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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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22海里目 行事

 翌朝、太陽が昇りきらない時間帯。俺は、ジェイル中尉と彼の部下である士官と第一造船工廠現場責任官のマクトフさんと他数名と共に、3号船台へと向かう。

 今日はこちらの要望通り「白雪」を進水させ、直線距離約1.5km先の「吹雪」が係留されている埠頭まで持っていく予定だ。

 船台のところまで行くと、ここの技術者や関係者がざっと見積もって百人程度がいた。また海上にも何艘かの小型船が待機している。この光景を見ると、二日前の記憶を思い出してしまう。


「朝方なのに、よく集まっているな」

「これだけの物を目にすること自体があまりないからな、一目見たい野次馬が集合だよ」


 マクトフさんの部下が後ろで話す。

 この前みたいじゃなきゃ、別に何だっていいんだが。


「では進水の準備に取り掛かってくれ。必要ならばそこの野次馬を使っても良いぞ」


 野次馬の中からどよめきが起きる。能力があるから、人手は特に必要ではないんだがなぁ。

 せっかくマクトフさんの許可も出ているから、彼らにも手伝ってもらうことにした。進水のために船体を支えている盤木を退かし、滑走台の状態を確認して、潤滑油を塗り、安全を確保する。

 さて、いよいよ進水をしようとした時に、外野がうるさくなった。何かと思えば、誰かがシャンパンを持ってきたらしく、簡単ながら進水に華やかさを出そうと思ったらしい。

 そうなれば特に断る必要もなく、折角持ってきたのだから使ってしまおうということになった。


「では、行きますよー」


 艦首でシャンパンを片手に、安全確認を兼ねて外野へ呼びかける。それに応えるように歓声が上がった。


「せーの!」


 掛け声と同時に振りかぶって、ビンの側面を艦首にぶつけた。

 ビンは見事に割れ、中身のシャンパンが飛び出した。と、同時に滑走台を止めていたトリガーを外す。重力に従って「白雪」を乗せた台は、艦尾から海へと突っ込んでいく。

 大きな損傷もなく、海面に浮かぶ「白雪」。無事に進水できた。

 手早く滑走台を回収し、「白雪」へ飛んで乗り込んだ。ジェイル中尉一行は用意していた小型船で後を追うとのことなので、俺は能力を使って「白雪」を動かす。

 このまま曳航状態で行くことになるが、一応案内役を付けると事前に連絡があり、この役目に数日前に出会ったあの外輪式の連絡船が当てられた。これの案内によって、「白雪」は何事もなく「吹雪」の横へ移動したのだった。


 この時点で時刻は朝の6時過ぎ。本日は成弘親王の見送りの予定があり、それが午前9時にある。ここからそう遠くないところなので、時間には余裕があるが、一つだけ些細な問題が発生している。

 服装だ。

 これもある意味では式典であるから、通常礼装のほうが良いのだろうか?持っている服装の中では、今着ている第一種軍装が一番近いのだが、それらしいものを造るべきなのか?今から造るとしても試行錯誤の関係もあるから時間がかかってしまう。

 ここは妥協して、今の服装に可能な限り装飾を施すことにした。正肩章や飾緒、見た目重視の記章など、違和感のない物を付け焼き刃のように装着する。

 あと今回は階級章は着けない。まだ組織としての軍隊ではなく、一個人の趣味の延長線でしかないからだ。

 出来上がったのは、なんともまぁバランスの悪い礼服もどきである。残念ながらこれが精いっぱいだ。


 そんなこんなで、時間は8時をちょっと過ぎたくらい。もう移動を始めないといけない時間だ。

 移動にはもちろん車と使う。ほんの5分ほどで目的地だ。

 入ってすぐのところで、国王に声を掛けられる。


「カケルよ、久方ぶりであるな」


 それに敬礼と共に答える。


「そこまでではないですが…。お久しぶりです、レーベルグ国王」

「む?どうしてそんな呼び方をするのだ?」

「いえ、ちょっと…」


 俺がなぜ「シドマ国王」ではなく、「レーベルグ国王」と呼ぶのか。それは、先日のツェニカーにが言っていたことだ。単純に言えば、俺は人を名前呼びしていたからだ。

 日本的感覚なら、氏名の順は姓名と続く。しかし、これまで出会った人々はおおよそ欧米の名前で、氏名の順は名姓となるのだ。つまり今まで人を、誰彼関係なく名前で呼んでいたことになる。


「君がどのような考えを持ってそのような行動をしているか、私には分からぬ。だが、私は名を呼ばれることが少ない故に、君に名を呼ばれるのが嬉しいぞ。今までのように呼んでもらえぬか?」


 理由は聞かずに、今まで通りにシドマ国王と呼ぶよう言われてしまった。その言葉に少しだけホッとした自分がいる。


「分かりました、シドマ国王」

「うむ、それで良い。さぁ、君はこちらだ」


 シドマ国王直々に案内を買って出た。成弘親王がお乗りになると思われる御召艦に続く道を進むと、見覚えのある面々の前を通りすぎる。シドマ国王は俺を道に面したタラップの近くに案内した。成弘親王が御召艦に乗り込む直前の位置だ。

 ジェイル中尉が後ろに付いているものの、周りは全く知らない人間がいる訳で、興味深くこちらを見てくるのは何だかこそばゆい感じだ。

 しばらくすると、遠くのほうでラッパの鳴り響く音が聞こえる。おそらく、成弘親王ご本人が来られたのだろう。

 やがて姿がお見えになると、順番に参列者と握手を交わす。そして、自分の前へとやって来た。


「お久しぶりですね、駆殿」

「えぇ、お久しぶりです」


 お互いグッと握手をする。


「駆殿には、これから多数の困難が待ち受けているでしょう。ですが私には、駆殿がそれらを乗り越えることが出来ると感じます。何か困ったことがあれば、我が国に来て下さい。きっとお力になると思います」

「分かりました。その時はよろしくお願い致します」


 時間にして1分とも掛からずに、成弘親王は御召艦へとお乗りになる。

 こうして式典は無事終了し、成弘親王を乗せた御召艦はラガスーロ海軍基地を発った。


 さて、この後は昼食を取る訳だが、如何せん午後の予定がない。先ほどシドマ国王から、理事会への意見書作成が難航していて調整にもう少し時間が欲しいと言われた。これは明日まで掛かるそうだ。

 そういや「白雪」の艤装の取り付けとかどうしよう?今のうちにやっておこうかな?急に動かすことになっても機関さえあれば何とかなるだろうし。

 そんなわけで、午後は「白雪」の艤装を施すことに費やした。とは言っても、「吹雪」と同じ装備を載せていくだけだから、さほど時間は掛からない。細かい部品の取り付けの方が手間が掛かる状態だ。

 時々休憩を挟みつつ、粗方付け終える。艦影はしっかりと吹雪型のそれになった。あとは艦内の装備を設置していくのみだ。


 と、ここでジェイル中尉から、俺に来客があると聞かされた。一体誰が訪ねてきたのだろうか?

 横に付けている「吹雪」から渡り桟橋へと向かってみると、そこには見たことのある面々がいた。


「リフレットさん!」


 そう、リフレット一家である。サラにカイ君もいる。サラは少しそっぽを向いている感じだった。


「やぁ、カケル君。なんだか久しいね」

「ずいぶんと立派になったわねぇ」

「やっぱ兄ちゃんすげぇや!」


 この騒がしさが何となく懐かしく感じた。それだけ王都での出来事が濃かったことを示しているのだろう。


「あれ、アスナさんは?」

「アスナは用があって来れないんだ」

「そうなんですか…」

「まだ仮移住だからバタバタしてるところもあるんだ。みんな初めてのことだからね」


 なんとも言えない気持ちが心の奥からジワリと滲みでて来ている感じがした。


「そういえば、アンタはこれからどうするのよ?」

「あぁ、それに関しては決まってるよ」


 すると、後ろからジェイル中尉が後ろから制止させるかのように肩に手を置く。

 私設軍に関することは喋るなということだろうか。


「まぁ、そのうち分かるさ」

「あ、そう…」


 なんだろう、サラがもの言いたげな表情をしている。


「…サラ、何か言いたいことある?」

「えぇ!?いや、その…」

「とりあえず言ってみなよ」


 すると、サラは少し俯くと、恥ずかしそうに言った。


「…あ、アンタが良ければついて行って…も…いいけど…?」


 普段からでは見られないサラの様子に、少し戸惑ってしまったが、すぐに持ち直し答えた。


「それはこれからどうなるかで決まるな。今はまだ分からないけど、もし必要になったら呼ぶよ」

「絶対?言ったわね?」

「あぁ、もちろん」


 サラの表情が明るくなる。その様子に俺は少しドキッとした。


「じゃあ、俺達は戻ることにするよ。いつまでも邪魔するわけにはいかないだろうしね」

「あ、はい。では、またどこかでリフレットさん」

「がんばれよ、兄ちゃん!」

「カイ君もね」


 サラは最後に何も言わなかったが、何となく満足げだったのは分かった。


 こうして、この日は終了した。明日以降はどうなるかはまだ未定であるが、その時に頑張ることにしよう。

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