17海里目 新たな世界
睡眠時間たったの数時間。午前8時の軍艦旗掲揚には間に合ったが、眠いものは眠い。
朝の用が済んで、俺は艦橋休憩室にて仮眠をとることにした。渡り桟橋は架けられたままで、兵士が見張りをつけてるし、迎えが来るまではどうせ何もできない。
それと、島民の皆にも迎えを用意するとの連絡があったため、荷物をまとめるよう指示をしておいた。
眠ってしまえば時がたつのは早いもので、ライディさんが起こしにきてくれた。
渡り桟橋の中ほどには、迎えの兵士が立っていた。
「流浪者カケル。今現在をもって身柄の拘束を解く。同時に民間人の移住を行うので、準備ができ次第降りてきてほしい。なお飛竜使いは、上空に待機している兵のあとについて行ってほしい」
俺はこの事を、島民の皆に伝えにいく。そしてそのまま、必要なものを取りに艦長室へと戻る。必要なものと言っても、グロフ島に停泊していた時に作った軍服上下と、王都にくるまでに作った軍帽を入れたトートバッグぐらいしかない。それを持って再び艦尾へ向かった。
その後、準備ができた人から順番に艦を降りていく。その様子をトーラス小艦隊司令官と見守る。
少しすると、リフレット一家が出てきた。俺はそばに近づく。
「リフレットさん!」
「おぉ、カケル君!久々に見た気がするなぁ」
「ホントですね。カイ君もサラも元気そうでなによりだ」
「このくらいで弱ったりしないわ」
「兄ちゃんのほうこそ元気出せよ!」
「こっちはこっちで頑張ってるんだぞぉ」
「そうだね、カケル君には本当に助けられてばかりだよ。今回のクレバイル襲撃もカケル君がいなかったら、どうなっていたか分からなかったよ」
「いやぁ、あれは成り行きみたいな感じだったので…。三人は飛んでいくんですね」
「本当はドラゴン1頭で複数人連れていけるけど、今回は三人で行くことにするよ。アスナには悪いけど他の皆と一緒に行ってもらう事にするよ」
「そうですか…。次、いつ会えますかね?」
「それは分からないぁ。自分達には決められないことだし、君次第かもね」
そう言って、リフレットさんは俺の肩に手を置いた。その手はまるで本物の父親のようだった。
「さて、そろそろ行かなくては。元気でな」
「また遊ぼうな!」
リフレットさんとカイ君は颯爽とDPの元へ向かった。
「サラも行かないのか?」
「そろそろ行くわ。でも、あと一つだけ…」
「どうしたん…!」
突然サラが倒れこんできたと思ったら、手を後ろに回しキュッとしがみ付いてきた。
一瞬何が起きたのか理解できなかったが、俺はすぐに分かった。今、俺はサラに抱きしめられているのだ。
「ちょっ!え、あ、え!?」
心臓の鼓動が、今まで経験したことないほどまでに高鳴っていた。それはサラも同じなのか、体が小刻みに揺れているのがわかる。
実際には数秒も経ってない時間が物凄く長く感じた。
お互いの体が離れる。サラの顔はまるで夕日のように紅く染まっていた。たぶん俺も同じようになっているだろう。
サラは俺に向けて、ニコッと笑う。
「じゃあね!」
そう言ってサラは、イルの元へ走っていった。
俺は呆気に取られていた。
「ほぉ…、お熱いことで」
一部始終を見ていたトーラス小艦隊司令官一行が、これ以上ないほどのニヤけた顔で、俺のことを冷やかしにくる。
「茶、茶化さないでくださいよ…」
そうしているうちに、リフレットさん達は甲板から飛び立ち、移住先へと向かっていった。
そして「吹雪」に残っているのは、俺を含めた関係者のみとなった。
「カケル、まだ行かないのか?」
「はい。ちょっとやることがあるので」
まずは、今まで退かしていた三番砲塔を元の形に戻す。これだけもの大きな物体を、人前で生成するのは初めてだったので、その場にいた人は大変驚いていた。
次に、出入り可能な扉及びハッチと各兵装にロックを掛ける。これにより、艦を動かすことを基本的に不可能にした。見回りの兵がいるが、念には念を、である。
この旨を兵に伝え、俺は「吹雪」を後にする。
さて、肝心の迎えはすぐ近くの建物にあった。
案内されたそれを見た俺の口からは、たった一言だけしか感想が出てこなかった。
「え…、車?」
そこにあったのは、自動車黎明期に製造されていたような、れっきとした自動車である。
車体は全体的に角張っていて、屋根は必要な時に展開出来るソフトトップになっている。また動力部と思われる装置は前ではなく後ろについている。
1890年から1900年のドイツにありそうな印象だった。
「カケルは自由移動車を知っているのか?」
「…今なんて?」
「自由移動車だ。略して自動車とか車と呼ばれているな。50年以上前に流浪者がその基礎となる技術を伝えたらしいが、本当のところは分からない」
トーラス小艦隊司令官は、躊躇いもなく車に乗り込む。
少し思考停止していたが、トーラス小艦隊司令官に急かされ、俺も車へ乗り込んだ。
ここからは酷い揺れに耐えながら、一路王宮へと向かう。
そこから見える景色は、この世界に来てから初めての人混みだった。大通りには屋台が建ち並び、荷台の列が人の流れをつくる。この周辺は、一度でいいから歩いてきてみたいものだ。
しばらくすると段々と人通りが少なくなり、建物の隙間から、西洋風の城がその姿を少しづつ現し始めた。
「あの城が見えるだろう?あれが国王が住まう、レンペルス城だ」
現代にあるような派手な装飾はあまり見当たらず、実用性を重視した感じの城という印象だ。
外堀に架けられた跳ね橋を渡り、門にいる警備兵のチェックを受ける。それが済むと、城内への門が開く。
外見もそうだったが、城内の様子もどちらかといえば要塞に近いものに見えた。そこらに同じような車が停めてあるし、長い間使われてないような大砲も何個か転がっている。
こんなことを言ってはいるが、実際の城がどんなものなのかは正直知らない。
城内を少しばかり走り、ようやく入口に到着した。そこには、使用人と兵士が左右に2列になっており、その真ん中あたりにシドマ国王が立っていた。
「よくぞ来てくれた。礼を言わせてもらおう」
「いえいえ、指示に従っただけですよ」
「うむ。早速だが、話し合いをするとしようぞ。さぁ、こちらへ。トーラス中佐も一緒に来てくれたまえ」
立ち話もそこそこに、中へ案内される。わざわざ国王直々に案内されていることに、俺は若干の不安を覚えた。
階段を上ったあたりから、軍服に身を包んだ人々が、あちらこちらからピリピリした空気を作り出していた。そして少し歩いたところにある、警備の兵士が扉の前で待機している部屋へ通される。中は応接室のようで、そこに4人の男性が待機していた。
「皆の者、待たせたな」
4人はサッと立ち上がる。
「おお、やっと来ましたか。彼が例の流浪者ですね?」
「うむ。創造主の能力を持つカケルだ」
「ど、どうも…」
ヤバい、お偉いさんの集まりだコレ…。
「紹介しよう。こちらが、我が側近であるヘント外務局長官とセル国防局長官だ」
「初めまして、シドラール外務局長官のヘント・ルイースです」
「私はシドラール国防局長官のセル・コンバット・ビルバードであります。以後お見知りおきを」
この2人が握手を求める。かなり緊張しながら、その握手に応じた。
「次に、そこにいるのが我が息子のエルドだ」
「どうも、エルド・ヴィルセット・レーベルグだ。よろしくね」
二十歳を越えたくらいの爽やかな好青年という印象だ。たぶん凄くモテそう。
「最後にそちらにいるのが、現在我が国に訪問中である、ヤーピン皇国皇太子の成弘殿下であられるぞ」
最後に紹介された成弘親王は、いわゆる顔の彫りが浅いアジア人顔で黒髪、名前からもわかる通り、日本人のそれと同じである。
「私が成弘です。このような場でありますが、よろしくお願いしますね、駆殿」
「あ、どうも、よろしくお願いします…」
なんとも日本らしい挨拶を交わす。
「さぁ、顔合わせは終わったな。では、非公式の緊急会議を始めようぞ」
シドマ国王の言葉で、全員の顔が引き締まる。
これから本格的な作戦を練ることになるだろう。




