105海里目 彼らは邂逅する
大和型の2隻は、その後も継続して主砲を射撃し続ける。
目的は首都にいる民間人に対しての恐怖心を煽ることだから、しばらくは続けないとな。
「司令長官、首都の中を走る陸軍部隊から連絡が入った」
「何かありました?」
「いや、彼らが言うには、街に人一人としておらず、かなり不気味な状態になっているらしい」
「おぉ、それじゃあ主砲の射撃は間違ってなかったということですね」
「そうだな。ただ、民間人との距離も離れてきていると考えられる。このまま続けるのは合理的とは言えないな」
「では、射撃は中止ということですね」
「あぁ」
俺は射撃中止の指示を出した。
これでとりあえず目標の一つは達成したということだな。
それと同時に、連合艦隊では積んでいた荷物を降ろしていた。
これは陸軍の兵士であったり、野砲であったり、はたまた連合艦隊陸戦隊の戦車であったりだ。
また、陸軍連合部隊は首都の内部を走り回り、民間人がいないかを確認しに周っている。
だが、首都は広い。確認にはまだ少し時間がかかるだろう。
その間に、俺は首都にある施設の大まかな確認をするため、気球を上げていた。
「敵の戦意を削ぐには、その象徴となるものの破壊が手っ取り早かったりします。クレイル連邦で言うならば、非常に凝った作りをしている重要そうな建物…、国会議事堂とか大統領官邸とかがそれに当たります」
「それの実現のために、観測を行うってわけか」
「はい。それに、首都の大まかな配置も確認したいところですし」
そういって俺は観測員に、どこに、どのような建物があるのか確認させる。
「およそ5km先に大規模な建物が見えます。おそらく宗教関係の建物でしょう」
「そこを攻撃対象にするか」
「あとは街の中心部に、巨大な門のようなモニュメントが見えます」
「モニュメントはその国を表すもの。標的としてはいいものかな」
「その近辺には、クレイル連邦のレモチザン宮殿が見えます」
「レモチザン宮殿?」
「大統領官邸のようなものだ」
「ではここも攻撃対象にしましょう」
こうして攻撃目標の選択をしていると、観測員からある報告がされる。
「司令長官、何者かがこちらに接近してきています」
「誰が来ているんだ?」
「ここからでは詳しく見ることができません」
「まぁ、民間人だとしたら後々面倒なことになる。陸戦隊を出して、保護に向かえ」
「了解」
こうして陸戦隊が民間人の保護に動く。
しばらく観測員の指示通りに動き、その場所まで移動したようだ。
「陸戦隊、民間人の場所までもう少しです」
逐次、そのような報告が入ってくる。
「今、民間人と接触しました」
このまま保護する流れとなるだろう。
しかし、その流れと反して観測員は慌てたような声を上げる。
「り、陸戦隊の様子がおかしいです!」
その報告が入ったと同時に、俺は背筋が凍るような感覚を覚える。
俺は勢いよく窓際まで寄って、外の様子を見た。
街の中から、名状しがたいオーラが強く発せられている。
「シム・ユーリンだ…」
理由はないが、俺は直感でそう確信した。
それと同じように、艦橋にいたロアンの様子も少しおかしく見えた。
「カケルさん…」
「ロアンも感じたか?」
「はい。すっごく、嫌な感じでした」
ロアンは俺よりも強く感じ取っていたようだ。
そんな状況でも、観測員から報告が入ってくる。
「陸戦隊を先頭に、こちらにやってきます!」
「残りの陸戦隊を招集しろ!市街戦を念頭に準備せよ!」
俺は至急残っていた陸戦隊に招集をかける。
すぐに「大和」正面に陸戦隊が集合した。
その前に、俺とロアンも集結する。
「今からやってくる君たちの仲間と民間人らしき人間は、敵と認識しろ。おそらく流浪者の一人だ。どんな能力を持っているか分からないが、気を抜くな。気のゆるみが命を落とすことになりかねないからな」
そう激励を飛ばすと、俺たちは下がる。
陸戦隊の隊員とチハが並んで、城門に銃口と砲口が向けられた。
しばらくすると、道路の向こうから陸戦隊がやってくる。
その姿は、なんだかゾンビを思わせるような感じだった。
その後ろには、一人の女性が堂々と歩いてきている。
「とまれ!」
俺は大声で、制止するように命令する。
彼女と操られている陸戦隊はその場で停止した。
「シム・ユーリンか?」
「えぇ、そうよ」
「あなたにはクレイル連邦主権の私的利用、戦争犯罪として平和に対する犯罪に抵触していると判断されている。ただちに陸戦隊を解放し、投降せよ」
若干でたらめを吐いたが、おおむね間違っていないだろう。
その言葉を聞いたユーリンは、少し残念そうに肩を落とした。
「あなた、もしかしてアトラスから私のこと聞いたでしょ?」
「…えぇ、まぁ」
「そう。あなた、モテないでしょ」
「…は?」
俺は唐突に変なことを言われてしまった。
「まぁ、いいわ。とにかくそこをどいて頂戴。忙しいの」
「それは無理だ。今から貴様のことを拘束しなければならない」
「そう。それなら、こっちから行くわ」
そういって彼女は腕を振るう。
すると、操られた陸戦隊は銃を構え、こちらに突撃してくる。
「彼らに構うな!撃て!」
陸戦隊は少しためらいを見せたが、素直に引き金を引いた。
弾丸は確実に彼らの元に飛んでいく。
そのまま彼らは体中に弾丸を浴び、そのまま絶命した。
「彼らのことは構うな!彼女を狙え!」
俺は次の目標を設定する。
陸戦隊はユーリンに銃口を向けて、撃つ。
何十という弾丸が彼女に向かって撃たれる。
しかし、彼女は特殊な歩き方で、飛んでくる弾丸を最小限の動きで避けていく。
その動きを見ていた俺は、驚きを隠せなかった。
それは、確実に仕留めたと思われる銃撃を、ただの歩きで避けていることにあったからだ。
「チハ!攻撃開始!」
俺はチハに攻撃命令を下す。
チハの砲塔が動き、彼女のことを狙う。
その時だった。
彼女は手をこちらに向ける。
次の瞬間、俺を含めて頭の中に何かが流れてくるような感覚が襲ってきた。
締め付けられるような痛みを伴っている。
そして何か命令のようなものが聞こえてきた。
『私に従え』
繰り返し、このような声が頭の中に響く。
俺は何とか意識を保っているが、陸戦隊の中にはすでに地面に伏している者もいる。
その様子をロアンはオロオロしていた。
「ロアン…、君は平気なのか?」
「な、何がですか?」
ロアンは何が起こっているのか分かっていない様子だった。
どうしてそのようなことになっているのか理解した俺は、ロアンにあることを頼む。
「ロアン!俺のことを詐欺師で隠してくれ!」
「え…」
「いいから早く!」
ロアンは何がなんだが分かっていないが、能力を使って俺の姿を隠そうとする。
その瞬間、俺の頭に響いていた声と、締め付けから解放された。
「カケルさん、これは一体どういうことですか?」
「単純な話だ。彼女は帰還者なんだろう」
「そうなんですか?」
「確証はない。ただそう考えてもおかしくはない」
「その考えは正解だ」
突然、誰かの声が聞こえてくる。
振り返ってみると、そこにはアルトさんの姿があった。
「いたんですか、アルトさん」
「あぁ、基本的には連合艦隊の旗艦にいる。しかし厄介な奴が敵にいるもんだな」
「厄介な奴ですか?」
「そうだ。シム・ユーリン、彼女は流浪者と帰還者両方の能力を持つ人間だ」
「な、なんだって?」
俺はアルトさんの言った意味を理解した。
流浪者と帰還者の能力を持つ、つまりそれは二つの能力を持っているということだ。
確率は低いが、そういう人間もいてもおかしくはないだろう。
独特の空気感だけが、その場を支配していた。
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