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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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28/115

25海里目 砲火を交える

 ヒルノ海上国家本土から南西約20kmの沖合。

 時刻は正午過ぎ。天気は晴れ。風は東北東から15kt。

 比較的穏やかな天候の中、大型の帆船が複縦陣をなして航行している。

 その左前方から飛翔する砲弾が、艦隊左側を航行していた帆船1隻を中心に降り注ぐ。そのうちの一発は見事に命中し、数秒もしないうちに喫水線付近が爆発する。


「…フブキ級砲撃、ベラッグ級に命中。命中箇所、…左舷弾薬庫。…被害、火薬に引火。…弾薬庫爆発によりベラッグ級1隻撃沈判定」


 現在行っているのは、旧日本軍において兵棋演習と呼ばれたもので、一般的には図上演習と言われている。

 先日「白雪」のもとを訪れた軍の関係者はこの日のために戦闘能力を測定するためであり、実際にクレバイルと対峙した際にどれだけ有利に戦闘を行えるかを、この演習によって確認するのが目的だ。

 今回想定した戦術は私設軍による敵地強襲。参加艦艇は私設軍から吹雪型が6隻、敵役の防衛連盟軍からエイジル級戦列艦6隻とベラッグ級戦列艦12隻の計18隻である。演習終了条件は、私設軍が防衛連盟軍艦艇を全て大破に追い込むこと、防衛連盟軍は私設軍艦艇1隻を中破以上にすることである。

 本来なら駆逐艦のみで敵地を強襲することはあり得ないことだが、実際にデータが取れるのが吹雪型しかなかったため、このような編成になっている。

 これでもデータの収集にあたった軍関係者は驚きの連続だったという。


 西側から敵地に単縦陣で突入する吹雪型6隻。一方、防衛連盟軍はエイジル級6隻の単縦陣を中核として、その両舷をベラッグ級が半々に分かれて戦列を組んだ複縦陣で私設軍を迎え撃とうとしていた。

 会敵早々、約12kmの距離で吹雪型6隻が砲撃を開始した。これにより、右翼にいたベラッグ級に命中。奇跡的にも撃沈することに成功した。


「なんと…」

「あの距離から当てるか…」


 防衛連盟軍側から感嘆の声が上がる。


「よく当てたな、カケル司令」

「いえ、偶然です。あの距離でも命中率は低いです」


 彼の言うとおり、10km以上もあれば命中率は低い。これはもともと砲弾の散布界が大きいことが要因である。陸上に配置される野砲でさえ満足に命中するものではないうえ、艦砲は艦自体の揺れや敵味方双方が常に動いていることなどがあり、さらに駆が製作した照準器の精度も命中率に大きく影響を与える。

 この照準器の精度は、実際に使用されていたものよりさらに命中率低下を招く原因になったと駆本人は考えている。


 しかし、偶然ながら命中させたことは防衛連盟軍司令部に大きな衝撃を与えた。


「一体どうすればよい?」

「彼の艦は我々よりも長い射程を持ち合わせていることは明白です」

「距離を詰めたいところですが、彼らは風上に向かって航行しています。ここは早急に転進して彼らの頭を押さえるべきでしょう」


 防衛連盟軍司令部は舵を切り、私設軍の前方に出るつもりである。その私設軍は、そのまま直進を続けて距離を保つようだ。

 私設軍は続けて射撃を行うが、それらは敵艦には命中しない。サイコロの出目が悪いようだ。

 数ターンほど進んだ時、駆はあることに気付く。


「帆船の移動速度が下がっている…」

「その通りだ。今、防衛連盟軍は方位1-2-0、風上に対しておおよそ40度に向かって航行している。遅くなるのも自然なことだろう」

「なるほど…、では少し進路を左に修正しましょう」


 再び数ターン進み、両艦隊の距離は約4kmと近付いてくる。いまだ私設軍が継続的に射撃を行い続け、次第に命中が出てくるようになった。

 この時点で、私設軍は吹雪型6隻全て健在。防衛連盟軍は撃沈1、大破1、中破2、小破4となっている。


「むぅ、これはなかなかのものだな…」

「速力も砲撃も劣っている我々にはどうすることも出来ません」

「そうだな…。参謀、どうすれば良いと思う?」

「…そうですね、このまま近付くことが出来なければ、反撃はおろか退却もままならないでしょう。そうすれば、我が方の敗北は必至です」

「何か考えてはあるのかね?」

「ここは思いきって艦隊を分けてしまいましょう。艦艇数の関係上、二つに分かれることになりますが、肉薄すれば勝機は見えてくるはずです」

「彼の砲撃は強力であろう?」

「ですが砲の数はこちらが圧倒的に上です。量で攻めれば、まだ可能性はあります」

「…分かった、その可能性に賭けてみよう」


 このような決定をした防衛連盟軍は、私設軍と同航するアルファ艦隊と後方に回るベータ艦隊の二つに分けた。

 その様子を見た駆は内心驚いた。そんなことをしても良いのかと。だが彼らにしてみれば、駆が造った近代艦船は常識の範疇を越えた代物であり、その衝撃度は二つの艦隊に分けることなど霞んで見えるほどなのだ。

 駆はこれまで同様、前方を進むアルファ艦隊に対して距離をとって砲撃するため、徐々に進路を北に向ける。

 だが…。


「カケル司令、その方向は無理だ」

「え?何故です?」

「その先には暗礁がある。ここは軍艦であっても航行不可だ」

「距離を保ったまま迂回するのは?」

「少し厳しいな。この暗礁はヒルノ海上国家の近くまで広がっている。迂回すれば、二手に別れた防衛連盟軍に挟み撃ちされかねない」

「…となると、防衛連盟軍に接近戦を仕掛けないといけない…と?」

「そうなる」


 ここまで接近せずにアウトレンジで撃破しようとしてきた駆だが、その戦術はここで捨てなければならないようだ。

 駆は少しばかり名残惜しそうな顔をした。だがそうとも言ってられない状況が目の前に広がっている。


「分かりました。では取舵で前方を進む艦隊に近付きましょう」


 私設軍の艦隊は暗礁の縁に沿うように航行する。私設軍が大きく方向転換したため、速度に劣る防衛連盟軍のアルファ艦隊がちょうど丁字になる位置をとることに成功した。


「さぁ、反撃の時間だ」


 エイジル級とベラッグ級の砲が火を噴く。圧倒的物量による砲撃が吹雪型を襲う。だが、約1kmの射程でも砲弾が当たることはほとんどなく、当たっても鋼鉄の装甲によって目立った損傷は得られなかった。

 逆に近距離まで接近した吹雪型は主砲から射撃される榴弾によって、舷側を貫通した砲弾が内部で爆発を起こし、次々と大破判定を得ていく。

 ここまでの損害は、私設軍が小破2のみ。防衛連盟軍が撃沈6、大破6、中破3、小破3となっている。アルファ艦隊に限って言えば、中破になっているエイジル級1隻を大破以上に持ち込めば、アルファ艦隊は壊滅状態になる。

 そのアルファ艦隊を、速力に勝る私設軍が後方から回り込み、大砲がほとんどない艦尾側から砲弾を叩き込む。

 至近距離から放たれた榴弾は艦尾から艦首に向けて貫き、艦内を爆風で満たす。

 これにより残っていたエイジル級戦列艦は撃沈判定となり、アルファ艦隊は全艦が大破以上の判定を受けた。


「残るは半分の9隻になってしまったか…」

「如何しましょう?我らは未だ彼の射程の範疇です」

「うむ…。これまでの彼らの行動を振り替えると、あまり遠くには行きたがらないように思える。おそらく彼らは南へ転針し、我々の手の届かぬ所から攻勢に出るだろう」

「では…」

「我々はこのまま北へと進む。上手くすれば反航戦に持ち込めるだろう」


 その考察通り、駆は取舵反転して迎え撃とうとした。その間に防衛連盟軍のベータ艦隊は北進し、再び私設軍が丁字で不利になる。

 ベータ艦隊の攻撃が始まる。その距離は2km強と防衛連盟軍としては射程ギリギリであるが、とにかく撃たなければあっという間に壊滅する。

 防衛連盟軍の猛攻により、私設軍はすぐに転進するかと思われた。しかし、反転するどころかむしろベータ艦隊の方へと突っ込んでくる。


「カケル司令、遠距離から攻撃出来るのにわざわざ接近するのはどうなのだ?」

「いいんです。このまま肉薄します」


 駆がしようとしてるのは、かの有名なトラファルガーの海戦でネルソン提督が行ったネルソン・タッチである。

 ベータ艦隊の側面を私設軍の艦隊が横切ろうとする。しかし舵の切る方向が足りなかったために、私設軍は再び防衛連盟軍の後方に出た。

 この時点で残りの防衛連盟軍の残存艦艇は中破3隻のみだ。

 あとがなくなったベータ艦隊は私設軍と同航戦となるように面舵を切ろうとしたが、その方向には暗礁があるため逃げるに逃げられない。

 ベータ艦隊が取舵を取る間に私設軍は完全に後方を確保。逆に有利な丁字にすることが出来た。


「とどめです」


 1kmもない距離から発射された砲弾が残ったベラッグ級に襲い掛かる。防衛連盟軍は成すすべもなく大破及び撃沈判定を与えられた。


 これにて私設軍と防衛連盟軍による兵棋演習は終了した。最終的な結果は私設軍が小破2隻、防衛連盟軍が撃沈10隻と大破8隻となり、私設軍が勝利となった。

 今回の演習は双方に良い結果をもたらした。私設軍は技術力の向上や対帆船戦闘のやり方など、防衛連盟は有効な遠距離攻撃兵器の必要性などである。


「データ不足や多少のハンデがあったものの、こうして君は勝利を得た。これは我々防衛連盟にとって有益なことだ。これからも大変なことがあるだろうが、頑張ってくれたまえ」

「ありがとうございます」


 防衛連盟軍の将校が駆に激励の言葉を投げかけた。

 駆にとってもまだまだやるべきことはある。だが今日のことが今後の問題に有利に働くことだろう。

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