109海里目 特攻する
目標であるシュル=ヌェイットの化身が、連合艦隊に襲い掛かってくる前に、俺はある物を作ることにした。
それは、シュル=ヌェイットの化身の身体のほとんどを吹き飛ばすための爆弾だ。
爆弾とは言っても、魔力の塊に火属性の魔法を与えることで、強力な爆発を誘発するという、至極単純な機構を有するものだ。
俺は能力を使って、巨大な爆弾の殻を作る。
そしてその中に、魔力の塊である圧縮した魔力を閉じ込めた。
その魔力に引火できるように魔力の導火線を伸ばし、その先に点火装置を設置する。
これで、大まかな爆弾は完成だ。
そして俺はもう一つ物を作ることにした。
それは、俺と槍をコアの近くまで運び、場合によってはそれごと目標に突っ込む機体というもの。
そう、俺は特攻兵器である「桜花」を作ろうとしているのだ。
もちろん特攻兵器とは言っても、簡単な脱出装置を取り付け、脱出したのちに槍でコアを破壊するのが主目標だ。
しかし、桜花くらいの大きさなら武器庫で構築することも可能であったかもしれない。
ここに武器庫がないのが悔やまれる。
しかしそんなことを言っていられる場合じゃない。
俺は少ない時間の間、「龍驤」の甲板で桜花の製造を行うことにした。
そんな中でも、偵察に行っている駆逐艦隊から、目標に関する情報は流れてくる。
「目標、移動速度が増大しています」
「目標、身体を巨大化させています」
「目標から排出される消化液によって周辺環境への被害止まりません」
そんな報告をすべてトーラス補佐官に放り投げて、俺は桜花の製造に集中する。
今回作る桜花は、航空機というよりかロケットやミサイルのそれに近い。
そのため、ロケットエンジンの出力を最大限にできるような感じにすればいいのだ。
そんな感じで桜花の製造を続けること数時間。
どうにか形にはなった。
それと同時に、海岸線に展開している連合艦隊からも、シュル=ヌェイットの化身の姿を確認できるようになった。
「でけぇ…」
その身体は、もはやそれまでのものとは異なり、一つの小さな丘と言っても過言ではなかった。
そしてその巨体を揺らして、今まさに連合艦隊のほうへまっすぐ進んできているのだ。
俺は連合艦隊司令部のある「大和」に戻り、会議室で作戦を練る。
「現在侵攻中の目標を殲滅するための作戦、イ号作戦を提案します」
イ号作戦の内容はこうだ。
まず、連合艦隊全艦船による主砲飽和攻撃を行う。この時、コアのあると思われる中心部を狙う。
その後、俺の製造した爆弾を射出することで、その身体の大半を蒸発させる。
それから俺が桜花に乗り込み特攻、コアに通ずるスライムを破壊する。
そして最後に、槍によってコアを刺し、もって目標を無力化するというものだ。
「何か意見などはあるか?」
「意見と言いますか、確認なんですが…」
連合艦隊司令部の隊員が手を上げる。
「その、オウカという兵器は司令長官自らが乗り込んで突撃するんですよね?」
「そうだ」
「しかも炸薬付きで」
「その通り」
「そんなの、命を投げ出すのと同等じゃないですか」
連合艦隊司令部の隊員たちは、特攻兵器のことを知らない。
故に、この兵器の概要は想像するしかないのだ。
しかし、隊員の一人がその概要に気が付いた。
ここまでは予想していた通りである。
「確かに、この兵器は操縦者が最後まで操縦することで、兵器として成り立つ」
「それでは司令長官の命がっ」
「大丈夫だ。そのために、桜花には特別に脱出装置を取り付けてあるし、俺の能力もある。簡単にはくたばらないさ」
「しかし、もしものことがあったら…」
「いいか。もしものことっていうのは、現状のことを指すんだ。シュル=ヌェイットの化身は現状増大傾向にあるし、その脅威は現在進行形で連合艦隊に降りかかっている。そんな中で、命がどうこうなんて言ってられないんだ」
「ですが…」
「…ほかに道があるなら探しているさ。しかしだな、あれのコアに槍を突き刺さない限り無力化できないと言われている今、ほかの道を探している暇はないんだ」
「…分かりました」
こういって隊員はしぶしぶ理解を示してくれた。
俺だって、命を投げ出すようなことはしたくない。そもそも俺の考えに反するからだ。
しかしさっきも言った通り、他に道がないのが現状だ。
これはこれで受け入れるしかないのだろう。
とにかく、イ号作戦は実行される運びになった。
連合艦隊は、効果的にシュル=ヌェイットの化身に砲撃を浴びせられるように、距離を取る。
その間にも、シュル=ヌェイットの化身は連合艦隊に向けて、その巨体に見合わない速度で接近してきている。
こうしている間にも、連合艦隊の全艦船は準備が整った。
「全艦、右砲戦用意」
俺は「龍驤」の甲板から指示を飛ばす。
戦艦、巡洋艦、駆逐艦問わず、主砲が右に向けられる。
そしてシュル=ヌェイットの化身に照準が合わせられた。
「全砲門、撃て」
俺の合図とともに、主砲から天地に轟くような砲撃音が響き渡る。
ありとあらゆる口径の砲弾が、シュル=ヌェイットの化身に目掛けて飛翔する。
そしてしばらくしたあと、シュル=ヌェイットの化身の身体に命中した。
肉体とも呼ぶべきスライム状のそれは、四方八方にまき散らしながらも、前進することをやめなかった。
「次弾装填次第、続けて撃て」
俺は指示を飛ばす。
全艦船による主砲の砲撃は、まさに壮観というべきだった。
特に戦艦による砲撃は、芸術というべきほどの美しさである。
しばらく砲撃を続けているが、そろそろ次の段階に移ろう。
俺が作った爆弾を射出するのだ。
今回作ったのは、TNT換算で約100kg程度の爆弾である。
これなら十分にスライム状の肉体を貫通することができるだろう。
これを能力を使って、見かけの重さを0kgにする。
そしてこれを飛ばすと同時に、能力を使って誘導し、奴の直上で爆破させるという寸法だ。
見立て通り、爆弾はシュル=ヌェイットの化身の真上まで飛んでいく。
そしてゆっくりと、スライム状の肉体に近づけていく。
「今だ」
俺は爆弾に点火する。
瞬間、シュル=ヌェイットの化身の上半分の肉体が飛び散った。
目論見がうまくいったところで、俺は桜花に乗り込んだ。
桜花には、秋水のような切り離し可能な車輪を装備させ、「龍驤」のカタパルトから射出できるようにしてある。
桜花に乗り込んだ俺は、槍があることを確認し、合図を出して射出するように指示を出す。
桜花のスロットルを最大に上げたところで、カタパルトが作動し、桜花を射出する。
射出された桜花は、一回沈み込むものの、機首を上げることで、高度を回復させた。
そして、そのままエンジン出力を維持したまま、桜花は高度を上げていく。
かなりの上昇角度で上昇するものの、ものの1分程度でエンジンは切れる。
そのまま惰性で空を飛ぶ。
しかし、その惰性の速度は速く、時速500kmを越えるほどだ。
シュル=ヌェイットの化身までもう少しという所で、俺は終末誘導を行う。
目標であるコアをどうにか目視で確認する。
ここからでは、巨大な赤い球体のようにしか見えない。
だが、そんなことを言っている場合ではなかった。
この速度ではすぐにコアに到達することだろう。
俺は慎重に操縦桿から手を離し、座席頭部後方にあるベイルアウト用レバーを素早く引く。
すると、キャノピーが吹き飛び、そのまま槍の入った座席ごと射出される。
俺は強い空気抵抗によって、急激に速度を落とす。
この時、背中に強い痛みを生じたものの、そんなことに構っている暇はない。
俺は座席に格納している槍を素早く取り出し、コアを見定める。
そのタイミングで、桜花はコアのある中心部に向かって突撃していた。
そして着弾と共に爆発がコア周辺を覆いつくす。
それを確認した俺は、槍を構えて突撃を開始する。
爆煙が晴れると、そこには燃え盛るような真っ赤なコアが鎮座していた。
俺はそこに向かって、突撃する。
槍がコアに突き刺さる瞬間、コア内部にいたユーリンのような姿の人間が、こちらを睨んでいるように見えた。
そのまま、俺はブラヴィの槍をコアに突き刺した。
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