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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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21海里目 始まる対人

 ほんの少しだけ時間が止まったかのように感じた。勝手に心臓の鼓動が早まり、脂汗が額を伝う。

 相手はこちらをしっかりと確認すると、自分に向けて歩いてきた。


「カケル様、どうしました?」


 ジェイル中尉が声をかけてくる。それがあってか、少し心を落ち着かせることができた。

 相手が店のドアを開け、こちらに話しかけてくる。


「よう、テメェ流浪者だな?見ねぇ顔だが、いつ来た?」


 唐突な会話に息が詰まりそうになった。震えそうな声を抑え、問いかけに答える。


「自分は流浪者ですけど、いきなりその質問はどうなんでしょう?貴方のいた世界はどうだったかは知りませんが、私のいた世界では『相手の名前を聞くときは、まず自分から名乗れ』とあるのですが」

「そうかい、ならそうさせてもらうよ。俺はブラン・ツェニカー、剣使い(ソードマン)の能力を持つ流浪者だ。ほら言ったぞ、テメェは?」


 何と屁理屈臭いのだろうか。小学生か、という突っ込みは心の中に留めておき、流浪者であるブランに答えを返す。


「自分は創造主クリエイターの能力を持つ海原駆です。それで、ブランさん…」

「おい」

「なんです?」

「なに気安く名前で呼んでんだ、テメェ…。男爵貰ったばかりのヒヨッコが、伯爵であるこの俺に楯突こうなんて考えるんじゃねぇぞ。俺のことはツェニカー様と呼べ、ガキ」


 何だろう、いちいち口が悪い。


「それで、何か用でしょうか?」

「チッ、まぁいい。用件はただ一つ、俺と勝負しろ」


 唐突すぎる。この人は一体何を考えているのだろうか。

 その時、彼の後ろから、つまり店の中から一人の女性が現れた。その女性は彼の腕をとり、話しかけ始めた。


「ツェニカー様ぁ、何してるんですかぁ?」

「あぁ、ジェリカ。ちょいと待っててくれな。この礼儀を弁えないガキに教育を施そうと思ってな」

「えー、早く終わらせてくださーい」

「大丈夫さ。チョチョイと終わらせて、早く遊びにいこう」

「はぁーい」


 傍から見れば、街中で見かけるバカップルの会話そのものである。見ているだけでも、実に腹立たしく感じる。


「というわけだ。とにかく俺と勝負するんだ」

「…別に構いませんが」


 するとツェニカーは一瞬だけニヤリとしたと思うと、女性を後ろに下がらせる。


「なら遠慮なく行かせてもらう…ぜ!」


 突然、ツェニカーは俺との間合いを詰める。反射的に能力を使って、俺は仰け反るように後ろへ下がった。すると先程まで自分の中の体があった空間に、ツェニカーの剣が空気を斬りながら通過していった。

 背筋が凍り、血の気が引いていくのが分かった。


「チッ、避けたか…。次は外さねぇぞ」


 ツェニカーはそう言って剣を構える。


「カケル様、大丈夫ですか?」


 いつの間にか後ろに下がっていたジェイル中尉が冷静に聞く。


「…大丈夫そうに見えます?」

「少なくとも現在の状況を理解するくらいには落ち着いていると思います」


 んなわけあるか、足ガクガクだぞ。

 しかし相手は既にこちらを斬りかかる体制になっている。抵抗しなければ、最悪殺されかねない。やるしかないのだ。

 能力を使って、長さ50cm程度の金属棒を生成する。ゆっくりと息を吐き、意識をツェニカーに向ける。

 相手は相も変わらずニタニタしている。実力は上回っていると思っているのだろう。実際はその通りで、こちらからの一手が出しにくい。

 少しばかりにらみ合いをした後、再び向こうから連続で斬りかかってくる。すると不思議なことに、その攻撃の軌跡が未来予測のようにぼんやりと感じ取れたのだ。俺はそれに従ってわかすか、棒で受け流して冷静に対処した。

 ツェニカーは攻撃がことごとく外れているためか、一旦後ろに下がった。


「やるじゃねぇか…。じゃ、こいつはどうだ!」


 するとツェニカーは剣を体の前に構えると大声で叫んだ。


「必殺!フルバンカーストライク!」


 なんだそれは。まるで成り損ないの中二病が脳内設定をずるずると引き出してきたような技みたいじゃないか。

 そんな心情など知るよしもなく、ツェニカーは自分へ突っ込んでくる。これもまた、ほんの少し先の時間が視えた。おそらくは突きをしてくるのだろう、ということが分かる。

 一発目は左脇腹、これを軽々とかわす。次は右肩、かわす。次、顔、避ける。左胸郭、かわす。かわす、かわす、受け流す、かわす避けるかわすかわす避けるかわす…。

 コンマ数秒の間に何回もの突きが俺を襲うが、その全てを回避した。これにはツェニカーも参ったような顔をする。

 攻守交代、今度はこちらから攻める。ただの金属棒では、相手の剣なんかに勝てないことは分かり切っている事実だ。だからこそ数で押す。能力を使って棒の振る速度を上げる、というよりかは能力で棒を引っ張て振り回しているように見せる。

 ツェニカーに向かって、無茶苦茶に斬りつける。そのスピードは彼が使った技を少しばかり上回る程度だが、彼自身はそれを苦し紛れに避け続けた。こうなると、十本に一本くらいの割合で腕や太ももに掠るか直撃するようになる。

 一方的な攻撃がしばらく続き、ツェニカーが大きく後ろへ下がる。いつの間にか棒は、目で見て分かる程に反り、自分は僅かながら息が切れていた。

 一旦呼吸を整えようと気を緩めた時、ツェニカーの剣が光り輝き始めた。突然のことだったため、明確なイメージを持たずに魔力そのものを周囲に拡散するような状態になってしまった。

 ツェニカーは叫ぶ。


「くらえっ!覇烈斬!」


 ツェニカーが剣を全力で振る。すると、剣を包み込んでいた光がそのまま素振りと共に、斬撃と化して飛んできた。斬撃はコンマ数秒で、自分の間合いへと侵入しようとしてくる。回避しようにも、体の反応は鈍く動くことはなかった。斬撃が拡散した魔力に突入しようとする。ここまでくると自分との距離は目と鼻の先だ。

 とにかく回避を、回避をしなければ。

 だが、その斬撃は俺に届くことはなかった。斬撃が魔力に触れた瞬間、雲散霧消したのだ。この現象に、その場にいた誰もが驚いた様子だった。俺も初めはびっくりしたが、すぐに思い当たる節があるのを思い出した。いつの日か読んだ、同じ流浪者の北川さんが遺したノートに書かれていた情報。

 「流浪者は互いの能力に干渉できない」

 この一文が今起きたことだとするならば、こちらが有利に進められるかもしれない。

 そう考えた俺は、意を決してツェニカーに突っ込む。今度は魔力を放出しながら、さらに接近して懐に飛び込んでいく。ツェニカーはまた後ろに下がろうとしたが、足に力が入らないような動きをする。

 トドメを指すために、鳩尾へと渾身の突きをかます。しかしツェニカーは、体を捻りながら剣を使ってそれの軌道を、彼自身の右側へとずらした。素の剣術も長けているらしい。

 だが、それだけでは終わらない。受け流されてバランスを崩した状態から、能力で頭頂から足先を軸として体全体を回転させる。特に力を加えていない腕から先を全力で振り回すことで、棒先は加速によってとんでもない速さを生み出す。そして棒の先端は、ツェニカーの右肩を直撃する。


「グァッ!」


 悲痛な叫びを上げるが、何とか持ちこたえているようだ。だが、彼の右肩から下が力なくダラリと垂れる。あの打撃なら、もしかしたら脱臼をしたのだろうか。


「この野郎…、本気でブッ飛ばしてやる…!」

「痛いのは嫌ですね」

「俺の気が済むまで殴る…!殴り続けてやる!」


 ツェニカーが左手で剣を構えた。その目は憎悪のようなもので満ちている。これは早急に終わらせなければ、俺も予期せぬ怪我を負うかもしれない。

 そう感じた俺は、日本刀のように持っていた手を槍のような構えにする。そして拡散していた魔力を回収し、一撃必殺のための材料にする。

 ツェニカーの重心が前に動く。その瞬間、構えていた棒を前に突き出したと同時に回収した魔力を金属棒と同じ材質に変換し、あたかも延長するようにさせる。その様子はまるで如意棒のようだった。

 10mほどの間合いが一瞬で埋まり、棒の先端は剣の柄諸供、ツェニカーの胸に直撃する。

 ツェニカーの体は一瞬宙を舞い、力なく地面へと倒れこんだ。


 自分も含め、その場にいた全員が彼を注視していた。少ししてから彼に付き添っていたジェリカが駆け寄ったのを期に、周辺は喧騒を取り戻していく。

 自分も彼の元に歩み寄る。彼女は彼の容態を確認しているようだが、一通り終わると立ち上がってその場を去ろうとした。


「どこに行くんですか?」


 俺は彼女に声をかける。

 すると、彼女はこちらに振り返った。


「だって彼、瀕死なんだもの。もう使い物にならないでしょ?」


 瀕死…?もしかすると最後の攻撃が致命傷になったか?

 そして彼女自身、彼の玉の輿を狙っていたのか。


「でも、行く当てはあるんですか?」

「そんなこと聞いちゃいけないわ、坊や。それとも、あなたが私を貰ってくれるの?」

「それは…」

「冗談よ、あまり根掘り葉掘り聞くと女性に嫌われるわ。それじゃ、失礼するわね」


 そういって彼女はどこかへ行ってしまった。

 下の方から小さく呻き声が聞こえた。目をやると、ツェニカーの苦しそうな表情が見えた。

 向こうから吹っ掛けてきた喧嘩ではあるが、俺は彼を瀕死に追いやった罪悪感から、能力を使って治療を試みた。

 しかし、それは全くの無駄骨であり、能力は彼の事を拒否したかの如く受け付けなかった。


「…無駄なことは…やめろ」


 非常に弱弱しい声で彼はつぶやく。


「しかし…」

「俺の荷物から…『神の粉塵』を…出せ…」


 若干の混乱がありながらも、俺は彼の腰についている袋状の荷物から「神の粉塵」なるものを取り出そうとする。一体それはどういうものなのか全く見当が付かないが、とにかく探すしかないだろう。

 そう思いながら、袋に手を突っ込む。こうしてみて初めて分かったが、袋の中は見た目以上の空間が広がっていることに気付いた。そして、すぐに手の中に布の感触が感じられた。

 それを取り出してみると、巾着袋のような見た目をした物であった。


「その中の物を…俺に振り撒けろ…」


 彼の言う通りに袋の紐を解いて、その中身をぶちまけるように出した。

 すると、中に入っていた粉が重力に従って彼を覆いつくし、淡く輝き始めた。苦しみに満ちていた顔は、みるみる内に良くなり、怪我なんて微塵も感じられない状態にまでなった。


「ふぅ、勿体ない時に使っちまったが、まぁいいか」


 ヒョイと起き上がった彼は、体の調子を確認するように関節を回す。


「テメェには勝てると思ってたんだがな…。首洗って待っとけ、次はその首を一振りだ」


 そう言い残して、彼はどこかへ行ってしまった。


 道のど真ん中で唖然とするしかなかった。一体どこから情報を処理すればいいか、全く分からない。


「カケル様?」


 後ろからジェイル中尉が尋ねる。


「大丈夫ですか?」

「あ、えぇ、まぁ…。何だったんですかね、今の…」

「ブラン・ツェニカー…、確か10年ほど前に来た流浪者だと記憶していますが…。現在の爵位は伯爵、リクア共和国に小さな領地を持っていて、実力はあるのに問題児と評価されていると風の噂で聞いたことあります」


 なるほど、確かに戦いには慣れている様子だった。しかし、彼は何故あれほど自分に対して執念を燃やすような態度をとったのだろうか。


「彼は流浪者の中でもかなり厄介という話は有名で、防衛連盟理事会も頭も抱えるほどとか」

「何したんですかね…?」

「あとで詳細を持ってきましょうか?」

「良いんですか?すみません、お手数掛けます」


 その後、ジェイル中尉から「白雪」の進水について連絡があった。海軍基地の司令長官曰く、許可は出せるが明日早朝までには作業を終了せよ、とのことだ。

 そして一日が終わり、再び海軍基地に戻ってきた俺は、基地内にある宿舎の空き部屋に案内された。俺が王都に留まっている間はここで寝泊まりするらしい。

 「吹雪」の近くではないのか、と疑問を呈したが、許可されていないことだから出来ないと返されてしまった。

 明日も朝早いし、押し問答は時間の無駄だ。仕方がないとして、簡易ベッドと机と椅子しかないこの部屋で過ごすとしよう。

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