18海里目 会議と会見
「さて本題だが、彼の処遇についてどうしようぞ?」
シドマ国王の問いかけに、セル国防局長官が一番に答える。
「ここは彼の言う通りに、独立した私設軍を設置すべきだと考えます。この場合、国に準ずる組織が出来上がるため国際的な位置付けが問題になるでしょうが、それ以上の価値があるのではと思います」
立て続けにヘント外務局長官が発言する。
「ホットラインを通じた連絡では、どの国も懐疑的な意見ではあるようです。ただ既に議論されている通り、現状を打破できる方法および手段、ないしは技術を持ち合わせた人物であると推測されるため、彼を支持する声があることも確かです」
「我が国も同じ意見です。今朝大使館を通じて本国と連絡を取り合ったところ、基本的に賛成の意向を示し、彼に協力すると述べていました」
成弘親王が自国の意見を言う。これによりヤーピン皇国は自分に対して協力的であることを示した。
「各国が彼に理解を示してくれていることは分かった。時にカケルよ、君は確か正式な組織として艦隊を率いると言っていたな。どのようにするつもりだったか?」
シドマ国王からの質問に、落ち着きながら答える。
「えー、自分が想定していた案としましては、『艦隊の運営に関わるもの全てを自分一人でこなす』ものと、『一般から乗組員などを募集して一つの軍隊を作る』という二つの計画があります。前者はごく短期間で戦力になりうることが出来ますが、自分一人ではやはり限界があるというのが難点です。後者は通常の軍隊に匹敵し大国にも引けを取らない戦力になりますが、それ相応の訓練が必要になるので時間とコストが馬鹿になりません。そしてどちらを選んでも、艦隊を運営するための施設や場所が必要になってくると考えています」
今現在、俺が構想している計画としてはこんなところだ。正直、計画というものでもない。
そこにエルド王太子が疑問をぶつける。
「場所も必要だけど、資金面はどうするつもりなんだ?お世辞にも、今の君には財源は無いに等しいだろう?」
「そうですね…。確かに軍を運営するには一文無しといっても過言ではないですね。最悪の場合、自分で率いることが出来る艦艇数で、連盟国絶対防衛線内を回遊するようになるかもしれません」
「それは、さすがに厳しすぎるのでは?いくら流浪者といえど、能力を酷使し続ければ自滅を招くと私は思うのですが…」
セル国防局長官が心配そうな顔で尋ねる。
「その場合は、我が国の領土の一部を借地として貸すことが可能です。もしもの時は私のところへ来てくだされば、なんとかできるかもしれません」
成弘親王が公式の発表と言わんばかりに言う。後ろにいた付き添いのような人にも、同じようなことを小声で注意される。
そこに再びエルド王太子が、今度は提案をしてくる。
「では軍として艦艇を建造するのではなく、我々に『提供』という形で艦艇を建造するのはどうだろうか?カケルがノウハウを我々に供与し、各国の軍に配備するという条件も悪くないのでは?」
「それに関しては、現場の声を聞いたほうが早いだろう。幸い、この場には声を聞くことのできる人物がいる。トーラス・ジンブルグ中佐よ、そなたの意見を言ってみよ。遠慮はいらぬぞ」
シドマ国王がトーラス小艦隊司令官に話を振る。
「わかりました。率直に申し上げますと、艦艇の提供というのは大きな抵抗があります。これは推測の域を出ませんが、まず艦の設計思想から異なると考えられます。艦自体の大きさ、速度、兵装、それに伴う戦術、それぞれに我々との相違が見られます。そのため、彼の艦を我が軍に引き入れることは、障害が多すぎると考えています」
確かにトーラス小艦隊司令官の言う通りである。帆船時代の戦闘というのは、近接格闘戦といった、白兵戦や衝角戦法が主流であった。当時は大砲の威力が高くなく、艦を沈めるに至らなかったことが大きな要因だからだ。その後、大砲の精度が向上し、砲戦により決着が着くようになると、近接格闘戦から遠距離砲撃戦へと変化するようになっていった。
つまり、剣使いと弓使いが同じように戦うわけがない、ということだ。
「と言うことは、我々とは別の組織であるほうが良いと?」
「そういうことです」
結局、エルド王太子が提案した案はボツとなった。
なんだかんだ言いながら、話はまとまってきた。
最終的には私設軍として設立、防衛連盟からの資金援助を行いつつ対価として軍事力を提供する、という方針が出来上がった。
「結構いい感じに出来上がってきましたな」
「うむ。あとはこの方針で理事会に提出してみようぞ」
その時、部屋のドアから3回ノックする音が聞こえ、一人の男性が入ってくる。
「国王陛下、お取込み中失礼します」
「どうしたのだ?」
「先ほどから、ノーエ派の議員が流浪者に会わせろと騒いでいます」
「まったく、あやつらは場所を弁えずに子供がするようなことを平気でやれるものだ」
シドマ国王は呆れたように言う。今までもこのようなことが幾重にもあったようだ。
「如何いたしましょう?」
「うむ、ちょうど良い。数十年振りの流浪者だ。折角だから会わせてみようぞ」
「えぇ…。それ大丈夫なんてすか…?」
俺は、おそるおそる聞いてみた。
「まぁ君のことだ、何とかなるだろう」
ものすごいアバウトな回答だな…。
俺はシドマ国王に連れられて部屋を出る。後ろにはセル国防局長が、そばには付き添いの人が複数人いる。途中、この城に入ってきた時とは別の廊下に進んだ。どこに連れていかれるのか、というかどんな人と会うことになるのか不安でしょうがなかった。
そうしてやってきたのは、まるで大学の講義室のような場所だった。いや、どちらかと言えば国会の議場と言ったほうが正確か。どちらにせよ、そこには少なくても150人の人間が収容できるような、そんな場所だった。
おおよそ中央に一段高くなっている、演壇と思われるものがある。シドマ国王は、演壇の右側に置いただけの椅子に座るよう、俺に指示する。俺は素直にその椅子に座った。シドマ国王は演壇の後ろ、さらに一段高くなっている豪華な椅子に腰を掛ける。セル国防長官や付き添いの人は、両脇の机が付いている椅子に座った。
少しすると、先ほど入ってきた扉からぞくぞくと人が入ってくる。その人らは見る限り、貴族のような身なりをしている。おそらく、この人らがノーエ派の議員なのだろう。
10分もすれば、全席の3割が埋まった。
「全員集まったか?」
シドマ国王が全体を見渡し、確認する。
「全員いる。国王よ、早く始めさせてくれ」
「そうか。ではカケルよ、そこの台に立ってくれぬか?」
シドマ国王に促され、俺は演壇に立った。
押し寄せる緊張感と圧のある空気の中、ノーエ派の議員が矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。
「貴様の名前と能力を」
「海原駆、能力は創造主です」
「それはどういった『力』か?」
「簡単に言えば、物質を自由自在に操るものです」
「それは危険なものではないのかね?」
「いえ、特段は」
「貴様はその力を何に使った?」
「艦の建造に使いました」
「たった一人で?」
「はい」
会場がざわつき始める。考えれば簡単にわかることだ、帆船を作ったとしてもあれだけの構造物を一個人が作りあげるのは不可能であると。
見た感じ、自分に注がれる目線はおおよそ2つに分けられる。嘘ハッタリをかましてこの場を乗り切ろうとしているのではと考えている議員の哀れな目線と、その能力が一体どれほど強力なものかを想像し怯える目線だ。
少し時間が経ち、口数が減っていくとシドマ国王がおもむろに立ち上がる。
「聞きたいのはそれだけかね?なら、我々は帰らせてもらうぞ」
その言葉ののち国王関係者が立ち、出口へと向かう。国王が俺に『一緒に来い』というアイコンタクトをしたように見えたので、演壇から降りようとした。
その時、一人の議員が叫んだ。
「その能力が本物なのか、確かめさせるのは如何かっ!?」
俺を含め、全員がその議員を見る。
「その能力を我々の目の前で使って、艦の建造を見せてくれ!」
おそらく今までの人生史上、類を見ない程の無茶ぶりだと思う。
周りの議員も、その意見に賛同する。
これは俺一人では決められない。シドマ国王に目配りをすると、ほんの数秒だけ思考を張り巡らせた。
そして結論を出す。
「…仕方ない。その要求を飲むことにしよう。詳細は追って連絡しようぞ」
結局、最高の舞台とは言えない俺の能力のお披露目会が開かれる運びになってしまった。
『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』
ノーエ派
一院制のシドラール国議会において、一般庶民出身である下級議員の多くが所属する派閥。議員になった時はノーエ派に入り、経験を積んでから別の派閥に移動したり新しい派閥を作る議員も少なくない。




