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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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14海里目 航路の中

「しかしこれだけのものを、よく一人で造ったな」

「まぁ、自分でもちょっとびっくりしていますが」


 トーラス小艦隊司令官が艦の中を見たいとのことで、艦内の各所を巡っている。なんというか、艦内旅行のようになっている。

 今、この艦の操舵はトーラス小艦隊司令官の部下とライディさん他数人の島民に任せている。主に見張りに付けてさせてもらっているが。


 俺はトーラス小艦隊司令官を連れて、艦後部にある「タ号魔術式可変速主缶機」が鎮座する機関室にやってきた。


「これが、この艦の動力源である『タ号魔術式可変速主缶機』です。普段は『機関』とだけ言っちゃったりしますが」

「おぉ、これはすごい…」


 低いうなり声を出す主缶機と、それをまるで子供のように目を輝かせて見るトーラス小艦隊司令官。やはり男というものはこういう物に興味をそそられてしまうのだろう。


「これは一体どういう仕組みなのだ?」

「まず、供給された魔力をエネルギーに変換します。それらは電気エネルギーと運動エネルギーの二種類のエネルギーに変換され、電気は艦内に、運動はこれの裏側にあるシャフトに伝わります」

「うぅむ、難しい事は置いとくとして、そのシャフトとやらはどのような役割があるんだ?」

「スクリュープロペラを回すための軸になってます。このまま艦底をまっすぐ、艦後方の喫水線下まで伸びていて、その先端にスクリュープロペラがついてます。このスクリュープロペラが推進力となるわけです」

「なるほど、帆を張らなくてもあのような動きが可能になるのだな」

「はい。ただ、本来なら船体の大半を占めるはず機関がここまで小型化してしまい、重心が上がって復原力が落ちた事が一番の懸念要素ですがね」


 こうして艦内見学は終了した。艦橋へと戻る間もトーラス小艦隊司令官は、軍の技術者に見せたら腰を抜かすだろうといった事を話していた。

 艦橋につけば、島民からの要望に対応しなければならなかった。大半はトイレとか気分が悪いとか腹が減ったとか…。

 まぁ、いきなり見たこともないような船に乗らされるだけでも精神的にくるものがあるだろう。そこに激しい揺れや緊張が襲ってくるなら尚更だ。

 念のため、サラ達のDPドラゴンパートナーの様子を見に行ったら、結構元気だった。強いなぁ。

 なんやかんやで対応が追い付き、落ち着く時間がとれた。その時には既に日が暮れていた。夜間の時はどうするのかは聞いていたが、まさか位置を特定するシステムが存在しているとは思ってもみなかった。


 月明りが航路を照らす中、俺とトーラス小艦隊司令官は艦長室で今後の予定について話をした。


「この後は駐留隊をグロフ島に帰還させ、我々は王都へ出頭することになる。十中八九、君の処遇についてだろう」

「まぁ、なんとなく分かっていました」

「しかしこの処遇がどのような内容なのかが問題だ。おそらく、一般的な事情聴取も含め、君が国家を揺るがしかねない人間かを見極めるのが目的だろう」

「へ?俺が国家転覆罪で捕まるってことですか?」

「可能性は捨てきれないが、なにせここまで強大で柔軟性の高い『能力』を持った流浪者は類を見ないからな。我々が持ち合わせている戦力を上回る艦艇を何十隻も保有可能な上、それらを組織的に運用しようと考えている。こんなものが牙をむいて自国に押し寄せてくるかもしれないと考えただけで、それはもう『恐怖』以外のなにものでもないからな」


 自分の存在は、かなり不安定なところにあるようだ。


「本来の『外界総合規定』では対応しきれない事案だ、王国側も今までにない判断を強いられることになるだろう」


 聞くところによれば、外界総合規定と呼ばれる、流浪者とそれに関する法律みたいなものがあるらしい。流浪者の対処・違法行為などが規定されてあり、これまでに23回ほど改訂しているという。

 で、その外界総合規定には、今の俺のように流浪者が原因で組織的な行動をした場合の記述は少ないため、再びの改定を検討しているとのこと。


「だが流浪者というのは、基本我々の常識が通じない超常的存在だ。外界総合規定あんなものの9割9分は役に立たない」


 どの世の中も同じようだな。


「…話が大きくそれたな。今晩、何事もなく航海が出来れば明日の正午前にはグロフ島の港に行けるはずだ。そこで食料や水を分けてもらおう」

「何故、食料と水を?」

「いくら君の能力で腹を満たすことが出来ても、その負担は君自身が負っているのだろう?君が大丈夫だと言っても、我々からしてみれば寄ってたかっている状況に過ぎない。なんというかな、我々が大人げなくなる」


 つまり、本来守る立場なのに守られているのが非常に気まずいと。これは、まぁ、しょうがないな…。


「そんな訳だ。先ほど食料と水の手配をしたから、たぶん明日中には用意できるはず」

「分かりました。みんなにも、そう伝えます」


 これにて今日は解散。操艦の担当である人間以外は、ほぼ全員就寝する。トーラス小艦隊司令官は艦長室隣の予備室に、彼の部下達は艦橋下の兵員室に割り当てることにした。

 俺は、ちょっとした見回りや各種の点検に、羅針艦橋の様子見などをしなくちゃいけない。実際にこれだけの人を乗せるのには、若干の不安があったからだ。特に大きなひび割れやら歪みはなかったのは、喜ぶところだろう。

 グロフ島に到着した後の話は、島長さんに説明し、みんなに伝えておいてくれるという。

 その後、各部屋の様子を確認しながら後部上甲板へ出る。静かな寝息をたてながら眠るイル達を見ると、狭い所に無理矢理詰め込んでいる感じがして、申し訳ない気分になる。


「何物思いにふけってるのよ」


 後ろから声をかけたのはサラだった。


「そっちこそ何してんの?寝てるんじゃなかった?」

「全く違う環境で、ベッドじゃなくてハンモックで寝ろっていうほうがおかしいのよ」

「それはしょうがないだろ。ベッド置くほどのスペースなんてないし、ハンモックのほうが船酔いしない」

「ふーん」


 サラは、俺の話にはあまり興味を持たずにイルの元に歩み寄り、その首元をなでる。


「アンタのすることに、とやかく言うつもりはないわ。でも、感謝はしてる。家の窓から飛び出したときも、アタシ達を守ろうとしてた。一番に助けに来てくれた。島の皆がカケルに感謝してるわ」

「あぁ、そうなんだ」


 自分の勝手に付き合わせたような感じだったが、島の皆から良い評価をもらったのは意外だった。


「アタシはもう寝るわ。あまり無茶しないでよね」

「わかってる、おやすみ」


 サラがこんな事を言うとは思わなかったなぁ。初めて会ったときとは大違いだ。

 サラが扉の向こうに行った事を確認し、上甲板を歩いて艦橋に向かう。艦橋にのぼり、何か不備がないか、今後の予定などを伝えた。彼らのために水と簡単なつまみを用意し、無理は承知だが後は気を付けるように言った。


 艦長室に戻った時には、既に日付が変わっていた。ようやく眠ることが出来る。

 本当にここ数日間は忙しかったから、こうしてゆっくりできる時間は貴重といって良いだろう。

 明日も忙しくなるので、俺はベッドの中へと潜り込んだ。



 翌朝。誰かが艦長室の扉をノックする音で目が覚める。瞼が完全に開かないまま時間を見ると、すでに午前7時半を回っていた。

 慌てた俺は、ベッドから転がり落ちるようにして起き上がり扉を開ける。そのいたのはトーラス小艦隊司令官の部下だった。


「おはようございます。小官に様子を見てこいと言われたので。何かありましたか?」

「あ、いや、ちょっと寝過ごしたと言いますか…」

「そうですか。あと3時間ほどでグロフ島に到着しますので、身支度をするなら早めにお願いします」


 特に身支度することはなかったから、数分後には艦橋にいた。そして朝食と消耗品の用意に追われることに…。まぁ、この艦に備蓄なんてないから、俺がやるしかないんだけどね。

 日がだいぶ昇ってきた頃、グロフ駐留隊と「吹雪」はグロフ島の北部約13kmのところを航行している。このまま島の東側に回り込み、ピールトールという町に向かう。ここは駐屯地であり、良質な鉱石類が採れる島であるため、商業も盛んな町だそうだ。

 ただ「吹雪」が寄港するためにはちょっとした許可が必要らしい。そこで、今ちょうど帰港するグロフ駐留隊の旗艦にトーラス小艦隊司令官と部下を乗せていくことに。ついでに食料調達の件も交渉してくれるという。


 その間は沖合に停泊することになる。そしてこの空いた時間を利用して、島のみんなを上甲板に案内した。ほぼ1日ぶりの太陽だろう。

 そして、イル達も文字通り羽を伸ばしたいようなので、サラたちと一緒に大空へと飛び立っていった。

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