣にある会議室に、トーラス補佐官とジェイル大尉、「深雪」以外の艦長を招集し、話し合いを始めた。


「まずは、今回の連合艦隊による一連の行動を『ロード演習作戦』と命名します」


 この名前は、ドイツ海軍が行った「ライン演習作戦」に因んで命名した。ただし、あちらが通商破壊作戦だったのに対し、こちらは本当の演習である。


「まぁ、これに関しては我々が口を挟むことはないだろう」

「そうですね」

「わかりました。では次はですね、どの国から訪問していくかを決めていきたいんですけど」

「近いところからでいいのでは?」

「ではリクア共和国から順に回っていく感じですね」


 ここまで何事もなく順調に進んでいく。

 だが、ここで少し話が中断した。


「司令、質問よろしいですか?」

「どうぞ」


 質問の主は「白雪」艦長のルクシュー少佐だ。


「おそらく、今回の演習作戦ではテラル島に帰港せずに回っていくと思うのだが、燃料等の補給はできるのでしょうか?」

「確かにその心配はあるなぁ…」


 現在、駆逐艦に対する燃料補給は埠頭に設置している「魔力燃料加圧貯蔵タンク」によって外部から供給できるような仕組みを構築している。そのためテラル島周辺ならば問題なく航海できる。

 しかし外洋に出て、しかも他でこの技術を利用している場所などない。シドラール国からヒルノ海上国家へ向かった時には十分な燃料があったし、時々俺が直接燃料を注入していた。

 しかし、今回は4隻が同時に行動する。そうなれば燃料などの問題は避けられないだろう。


「これに関しては、後々対処しましょう」

「よろしくお願いします」


 その後は順調に話が進み、約2時間ほどで終了した。


 週末になり研究室から戻った俺は、軍服に身を包む。午前中のうちにテラル島を出発して、ヒルノ海上国家に向かった。

 この日はサージ港ではなく、直接アンデルトに向かった。アンデルトは工業都市であるがゆえに、すぐに工業製品を輸出できるように港が併設されているのだ。

 アンデルトの港にはすでに連絡していたため、比較的楽に入港できた。

 トーラス補佐官の案内のもと、工業団地の一角に建てられたような町工場に向かう。案内された場所は、一見すればただの倉庫のような建物である。


「本当にここですか…?」

「まぁ、初見はそう思うだろうな。だが腕は確かだ、そこは期待していい」


 トーラス補佐官はそういって事務所のドアをノックする。

 数十秒ほど待つと、中からいかつい男性が出てきた。


「どちらさん?」

「どうも、モンドローさん。ジンブルグです」

「おぉ!中佐殿!突然の連絡を受けたものだから何事かと思いましたよ!」

「少し入用でしてね。本来の依頼者はこちらの方だ」


 二人は楽し気に会話したあと、トーラス補佐官は俺を紹介する。


「あ、どうも…。連合艦隊司令の海原です」

「ほう、こりゃ若いお方だ。とにかく中へどうぞ」


 モンドローさんに案内されて、中へと入る。ごく一般的な事務室のような場所だった。

 部屋の中央におかれたソファに座るよう、指示された。言われるがまま座ると、早速話が進んでいく。


「それで本題に入りますが、うちは何を作ればよろしいのでしょう?」

「まぁ、簡単にいえば魔法加熱炉の容器なんですけど…」

「加熱炉…ですか。ちなみに大まかな仕様などは?」

「最高温度が1500℃出るものが良いんですが…」

「1500℃ですかぁ?うーん、多分できなくはないとは思いますがね…」

「何か引っ掛かるものが?」

「えぇ。ちょっと待ってください」


 モンドローさんが席を立ち、本棚に向かう。そこで一冊の分厚い本を取ると、ページをめくりながら戻ってきた。


「うーん…。要求した仕様は満たせるとは思いますが、ちょっとアルミナが、どこも材料不足でしてね…。いつ出来上がるか見当もつかないんですよ」

「そうですか…」

「今は戦時下だからな、次第に物資は不足していくものだ」

「ただうちは受注生産でして、ついこの間発注された製品を納品してきたんです。なので優先的に生産が可能です」

「しかし資材がないとなると、優先的とはいえ時間がかかるものでしょう?」

「えぇ、今一番のネックです」

「ふむ…、わかりました。足りない資材のリストを用意してください。こちらで揃えます」

「え、本当ですか?」

「はい。今すぐにでも用意しますよ。その分報酬も支払います」


 モンドローさんは驚いた様子で、俺を見る。


「ちょ、ちょっとお待ちください!すぐに確認しますので!」


 そういってモンドローさんは事務室を飛び出していった。


「司令、いいのか?」

「えぇ、大丈夫です。500kgまでなら問題ないですから」

「いや、そちらではなくだな…。うちの予算はギリギリで、追加報酬払えるか分からないぞ」

「そっち?」


 それまた考えなきゃならない要素が増えてしまったようだ。

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