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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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31/115

28海里目 邂逅が二つ

 クリファランでの生活も、早1週間を過ぎた。

 やることは基本的に座学が中心であり、外での活動はほとんどない。

 この教育課程では候補生は全寮制で週末は一時帰宅が認められている。俺はこの週末を利用してテラル島へと戻っていた。


「お帰り、カケル司令。早速だが司令宛ての書類があるぞ」


 仮設庁舎の執務室に入るなり、これである

 嫌な予感はしていたが、こうも書類の確認に追われるのはいい気分ではないな…。

 ふと窓の外を見れば、そこには吹雪型2隻の艦影と水平線が広がっている。もう少し島の内部に入ったところには現在建設中の連合艦隊本部庁舎があり、現場は活気に満ちていた。

 本部庁舎は比較的簡易な構造を採用して、建設期間は1年半ほど。その他の施設も1年はかかるようだ。期間が長いなと感じたが、多分俺の感覚が麻痺してるんだなとも思った。


 そんな感じで書類のチェックを進めると、一つの気になる文書があった。


「防衛連盟軍総合参謀本部作戦課から…?」


 この前見たグライディン少将とダリ中佐がいるところか。


「えっと…『連合艦隊によるバンイ帝国及びクレイル連邦領域への反攻作戦実施に向けた大綱作成について』…」


 少々面倒な書類が届いたものだな。おそらく前に行われた兵棋演習の結果に基づいているのだろう。実際、連合艦隊を最強の矛として使い、防衛連盟軍は盾として守りに徹するという戦略をとる趣旨が記されている。

 その戦略はいいとして、問題は連合艦隊としてどの艦艇を配備するかである。以前考えたように、攻勢をかけるのなら重巡や戦艦中心の編成が好ましい。しかし軽巡や駆逐で構成される水雷戦隊の機動性や汎用性は捨てがたい。偵察などは水雷戦隊や空母が担ってほしいところだが、艦載機の開発にはそれこそゼロからの出発になるだろう。

 しかしあれもこれもと考えても、予算の都合には敵わない。艦艇を1隻建造するだけで、現代の日本円で何百億もの費用がかかる。正直そんな簡単に造ることは出来ないのだ。

 予算を考えなければ、防衛連盟加盟国にある製鉄所や造船所に全面的な協力を求めたいところだ。だが残念なことに、こちらの要求を満たす場所は一つもない。この世界には、あってほしい知識も技術も設備もないのだ。

 なら自分が全てを受け持てば良いとも思うが、これも現実的ではない。以前「白雪」を建造したときは、限界ギリギリで半日程度だったことから、仮に2週間で駆逐艦1隻建造出来るとする。すると1年で24隻出来ることになる。しかし本命は重巡・戦艦であり、それらを一から作るには「吹雪」建造時のように試行錯誤の嵐だろう。特に戦艦はもとからデカいから、建造にあたっては「吹雪」の時のそれとは比べ物にならないはずだ。

 結局のところ、同盟加盟国各地の製造所と協力体制を敷かなければならないのは変わりようのない事実である。


「知識、技術、設備が必要不可欠…かぁ」


 それらを提供できる場所がどこかにあるのが望ましいが…。


「…あ、あそこあるじゃん…」


 ポッと頭の中に思い浮かんだ。一つだけそれが可能な場所があると。

 それこそ自分が身を置いているトルカチョフ研究室だ。週明けにでも相談しに行こう。

 しかし研究室で理論を打ち立てて、それを一般の技術として利用すると考えても、あと10年はかかりそうだ…。


 とにかくこのことは念頭に置いといて、なるべく早く考えよう。

 週明け、再びクリファランに戻ると、座学の日々が始まる。


「…本日の講義は防衛連盟軍で採用されているドラゴンについてである。現在軍にいるドラゴンは長距離飛行が可能で持久力の高い種の『レイルアドリゲル』が多く登用されている。その他に種としては5種おり、これらは5大竜種と呼ばれ、ドラゴンとして最も家畜化に成功した種であることは周知の事実だろう。5大竜種が家畜化された経緯は魔法生物学に譲るが、簡潔に述べるならば未だ分からないというのが最新の研究での見解である。一説によれば大厄災によって、ドラゴンの祖先にあたる生物がなんらかの突然変異を起こしたことが要因とも言われている。余談はここまでにして、ここからはレイルアドリゲルを用いた戦略行動について解説していくことにする…」


 こんな風に講義が進んでいく。

 一日の講義が終了し、今日は放課になる。荷物をまとめていると、数人が自分に絡んできた。


「やぁ、リーと言ったね?」

「…そうですけど」

「このあと時間はあるかい?少し付き合ってほしいんだけど、いいかな?」

「まぁ…構いませんが…」


 荷物をまとめ、彼の後に付いていく。自分の横と後ろは彼の従者とも受け取れ、その顔は薄笑いの表情を浮かべていた。

 数分後に連れていかれたのは校舎の中でも特に人気の全くない場所だ。


「さて本題に入ろうか」


 壁を背にして彼らに囲まれてしまった。これは俗に言ういじめられっ子が陥る布陣だ。


「僕のことは誰だか分かるかな?」

「いえ…」

「そう、それなら教えてあげよう。僕はハーゼン伯爵ウォルシュタイン家次期当主のアルノルト・ハイズ・ウォルシュタインだ。以後お見知りおきを」


 道化師のように大げさな仕草をする。


「僕はこの通りだが、さて君はどこの貴族かな?」


 確か、この場合の設定は…。


「私はランスエル公国のリー家…」

「本当にそうかい?」

「え?」

「僕が知っている限りだと、君の家系は聞いたことがないんだよ。おかしな話だよね?」


 どっと脂汗が流れる。自分のウソがバレているのか?


「そ、そうですかね?遠い親戚の養子に入ってますし、分からないのも無理ないんじゃないですか?」

「いや、今も過去も知らないし、聞いたことないっていう情報もあるんだよ」

「それは、元々家系としてはとても小さいほうでしたし…」

「ウソは好きじゃないなぁ。僕はこんなにも君のことを気にかけているのに…」


 彼は劇団員かの如く、オーバーリアクションで受け答えする。

 非常に面倒なことになった。どうにかして穏便にここを切り抜けたいが、うまく思いつかないのが非常に腹立たしい。


「気にかけるといえば…。最近気がかりなものがあるんだ」


 よく分からないテンションのまま、急に話題が変わった。


「曲がりなりにも、ここにいるなら君も耳にしているはずさ。防衛連盟内に新たな部隊が設立した話さ」


 再び緊張が全身を包む。明らかに連合艦隊のことだ。


「なんでも流浪者がトップに立ったらしいね。…単刀直入に言えば、僕は彼のことが気に食わないんだよ」


 本人を目の前にして、なかなか辛辣なことを言う。


「いや、彼だけじゃない。流浪者全員のことが気に食わない。だって考えてごらん?彼らは外界総合規定によってほぼ無条件で爵位を授与される。中には爵位の昇格を複数回行う者もいるくらいさ。たった数十年の時間で、ウォルシュタイン家が積み重ねてきた300年以上の歴史に劣るのがどうしても許せない…!」


 彼の本音が飛び出した。確かにその考え方もあるだろう。これまで名誉と地位を守るためにあらゆる手を尽くしてきたであろう彼らにとっては、この外界総合規定の制度は純粋な貴族の反感を買うところもあるはずだ。


「そしてあろうことか、父上はその流浪者に一つの親書を送ってしまった。…僕の最愛の妹を花嫁として迎えてほしいという内容でね」


 あぁ、そうだ。あのお見合いの打診が入った親書にあった気もする。いや、人名は読みづらいがな。


「まぁ、その話は置いておこう。今はあまり関係ないことさ」


 彼はその動きを止め、こちらに向き合う。


「まずは君からだ。これからどうしようか?」


 まわりの取り巻きに小声で指示を飛ばす。どうやら、流浪者と自分の姿を重ねることで、彼自身の怒りを俺に向けおうとしているようだ。


「悪く思うなよ」

「ちょっと痛いだけだからな」


 グヘヘと言いそうな見た目をした取り巻きが、自分との距離をジリジリと狭めてきた。そこにはもはや取り繕う隙は存在しない。


 一番近くにいた一人が殴り掛かってきた。俺は思わず手持ちのカバンでガードする。

 相手はすかさず二発目を繰り出してくる。脇腹へのブローだ。こちらは咄嗟のことだったため、思わず能力を使って体の軸を回転させて捻った。これは掠りながらも回避し、このままカバンで相手をなぎ倒そうとする。しかし、勢いが足りずにガードで防がれた。

 ガードされたことで俺はよろけてしまう。そこに別の相手が下方から勢いのある蹴りをかましてくる。その蹴りは真っ直ぐ顔面をとらえていた。

 思わず右腕で受け止める。反射的な動作を取ったため、右腕に蹴りのエネルギーが集中した。

 腕の痛みと前傾姿勢によって、そのまま仰向けになるように地面に転がってしまう。


「ほぉう?なかなかやるねぇ…。けど、自分の実力を見誤らないほうがいいんじゃないかなぁ?」


 彼は近付いてくると、俺の腹部に足を乗せて体重をかける。俺は能力を使って、体へのダメージを受け流し、ひとまず苦しんでいる演技をした。


「どこぞの分からぬ地方貴族が、我が伝統と格式のあるウォルシュタイン家に勝ると思わないことだね」


 足を退けると、彼は後ろに下がりその場を去った。と同時に残った3人の取り巻きが俺を取り囲む。


「おら、立て」


 右手で胸倉を掴まれ無理やり立たされた。残った左手は拳を作り、確実にこちらを捉えている。

 だが、その拳は振るわれることはない。


 俺の右手は相手の胸元を掴み、左手は相手の右腕の肘あたりの服を掴む。体を沈みこませながらも足はしっかりと地面につけ、下半身から腰、肩を回し、相手の腕を能力も使って全力で投げる。

 背負い投げだ。

 鈍い音と共に、相手の背中は地面に衝突する。その一瞬の隙に荷物を拾いに行き、そこから逃げ出そうとした。

 しかし状況を把握した一人によって逃げ道を塞がれてしまった。

 一瞬判断が鈍ってしまい、動きが僅かに止まる。

 その隙に、横からもう一人が突進を仕掛けてきた。全体重をかけたタックルは俺を完全に捉えていたが、後方に半歩下がることで衝突を回避しつつ腕をつかむ。その時に能力を発揮し、突進してきたスピードを維持したまま回転させ、正対していた相手にぶん投げた。

 二人とも薙ぎ倒され、地面に伏してしまう。

 彼らが起き上がり、面倒なことになる前にその場を離れる。


 しばらく走ったことで息が上がる。息を整えようと立ち止まってみると、まったく見当もつかない場所に来てしまったようだ。相手から逃れるために構内を滅茶苦茶に走ったことが原因だろう。


「とにかく、研究室に行かなきゃ…」


 どこに向かえばいいか分からなかったが、適当に歩き回ればたどり着けるだろうと高を括っていた。

 息が整ったところで、荷物を持ち直して歩き出す。

 その瞬間、すぐ横にあった壁から人が抜けてきた。


「ムォォ!?」


 思わず変な声が出てしまう。

 それと同時に、その人から名状しがたいオーラのようなものを感じる。


「ん?君は誰だね?」


 白髪の生えた男性が、初めてこちらに気付いたように聞く。その直後に顔つきが若干変わる。


「…流浪者かね?」

「…はい」

「そうか…。いや私は変なことはしないさ、安心してくれ」

「は、はぁ…」


 なんだか要領が掴めない感じがするなぁ。


「それで、君はどうしてここにいるのかね?」

「あ、えーと、ちょっと迷子になっていまして…」

「そうか、だったら私の研究室に来てみないか?構内の地図を見せてあげよう。それに君個人にも聞きたいことがあるからね」


 ちょっとばかり怪しさがあったが、一応ツェニカーよりは穏和な性格であることは推察できる。それに残念ながら今は迷子中だ。俺は男性の後についていくことにした。


「じゃあ、こっちだ」


 そのまま壁の中に消えていく。


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってください!どこいくんですか!?」

「あ、すまない」


 また壁から出てきて、外の通路を通っていく。大丈夫かな、この人。

 やがて、ある建物の中の部屋に入るよう促される。

 部屋の中に入って真っ先に目に飛び込んで来たのは、本や紙の山だった。部屋の中央に置かれている、本来は会議などで使われるであろう机にも多数の本が乗っている。


「ここは…?」

「私の研究室兼自室だ」


 そういって男性は部屋の奥にある、より本や紙が積まれた個人用のデスクに座る。


「そういや自己紹介がまだだったな。私はウォルター・ホフキンス、ここで物理学の教授をしつつ、量子力学と魔法物理学の研究をしている。能力は『量子シュレディンガー』だ。君は?」

「私は海原駆で、今は偽名でリーと名乗っています。とある事情で予備役士官教育課程に通いつつ、第113研究室に配属されています。能力は『創造主クリエイター』です。…あの魔法物理学とは?あと何とお呼びすれば…?」


 俺は自己紹介と同時に二つの疑問をぶつける。

 男性は疑問に答えず、机の上をしばらくガサガサ言わせた後、一枚の紙を持ってくる。


「これが構内の案内図だ。持って行っても大丈夫だよ」

「あ、ありがとうございます…」

「さて、君の疑問だけども…」


 男性は近くの椅子に座るように促した。


「まず、私のことは教授とでも呼んでくれたまえ。それで魔法物理学の話だが…少し私の小話をしなければならないが、いいかな?」

「はい、大丈夫です」


 ホフキンス教授は一つ息をつくと、話し始める。


「…私は、この世界に来る前は量子力学の分野の研究者だった。研究以外にも量子コンピュータの実用化に向けた開発にも携わっていた経験もある。だがある日、量子コンピュータの配線ミスで私はおそらく感電死し、そしてこの世界に来た。ここまではいいね?」


 俺は静かに頷く。


「この世界に来たことで多元宇宙論は私自身で証明された。そのことを独自に論文にまとめたものが、この学園の関係者の目に留まったことで特別非常勤講師として学園に勤務することになったんだ。その一方で魔法関係の書物を読み漁っている時に魔法物理学を見つけ、それが量子力学との関係があるのではないかということに気が付いた。私はそちらに詳しい研究者の元を訪ね、量子力学を組み込んだ現代魔法物理学の基礎を作り上げたんだ」


 簡単に言えば、魔法物理学の第一人者といったところか。


「この分野での現象には興味深いところがあってね。例えば、君は魔法陣があることは知っているね?」

「ええ、はい」

「この魔法陣というのは紙や地面などに描く以外にも、人間が魔法を発動する際にもごく小さな魔法陣が空間中に生成される。もちろん個人差はあるわけで、直径が30cmある人もいれば目に見えないほど小さい人もいる。平均すると握りこぶしより小さいくらいの大きさになるんだけどね。まぁ我々流浪者は魔法発動時でも魔法陣は生成されないから知る由もないことだ。…それでこの魔法陣、実はある仮説が上がっている」


 そういってホフキンス教授は黒板に何かを書いていく。多分英語の筆記体だろう。

 ホフキンス教授が書き終わると、こちらに向く。


「この、『エドワード=ラインリッツ境界』と呼ばれるもので生成するとされる『グランツ現象』説だ。この現象は、任意の空間においてエドワード=ラインリッツ境界を発生させ、そこからエネルギー…この世界でいう魔力の放出又は吸収をしているとするものだ。有効な魔法陣が描かれていれば、境界は如何なる大きさでも如何なる場所でも発生させられる。そしてこの境界を私の能力で調べると、あることが分かった」


 すると、さらに黒板に模式図のような絵を書き連ねる。


「エドワード=ラインリッツ境界は、これまで厚さ0の平面であると考えられてきた。私自身も境界面がワープゲートのような働きをして魔力を引き出してきていると思っていた。しかし実際には、境界にはミクロな厚みが存在し、その内部ではスカラー場のようなものが形成されていることが分かったんだ。おそらく内部では、物理学における理想的な状態が発生していると推察される」


 ホフキンス教授は一息つけると、話を続ける。


「おそらくだが、この境界内部では宇宙のインフレーションが発生するよりも前の状態が再現されているのではないかと推定される。もしくは、粒子と反粒子や正のエネルギーと負のエネルギーのような互いに対となるもの同士で構成されて、その一部のエネルギーを魔力として境界の外に放出しているとも考えられる」


 なるほどと思ったが、ここで一つの疑問が生じる。


「ホフキンス教授。先ほど魔力はその境界の中から発するものだと言いましたが、自分が魔法を使った感覚からすれば、魔力は体内ないしは通常の空間内に存在していると思われるのですが、どうなんでしょう?」

「そう、その通りだ。私自身も能力を使うからそれはよく分かる。そして残念ながら答えは『分からない』だ。両者は似て非なるもので、おそらく光子フォトンと同様の性質を持っていると私は考えている。もし両者を一つの理論で説明するならば、超弦理論や、それこそ超対称大統一理論にも匹敵する膨大な仮説の打ち立てと計算が必要になるかもしれないのだ」


 ホフキンス教授の言葉に熱がこもる。それは複雑な感情が入り交じっているようなものだった。


「…話はそれてしまったが、魔法物理学とはこういうものだ。もちろん魔法に限らず、純粋な物理学もここに含まれる、興味深い分野と言えるだろう」


 その後、ホフキンス教授に別れを告げ、研究室に向かう。

 今日は密度の濃い一日だったような気分だ。思い出してみれば、実際そうだが。

 研究室に着けば、自分がしなければならないことに取り組むことだろう。

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