9海里目 決意の結果
あれから一週間…。
俺は今、島長さんの家にいる。何故かと言うと…
「さて、今日もやっていこうかの」
「「はーい」」
島の子供達と交じってこの国で使われる文字を勉強中だからである。
俺は喋る分には問題ないが、読み書きはどうも出来ない。そこで集会所で行われている島長さん主催の勉強会にお邪魔している状態だ。
しかし絵面だけ見ると明らかに場違いな感じがする…。そんなこと言ってる場合じゃ無いけど。
隣には同じく勉強しているカイ君の姿。今は算数を頑張っているらしい。
「どうじゃ、出来とるかの?」
「あ、はい」
「どれどれ」
島長さんは単語練習の回答を手に取る。
まるで英語をやり直している気分である。
「ふむ、字の丁寧さはともかく8割方は出来ておる。次の練習も出来るじゃろう」
そのまま島長さんは他の子の元に行く。
寺子屋ってこんな感じなんだろうなと思いながら勉強が進んでいく。
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「ここどうやって計算するの?」
「あぁ、ここはね…」
たまにだが、このように計算の仕方を教える事もある。この世界の数学は地球と同じように10進法で四則演算を使うので、数字と演算子さえ覚えれば俺も教える側になれるのだ。
家に戻っても、手伝いの合間に勉強を続ける。普段の生活に関わる物の名称を書き連ねてみたり、簡単な文章を作ってみたり…。
そんな生活の裏で、俺はあの決意を計画として実行に移している。
艦艇を作る。そう一言で言っても、まずはそれのための施設を整えなければならない。港のそばに建てるのが一番望ましいが、そんな事すれば島民に迷惑がかかってしまう。少なくとも主砲の射撃実験を行わなければならないからだ。
この間のCIWS再現では、見た目はそれとほぼ同じだが配電なんか無い方がマシって言える程だし、銃身に給弾なんか出来たもんじゃないし、そもそも弾自体マトモな物がない。極めつけは、レーダーを納める円柱の筒の中身が何も無いのだ。
このような事を回避する為には、可能な限り艦艇の形を再現する技術力と、対応出来ない部分をどう補うかを考える発想力が必要である。
例えば、旧日本海軍においてよく使われた「下瀬火薬」を生成したとする。勿論成分がよく分からなくとも出来るかもしれない。が、それの扱いを考えた際、本当に使える物なのかどうかを見極めなければならない。もしくは別の物で代用することも辞さないだろう。
まぁその辺はまた後にするとして、とりあえず初めにすべきことは、島のどこに実験施設兼軍港を作るかである。
これには島の北側にある崖の中を改造することにした。山を挟んで反対側にある、島民も滅多に来ることのない場所だ。ここなら色々な実験が港の脇よりは出来るはずだろう。
日も暮れて皆が眠りにつく頃…
俺は実験施設兼軍港建設予定地に居る。
「よっしゃ、やっか」
真っ暗闇の中、計画の大前提となる施設建設に乗り出す。
まずは山の中腹から垂直に穴をあけていく。掘り出した残土は魔力に『変換』して大気中に放出していく。魔力はエネルギーであることを利用して、『質量とエネルギーの等価性』に当てはめた方法だ。
ある程度掘ったら、今度は北方向へ進む。すると崖から外に出た。
位置を確認したら、再び縦穴に戻って下に堀り続ける。
それを繰り返して海面近くまで掘る。
次は、今掘った縦穴を基点に施設の外枠をガンガン掘っていく。距離は『能力』を使えば何となく分かるので、大体の設計を元に掘り進む。
外枠を掘り終えたら、それらを『辺』として『面』を作り出す。その『面』は壁、床、天井となるため、内部が崩れないように鉄筋コンクリートを生み出して、『辺』を埋めていきつつ『面』を『置換』して建設する。
こうして外枠が完成した。後は枠内の土などを全て掘り去りつつ、上の構造物が崩れてこないように柱を後付けすれば出来上がりだ。
最後に出入り口を作る。これでどうにか形にはなった。
「だぁー、疲れたぁ」
気付けば空が白み始めている。
体の汚れを軽く落とし、急いで家に戻る。太陽が顔を出す前にはベッドに潜り込むことが出来た。
そのまま俺は、まるで死んだように眠りにつく。
それから数日が経った。
相変わらずの単語練習に文句を言いそうになりながら頑張っている。
「うぅむ、初歩的なミスが多いのぉ。そこまで難しい言葉じゃ無いはずなんじゃが…」
「はぁぁ…」
いや、もう言ってるかもしれない。
集会所での勉強会を後にした俺は、後々施設の方に持ち込む(生成する)ための物品を探しに、商店に足を運んだ。最も、今一番需要があるのはライディさんの所の道具屋だけなんだか。
道具屋には見たことある物から、いわゆる魔道具と言われる類の物が置いてあり、見ていて刺激を受けたりする。
「おっ、カケルじゃねーか。今日も見物か?」
「どうもライディさん。そうですね、今日もです」
「お前、それでよく飽きないな」
「まぁ見てるだけでも面白いんで」
「そうかい。程々にしとけよ」
まぁ、実際見てるだけでも楽しい。いろんな道具や部品が並べられて、どれがどういったものなのか、どんな仕組みなのか、今後の研究の参考に出来たりする物も置いてあったりする。
するとそこに誰かが飛び込んできた。
「大変だ!ドランタがシャーティーシュに噛まれた!」
「何っ!?」
「生後数ヶ月の子供に腕の肉を持ってかれたらしい。今、レミアとサラが応急処置をしてるが、あの状態じゃ腕を落とす事になるかも知れん…」
シャーティーシュ……近年、この辺りの海で目撃されるようになった大型の海洋生物。凶暴な性格で噛みついたら決して離さないため、毎年被害者が出ている。
「…それで注意喚起が出てたんだかな。まさか島の人間から被害者が出るとは思わなかった」
俺は、ライディさんの説明を聞きながら、一緒に港へ様子を見に行った。
漁業用のボートが係留されている埠頭に人だかりが出来ていた。
その隙間からは、サラと女性が男性に何か魔法をかけているようだった。
「おい!ドランタは大丈夫なのか?」
「ライディ。…意識はあるが、治療が思いの外に難航してる。やはり切り落とすしか…」
「クソッ…」
治療の様子を見てみると、血こそは出ていないが右の前腕が大きく抉れていて、骨も少し見えてちょっとグロい。
サラ達が必死に治癒魔法?をかけているが、回復している様子はない。
「…っ!?なんで治らないのよ…!」
「サラ、もういい…。これ以上はもう治らない…。潔く俺の腕を切ってくれ…」
「嫌よ!絶対に治す…!」
「やめなさいサラ。私でも治せないのよ?貴女がどうやって治すの?」
「頼む…!」
「…わかっ」
「待った!」
暗い雰囲気が漂う中、俺は声を上げた。
そこにいた全員が俺を見る。
「俺に…治させてください」
ざわめきが起こる。
「ちょっ、アンタに治せるの!?」
サラが俺に聞いてくる。
「治せるかどうかは分からないけど、やるだけやる」
俺はドランタさんに近づく。
「失礼します」
そして俺は『能力』を発動した。
まずやるべきは、欠損箇所の組成がどのような感じだったかである。左腕の同じ箇所をコピー・反転してしまえば簡単だが、人間の体は、というか生物は正確な左右対称になっていない。となると、欠損箇所の回りの細胞から再生させた方が一番良い。そこで、周辺細胞のDNAから欠損箇所の情報を取り出し再生を行う。
この際俺がすべきことは、細胞を構成する分子と再生する時に必要なエネルギーを与えることだ。
俺には医学的な知識はほぼ無いため、完全に能力に頼りっきりになる。
それでも端から見れば、自然治癒の何十倍、何百倍もの速さで腕が再生しているように見えるだろう。
およそ5分程で終了。見たところでは完治出来たように思える。
「すげぇ…あれを治しちまった…」
「あんなに魔法をかけてもなんにもなかったのに…」
回りがざわめつく。
だが、完全には治ってない。
「ドランタさん、ゆっくり腕を動かしてください」
「あ、あぁ」
実際に腕を動かして、異常がないか見る。
だが杞憂だったようで、まるで何もなかったように動かすことが出来た。
「あぁ…良かった…!」
「まだ完全に治ったとは言えないので、しばらくの間は重労働は控えてください」
「ありがとう、本当にありがとう!」
血の巡りや細胞同士の結束あたりは問題ないので、これで一段落といったところだ。
「本当に治せちゃったのね…」
サラが呆気に取られたように言った。
「でも、サラが治していてくれてなきゃたぶん最悪の事態になってたかもしれなかったよ。助かった」
それを聞いたサラは明後日の方向を向いてしまった。
その日の夕方、島長に呼ばれドランタさんの救出に大きく貢献したとして少しばかりの餞別を貰った。
[シャーティーシュ]
生息:ドゥリブン海、ジンチノ海
全身が硬い皮膚で覆われている。
見た目は青いウナギ。凶暴。
本来はドゥリブン海に生息する生き物だが、近年はジンチノ海に出没するようになった。




