表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/115

20海里目 休息の日

 目が覚めると、木目調の天井が面前に広がる。窓から入る日差しに頭の回転が徐々に高まるのを感じた。


「…どこだ、ここ?」


 数十秒かけ記憶の断片を探る。確か、「白雪」の船体が完成したのを確認したことまでは覚えてるのだが、それ以降が思い出せない。

 身体を起こすと複数のベッドが並んでいて、アルコール独特の鼻に付く臭いがグッとくる。医務室か何かだろうか。

 自分一人しかいない部屋で、特に何もするわけでもなく再びベッドに身を沈める。今まで寝ていたはずなのに、まだ体が重く感じる。

 日が昇り、顔面にあたる光がまぶしくなってきた頃、ドアの開く音がする。振り返ってみると、そこに一人の女性が立っていた。


「あら、お目覚めになられましたか?」

「…あの、ここどこですか?」

「海軍基地本館の簡易治療室です。36時間ほど眠られていましたよ」


 36時間というと、丸一日以上眠っていたのか。何となく実感が沸かず、驚きより自分への感心が強い。

 女性はここの看護婦のようで、軽い掃除とベッドメイキングをして部屋を出た。

 そして何もすることなく、1時間くらい横になっていると再びドアが開く。今度は軍の関係者のようだ。


「ジェイル中尉です。レーベルグ国王の下命により、本日よりカケル様の付き人の任につきました」


 唐突の付き人登場で、一瞬何を言ったのか理解が追い付かなかった。

 彼曰く、シドマ国王が気をつかって彼を送り込んだらしい。レンペルス城で幽閉状態にさせるのは悪いだろうし、一人で王都を歩かせるのもいろんな意味で危険だから、副官というか付き人を置くのが良いという判断からだという。


「それと、カケル様の荷物と国王陛下からの伝言及び今後の予定を預かっています」


 そういって俺が持っていったトートバックを渡される。中身は軍服一式とその他諸々が入っていて、特に変わりはない。


「どうも…」

「それで、まず伝言のほうなんですが国王陛下より重要なことだと伺っています」


 ジェイル中尉は、懐から紙を取り出す。


「まず、カケル様自身についてなんですが、現在国王陛下より『男爵』の称号が与えられています」

「…男爵?男爵って爵位にある、あの?」

「そうです」

「なんでそんなものを俺に…?」

「カケル様が特別というわけではありません。これは外界総合規定に基づいて与えられています」

「…と、言うと?」

「外界総合規定には、流浪者は例外なく最低男爵の爵位と相応の権力を与えるものと記されています。これはこの世界において、かつての流浪者がその能力を用いて大厄災後の世界を回復させたことによって権力を持った者が現れたことに由来します。当時は流浪者を救世主として見る人々が多く、またごく一部では神そのものと考える人もいたため、結果として権力者に成り上がっていたこともあったそうです」


 確かこの世界は流浪者によって出来たって島長さんが話してたような…。


「しかし、権力を持つということは例え問題を起こしたとしても無かったことにするのも可能ですし、権力を持っていない流浪者が逆上するなんて事例も過去にはあったらしいです。そのため、現在では機嫌取りの意味合いが強いと言えるでしょう」

「機嫌取り、ねぇ…」

「話が長くなってしまいました。もう一つ伝言があるのですが、こちらは3号船台の新造艦についてです」


 3号船台の新造艦というと、「白雪」のことか。


「こちらは、新造艦には触れていないためなるべく早く進水させてほしいとの事です。詳しく言えば3号船台の使用許可が明日までなので、今日明日中には空けてほしいそうです」

「進水したらどこに持っていくとか言ってました?」

「いえ。しかしすぐ隣の艤装工事用の岸壁に移されると思います」

「それって、自分の艦の所に持っていくのは可能ですか?」

「それは司令長官に聞いてみなければ分かりません。私の方から進言してみます」

「ありがとうございます」

「伝言は以上です。続いて今後の予定についてです」


 今度は予定か…。


「現在、国王陛下は防衛連盟理事会への意見書作成のため、各局長官との協議と議会における防衛連盟理事会への意見書発議を求める決議案の可決を行っています。そのため早くても二日ほど時間を要するので、それまでカケル様は王都に留まってもらう必要があります」

「それは別に構いませんけど」

「では次に、明日の朝には成弘親王がお帰りになられるため、その見送りに出席してほしいとのことです」

「え゛、マジっすか?」

「はい。先ほども申し上げたように、カケル様は既に男爵の身分であります。一般庶民とは違って国の行事に参加する必要があるので、そこは理解をお願いします」


 一般庶民とは違う…か。そういや流浪者って時点で一般ではないんだよな。


「…分かりました」

「では、国王陛下からの言伝ては以上です。ところでカケル様、本日はどういたしましょう?」


 今日何かやるべきことあったかなぁ。「白雪」の進水は今すぐには出来ないし、その他にやることもないし…。


「そうだ、海軍基地の近くの大通りに行ってみたいです」

「すぐそこの商店…ですか?」

「はい。この間通った時に行ってみたいなって思ってたんですよ」


 ジェイル中尉は少し考える素振りを見せると、小さなため息交じりに言う。


「それならこちらで車の手配をします。あと着替えも用意します」

「あ、いやそこまでしてもらわなくても…」

「再三申し上げることですが、カケル様は男爵です。つまりそれ相応の振る舞いをしなければなりません。歩いていくのは構いませんが、せめて身なりだけは整えてください」


 元の世界では意識したことのない、貴族的行動というのがこんなにも面倒くさいとは思わないだろう。この世界に来て、まだ数ヶ月とも経っていないのだから。

 そんな時ふと目を落とした先に、一つやってみようと思うものがあった。


「じゃあ、これを着てもいいですか?」


 そういって取り出したのは、俺が頑張って作った軍服である。


「…何ですか、これは?」

「これは自分のいた世界で一昔前まで使われていた軍服を、自分の能力で再現したものです。細かいことは省きますが、一応士官用のものなので服装としてはぴったりだと思うんですけど」


 うん、ウソは言っていない。


「そうですか、それなら構わないでしょう。他に不足しているものがあれば、お申し付け下さい」


 30分ほどで俺は支度を整える。というか、これ第一種軍装だから全身真っ黒でとにかく暑い。しかも王都の位置は意外と低緯度だから日差しも強い。誰だこれからの季節を考えてとか言ってた奴、俺か。これは早急に第二種軍装の作製をしなければ…。

 と言ってるだけではどうにもならない。仕方ないから一時的に熱を排出する冷却プログラムを服の裏側に構築した。だいたい摂氏27度前後で安定するクーラーがついているようなものである。

 その他階級章やら細かい部分の装飾は、すぐに用意出来るものは付け、それでもどうにもならないのは放置か借りておおよその準備は完了。


 そして海軍基地から歩くこと十数分、商店通りにやってきた。

 通りの両脇に露店が建ち並び、そこを多くの人々が行き来する。


「おぉー、人多いですねぇ」

「今日は礼拝の日でもありますからね」

「ん?礼拝の日って何ですか?」


 ジェイル中尉が言うには、詩人のカウツェ・テル・シュビルケが大厄災からシドラール国として体制を固めた十数年の間に、当時違う文化や考えを持った民族に彼らの中で伝えられた伝説や言い伝えなどを聞き、数年後に一つの物語として纏めた「エイラヴ神話」を発表した。エイラヴ神話は文学作品として高い評価を得られ、後にエイラヴ神話を主体とした信仰が広まっていったと言う。

 これがシドラール国民の大半が信仰する宗教となったそうだ。北欧神話かな?


「毎月最初の日曜日は礼拝堂へ赴き、神々に祈りを捧げることを習慣としていて、今日がそれにあたります」

「へぇ」


 露店には野菜や果物、鮮魚といったものに加え、アクセサリー、骨董品、魔道具まで幅広く揃えられている。

 さらに少数ではあるが、串焼きのようなものを販売している店もある。肉の良い匂いに釣られてしまう。

 興味本位で買ってみた。味付けのしていない鶏肉みたいだったが、特にパサパサしているわけでもなく、脂の乗りが良い。オプションで柑橘系の果汁をかけられ、さっぱりとした味わいが口の中に広がり、旨味が引き出されている。

 そんなどうでも良いことをしていると、ある一つの建物が目に付く。一見古びた立派な建物だが、先ほどから見ていても人の出入りが全くと言って良いほど無く、周りの建物とは様式が少し違うようにも見てとれる。


「ジェイル中尉、あの建物ってなんですか?」

「あぁ、あれは民間傭兵企業のラガスーロ支部が入ってる建物ですよ」

「傭兵?」

「はい。昔は冒険者ギルドとかいう組織だったそうですが、その仕組みが非常に手間のかかることで様々な分野で有名だったそうです。冒険者ギルドへの依頼の提出をするも依頼料が高い。その割にギルドが仲介料を取るため冒険者への報酬が安い。期限付きの依頼は冒険者側が守らなかったり、緊急性のある依頼は内容によっては提出拒否をするケースが発生したりと…。長期間掲示され続けているものは報酬金の引き上げや依頼の取り下げをしなければならず、難しい依頼になると冒険者があっさり死んでしまうこともあったそうです。ギルド側もそれらの改善を行ったようで、多少は効果があったものの、根本的には解決しなかったそうです」

「うわぁ、それはひどいなぁ…」

「それでも当時は大災厄直後であったため、世界規模で地図を書き換えなければならなかったのです。そのためにも、未踏の地へ踏み込む冒険者ギルドの役割は大きなものだったのですが、それらも減ってくると経営が立ち行かなくなるのは目に見えることでしょう。その結果、富豪や貴族、国家を顧客とした軍需企業として転換し、現在まで軍事力の提供を行っています」


 効率の悪さから冒険者ギルドは無くなったってことか。

 しばらく商店通りを歩いていると、とある店の中が騒がしいようだった。

 なんだろうと思って、俺は店の中を覗いてみる。客が店員に怒鳴り散らしているように見てとれた。クレームの限度を超えてるな。触らぬ神に祟りなしと言うし、さっさと行こうとした。


 その時だった。


 あの客の周りに、名状しがたいオーラのようなものを感じた。それは向こうも同じようで、怒鳴るのを止めて周囲を見渡し、こちらを見つけると少しだけ口角が上がったように見えた。

『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』

外界総合規定第13項

 第一節 第7項において適正と判断された流浪者に対して、最低限の配慮として男爵の爵位と相応の権力を与えるものとする。

 第二節 前節で確定した爵位の変更を行う場合は、当事国の外界総合事務館に「流浪者爵位変更届」を提出し、承認を得た上で事務館執行部との協議によって変更ができるものとする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ