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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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15海里目 引きずる弊害

「え!?入港出来ない!?」


 トーラス小艦隊司令官がピールトール港に入港してから数時間が経過し、手漕ぎボートで戻ってきた後の報告で、開口一番に言った。


「あぁ、余剰分がないと言われてな。食料も用意はするが足りるかは保証しかねるし、ここまでの輸送も可能かは不明だともね」

「それ、完全に敵対視してるじゃないですか!」

「そうだとは限らないが、8割方は合っているだろうな」


 味方であるトーラス小艦隊司令官が頼み込んでも、得体の知れない艦を入港させるのは危険度が高いと考えたほうが合理的だろう。トーラス小艦隊司令官の意見だが、食料もよこせと言うからには意地でも港に入れるわけにはいかないはずだ。


「どうします?これじゃ一時的な移住もできませんよ」

「それは移住先候補の自治体と我々が交渉をし、承諾を得た場合において移住の許可が下りるものだ。交渉する気もない町長に期待しないほうがいい」

「はぁ、これからどうしましょう?とっとと食料もらって王都に向かいますか?」

「そうだな。丘にさえ上がれば後はなんとかなるだろうし、それまでの辛抱だな」


 結果、食料の調達が完了するまではグロフ島の沖合から動くことができなくなった。

 このことを島長さんに伝えたところ、「王都なら古い友人がいる。掛け合えば何とかしてくれる」らしい。

 どっちにしろ、現状では出来ることはないため、完全に暇を持て余してしまっている。暇を持て余し過ぎた結果、前々からやろうと思っていた軍服の作製という結論に至った。

 軍服といっても、構造的には学ランとあまり変わらないはずだ。学ラン自体、中学校以来着ていないが。だが、服の見た目だけならトーラス小艦隊司令官以下士官クラスのそれと似ているため、参考にできるだろう。服の作り方なんてさっぱりなので、作製の際にはスタールさんに手伝ってもらうように頼んだ。

 夕食後に早速作り始めた。

 まずは自分の体の寸法を測定する。そこから型紙に起こし、各パーツを作っていく。この型紙はトーラス小艦隊司令官の部下の軍服を拝借し、それを元に形作った。材料はポリエステル100%とポリエステルとウールの混紡と二つあるが、今回はポリエステル100%で、これからの季節を考えて第一種軍装の黒にした。その他にも、服として必要な型紙を全て作り、それにそって布を生成し、スタールさんがそれを手早く縫い合わせる。てか縫うのめっちゃ早いな。

 しかし、そんなスタールさんでも初めて作る種類の服に悪戦苦闘しているようだ。ミスしては作り直すのをすでに数回繰り返している。スタールさんは申し訳ないと謝っているが、こちらも無理を承知でやってもらっている訳で…。自分でも手で出来るところはやっているし、縫い方がよく分からないものはスタールさんに終えてもらったりやってもらったりした。


 約4時間の作業で、なんとか上着とズボンが完成した。とは言ってもまだ不十分な部分も残っているから、その辺は順に解消していかないと。

 スタールさんにお礼を言い、今日は寝ることとした。


 翌朝、朝日が昇るくらいの時間に起きる。今日も昼ぐらいまで暇なので、掃除をしようと思い立った。

 旧日本海軍の掃除というと、毎日毎日とにかく雑巾やブラシで床を擦りまくっているイメージが強いだろう。まぁ実際その通りなのだが。

 と言うわけで、ブラシを出して船首楼甲板から水を垂れ流しつつ、全力で擦りまくる。もうただ擦って擦って擦りまくる。前檣の下まで来たら階段を降り、今度は上甲板を掃除する。艦の中央を過ぎたあたりから、何か悟りを開いたような心持ちになった。

 掃除を始めて小一時間。ここまでやって上甲板の半分ほどを掃除し終えた。時間的には島民の皆が起き出して朝食をとるぐらいだ。俺は準備のために急いで艦内へ入る。

 朝食の後には残りの上甲板と下甲板を雑巾で磨きあげる。皆がいる兵員室にはそれぞれ水と雑巾を支給し、各自でやってもらうことにした。わざわざプライバシーを侵害してまで部屋の掃除をするつもりは毛頭ないからな。

 こんな調子で自分の部屋や艦橋を、全力で拭きまくる。そうして太陽が頭上に昇りきる前にあらかた床拭きが終了した。


「あぁー疲れた」

「お疲れだな」


 艦橋に戻った俺にライディさんは声を掛けてくれた。

 そこにトーラス小艦隊司令官が割って入る。


「お疲れの所悪いんだが、食料調達の目処がたったと連絡が入った。あと2時間程度でここに来るそうだ」

「それ、積み込み作業を手伝えってことですか…?」

「当たり前だろう」


 もはや拒否権は存在しなかった。


 2時間後、連絡通りにやってきたボートにはぎりぎりまで積まれた箱とグロフ駐留隊の水兵4人が乗っていた。


「シドラール国立海軍第一方面グロフ駐留隊所属ノヴィス二等海兵以下四名、貴艦への食料の補給のため参りました!」

「本艦の艦長、海原駆です」

「防衛連盟軍シドラール国領海域警備部隊第一方面第二哨戒班小艦隊司令官のトーラス・ジンブルグだ。念のためだが、荷物の中身を伺いたい」

「はっ。真水、非常用のパン、燻製肉、比較的日持ちのする野菜が数種です」

「全体の量を見ると、少し少ないように感じるんだが?」

「ピールトールにある備蓄をかき集めましたが、最低限の備蓄量を考えれば、約2日分しか集まらなかったそうです」

「2日分だと?ここから王都までは早くても3日はかかるぞ」

「我々もその事について言及したのですが、辺境の町に期待するなとの返答が…」


 トーラス小艦隊司令官はため息をこぼす。


「どうやら本当に邪魔者のようだな」

「貰えるものは貰っていきましょうか」

「うむ」


 能力を使って、食料を運び入れる。


「我々の備蓄分も分けられれば良かったのですが、必要最低限以下しかないもので…」

「いや、私の所も同じだ。気にすることはない」


 軍人同士、苦い思いを慰めあう。


「積み込み終了しましたよ」

「よし、すぐに出発だ」


 約一日振りに機関がうなりを上げる。錨を巻き上げ、泥を洗い流す。


「機関準備よし」

「総員持ち場についた」


 全員配置についたが、装置類には触れさせず、全て自分が作業を行う。


「了解。両舷前進微そーく、とーりかーじ」


 ゆっくりと「吹雪」は動き出す。

 ボートに乗っている四人が手を振る。


「両舷前進原そーく、もどーせー、舵中央」


 付近の岩場や船舶に注意しながらグロフ島を離れる。これからは「吹雪」の単独での航行となる。


「これより『吹雪』の操縦を委任する」


 これで、艦の指揮は艦橋にいる人間次第となる。


「さて、ここからは南南西に針路を変え、南下する。なるべく早く王都に着きたいところだが…」

「だいだい距離にすると、どのくらいですか?」

「上手くいっても約1150kmほどだが…。なにか台は?」

「あ、海図台ならこちらに」


 台に海図と思われる紙を広げる。


「先程の海兵が持ってきてくれたものだ。写し物だが、無いよりはマシだ」


 トーラス小艦隊司令官の部下が道具を使い、王都の位置とそこまでの航路を示してくれた。


「これがシドラール国の本土、シドル島だ。王都は本土の南部に位置する。ここからシドル島の沿岸を通って王都へ向かう。シドル島自体、南北の距離が650kmもあるから、ある意味遠回りしていくことになる」


 シドル島はいびつな三角形をしていて、東側に半島が生えているような形をしている。

 グロフ島は、シドル島から見て北北西に位置している。よってグロフ島から真っ直ぐ南下して回ったほうが早いのだ。

 以上の情報からおおよその速度を電卓で計算すると…


「第二戦速の21ktで29.6時間か…」


 十分な速度だ。一日とちょっとあれば王都につけるだろう。

 このことをトーラス小艦隊司令官に具申したところ、「それで頼む」とのことだ。

 早速指示を飛ばす。


「機関、第二戦速」

「機関、第二戦そーく、よーそろー」


 速力通信機、いわゆるエンジンテレグラフの目盛を「第二」に動かす。今はテレグラフを操作するだけで、速力を調整できるようにしている。



 波浪を切り裂き、「吹雪」は一路王都へと向かう。

 果たして、王都で何が待ち受けているだろうか。

 俺の心臓は心拍数を上げている。

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