13海里目 再確認
さっきの戦闘で、良い意味でも悪い意味でも、若干ながらの経験を得ることが出来た。
「あー、とりあえず港に行かないとな。迎えの船が来るとは限らないし」
それぐらいのスペースは確保してあるし。
「しかし港に集まるように言われて、もう12時間も経つんだよな…。大丈夫かな?」
それだけ長い時間、精神的苦痛にさらされていたら、まともじゃなくなると思う。
港へと向かいつつ支障がないかを見るため、艦内の状態をサッと確認する。主缶機や操舵装置は異常が見られず、羅針盤等の精密機器はもう少し調整が必要だ。
1時間もしないうちに港の近くまで戻ってきた。この後は、速度を落として湾内に進入、そこで投錨する予定である。接岸しないのは、単純にスペースに余裕がないからだ。
ゆっくりと湾内に入る。それこそ羅針艦橋で操艦していたが、どう見ても港の島民達が敵対的だったので、手旗信号台に立って手を振った。俺の姿が見えたのか、はたまたシドラール国の国旗が見えたのか、港の騒がしさは疑問の声で一杯になった。埠頭に近づいた所で船を止め、錨を下ろす。下ろし終えたら、内火艇とカッターと通船を下ろして内火艇にカッター2隻と通船を縄で繋ぎ、漁業用の埠頭へと曳航させる。
桟橋へと船を進めると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした島民達がいた。
「カ、カケルよ、これは一体…」
「あぁ、これは自分で造ったんですよ。ごめんなさい、黙ってて」
「いや、それは別に構わないが…」
「なんつーデカさだよ…」
大人達はその大きさに驚き、子供達は興奮していた。
「とりあえずどうしましょう?」
「う、うむ。先ほど通信があってな、グロフ島に駐留する艦隊が迎えに来てくれるそうじゃ。それが来るまでは下手に動けん」
「そうですか」
「まぁ、上がったらどうだ?ここまで来るのにも時間がかかるじゃろう」
船を係留して上がったら、当然のようにもみくちゃにされた。もちろん「吹雪」に関してだ。
矢継ぎ早に飛んでくる声に混乱しているうちに、島民達の興奮は収まり、俺は人込みから解放される。
「ふぅぅ…。こんなもみくちゃにされるのは後にも先にもなさそうだな…」
「兄ちゃん!」
「カケル!」
「カイ君に、サラか」
「アンタねぇ、いくら隠れながらって言っても限度があるでしょうよ…」
「いや、創造主を見てるのにそれ言っちゃう?」
「やっぱ兄ちゃんはすげぇな!」
サラは俺にあきれ、カイ君は謎の称賛をする。カイ君、なんでもすごいって言っちゃうのはどうかと。
この後に広場へと連れられる。そこにはリフレットさんとアスナさん、サラ達のDPであるイル達がいた。
「カケル君、サラから聞いたよ。窓から飛び出るなんて、大胆なことをするんだね」
「いやぁ、褒められたもんじゃないですけど…」
「サラったらすごく動揺してね、『カケルがぁ、カケルがぁ…』ってずっと言ってたのよ」
「ちょ、お母さんなんでそれ言うの!?」
「ほーん?」
俺は思わずニヤニヤした。
「アンタは何ニヤついてんのよ!」
サラのツッコミが、広場に虚しく響く。
それから2時間ほど経った時、迎えの船が到着するとの連絡を受けて、港へ移動した。
埠頭に着いた頃には、1隻の大型船が湾内に進入していた。
「話を聞けば、あるお偉いさんがカケルに話を聞きたいそうで、わざわざあの船に乗って来ているそうじゃ」
そんな手間をかけてくるほど重要な案件なのか?
そんな考えをよそに、その大型船はいつも商船が停泊している岸壁に係留をする。
しばらくして係留が終わり、中からゾロゾロと人が出てきた。
「ようこそハジーサ島へ。儂が島長のベイエルじゃ」
「防衛連盟軍シドラール国領海域警備部隊第一方面第二哨戒班小艦隊司令官、トーラス・ジンブルグです。お出迎え感謝します」
島長さんがトーラス小艦隊司令官を出迎える。
「まずお聞きしたいことが一つありますが、よろしいですか?」
「儂の答えられる範囲であれば」
「あそこに停泊している船は一体誰の所有物で?」
「カケルのじゃよ。ほれ、そこの彼じゃ」
そう言って、島長さんは俺を指差す。
「君が?」
「海原駆です。この世界に来て数ヶ月の流浪者です」
「カケル、あれはどうやって手に入れた?」
「自分で造りました」
トーラス小艦隊司令官を含めた一行にざわめきが起こる。
何を言っているのかはよく聞こえないが、まるで超常現象を目の当たりにした感じだった。
「少し話が聞きたい。我々の船に乗ってくれるか?」
「構いませんけど…」
島民の皆を残し、俺だけが戦列艦へと乗り込む。
案内されたのは、艦尾にある豪華な部屋だった。
「いきなりで申し訳ない。我々も少し混乱していてね」
「はぁ…」
「早速本題に入るが、君はあの船を造ったと言った。それは君の能力を使ってかね?」
「そうです」
「設計図は?材料はこの島にある物では造れないだろう?」
「設計図は手で書いたものがありますが、それは手元にある資料をもとに書き起こしただけにすぎませんし、建造途中で細かな修正を加えているので、たぶん別物に見えますよ。材料に関しては自分で生成しました」
「ちょっと待ってくれ。材料は自分で生成したというのは…?」
「えぇと、能力を使って魔力を物質に変換するんですよ。こんな風に」
俺は手元にアルミニウムの塊を生成してみせた。
「なっ…!?」
その場にいた全員が驚く。
手に取ってみる人もいるが、首をかしげるばかりである。
「むぅ、ある程度は予想していたが、まさかそこまでとはな…」
「小司令官、ここは小司令官の考え通りに王都への連絡を行うべきではないでしょうか?」
「もちろん、そのつもりだ」
なんだか大事になってきたなぁ。
「カケル、あといくつか質問するがいいか?」
「あ、はい」
「君は『アレ』を造った後、どうするつもりだったんだ?」
「同型艦があるので、そちらを造るつもりでした。他にも『吹雪』とは違う艦も造ろうと考えています」
ここで再びざわめく。
トーラス小艦隊司令官は場を静めさせ、最後の質問を投げかける。
「君はこの世界の歴史については知っているかね?」
「大まかな事なら」
「なら話は早い。先の戦闘で君の考えは分かっているつもりだが、今ここで確約してもらいたい。…我々と奴ら、どちらに付く?」
「…俺はハジーサ島の皆に助けられました。ここじゃなかったら、おそらく自分は死んでいたと思います。俺はその恩返しも含めて、クレバイルと戦おうと思っています」
「…ありがとう」
トーラス小艦隊司令官は深く息を吐くように言った。
「司令部に連絡。必要な情報の通達と彼の処遇について打診してくれ」
「了解」
トーラス小艦隊司令官は部下に指示を飛ばす。内容は、…まぁ、察しのとおりだろう。
「さて、一段落ついた所で彼らを招待しなければな」
彼らというのは、勿論島民のことである。
しかし、ここで一つの問題が発生する。
「小官、我が艦隊は損傷はありますが、無事に航行出来ながらも一般人を乗せる場所がありません」
「何?空いたスペースはないのか?」
「艦底部の倉庫なら空きはありますが、浸水している箇所もありますし、いくら何でもそんなところに一般人を押し込めるわけにもいきませんよ」
困った、という空気が流れる。本来ならば一般人を輸送するための船でも用意すべきなんだろうが、今回は緊急事態でなおかつ戦闘直後でもあるため、そういったものが無いのだろう。
だが、問題はない。
「あのー、人を乗せるのなら『吹雪』でもいけますけど…」
「ん?『フブキ』とはなんだ?」
あ、艦名まったく言ってなかった。
「俺の艦のことですよ」
「なるほど、『フブキ』と言うのか…。それで、全員乗せられるのか?」
「はい、その点に関しては問題ありません」
「ではそのようにしよう。司令部からの連絡が来るまでは動くことはないだろうが、準備はしておいたほうが良い」
と結論が出たので、島民の皆をカッターや内火艇に乗せて「吹雪」へ乗船させることにした。
さすがに一回では乗せきれないから、二回に分ける。その中には…
「改めて見ても、不思議な形をしているな…」
なぜかトーラス小艦隊司令官とその部下数人が一緒についてきた。
彼にとって「吹雪」は好奇心をくすぐる何かを秘めているのだろう。
「やはり船体まで金属で出来た船はないんですかね?」
「あぁ、そうだな。極一部に使うことはあるが、まだそこまでの技術力に至っていない」
そうしているうちに、だんだんと「吹雪」に近づいていく。ここで俺は、トーラス小艦隊司令官の部下に、島民の収容の手伝いを頼んだ。一応承諾を貰ってはいる。2番砲塔の下部から艦尾の下まで空き部屋があるので、島民の皆にはひとまずここにいてもらう事にした。
まず協力者に入れる部屋を教え、順番に入れていってもらう。俺はカッターから降りる手助けと残りを迎えにいく役目がある。
こうして島民全員を「吹雪」艦内に収容することが出来た。サラ達のDPも、3番砲塔を一時撤去してスペースを確保した。
「司令部から通知が来た。『流浪者カケルの処遇に関する尋問を行うため、至急王都まで出頭せよ。その際、トーラス・ジンブルグ中佐も同行すること』とのことだ」
「吹雪」の艦橋にて、グロフ島の駐留隊からこのような連絡を受けた。
「これは、あれですかね?上層部はまだ信用してないってことでしょうか?」
「さぁ。この通知をどう捉えるかは人それぞれだが、私まで呼んでいるからな。事の大きさを把握したいんだろう」
「なるほど」
そうしているうちに出航準備は完了した。
「トーラス小艦隊司令官、いつでも行けます」
「うむ、では予定通り我々の後についてきてくれ」
この日、俺達はハジーサ島を離れ、王都へ向かうこととなった。




