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異世界艦隊 ―軍艦好きな奴が異世界でゼロから艦隊を作ったら―  作者: 紫 和春
本編

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13/115

10海里目 海戦

 ―ジンチノ海・連盟国絶対防衛線付近―


「おい、そろそろ交代の時間だ」

「うーん、見張りすんのも楽じゃねぇな」

「あたりめぇだろ、俺たちが見張るのをサボったら誰が敵を見つけるってんだ?」


 防衛連盟軍シドラール国領海域警備部隊第一方面第二哨戒班、旗艦「ヴィールドイン」以下6隻で構成される、防衛線付近を警備・防衛する少数部隊である。

 その中の、艦隊の目として運用されている3等軍艦「ツゲーリ」の船上、魔法索敵器での監視を交代する見張り員同士が言葉を交わす。


「しっかしこんな北の海から敵さん出てくんのかね?」

「俺らがここに居られんだから向こうも来れねぇ事はねぇだろ」

「上官から聞いた話じゃ、開戦直後はどこから敵が来るか分からなくて不眠症になったとか」

「そりゃ大変だねぇ。…そんじゃ後はよろしく」


 魔法索敵器を装着した見張り員は目を皿のようにして周囲を警戒する。

 いつ、どこから敵が襲ってきてもおかしくない。もうすでに絶対防衛線の中にいるかもしれないのだ。

 敵を一番最初に見つけるのが彼らの仕事である。それによって、連盟国全ての人々の運命が決まってしまうのだ。


 水平線に太陽が沈み始めようとしている。一日が終わろうとしているが、彼らはまだ眠らない。

 約260年前に実用化された「魔波式位置測定機構」によって、多少の誤差はあるものの夜間でも比較的安全に航行が出来るようになった。今日では9割以上の船舶・艦艇に搭載されているごく一般的な機器である。

 だが完全な装置とは言い切れないため、やはり見張りが必要になってしまう。それでも夜間に航行できなくなるよりはマシと考える人がほとんどである。


 やがて夜が明け、船上の動きも活発になる。


「今日もいい天気だ」

「少しばかり風が強いがな」


 たわいもない会話を交わしながら帆を広げる。

 そんな艦隊の旗艦「ヴィールドイン」では、各艦の艦長と通信会議を行っていた。


「定期報告、旗艦『ヴィールドイン』異常なし」

「『グラムイ』、問題なし」

「『ウロフィン』、『メクスド』、『ツゲーリ』、『ソルヘル』、異常なし。周辺海域に敵影なし。航海は順調です」


 それを聞いた艦隊の司令官であるトーラス・ジンブルグ中佐は安堵の表情になる


「皆、ご苦労。今回の任務も後半戦に突入した。ここからは進路を南東へ向け、グロフ島の北を通ってレグリス港に帰投する」

「了解」


 いつも通りの連絡会を終え、ちょっとした雑談になる。


「そういやハジーサ島に新しい流浪者が来たみたいですね?」

「自分も聞きました。数十年ぶりなんでしょう?」

「ジンブルグ小官は何か聞いてますか?」

「うむ。なんでも志願兵と同じくらいの少年で、物を操る能力を持っていると聞いたな」

「物を操るって、一体どの程度の能力だ?」

「人間ぐらいは持ち上げられるんじゃないのか?」

「一度その少年をみてみたいものですね。ここから南に約8キロの所にハジーサ島がありますし」

「今は任務中だ。行くならプライベートで行ってくれ」


 今日も何事もないはずだった。

 突如、「ソルヘル」の通信から一つの報告がされる。


「艦長!艦隊左後方からシャーティーシュとおぼしき物体接近!」


 一瞬どよめきが起きる。

 それを聞いたトーラス中佐は冷静に指示を飛ばす。


「対獣魚戦闘用意」


 それを聞いた兵たちはそれぞれの持ち場へ急ぐ。

 船上では水面下に対しての戦闘準備が進められていた。


「おらぁ!はよ戦闘準備せい!とっとと小口径携帯砲持って来んかい!」


 左舷中甲板に砲が次々と並べられていく。

 その上の上甲板には魔術師が攻撃準備を整えていた。


「…来たぞ!」


 大胆に水しぶきを上げながら近づく魚影。


「間違いねぇ!シャーティーシュだ!」

「携帯砲、撃ぇぇ!」


 砲から火が吹く。あちこちから水柱が立つが、シャーティーシュは悠々と近づいてくる。

 通常の砲弾では、水面下の目標への攻撃は効果が薄い。そこで、着水後一定の深度になった時に爆発する特殊弾を使用する。


 だが…


「クソッ、効いてるようには見えねぇ!」


 砲弾が当たっていないのか、それとも敵の表面が硬すぎるのか。どちらにせよ、攻撃が効いてる様子はない。

 魔術師による攻撃も意味を成してないように見える。


「っ!不味い、反対側に行くぞ!」


 シャーティーシュは艦隊の下を通り抜け、右舷側へと移動する。

 「グラムイ」から約100メートルのところでぐるぐると回ったと思えば、一度姿を消す。


 誰もが逃げていったと思った。

 が、次の瞬間、海中から勢いよくシャーティーシュが飛び出してきた。


 成体になれば10メートルを越えるシャーティーシュが、その全身を露にするほど高く飛び、「グラムイ」へと突っ込んでくる。

 「グラムイ」の船上では攻撃準備がやっと整い、ヤツが現れるのを今か今かと待っていた。しかし、シャーティーシュの予想外の行動に兵たちは度肝を抜かれた。対応出来た兵がいても、既に時遅し。

 シャーティーシュは「グラムイ」の船体をまるごとへし折るように落ちてくる。


 はずだった。



 突如としてシャーティーシュの胴体は、見えない何かによって引き裂かれた。

 頭の部分は「グラムイ」の頭上を通り越し、尾の部分は船体に当たり破壊したのち海面に落ちた。「グラムイ」の船上はシャーティーシュの血で真っ赤になったが、浸水などの被害が出なかっただけマシだろう。


「何だ何だ!?何が起きたんだ!?」

「とにかく周囲を警戒しろ!」

「帆綱と帆の一部が使いモンになんなくなった!」

「衛生兵ー!こっちに怪我人がいるぞ!早く来てくれ!」


 一連の様子を見ていたトーラス中佐は珍しく混乱していた。


「何だ今のは…?一体誰が…あれを?」

「分かりません。しかし、我が艦隊の魔術師にあれだけの魔力を使う人間は居ませんし、あの攻撃からそれ相応の魔力は確認出来ませんでした」


 結局それが何だったのか、誰も分からなかった。

 たった一人を除いて…。






「あれ?なんか船に当たった?」


 主砲の射撃実験の途中、俺が射線上に船らしきものを見つけたのは主砲の斉射をした後のことだった。


「大丈夫かな…かなりマズいことした…?」


 でも正直そんな事言ってる場合でもない。


 俺がこの世界に来て、すでに一ヶ月半がたった。

 長かったようで、短かった。そんな感じだ。

 そして、計画と呼んでいた旧日本海軍艦艇の建造を『私設連合艦隊軍備構想』と正式に命名した。これを達成するための『第壱計画』として最初の艦、駆逐艦「吹雪」を現在建造中である。

 そしてこの「吹雪」、つい昨日進水したのである。松型駆逐艦もびっくりの建造日数でなんと38日。能力のおかげもあってか、すぐに出来た。

 ちなみに昨日の命名式兼進水式は、かの有名な大和型戦艦より寂しく執り行われた。大和型は当時、国家の最高機密に指定されていたため、通常の進水式では考えられないほど静かだったらしいが、こっちは計画から造船まで全て一人でやってしまったので、大和型より寂しいのは当たり前である。しかもドックでの建造だから進水も注水のみという、かなり残念な式となった。


 まぁ、船体には不備がなかったようで問題なく浮いたし、今は上部構造物の建造に勤しんでいる。とは言ってもここからが大変だったりするんだがな。特に兵装の調整が…。

 がんばって開発をしなきゃな。

『物語を1.3倍位楽しむための豆知識コーナー』

連合防衛軍シドラール国領海域警備部隊第一方面第二哨戒班

 小艦隊司令官 トーラス・ジンブルグ中佐

  旗艦「ヴィールドイン」 艦長 ノムイ・ヤルグ少佐

    「グラムイ」    艦長 ラーガ・トムレン少佐

    「ウロフィン」   艦長 フルス・ガガール大尉

    「メクスド」    艦長 ニグレイア大尉

    「ツゲーリ」    艦長 ベニ・スーズ大尉

    「ソルヘル」    艦長 ナルハ中尉

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