110海里目 戦いの後
ブラヴィの槍がコアに突き刺さると同時に、そのコアが膨らむ。
そして、光を失ったどす黒い赤になったと思うと、そのままコアが爆ぜた。
俺はそのまま飛び上がり、宙へ浮かぶ。
足元には、シュル=ヌェイットの化身の肉体らしきスライムが存在したが、コアの破壊と同時にスライムはまるで燻ぶっている煙のごとくゆっくりと、しかし思っているより早く霧のように煙のように変化していっていた。
俺はその肉体の様子を能力を使って見る。
これまでスライム状の肉体のように思っていたそれは、加圧された魔力が固まってゲルのようになっていたようだ。
それが今、加圧から解放されて大気中に散っているようである。
それを確認した時、俺の視界がグラッっと揺れた。
どうやら体を酷使しすぎたようだ。
どうにかして意識を手放さないように、細心の注意を払いながら俺は連合艦隊の方へと戻る。
「龍驤」の甲板では、隊員たちがシュル=ヌェイットの化身の形象崩壊を見ようと、飛行甲板に出ていた。
そんな中、俺がフラフラしながら戻ってくるものだから、隊員総出で慌てていた。
「龍驤」にかなり近づいたころには、半分意識を手放している状態だ。
そのまま、落ちるように甲板に降り立つ。
そこに隊員が駆け寄ってくる。
「大丈夫、大丈夫だ」
そんなことを言っていても、隊員たちは俺を医務室に連れて行こうとしている。
どこからか担架が運ばれてきて、そのまま俺は医務室送りになった。
医務室では、水属性持ちの医者が待機しており、回復魔法を俺にかけてくれた。
どうにかして、背中に走る痛みが引いてきた。
「何をどうしたらこうなるか分かりませんが、もう少し自身の体を大切になさってください」
「申し訳ないです」
「しばらくは安静ですね」
「いや、そういうわけには行きません」
俺は自分の体に能力を行使する。
どうやら脊髄に損傷があるようだ。
俺は能力によって、おおざっぱに損傷のある部分を修復していく。
ものの数分でなんの痛みもなくなる程に回復した。
「じゃあ自分は戻ります」
「あ、ちょっと…」
俺は医者の制止を振り切り、連合艦隊司令部のある「大和」に戻っていった。
「大和」に戻る途中、俺はシュル=ヌェイットの化身の様子を見る。
肉体のほとんどは魔力に再変換されたようだ。
今は完全に停止して、霧散している。
「大和」に到着すると、連合艦隊司令部の面々が心配と歓喜の半々の表情で出迎えてくれた。
「司令長官、大丈夫だったのか?」
「はい、問題ありません」
「『リュウジョウ』から医務室に運ばれてたと連絡があったものだから、てっきり大ケガでもしたのかと」
「いやー、ケガはしたんですけど、能力で無理やり治したと言いますか」
「無茶しているじゃないか」
そんなことを話していると、遠くのほうから何か不快な水のような音が聞こえてくる。
そちらの方を見てみると、どうやらシュル=ヌェイットの化身のスライム状の肉体が崩壊しているようだ。
崩壊しているのは、コア付近にあった比較的硬かった部分だろう。
それに、俺には一つ引っかかることがある。
それを俺はある人物に問う。
「アルトさん」
「なんだ?」
「シュル=ヌェイットの化身のことなんですけど」
「あぁ、どうした?」
「あれって、シム・ユーリンが変身したものなんですか?」
「どうしてそう思った?」
「俺がこの槍でコアを貫こうとした時に、コアの中に、彼女の姿を見たような気がするんです」
「正解だ。シュル=ヌェイットの化身はシム・ユーリンが変身して誕生したものだ」
「どうしてそうなったんですかね?」
「もともとシュル=ヌェイットの化身は、欲深き者がなるとされている。欲深き者は、本来人が持つべき魂は一つであるのに対して、強欲にも二つも持った人間とされている」
「二つの魂…。それが流浪者と帰還者の能力…」
「解釈としてはそうなるだろうな。だが、これはあくまでも言い伝えを再編した創作。その真意は不明だがな」
俺たちは外にある、シュル=ヌェイットの化身を見ながら、そんな話を交わす。
その後日が暮れるまでシュル=ヌェイットの化身の崩壊は続き、最終的にその姿が消えたのを確認したのは、辺りが暗くなってからであった。
その日は経過観察のため、探照灯を照らしつつ、翌朝まで待つことにした。
そして辺りが明るくなってから、シュル=ヌェイットの化身がいた土地を捜索する。
あんな凶悪な肉体を持った怪物だ。そこら辺にまだ肉体があったら大変だからな。
昼くらいには、周辺環境には問題ないことが確認される。
また、今回の捜索で、シム・ユーリン本人と思われる肉体などは見つからなかった。
もしかすると、シュル=ヌェイットの化身と共に朽ちていった可能性は否定できない。
残念ながら、時間が来てしまった。今回の捜索は終了である。
念のため、周辺一帯は立ち入り禁止にするように、テープを張り巡らせた。
あとは静観だろうなぁ。
そんな感じで、俺たちはクレイル連邦から撤退する。
撤退の途中、俺は防衛連盟軍総合参謀本部に連絡を取る。
「こちら連合艦隊」
「こちら総合参謀本部、『丘陵の嵐』作戦の進捗はどうだ?」
「端的に言えば、作戦は成功に終わったと思われます」
「思われる?一体どういうことだ?」
「それは防衛連盟に帰還してから詳しく伝えます。とにかく現状では作戦はうまく遂行できたとだけ」
「うぅむ、分かった。今はそれで満足しよう。詳しい結果は帰還してから存分に聞かせてもらうぞ」
「分かりました」
そういって通信は切れる。
そのまま数日かけて連合艦隊は防衛連盟領に戻ってくることが出来た。
陸軍連合部隊や防衛連盟海軍を所定の場所に帰したところで、俺は防衛連盟軍総合参謀本部へと足を運んだ。
そこには、グライディン少将が待っていた。
「待っていたぞ、カケル。早速だが、作戦の経緯について聞かせてもらうか」
「分かっています」
俺は、クレイル連邦であったことをすべて話す。
「…そういうわけで、シュル=ヌェイットの化身は現状撃破ということになっています」
「ふむ、そんなことがあったのか」
「しかし、こうなってしまったら講和を行う人間がいるかどうか分からない状況でもありますよ」
関心するグライディン少将と、今後のことを心配するダリ中佐。
「問題はないと思いますよ」
そこに、俺が反論を入れる。
「どうしてそう思うのかね?」
「確かにシム・ユーリンが国家の主権を握っていたのは間違いないかと思います。しかし、そこに関わった人間が多数いるではないでしょうか。その人たちがシム・ユーリンの呪縛から解けて、本来の国家運営を取り戻すことが出来たら、今後講和を行うことも可能だと思われます」
「確かにその考えは否定できないだろう。しかし、それを保障してくれる人間はどこにいる?」
そこまで言われて、俺は言葉に詰まる。
ここまでの一連の考察は、いわゆる俺の願望と勝手な妄想だ。
これを保障してくれる人間なんてどこにもいないだろう。
そんな時、会議室の扉をノックする音が聞こえてくる。
「失礼します。グライディン少将、お話が」
一人の職員が入ってきて、グライディン少将に耳打ちする。
それを聞いたグライディン少将は、改めて俺に向き合った。
「先ほどクレイル連邦から連絡があった。クレイル連邦はこの戦争に終止符を打つために、講和に応じる構えを見せているとのことだ」
俺の妄想は間違っていなかったようだ。
「防衛連盟本部としては今後、クレイル連邦とバンイ帝国に無条件降伏を勧告するつもりらしい」
「そうですか。それはよかった」
俺は安堵する。
これで、この戦争にも終結が見えたからだ。
「今後、連合艦隊には相応の任務を課せられるだろう」
「覚悟は出来ています」
これからも、また忙しくなるだろう。
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