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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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33/115

30海里目 進展はあらず

 早いもので、今週もあっという間に過ぎ去っていった。

 研究室のほうはあまり良い感じではないようだ。探している論文が見つからなかったり、材料が集まらなかったりと、いくつかの問題が積み重なっている。

 一方で訓練内容は大方固まってきた。連合艦隊に所属する隊員は、今のところ数十人と少ないため、まずは全員に操艦から艦砲射撃及び水雷の方法を学んでもらうことにした。そこからそれぞれに持ち場を与えることにする。

 それに伴い、自分が扱い易いように作った兵装のシステムに若干手を加えることになるだろう。

 そのほかに、次に建造する艦艇を決定した。教育課程が修了するまでに吹雪型駆逐艦の「初雪」と「深雪」を完成させることを目指す。だが建造用のドッグはまだ完成していなかったから、まずはそちらをこしらえるのが先だ。


 週末に差し掛かった日、研究室で準備をしていると用事で外に出ていたミラが戻ってきた。

 どうやらあまり良い気分ではないようだ。


「ミラさん、どうしました?」

「…実は、研究室監査委員会から通告がありまして、研究資材のカットが決定しました」

「それってつまり…?」

「今回の研究で使う予定だった追加分の鉄鋼の発注が無しになりました…」

「…マジですか?」


 これは一大事である。

 研究で使う予定だった鉄鋼が来ないとなると、研究が進まないのは当然だろう。そしてそれが原因で成果が上げられずに研究室が閉鎖される。

 監査委員会はこれを狙っているのだろう。近いうちに閉鎖される研究室なのだから、ここで資材のカットなど、なんとも思わないのかもしれない。


「これは本格的に方向性を変えたほうがいいのかもしれません…。あぁでも代案が見つからないぃ…」

「それだったら一つあるんじゃないですか?」

「…例の新部隊の話ですか?」

「はい。頼みの綱がなくなった今、望みのある話につなぐのは悪いことではないはずです」

「そうですけど…でも…!」


 彼女の手が固く握られる。これまで信じてきたことを捨て、にわかに信じられない話に移るのはそう簡単なことではない。


「とりあえず私は、研究を行う余地があるとして彼らに話を通してきます。ミラさんは交渉を続けてみてください。それでも駄目なら、こちらに方針を変えることも考えましょう」


 彼女は俯きながら頷いた。俺にはその気持ちはまだ分からないだろう。


 少しばかり時が経ち、週末。テラル島に戻った俺はすぐに行動を起こす。

 まずは隊員に本格的な訓練を施すことにする。

 さっそく隊員を「吹雪」の前に集めた。


「これより吹雪型駆逐艦の戦闘訓練を開始する。まずは駆逐艦の主砲を扱ってもらう。こちらにあの主砲と同じ砲塔を用意した」


 埠頭の片隅に50口径12.7cm砲の砲塔と同じものを、能力で生成させた。


「これに必要な人数は3名。砲塔内の責任を持ち、伝令の役割も担う砲塔長。砲の旋回、仰俯角を操作し、場合には測距を行う測距手。主砲の装填、射撃をする射撃手。以上を全員にやってもらう」


 まずは自分が扱い方を教えて、実際にやらせる。それぞれの操作は単純化していて、割と簡単に使えるようにしている。

 例えば測距手が担当する砲の旋回はレバー操作で直感的に扱えるし、装填は尾栓に直結している魔力伝達パイプから魔力が供給され薬室内で直接砲弾と弾薬が生成される。

 この方式だと兵器としてどうなんだと思われるが、兵器として使えているのだから問題ないだろう。


 全員が操作の仕方を知ったところで、一旦昼休憩を挟む。午後からは、3人1組になって実践形式で訓練を行った。今のところはこれで十分だろう。

 これを次の週末に戻ってくるまで行うようにトーラス補佐官に頼んだ。


 その夜、溜まった書類の整理をする。先週より量は減っているから気分は楽だ。

 今週は比較的重要な書類がある。ヒルノ海上国家とテラル島を結ぶ定期船の運航に関する書類だ。今は、テラル島のインフラや施設の建築に必要な資材を運搬する特別運航船が出ている。これに便乗して人やこの書類などが移動しているのが現状だ。自分もこれに乗ってクリファランと行き来するため、度々お世話になっている。しかしいつまでもこれに頼っている場合ではない。そのため定期船が必要になってくるというわけだ。テラル島はあくまでも軍用施設が多く存在する場所であり、かつヒルノ海上国家からもそこそこ離れていることから1日1往復が予定されている。

 俺はその書類に目を通し、サインをした。

 そのほかにも、兵員の拡充に関する書類も届いていた。現在は防衛連盟軍から有志を募っているところで、これの定員に満ちなかったときは退役軍人に召集をかけたり、民間人から募集を集めたりするという。退役軍人ならともかく、民間人からというのはあまり気が進まない。それにどちらからも人が来ても、一から教育を行わなければいけないのは確かなことだ。


 翌日、ほぼ島の反対側にある造船施設の予定地に向かった。ここには艦の整備に関係する設備や造船所の機能を持った施設をまとめて配置する予定である。

 案の定空中移動になるわけだが、その時に視線を落とすとテラル島のインフラ整備を行っている業者が見える。彼らを見ていると、こんな辺境の島で工事を頼まないといけないことに若干の罪悪感を感じるし、どこからともなく予算の溶けるような音も聞こえてきそうだ。

 造船施設建造予定地に到着すると、大体の大きさの検討をつけて作業を始める。ドックは掘削すればいいし、船台も若干の傾斜をつけるだけなので、今日は気楽でいい。クレーンやその他必要な設備は、その時になったら増設することにしよう。


 夕方になる前には仮設庁舎に戻れた。

 そういやこっち側は泊地として使う予定だけど、燃料の補給とか出来る程度の設備も構えておかないと。今あるのは仮設の簡易設備だからな。

 体の汚れを落とし、執務室に戻って書類を確認しているときに気付いた。


「…反抗作戦の大綱、全然考えてない」



 週末も終わり、朝早くにクリファランに戻った。俺はそのまま研究室へと向かい、先週末に言った新鉄鋼の研究と称して艦船用鉄鋼材料の製造を確立するための準備をする。

 そう言ったが、単純にニッケルやモリブデンなどの塊を生成して研究室の片隅に置いておくくらいだ。

 準備が終わると、同時に研究室の扉が開く。俺は部屋の奥にいたため入り口は直接見えなかったため、壁越しに盗み聞きするように移動した。入ってきたのは、ミラと初めて研究室に訪れたときに会った男性だ。二人はどうやら何か言い争っているようである。


「少しだけ、もう少しだけですから!」

「ですから、もう何度も言ったでしょう」

「それでもですよ!これさえ何とかできれば研究室は!」

「残念ですが、すでに他の心優しい研究室に話をつけて転属させてもらっています。今日来たのも荷物を取りに来ただけなので。そもそもあの男の提案は信憑性に欠けるでしょう?」

「そ、それは分かってますけど…」

「代表、あなたが研究室にどれだけこだわろうとも、これまでの努力は無駄になるんです」

「そんな…」

「あと最後の親切心で教えますが、グリーヴァとフェンリルも近いうちにここを離れますよ」


 ミラは完全に固まってしまう。それを片目に男性は自分のデスクから本や小物などを回収すると、そのまま出て行っていった。

 研究室は重苦しい空気に包まれる。俺もその空気に飲まれ、動けなくなってしまった。

 しばしの静かな時間が過ぎるも、その均衡を崩すように床に積まれた本が倒れる。どうやら俺が足を引っかけてしまったようだ。

 その音は確実にミラの耳に届いたようで、驚いたようにこちらを見つめた。


「…先輩、聞いてました?」

「不本意ながら。すいません、盗み聞きするような真似をして」

「いえ、いずれこうなると思ってましたから…。これでトルカチョフ研究室は5人になってしまいました」


 今の彼女にはいつものような元気さは感じられない。

 これまでに彼女の身に降りかかった出来事を考えてみれば明瞭である。


「それに、この間の交渉の件も決裂しました…。先輩の提案に乗るしかないかもしれません…」

「それは仕方のないことです。一応準備はしてきました。…あとは代表の判断次第です」

「…ええ、分かってます。ちゃんとしなきゃいけないことも…」


 彼女は一瞬躊躇いを見せたが、邪念を振り払ったような決意に満ちた表情をしていた。


「やりましょう、もう後はありませんから」


 こうして新たな研究がスタートしたのであった。

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